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選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
第1章 約束された出会いもあれば、突然出会うこともある
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3-4. 君に救われたから、君をいつでも救いたい


 「いえ、そんな、お礼を言われることでは……」


 感動しながらも、俺自身はバツが悪かった。というのも、俺は彼女を100%助ける気持ちでこの試みをやれていたわけじゃない。

 どこかで彼女が彼女自身を過小評価していることへの苛立ちがあった。それに対して独りよがりな怒りをぶつけていた面を、全く否定できなかったからだ。


 自己嫌悪に陥り、顔が曇った俺を見て、雨衣会長は自分が何かしてしまったのでは?とあたふた動揺し始めた。あわあわと視線を泳がし、どうしよう……と若草副会長に表情で助けを求めている。


 いかん。俺が馬鹿なばかりに困らせているぞ。もういい。改善された案のお礼を言って帰ろう。帰るべきだ!


 そう決心し口を開きかけたが、先に言葉を発したのは、相変わらずアワアワしている雨衣会長だった。


 「あ、そうです!お礼と言ってはなんですが、あの、1つ、なんでも言うことを聞きましょう!」


 ああ、なんて理想的な提案だろう。ほっぺを1度でいいからプニッとさせてほしい。が、俺は帰るぞ!決心したからね!それに睨まれてんだもん!すっごい睨まれてんだもん!若草副会長がとんでもない目で訴えて来てんだもん!


 オイ、当然断るよなあ?ウチの会長にナニさせようってんだ?ガキゴルァ?

 

 って目してんだもん!怖いんだもん!!

 丁寧にお断りして帰ろう。帰るしかねえってばよこんな場面。


「いや、あの本当……」


 世界がピキンと張り詰めた。


 雨衣絢愛のどこまでも純粋無垢な丸い瞳は俺を捉えてどこまでも離さない。若草花由子の威圧感は時間が止まってもなお衰えることを知らない。静寂が広がり、鼓動の音1つ聞こえて来ることもない。


 『あなたの味噌汁が毎日飲みたい』


 『付き合ってください』


 対面している人物がどんな人かを理解してくれェ……全校生徒のアイドルだぞ。そうじゃなくても今日初めて言葉を交わした相手なんだぞ。

 しかし、選ばなければならない。例え相手がアイドルであろうと女優であろうと。反逆など許されないルールなのだから!


 『あなたの味噌汁が毎日飲みたい』これ、選択肢の割りには正直悪くないんじゃないか?その意味に気づかない人は味噌汁好きなのかな?とクエスチョンマークだろうし、そうなったら「いや、やっぱりいいです」と素直に断り退散できる。

 気付いたとしても初対面の求婚など冗談だと捉えるだろうし、「何言ってるんだ?」「冗談ですよ。ではこれで」と流れるようにスマートな退出ができるだろう。


 『付き合ってください』は例え対面するのが初めてだったとしても、片想いパターンが存在する。本気感が強くなりすぎる。冗談ですと言った後の反応も正直怖い。ゴミを見る目で見られること間違いない。


 論理的に決まる選択肢はなかなか珍しいことだ。有難い。せめていつもこうであれ!



 「『あなたの味噌汁が毎日飲みたい』」


 「へ……?」


 丸い純粋無垢な瞳が揺れると同時に、雨衣絢愛の顔はどんどん紅潮していく。

 へ……?と半開きになっていた唇をギュッと一文字にし、目は潤み始め、もう顔は茹でられたように真っ赤に染まっていた。


 「テメエ……!!」

 若草花由子は1歩1歩、床をえぐり取る勢いでこちらに歩んで来る。


 ……思ってた反応と違う!!と1歩後退した時、俺は見落としていたことに気がつく。雨衣会長が、全く他人を疑わない人だったということに。


 それでも冗談だと流してよ!なんでいつも真っ向から受け止めちゃうの!?悪い人に利用されちゃうよ!!と非難含めた心配をしていると、もう1つの役割に気がつく。


 若草花由子。彼女こそが、雨衣絢愛に近づく悪人達を蹴散らす存在だということに。

 どうだ?俺は今悪人と認識されているに違いない。だって純粋に俺の役に立とうとしていた彼女に、毎日味噌汁作らせようとしてるんだぜ?これってもう、犯罪だろ?


 極論に辿り着いた俺は殴られる覚悟を決めていた。迫り来る、女性としては高い170cmはある長身。細身に見えるが目の前にすると、そこには引き締まった筋肉があることがわかる。いつもの死んでいる目が嘘のように、今はチカチカと燃え盛っている。


 若草副会長は鬼の形相で俺の首元を握り、右手を振り上げた。


 俺は目を閉じ、祈るしかない。優しくして下さいお願いします!


 「待って!」


 雨衣会長は震える声を大にし、若草副会長の腰を後ろから抱きしめると、「ふぐぐ……」と俺から引き離そうと引っ張っていた。


 その姿を振り返り見た若草副会長は、殴る気も失せたのか、俺の首元から手を離し、振り上げた右手もゆっくりと下ろされた。


 「すぅ……はぁ……」

 若草花由子は息を吸い込むと、大きなため息を1つ吐く。感情をリセットしたようだ。


 彼女はポンッと雨衣会長の頭に手を置き、そっと一撫でした。







 君に救われたから、君をいつでも救いたい。

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