清らかなままで
2020年7月10日の作者の心境、実話です。
偶然の出会い、いわゆるセレンディピティを成し得なかった学生時代の彼女への思いが、昨日聞いた情報により蘇って来ています。
メンタルを落ち着かせるために一気に書きました。
思い出は思い出のままが一番いい。
辛い別れだったとしても、楽しかったことだけ思い出すようになる。
心から好きであなたしか見えなくて、でも2人の幸せは別々の道じゃなきゃダメだって頑なに信じてた。
昨日離婚したって聞いた…。あなたが幸せでいることが自分の唯一の拠り所だった。
メンタルがぐちゃぐちゃで、ものすごくあなたに会いたい。
あなたを抱きしめたい!大丈夫、俺はずっとそばにいるよって言いたい。
幸せでいて欲しかった。
ずっと愛してる。
涙が止まらない。
あなたと別れてから、2人のことを小説にした。
もしどこかであなたが読んでくれたら、俺らのことって分かって連絡してくれるんじゃないかって…。
10代ではお互いに抱えきれなかったことを、大人になればなんとかできるんじゃないかって、未来の2人にすがって。
現実はそんなに都合よくいかなくて、独りよがりの小説が出版できる訳もなくて。
でもね、信じてた。別れてからも同じ電車の路線を使って大学に通ってたから、いつか絶対に会えるって。その時は笑って話せるように大人になるって、成長した自分を見せなきゃって。
お互いの知り合いに何度も会ったね。
ニアミスも何度も。
二人が再び出会うのは必然って信じてた。敢えてツテも使わず、とにかく会えるって信じて、そこからまた始まるんだって思ってた。
生涯共にするのはあなたで、そう思うことに少しの疑いもなかった。
俺らの出会いは高校2年の春、お互いの親友からの紹介だったね。
あなたは銀色夏生が好きで、誕生日に「分かりやすい恋」っていう詩集を私の気持ちって言ってプレゼントしてくれた。
「清らかなままでいさせて下さい」って書いてあるページに付箋が貼ってあって、ガツガツしてたんかなって猛省したよ。
あなたといる時は自分でいることができて、笑顔でいてくれるあなたが大好きで、一緒に居られることに感謝してた。
一緒に通う栄駅から市役所駅まで5分もない時間だけど毎日の最高の日課だった。
何十年も経った今も、大曽根行き名城線栄駅1番乗り場に行くとあなたの笑顔を鮮明に思い出すんだ
京都に一泊で一緒に行ったことがあなたの親にバレて、呼び出されて怒られたことがあったね。
あなたのお父さんに「責任取れるのか」って聞かれて、間髪入れずに「もちろんです」って答えたのは心からそう思ってたから。
「高2で結婚はできないだろ」って言われてものすごく自分が無力に感じて悲しかった。
高校生特有の調子に乗って、制服のままラブホに行って、出た時にあなたの学校の先生に捕まっちゃったね。
退学になるかもって言われた時には、あなたと歩む将来が明確にみえた!
あなたが退学にならなかったことは当然好ましかったけど、一緒に暮らせる時期が先延ばしになって半分残念だった。
それからも本当に色々あったね。高校生の2人にはどうにもできない大きなことが起こって、押しつぶされそうになりながら、しばらくは力を合わせてなんとかしようと必死だったね。
乗り越えたかった、心から。でも俺らは若すぎた。
でもあんなにがんばったから後悔はなくて、大人になったら解決できるって思ってた。
2人でとことん話し合って、一番辛い決断をしたね。そしてしばらく距離をおこうって。
そこからは離れるって決めたのに最後にもう一回会いたいって感じで、ほぼ毎週会ってたね。
でもね、俺は毎日会いたかったけど、それじゃ前と変わらないって思って、でも自分から離れるのは無理って分かってた。
俺らはずるずる続いて、トータル3年間付き合って、お互いエスカレーターで進学した大学1年の春、約束通り違う道を歩もうって離れたね。
最後は鶴舞公園の桜吹雪の中、泣きながらキスした。
その時ひとつだけ約束した。
10年後の自分たちに対して。
俺らが過ごした3年を無駄にしないために。
「2人とも絶対に幸せになる」
別の道を歩むことになることを許容する約束。そしてもしそれができなかったら…。
「10年後の今日、この桜の木の下で会おう」
2人で固く誓った。
俺からの発案だけど、ロマンティストでもないのにそんなことを言う自分に密かに呆れてた。
それから僕らは一度だけあったね。
