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聖剣・エルリード

 俺はクロードの稽古に付き合っていた。


「ふんっ! ハァっ! とう!」

「随分と気合入ってるなー」


「そりゃもう! 師匠が稽古をつけて下さるのですから!」


 結局、なし崩し的に俺はクロードの師匠になってしまっていた。まあ、それはいいか。今じゃ、俺とクロード、スィーロでパーティー組んでダンジョンに挑むのが当たり前になっているしな。であるならば、パーティー全体のレベルアップを図るべきだろう。


「所で、クロード」

「ふんっ! ……はい? なんでしょうか、師匠」


「いや、そのな。お前ってたしか、有名な貴族の出なんだろ?」

「ええ、まあ……」


「有名な剣を所有していたりしないか? この間、借りた剣は俺の力についてこれずにすぐ壊れてしまってな」


「あの剣も中々の業物なのですが……それを超える代物となると、うーん。僕の家に代々受け継がれている家宝の剣、「聖剣・エルリード」ぐらいでしょうか。ですが、あの剣は僕の一存では持ち出すことは出来ませんね」


「そうか……一度見せて貰うことは出来るか?」

「ええ、見せるぐらいでしたら。今から行きますか?」


「ああ、悪いな。クロード」

「構いませんよ。では、参りましょう」


 クロードとの稽古をやめて、聖剣エルリードを見に行くこととなった。


 聖剣というぐらいだ、かなりの名剣なのだろう。代々伝わる剣らしいしな。俺は勇者だけあって、様々な剣を扱ってきた。言っちゃあなんだが、剣コレクターでもある。


 色んな剣を見てきたからか、必然とコレクターになっちまった。

 そういうわけで、聖剣とやらを見てみたい好奇心にかられちまった。


 クロードの家に到着したわけだが……物凄い豪邸だった。有名な貴族の出というのは本当らしい。スィーロも名家の出らしいが。なぜ、そんな連中が冒険者なんて目指しているんだ? 金持ちの道楽って奴かねぇ。


「僕のご先祖様は、世界を救った英雄の一人だったそうです。だから僕も力をつけて、世界の役に立ちたいと思っているんです」


「なるほどな。しっかりしてるねぇ、最近の若者は」


 だだっ広い廊下を歩いていく。時折、通りすがりのメイドが会釈をして来る。貴族の家には必ずメイドがいるようだな。羨ましいこって。


「ここです」


 クロードが黄金の鍵を使って扉を開けた。さらに、魔力認証を行っているようだ。なるほど、登録した人物の魔力以外は受付けない認証システムまであるのか。厳重だな。


 開かれた部屋の中央に剣が収められていた。なるほど、見ただけでわかる。相当な業物だ。剣から魔力が溢れ出てるなんて、そうそうねえからな。


「触るのは……駄目か」

「ええ、さすがに。そもそも、封印されていますから」


 厳重な封印が施されている為、触ることも出来ないようだ。


「だよなぁ。いや、すげーわ。この剣。俺の持ってた伝説の剣と同等……いや、どうだろうな。さすがにそこまではいかねえか。でも、かなりの名剣だぜ」


「本当ですか! まあ、ご先祖様が使っていた剣ですからね。持ち出せないのが、残念ですが」

「そうだな。これじゃ、宝の持ち腐れだぜ。剣は使ってナンボだからなぁ」


 その時だった。剣が強い光を放ったのは。


「うおっ!」

「な、なんだっ!?」


『導かれし者よ……』


「剣が……喋ったっ!?」


 クロードは驚いていたが、俺はデジャヴを感じていた。伝説の剣に出会った時とまったく同じ展開に。しかし、いいのか? 持ち出し厳禁の剣だぞ? さすがにクロードに悪い。というか、お尋ね者になりかねん。


「あー……わりいな。剣には悪いんだが、持ち出せねえんだわ」


『そなたには、我を扱う権利がある』


「いや、だから……」


 そういうと、剣は勝手に封印を解き放って俺の前までやって来た。おいおい。


「なあ、クロード。俺はどうしたらいいんだ?」


「剣に導かれるなんて、凄いです! さすが師匠っ! これはもう師匠が使って下さい! その方が、剣も喜ぶと思います! 今から、父さんに事情を説明しにいきましょう!」


 ノリノリだった。そんな単純でいいのかよ……家宝の剣なんだろうが。

 クロードの父親と謁見することになった。貴族のお偉いさんと会うのは、いつになっても緊張していかんなぁ。


「クロード、帰っていたのか。ん、そちらの方は?」

「はい、こちらはアルド・イギュラーさん。僕の師匠です!」


「師匠? ふむ……失礼だが、職業は何をされているのかな」

「えぇと……」


 勇者ですとは言えないよな。さすがに。この世界の勇者は金髪野郎らしいし。


「冒険者です……」

「冒険者だと……」


 あ、これマズイやつだ。声のトーンがあからさまに変わった。


「クロード、貴様はまだ冒険者などといった戯れをしているのか!」

「父さん……」


「あのような野蛮な職業に携わるなと言ったはずだ!」

「ですが、僕は……」


「口答えをするな! お前は家を継ぐ為に、勉学に励めばそれでよいのだ!」


 ま、この手の親はよくいる。それに、間違っているわけでもない。名家の出ってのはそれ相応の責任や重圧、国を背負っているわけだしな。冒険者なんてやっている場合じゃねえってのは、至極最もな話だ。


