激闘、魔人戦
道中は特に何もなかった。ほんの少し、小競り合いがあった程度だ。
ようするに雑魚モンスターに遭遇した程度。どうやら、学生はギルドが関連付けしているダンジョン等にいくことで単位が貰えるらしい。証明はそこで取れるアイテムや、モンスターのドロップ品など。そういうこともあって、坊主的には、Cランクより下のダンジョンには行きたくなかったらしい。
俺は遺跡っていうのは、未知の場所だと思っている。仮にモンスターが弱かったとしても、古代の人間か、もしくは別の存在が作った場所っていうのは、それ相応の意味があるからだ。そこを暴くわけだからなぁ。伝説の勇者の装備とかも、大体そういう場所に設置してあったりするだろ?
俺の世界じゃ、そうだったな。その装備も何故か服以外消えちまってたが……強くてニューゲームはさせてくれないんかねえ、魔王さんよぉ。
なぁんて、冗談言ってる場合じゃないか。目的地にご到着だ。
「ここが、バルハラ遺跡。千年前ぐらいの人たちが作った遺跡らしいですよ」
「随分と古いな。崩れたりしそうでこえーわ」
「不吉なこと言わないで下さいよ!」
遺跡に入ろうとした瞬間だった。俺の着ている服が赤く光ったのは。
「ん……」
「うわ、なんですか。それっ!」
「あー、いや。ファッションだ」
「はぁ?」
スィーロの呆れ顔。服が反応している? まさか……。
そういうことなの、かねえ?
「いいから、行くぞ」
「ちょっと!」
スィーロは文句言いながら、小走りについてくる。
クロードは最後尾から、左右を警戒しながらついてきた。
一応、心得はあるらしい。こういった遺跡、洞窟……まあ、なんでもいいが。重要なのは、何か。それは、「逃げる場所の確保」だ。逃げ先の確保が最重要。最悪逃げりゃいいわけだからな。勝ち目がなくても。
となると、一番重要なのは最後尾というわけだ。そこに強い奴が配置されるのは至って普通。逆に弱い奴が一番先頭で囮になるぐらいが丁度いい。トラップとかもあるしな。
一番前に出たがる奴っていうのは、多いが。そういう思考に至らないと駄目だな。
おっと、一番前を歩く俺が言うのも、なんだがね。
まあ、あの坊主がそこまで考えているかはわからねえが、一応の正解ということだ。
そもそもこういう場所は暗がりだ。松明をつける係は弱いやつがやるべきだしな。今は、魔法で照らすのが主流にはなっちゃあ、いるが。
見ての通り、ポンコツ見習い魔法使いの嬢ちゃんはその魔法も使えないらしい。
やれやれ。自意識だけは過剰なんだから。
というわけで、俺が松明をつけながら歩いているわけ。先程の理屈で言ったら、スィーロがやるべき役割ではあるんだが、魔法使いが先頭で松明をつけて歩く姿も、可哀想だしな。それに、嬢ちゃんを危険な目に合わせるわけにはいかねえ。というわけで、俺がそれをやっているわけだ。
まあ、俺の場合は例え真っ暗だとしても、ある程度は見えるんだけどな。
こういうダンジョンっていうのは、自分達が通った場所のマーキングが必須となる。が、物を置くのは駄目だ。モンスターって奴は、意外とバカじゃない。俺達がつけたマーキングを逆手にとって罠に誘導するやつもいる。一番無難なのは、匂いをつけることだな。
簡単には真似出来ない上に、匂いは取れにくい。臭い種って奴を壁にこすりつける。
この作業を繰り返してマーキングしていく必要がある。他の冒険者と被らないように、いくつか種類を用意しておく必要もあるってわけだ。
さて、今回は少しヤバそうな予感がする。というのもこの服のサインだ。何かしらのメッセージを服が送って来たわけだ。十中八九何かしらある。
が、そんな説明をしてもあいつらは納得しないだろうしな。俺自身も、中に入る必要性が出来てしまった。俺だけ中に入ってあいつらには帰れなんて、通るわけねえしな。
この剣は中々の業物だが……万が一にも、魔王級とかが出てきたら一巻の終わりだな。こんな装備と学生二人のお荷物抱えて倒せるわけもない。
ま、そうだったら……それも運命か。
どちらにせよ、俺のあの世界での役割は終わった。第二の人生ってわけだ。
考え過ぎかねえ。こういうのは俺みたいに神経質なぐらいで丁度いいしな。
「アルドさんって、Fランクの初心者の割には定石をよく知ってるんですね。臭い種のことも知っているようですし」
と、クロード。どこの世界でもやることは変わらねえからな。
「ま、勇者だからな」
「勇者?」
「またそんなこと言って……」
呆れるスィーロを他所に、俺は動いていた。
「えっ!」
「敵さんだよ!」
俺が走った瞬間、敵は通路から大量に現れた。
最速で俺は一番前の敵の首を跳ねる。瞬間、毒矢が飛んできた。何故毒矢だってわかるのかって? 矢についている緑色の液体だよ。目がいいんでね、俺は。
それを回避して、叫ぶ。
「クロードッ!」
俺が回避したということは、その後ろにいるスィーロとクロード目掛けて矢が飛んでいったってことだ。敵は恐らくそれも考慮して放ったはずだ。俺が回避しても、後ろの奴に当たればいいからな。
クロードはすぐさま抜刀して、矢を叩き落とした。スィーロはおどおどしてるだけ。
「炎の魔法!」
「あっ、はいっ!」
俺の合図で、おどおどスィーロはようやく詠唱を開始。
「我が手に纏うは、高貴たる証──フレイムスプラッシュッ!」
炎の渦は、一直線に俺に向かって飛んでくる。あいつパニくってんな。俺に向かって撃ってどうするんだよ。
「貰うぜ」
俺は剣を炎の渦に当てる。
「エンチャント・発動。フレイムソード」
「おりゃあ!」
炎を纏った剣が、敵を焼き尽くすっ!