少し時間が経ってからだったけど、あなたが辛い思いをしてるって友人から聞いたから。
どんな感じになるかなぁってドキドキしてたんだけど、あっという間に一緒に過ごした3年間の空気感に戻ったね。
「ごめんね、連絡して。でも会えて嬉しいよ」
俺がそう言うと、あなたはあの頃と同じ笑顔て応えてくれれた。
「りゅうちゃん、元気だった?、久しぶり、相変わらず背が高いね」
「しばらく会わなかったからって身長は変わらないよ。あと、りゅうちゃんって呼ぶなよ、俺らもう大人だから さん づけとかが良くない?」
「でもりゅうちゃんって呼ぶのは私だけでしょ?りゅうちゃんはりゅうちゃんだから」
「相変わらず背がちっちゃいな」
「え、仕返し?りゅうちゃんこそ相変わらず目がおっきいね」
そんなやりとりを続けながら、お互いの近況を語り合って、困ってたり悩んでることはないかって聞いてみた。
「あの頃はりゅうちゃんのこと、なにを差し置いても一番に考えて、私の全てがりゅうちゃん一色だった。でも今は告白されて、その人のことをいい人だなって思っても、あの頃のような感情になれなくて。私、変わっちゃったのかなって。とにかくものすごく打算的になっちゃった。乗ってる車や腕時計をチェックしたりとか」
いつになく真剣な表情だった。
「人間ってそんなもんだよ。あの頃はお互い若かったし」って少し余裕ぶって答えた。あなたの中で俺を超える男がいないって分かって有頂天だった。
「そうだよね。若かったんだよね…」
そう言って少し寂しげな顔を見せたね。
「そういえば車なにに乗ってるの」
話題を変えようと聞いた。
「ロードスター、色はりゅうちゃんの好きなモスグリーン、すごくかわいくって!」
いつものあなたに戻って、それからまたおどけた楽しい会話をして、次の約束をしないで別れた。
とにかく俺は、会っている間ずっと有頂天だった。
約束をして会うのは必然。
次は運命の偶然。
運命を信じてハッピーエンドになる映画の『セレンディピティ』のように、運命だったら偶然でも必ず会えるって信じてた。
それから俺は、何人かの女の子と付き合って別れてを繰り返し、やっぱりあなたを超える人はいないって確信するようになってた。
あなたの友達にばったり会うこともあったし、連れもあなたを見かけたって時々言ってたから、絶対に会えるって思ってた。
ずっと信じてた。
だけど、偶然は訪れなかった。
自分を励ますようにセレンディピティを何度も何度も観て、その都度感動してたけど、あなたとの偶然の出会いは一切なかった。
そして、涙で別れたあの約束から10年後、鶴舞公園の桜の木を訪れた。
いろんなことを思いながら、長い間待ってみた。
約束の日の前々日、前日、当日、翌日…、自分に言い訳ができないように、気が済むまで待ってみた。万が一の可能性にかけて…。
彼女の姿は結局見つからなかった。
本当はとっくに分かってたんだ。
俺らに可能性がないことを。
その約束にすがって、付き合ってきた何人かの女の子と先に進まなかったことも。
あの時の俺の言葉を、あなたはただ単に慰めの言葉って受け取っていたことも。
本当は全部分かってたんだ。
あなたは幸せになるっていう約束を守ったんだ。
俺も約束通り幸せにならなきゃって、何度かトライしたけど、やっぱりあなたを超える人が現れなくて、1人でいることにも慣れて、もうあなたのことを頻繁には思い出さなくなって随分経つ。
でも昨日、何十年ぶりかにあった共通の友人から、あなたが離婚したって聞いた。
それから俺の時が止まってる…、いや、約束したあの頃に時が戻ってる。
「これから何年か後にこの曲を聴くと、今この時をきっと思い出すね」
「この坂登るのは、3回エッチした後は辛いよね」
「もしおっきなケンカしたら京都タワーを思い出そうね」
「清らかなままでいさせて下さい」
今、俺の中はあなたでいっぱいになってます。
セレンディピティ、映画の世界を信じ続けた結果、心に大きな穴が空いたまま人生を過ごしてる。
2人が会うには必然しかなかったんだ。
そして今、かなり回り道したけど、その選択肢が目の前にある。
全てを捨ててでもあなたの元に駆け付けたい。
あの頃と同じ、清らかなままのあなたの元に。
ハッピーエンドかバッドエンドか…
そもそも偶然の出会い、いわゆるセレンディピティは存在するのか。
セレンディピティを信じてるのは楽だったからなのか。
色々自問しています。