95 火遊びは女神の罠 後
指名されてアルムは気を引き締めた。
「はい。門前で刃物を所持していた不審者が四名、自称仲介屋と名乗る者一名、これらはその場で捕らえた者です。その後、仲介屋を自称する者の証言で、不審者の雇い主であった城下の焼菓子屋と、雇われたならず者らを捕らえました。更に後日、焼菓子屋に接触を図ったロンマリ伯爵家の使い三名を捕縛、また、露店市に出店していた行商人“旅鴉”の一味を捕らえました。この行商人は焼菓子屋宛ての指示書と禁制品の火薬を所持しておりました」
王の目が報告書の文字を追っている。皆は内心のあれこれを表情に出すまいとしながら、黙って聞いていた。
デートレフが片手を軽く上げて、アルムを一旦止める。
「良し。王宮警備に問う。そやつ等を捕らえた後で尋問したであろう。焼菓子屋の身元は判明したか?」
話を振られたツバイターバウム隊長は、答えられなかった。
先日、進展がないと聞いたきりだ。一応尋問を急かしはしたが、例によって第三部隊副隊長のカスパースンに全てを任せ、進捗を確かめることなく放置したままである。それをいいことに、カスパースンも独自調査の報告を止めているが。
冷や汗を流しつつ、ツバイターバウムがとっさに何も言えずにいると、アルムが挙手した。
「焼菓子屋の身元に関しましては、僭越ながら私から申し上げます。
中々口を割りませんでしたので、我々が焼菓子屋の店内を調査しましたところ、店主の名はファイダ・ダヴァッサズ・ラクウンと判明しました。北の女王国の生まれの薬師であり、店を営む傍ら調薬を行い、生国へ薬類を送っていたようです。また、市井のならず者を雇って、第一王子殿下の襲撃を二度に渡り企てておりました。家屋内には武器類が多数隠してありました。
なお、この者は王妃様主催のお茶会用の菓子作成の注文を受け、菓子を納めております。その他にも王妃様の侍女が品物を購入しに来ていました」
あらためて聞けば、随分と働き者の菓子屋である。
王とその周囲の気配が、ますます尖ったものになった。近衛隊長の顔色が若干変わっているのが分かる。
デートレフがまた問う。
「行商人が所持していた焼菓子屋宛ての指示書を、検めたか?」
ツバイターバウムは汗を拭うこともせず黙ったままだ。
再びアルムが質問に返答した。
「はい。解読しました」
ラレティの様子は変わらず同じ表情だ。傍目には何を考えているのか分からない。
「内容を端的に述べろ」
第一王子が命じる。アルムは努めて冷静に報告内容を口にした。
「はい。調合薬の納品と、奴隷用の人間集めと、王子殿下の殺害要求。成功報酬は焼菓子屋ラクウンの家族を奴隷から解放することでした。使用文字は北の女王国のものです。差出人の記名は無く封の印のみです」
暗殺と奴隷集め。どちらも衝撃的な話である。報酬もこの国では有り得ないものだ。
聞き捨てならぬことに我慢が出来なくなったのか、近衛隊長が発言を求めた。
「殿下、よろしいでしょうか」
「何だ」
「殿下が最後に狙われてから、既に十日も経過しております。何故これほど尋問に手間取っているのかうかがっても?」
近衛隊長がツバイターバウムを睨んでいるが、デートレフはアルムの方へ切れ長の目を向けた。
問いに二度返答出来なかった、王宮警備の大隊長であり第三部隊の隊長でもあるツバイターバウムの方は、見もしない。
「近衛隊長の質問に答えられるか?」
「はい。王宮警備が尋問の途中で、焼菓子屋ラクウンが伏せってしまい、回復を待つ間は一時中断したとされています。ならず者達は金が目当てで雇われたと早々に自白していますが、行商人“旅鴉”は、言葉の問題でやり取りが難航しております。また昨日、行商人の後ろ盾であったロンマリ伯爵が、オステンで捕らえられたという情報が入ったので、今はそちらの尋問が優先されているそうです。これらの情報は、第三部隊副隊長の協力で得ております」
