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カルテ06
ガチャ──
背後からしたのは、間違いなく鍵の外れる音だった。
確かに鍵が掛かっていることを、私はこの目で見ている。
なのに……。
「そうだ。外れていたら、掛け直せばいいだけよね。きっと、しっかりはまっていなかっただけよ」
不安な時ほどよく喋ってしまう。
視線を下に向けたまま、私はゆっくり振り向こうとした……。
ヒタ──
ヒタ──
ヒタ──
私の背後は扉だけなのに、何故か聞こえる温度を感じさせない足音。
「答えない。見ない。答えない。見ない。答えない。見な……」
先輩から言われた、守らなければならないことを、ただただ繰り返し唱える。
『……ここよ』
抑揚の無いその声は、私のすぐ耳元からした。
目を閉じ、口を押さえ、息をすることも恐怖だったが、次にこの瞼を開けたとき、背後の何者かを見てしまったらと思うと、一歩も動けずに体が硬直してしまった。
”音”は私の背後から、横を通り、前に回ったところで止まった。
『……見て……見て……見て』
恐怖心が最高潮に達したその時だった。
冷たい”何か”が、私の瞼に触れ、強引に開けようとしてきたのだ。