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カルテ03
何も知らない私に、泉先輩は話してくれた。
「私達が勤務している旧館には、鍵の掛かった扉があるわよね?」
「初日に看護部長から聞かされました」
「……中のことも?」
少しだけ記憶を遡るが、中については何も言われていなかったことを思い出し、首を横に振った。
「いいわ。教えてあげる。扉の向こう側に何があるのか」
大袈裟だなぁ。最初はその程度に思っていたのだけれど。
「桃華ちゃんはまだ夜勤が無いから、実際見聞きしたことは無いだろうけど。あの扉の先には……いるのよ」
「いる? 何がですか?」
「口にしてはいけない”何か”が……」
「それじゃあ、全く話が見えませんよ?」
気付くべきだった。この時、泉先輩があえて”何か”と伏せたことの意味を。
「いい? もし、桃華ちゃんが夜勤の日、何かを聞いても、それに答えてはいけないし、何かがいると思ったら、決して目を合わせてはいけないわよ? 約束してちょうだい!」
「……は、はい」
(あれだけ話したがっていたわりには、拍子抜けの内容だったなぁ。まぁいいか。初夜勤が近いし、その時になればわかるだろう)