言ってから、アルムが確かめるようにツバイターバウムをうかがう。
彼は苦い顔でうなずいた。
「……その通りです」
露店市で禁制品の火薬を所持していた行商人と、イシュバ・マドゥシャブ・ロンマリ伯爵の繋がりを、急ぎ調査するよう命じていた。それは彼も覚えていたらしい。
近衛隊長が低く唸る。
「……む。確かにそれは必要ですが。しかし、捕らえた焼菓子屋は今どうなっているのか」
「は。残念ながら菓子屋は既に死亡しております」
アルムの返しで近衛隊長のこめかみに青筋が浮く。
容疑者の獄中死。
ラレティの目が愉悦で細まった。口元を隠すように手で覆い、仕草は驚きを装っている。
彼女の様子をうかがい、アルムは付け足した。
「焼菓子屋ラクウンの死亡原因は、服毒と診断されました。今日で死亡してから八日経ちます」
言った後、アルムはマルトの方を見た。マルトはツバイターバウムとラレティを観察していた。
ラレティの目が見開いている。驚きで姿勢はそのまま固まっていた。彼女の予想と異なっていたのだ。
ツバイターバウムは副隊長から報告が無かった事に苛ついたのか、詳細を語ったアルムを憎らしげに凝視していた。
アルムは続けた。
「偽の書類が提出されていたことで、万が一のため死亡の事実を秘し、殿下方の指示を仰ぎました。秘密裡に独自の調査を行い、死亡直前の食事は、厨房の者ではなく侍女が手伝って運んでいたと分かっています。後日、再度牢内のラクウンの食事に毒が添えてあった時も、厨房の者ではなく侍女が手伝いで運んでいたと、こちらも分かっています」
立て続けに聞く知らない話に、思わずツバイターバウムがつぶやいた。
「くそ、聞いてないぞ……」
王の護衛の近衛兵士と文官達は、驚きを隠せなくなっている。
ラレティの手が口元からゆっくり下りていく。露わになった顔は笑みが消えた無表情。下げた手をぎゅっと握りしめる。
デートレフは典医にたずねた。
「典医殿、この囚人に与えられていた毒に関して、お見立てを教えていただきたい」
後ろの方でそれまで控えていた典医は、深く頭を下げた。
「かしこまりました。毒となったのは北の方に多いタクスス樹の種です。実の果肉は薄甘く無害ですが、種子は硬く渋味が有り食べられません。誤飲すれば痙攣や呼吸阻害を起こし、過剰摂取致しますと死に至ります。明らかに致死量を超えた数がありましたゆえ、死体の様子と照らし合わせて、同一の毒を用いたと判断いたしました」
発言後もう一度頭を下げる典医に、デートレフが問いかける。
「我の部屋の侍女の死因は同じ物であったか?」
「そちらは恐らく別の物でございます。症状が異なりますので。可能性が高いのはネリウム木の葉または樹皮と推測いたします」
ため息を吐くと、デートレフは口角を下げた。
「やはりそうか。北の方に多い植物だそうだが」
「はい。お可哀想なことで」
そっとマルトが息を細く吐き出し、痛ましげに顔をしかめる。
しんみりしかけた中、近衛隊長が低い声で聞いた。
「侍女殿の生まれは北の隣国ですか? これがどんな意味を持つかお分かりか。何故このようなことを?」
彼女は答えず、まず王へ向かって一礼し、願い出た。
「失礼いたします。発言をお許し下さいませ」
第一王子は、王がうなずく様子をちらりと確かめた。
「……良し。許す。言ってみよ」
許可すると、ラレティは近衛隊長に向き直ってきっぱりと言った。
「私は故国を出てから、生涯この国で王妃様にお仕えするものと思ってまいりました。以来、里帰りはおろか、生家と手紙のやり取りさえございません。そのような仰りようは甚だ心外でございます。
私にも矜持がございます。卑しくも厨房の下働きなどいたしませんし、私が毒を盛ったりなどしませんわ」
むっ、と近衛隊長が険しい顔になる。一歩足が前に出かけたのを、王が片手を上げて無言で制し、ひとまず落ち着かせた。
