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カルテ08
あまりの恐怖に、私は気付いていなかった。
「患者さん達が……誰もいない」
(あれっ? どこに行ったんだろう?)
ここは本当に、いつもの病棟なのか、静まり返った辺りの様子をうかがっていると……。
ズズズっ──
ズズズっ──
ズズズっ──
何かを引きずるような音が、暗がりの中から聞こえてきた。
あ……ああ……あぁぁ……。
低く響き、耳に残るそのうめき声に、私は心当たりがあった。
「……先輩」
血の気の無い顔に、吸い込まれるほどの暗闇を宿した目。
さっきまで一緒に働いていた先輩であった“それ”は、私の知る“人”ではなかった。
「きゃあ〜! なに? どうしたらいいの? 誰か助けて!」
そう叫んだ私の背後から……。
「……誰もいない。見て……私を……」
「見ないの! 見たらいけないの!」
距離を取ろうと一歩踏み込んだ瞬間──
私は声の主に腕をつかまれ、動くことが出来なくなってしまった──
「見ない見ない見ない見ない見ない!」
姿は見えていないが、私の後ろから長い髪の毛が、体を這って動いているのが分かる。
「助けて……」