「父さんはいつもそうやって……」


 俺には関係のない話だ。帰りたい。そう思っていた時だった。俺の手にしている聖剣・エルリードに父親が気づいたのは。


「おい、貴様。それはっ! 家宝のエルリードではないか!」

「ああ、実は……」


「このこそ泥めが! 出会えい、出会えいっ!」


 やっぱ、こうなっちまうか……。俺が勇者やってた時もこういう展開があったもんだ。

 兵士たちが集まってきた。ヤバイな。貴族ってのは、自分達の兵を所有している。その数は家の規模によって様々だが。有事の際はその兵を国に貸し出すというわけだ。


 言うなれば、戦闘のプロ集団。冒険者ランクでいうとどれぐらいに相当するのかわからないが、面倒なことになっちまったな。


「違うんです、父さん! これは」

「お前は黙っていろっ!」


 駄目だな、こりゃ。話が通じない。かといって大人しく捕まっても、死刑が待っているだけだろう。名家の家宝を持ち出したなんて、重罪だからなぁ。問答無用で死刑にするつもりだろう。


「大人しくしろ!」


 兵士たちが取り囲む。


「悪いが、大人しくは出来ねえな」

「ひっ捕らえよ!」


 父親の掛け声で、兵士たちが一斉に俺に突っ込んで来る。俺はそれをエルリードで薙ぎ払った。


「うわっ!」

「き、貴様っ!」


「まあ、父親であるあんたの気持ちはよくわかるが、クロードはクロードで考えがあるってことだ。この剣は俺が貰っていくぜ。冒険者なんて、戯れなんだろ? 剣なんて使わねえなら、いらねーじゃねえか。俺が使っても構わんだろ」


「ふざけるな! それは、我が家の家宝だぞっ!」


『我はずっと、次なる主を待っていたに過ぎない』


「な、なんだ……声が」

「この剣が喋っているんだよ」


「そんなわけがあるか! この、まやかしまで使って……!」


 駄目だな、このおっさん。話が通じない。貴族ってやつは、どこもかしこも……。


「父さん、いい加減にして下さいっ! 僕は……僕はっ! 僕は、自分のやり方で自分のしたいことをします! それを示してくれたのが、師匠です! 家に縛られた生活なんてしたくない! 僕はこの家を出ますっ!」


「クロード、貴様っ! ええい、勝手にしろっ! お前など、勘当だ!」

「行きましょう、師匠」


「いいのか?」

「ええ……」


 そういって、俺とクロードは家を出た。兵士は全て蹴散らした。さて、これからどうするか……これじゃあ、完全にお尋ね者だ。この国を出るしかないんじゃないか?


「すみません、師匠……こんなことになってしまって」


 俺は、軽くクロードの頭を叩いてやった。


「別にお前のせいじゃねえだろ。頭の固い親が悪いのさ。まあ、親は親なりに考えての行為なんだろうけどな」


「……」


「俺は最悪、この国を出ればいいだけのことだ。どこでも生活は出来るさ。心配すんなよ。しかし、これじゃザフィーネとの決闘どころの騒ぎじゃなくなっちまったな」


 ん、ザフィーネか。そうだ。この手があったか。


「なあ、クロード。ザフィーネの奴に会いたいんだが。手配出来るか?」

「ええ、ザフィーネさんのお屋敷にご案内しましょうか」


 俺はクロードの手引きで、ザフィーネと会うことにした。


「それで? 何の御用かしら。大会にはまだ早いわよ。待ちきれなくなって私と戦いにでも来たのかしら?」


 戦闘狂か、こいつは。いや、ただの冗談だろう。

 俺はクロードの家で起こった経緯を説明した。


「ふぅん。それは、災難でしたわね。私には関係のないことですが」


「このままだと俺はこの国を出ることになる。そこで、お前にはこの件を解決して貰いたい。でなければ、大会には出られない」


「そういうこと。随分と、上から物を言いますわね。お断りしますわ。クロードさんのお家は、このシルビア王国でも指折りの名家。そこを敵に回してまで貴方と戦う必要性はありませんもの」


「逃げるのか」

「安い挑発ですこと……」


「俺は、あの家で聖剣・エルリードを手に入れた。魔人を倒した時の俺は全力じゃない。今回は全力を出すことが出来るぞ」


 まあ、出せるかどうかは、この剣次第なんだが。少なくとも、前回みたいに剣が壊れる心配はないと言える。ホーリーブレードが使えるかどうかは、わからねえけどな。


 ザフィーネは、ワインをすすった。


「面白いことを。たしかに、その剣が認めたということはそれ相応の実力者であるということに相違はありませんわね。我が家に伝わる家宝・オルシアンの力を全力で出せるお相手ということかしら」


 オルシアン? ザフィーネが今手にとった鞭のことか。それも、英雄が使用した装備とかそういう伝説の類の代物なのかね。


 ザフィーネはしばらく無言のままだった。やがて。


「わかりましたわ。貴方方をこの家で保護しましょう。ベルマルク家もうかつには手を出せないでしょう」


 ベルマルクというのは、クロードの家の名字だ。


 領主が別の領主の支配地域に手を出すということは、すなわち戦争になるということだ。まあ、家宝を奪われたとあれば、それもやむなしに行って来る可能性もあるが。自分の所の息子がそれを容認して持ち出しているとも言えるしな。


 それを指摘されれば、戦争起こす理由としては弱くなる。さすがにザフィーネもそこを考えて俺達を保護することを選んだのだろう。俺だけだったら、間違いなく放り出しているはずだ。


 後は、単純に俺への好奇心か。強者は強者であるほど、戦う相手がいなくなっていくからな。自分と同等、もしくはそれ以上の存在を求めるようになるのはよくあることだ。


 俺はそんなザフィーネの心境を利用したわけだ。緊急事態だったからな。仕方あるまい。最悪、スィーロの家に厄介になることも考えたが、あんまり嬢ちゃんの世話にはなりたくねえしなぁ。

 何故かはわからねえけど。


 そういうわけで、俺達はザフィーネの家に厄介になることとなった。


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