アルムが小さく手を上げ、近衛隊長に言う。
「恐れながら。失礼します、隊長。食事を運んだ侍女はラレティ殿とは別の者です。毒と知らず、指示により種を包んだ紙を添えたと分かっています。その者は先日から休んでいて登城していません」
近衛隊長の引き結んだ口が更に曲がる。先輩の近衛兵士が、思わずといった風にため息をついた。
次いで、すっとローレンツが控え目に片手を上げて待つ。すぐにデートレフが気付いた。
「どうした」
「失礼いたします。追加の発言、よろしいでしょうか?」
「良いだろう。言え」
丁寧に一礼し、ローレンツが言った。
「ありがとうございます。
毒物を包んだ紙に北の隣国の文字がありました。破損していましたが何とか修復して解読しましたところ、汝の命を捧げよ、女神の慈悲を疑うなかれ、と読めました」
そう意訳を言い、ローレンツはラレティを鋭く見据えて続けた。
「侍女ラレティ殿。貴女は四日前、王宮警備大隊長に案内させて、偽名で牢を見に来ていましたが、その行動は、ラクウンが死んだかどうか確かめるためと推測します。その前の日に、焼菓子屋の食事から二度目の毒物が見つかっています」
どうしてそれを知っているのか、と驚いたツバイターバウムが、ローレンツをまじまじと見た。
「な、なん……?」
言いかけて、何かがふと引っかかったように止まる。
ラレティは血の気が失せた顔で、それでも首を振った。
「そのようなこと、知りませんわ」
「覚えていませんか。奴が死にそうだと分かったら、去り際、『女神を称えよ、捧げられし命に慈悲と報いを与え給え』と言っていたではありませんか。先に毒と一緒に与えた文言の、『麗しの女神に汝を捧げよ。さすれば報いを与えられるだろう』と『汝の命を捧げよ。女神の慈悲を疑うなかれ』と意味が繋がっています。調べれば筆跡も同じでしょう」
北の隣国の言葉で言うと、隣国の言語が分かる者……王、文官達、近衛隊長……は、彼女に厳しい目を向けた。
「っ、まさか……」
ツバイターバウムが困惑した様子でラレティをうかがう。
だが、精一杯の強がりか、逆に彼女はローレンツを睨んだ。
「私が命じたとお思いに?」
すると、シュテファンの独り言じみたボソボソつぶやく声がした。
「そうドーラが言ってたし。牢屋でもぷるぷるして笑うの耐えてただろ」
それに反応してツバイターバウムがそちらを向く。赤茶色の髪の若い近衛兵士の横顔を見て、ツバイターバウムは、あっと声をあげた。
「看守……近衛だったのか……!」
気付かないままかと思ったが、多少は違和感を感じていたらしい。看守の服を着たローレンツとシュテファンの姿を、今頃になって思い出したようだ。
デートレフが薄い微笑を浮かべた。
「ほう。牢をわざわざ見物か。連れ立ってとは、大隊長と侍女殿は大層懇意にしているのだな?」
「いいえ、単なる知人ですわ」
すかさずラレティが否定した。
「っ、はぁ? お前……っ!」
その冷たい声音にツバイターバウムが愕然とする。思わず声が出た。
今こんなところで、この女が火遊びの相手だと言うわけにはいかないが、あまりに彼女の態度が素っ気なさすぎた。
「とてもそうは思われませんでしょう。同じ香を纏い、先程も親しげな様子で」
眉間に皺を寄せマルトが言った。ローレンツとシュテファン、オリヴァーもうなずいている。
じっとりした視線がツバイターバウムへ注がれる。無言の非難を受け表情に焦りがにじんだ。
近衛隊長が怒気を含んだ低い声で詰る。
「ツバイターバウム大隊長。おおかた貴様が偽書類の源だろう。色仕掛けなどに引っかかるとは。おかしいと思わなかったのか?」
今度は頬に朱がのぼる。ツバイターバウムはわなわなと体を震わせた。
いくつか心当たりがあるのだろう。今朝も大事な書類が見当たらなくて探していたくらいだ。
自分の立場を忘れ浮名を流していた、そのツケが回ってきた。
ツバイターバウムを捨て置き、デートレフがラレティに向かってたずねる。
「侍女ラレティ、まだ聞くことがある。答えろ。露店市の日、そなた宛てに文官が行商人“旅鴉”のから手紙を預かったと聞いたが、どのような理由で行商人は義母上の侍女に手紙を渡したのだ?」
「……生国の者が露店市に出店していますという、普通の挨拶でしたわ。どうということもございません」
彼女の顔色がだいぶ悪くなってきているが、その受け答えはしっかりとしたものだ。
「成る程、挨拶か。義母上は何と?」
「ご存知ありません。下々の生業の事など、貴き方のお耳に入れる必要はございませんもの」
デートレフはマルトが提出した報告書をめくった。
「やれやれ。義母上もそなたも長く我が国に居るが、未だに生国の習わしを決して忘れはせぬのだな。……陛下、ご覧下さい」
デートレフは広げたところを指差した。王が難しい顔でそれを見る。彼は示しながら言った。
「我等はオステンにて行商人“旅鴉”の一部を捕らえております。奴等は奴隷売買を行っており、平民も貴族の子女も家畜の如く檻に入れて運んでおりました。すぐ解放いたしましたが、既に行方不明者がいます。詳細はここに。
……さて、奴隷商人が王妃の侍女に何の挨拶だ?」
デートレフは机に肘をつくと、手にあごを乗せた。空いた手でアルムの報告書をめくっていく。
「ただの出店の知らせですわ。王妃様のあずかり知らぬ事でございます」
俯き、胸に手を当ててラレティが言う。
「義母上は無関係と申すか」
「はい」
「そなたの信じるものにかけて、偽り無く言っているのだろうな」
「……はい」
ふっ、とデートレフは鼻を鳴らした。
アルムは頭を下げ、追い打ちをかけるべく指摘した。
「第一王子殿下に申し上げます。襲撃事件の報告書にも記載しましたが、指示書の封はチャヤ・ラールパティヤン家の紋に酷似しています。
ラレティ・チャヤ・プフル殿。貴女の実家、チャヤ・プフル家の主家、女王の王配の生家の一級貴族チャヤ・ラールパティヤン家です」
「……っ」
目尻を上げ、ラレティがアルムを睨めつける。
「また、指示は貴き花に従えとありましたが、それはチャヤ一族の花の紋を持つ者、貴女を指したものではないのですか」
「確かにラールパティヤン家は実家の主家ではございますが、私は家を出ており、」
言い訳の途中で、手を止めたデートレフが言葉を遮る。
「まさか故国も家も出て、そなたは貴族ではなくなっているとでも申すのか? 祖国ではただの平民か?」
「……いいえ。なれど、家が全てではございません」
わずかに苛ついた声で、ラレティは首を振る。
低くマルトが言った。
「殿下、この者は家を出て巫女の位を得ているのでしょう。己が身を誇りにしているようですし、言動がそれと示しています。何より、平民を王妃様が傍に置くはずがありません。女神の巫女ならば、家門より女神が大事とでも言うのでしょう」
「ほう。隣国でそなたは巫女なのか? まあ、答えずとも義母上に聞けば分かることであるが」
ラレティは苦い顔で俯いた。
「そなた、義母上と祖国の女王、どちらが大事だ? 女王か?」
「……」
「黙るか。否定せぬのだな」
ラレティは唇を噛む。
デートレフは目を眇め、一呼吸置いて問う。
「そなたの女神、大巫女の女王は出国する際そなたに何と言った?」
「……何もうかがっておりませんわ」
「そうか? 義母上のことを頼まれたか、我を排除するか、国内をかき乱し搾り取るよう言われたかと思うたが?」
「何もうかがっておりません」
ラレティは繰り返した。確かに嘘は言っていないのだろう。彼女の信じるものにかけて。
握った手が微かに震えている。恐れか、それとも怒りか。
「なるほど。では質問を変える。そなたは己の信じる女神の大巫女である女王に、何と言って国を出て来たのだ? 嘘偽り無く言え」
全員が注視する中、彼女は喉を鳴らし、そのまま押し黙った。
「……ふむ。我に言えぬような事を女王に誓ったのだな?」
下を向き何も答えないラレティへ、第一王子は上品な笑みで言い放った。
「……良かろう。男にその身を与えてまで女王に尽くす忠義に免じ、そなたの首だけは国へ返してやる」
首だけは。
ラレティがはっと青い顔を上げた。
「では早速、順番に処理していくか。まず義母上はとりあえず貴人牢であろうな。おっと、先に元オステン公爵が居たな。長らく待たせてすまなんだ。早急に片付けよう。それとロンマリ伯爵、いや、イシュバ・マドゥシャブ・ロンマリも処刑せねばならぬが、そちらは叔母上に有効活用するようお任せする。その上で、隣国との国交を一時停止し抗議文を送る。拉致した国民の返還を要求する。国全体で出国時の検閲を強化。さすれば、奴隷商人の一斉摘発に持ち込めようか」
流れるようにデートレフがつらつらと述べた対応策に、マルト以外は目を白黒させた。大掛かりな話に文官が慌てている。
それにしても、さっさと切り替える様子はまだ夏季だというのに背筋が寒くなるようだ。
渋い顔で王が待ったをかける。
「そう急くでない。まずはこの侍女が真にお前を害そうとしたのか、確かな証拠が必要であろう。それまで謹慎をさせよ」
だが、第一王子は慎重な王の言葉を退けた。
「いいえ陛下。自室に謹慎ではなく牢へ。問題ありません。証拠は既に押さえておりますので、取りに行かせました。
実のところ場を用意したのは、陛下の前でこの者の口から直に聞きたかっただけのこと。しかし、何も話さぬのならもう用は無い。始末する」
ラレティの喉がヒュッと鳴る。
王が二本指でこめかみを押さえた。文官らがうわぁ、という顔をする。
近衛隊長と中年の先輩近衛兵士の口が、半分開いている。
デートレフは顎をしゃくってラレティをさした。
「王代理が命じる。この者を牢へ。王妃はひとまず自室にて謹慎。大事を取って理由は言うな。指示があるまで侍女も全員出すな。王宮警備の大隊長は全ての任を解き、監視をつけて謹慎とせよ。即刻実行しろ」
近衛隊長が我に返って敬礼した。
「ははっ」
急ぎ、ツバイターバウムの両脇に中年の先輩近衛兵士とオリヴァーが立つ。間に挟まれ、元大隊長が重い足取りで歩き出す。
続いてローレンツがラレティを拘束し、シュテファンと共に執務室の外へと移動を始める。
扉の辺りでツバイターバウムの女を罵る声がし、応じるように何かを叩く音がした。諫める声に続く口論が遠ざかる。
近衛隊長が、執務室の外で警護していた近衛兵士達を呼んだ。指示を与えられた彼等は、たちまち緊迫した雰囲気になる。
近衛隊長は彼等と一緒に揃った敬礼を王へ向けると、急ぎ部屋を出た。王妃の部屋へ向かうのだろう。
文官二人が一礼し、机の上の書類を手に取り早速厳しい表情で確認しだした。
執務室には、王と第一王子、文官達とマルトが残る。
「デートレフ」
「はい父上」
王は深々と息を吐き出し、苦言を呈した。
「この、せっかちめが。隣国と揉めたいのか。もっと穏便に事を済ます方法を練らぬか」
「お言葉ですが、奴隷商人に拉致された民を一刻も早く救うのが肝要ではありませんか」
デートレフが言い返す。
マルトは近くへ歩み寄り、親子が言い合う様子を心配顔で見守る。
「それは違わぬが……。されど、巫女の首を送りつければどうなるか分からぬぞ」
「我が国では一介の侍女に過ぎません。文句ならば、生国より連れて来た義母上に」
「リチュ妃はあの者を特に重用しておった。このようなことをしでかすとは……」
「フッ、義母上は何もお考えになっていないのやも知れませんが、あの侍女は違ったのでしょう」
「頭が痛いことよ。あれは傷付くであろうな」
「己の侍女も制御出来ぬのでは致し方ございますまい。心ゆくまで嘆いていただきたい」
マルトはそっと溜め息を吐いた。