「グアァアアアアッ!」
相変わらず、魔法剣は便利だな。勇者特権って奴だ。
「なんだ、今の……」
クロードは驚いていた。無理もないか。今俺が行ったことは相手の魔法を自分の装備に付与する奥義だ。剣に付与した場合は魔法剣として使える。一種のカウンターとしても使えるしな。敵の魔法を逆手に取ることも可能だ。
勿論、相手の魔法レベル次第だ。高ければ出来ない。勿論味方の場合は、ちゃんと俺に合わせて魔法を使ってくれるわけだが。さっきの場合は敵に向けて撃ったつもりの魔法が俺に飛んで来たんで、剣に付与させて放ったわけ。
「なんで、私の魔法取っちゃうんですか!」
……何を素っ頓狂なことを言ってるんだ、あの嬢ちゃんは。マジで予想以上にポンコツだぞ。
「お前が俺に向けて撃って来たからだろーが!」
「そんな所に立っている貴方が悪いんですっ!」
「ふざけるな!」
そんなことを言いながらも、俺は溢れ出てくる敵を切り裂いているわけだが。
クロードは何をしているのかというと。
「動きが早すぎて、間に入れない……」
そらそうだ。達人級の間合いに早々入れてたまるかよ。
「後ろは任せたぜっ!」
クロードには、後方の監視を任せておけばいいだろう。この程度の敵なら、俺一人で十分だ。
敵はリザードマン。この世界ではなんていうのか知らねえけどな。人型のすばしっこいモンスターで、知恵もある。先程の毒矢がいい例だ。集団で行動しており、出会い頭の戦闘を得意とする種族だ。
俺は経験から、リザードマンの潜伏を最初から感じ取っていた。臭い種の匂いに紛れ込んでいたってことだ。奴らはモンスターだけあって、それなりに臭う。それをうまく隠したってことだ。
臭い種を使ってマーキングするのは確実だが、こういった危険性もある。
その辺は、長年の勘でカバー出来るんだけどな。
「ふう。あらかた片付いたか」
「うっ……おえっ」
死体の出す臭いに耐えきれなかったのか、吐き出すスィーロ。
「おいおい、そんなんでこれから先、やっていけるのか?」
「そ、そんなこと言ったって……うっ」
「スィーロ、ハンカチ使うかい?」
「あ、ありがと……」
ここで休憩するわけには行かない。死体の臭いにつられてモンスターが集まってくるからだ。この階層は恐らく、リザードマンの縄張りだが、この死体によって縄張り争いが始まるだろう。
こいつらの鱗を適当に採取したら、下に降りるか。
「おい、油断するな。こういう敵を倒した時が一番危ないんだ。何故なら、お前ら。今、ほっとしてるだろ? そういう時を狙ってくる小狡い奴ってのは、いるんだよ」
俺は地面に落ちていた毒矢をそういってある方向へと投げつけた。
「こいつみたいにな」
「グヘェッ!」
壁に出来た穴の奥から落ちてきたのは、ゴブリンだった。俺は迷わずそいつの首を剣で切り落とした。
「こいつは、死んだふりも得意な奴でな。確実に首を跳ねるか、心臓を潰す必要がある。モンスターの頭ってのは人間もそうだが、非常に硬い。首か心臓を狙え。頭を狙う奴は、腕に相当自信がないと無理だ」
なんだか、授業みたいになってるな……俺はこいつらの教師じゃねえぞ。
俺が剣についた血を拭いていると、クロードが近づいてきた。
「あの……」
「ん?」
「僕の師匠になってくれませんかっ!」
「は?」
「おえっ……」
スィーロはまだ吐いてた。あいつ何もやってねえな、ほんと。
「先程の立ち振舞、剣さばき、剣に魔法を宿す奥義! 感動しましたっ!」
「お、おう……」
「Fランクとか、絶対、嘘ですよねっ! 元傭兵とか、貴族の護衛とか! 何かしてたんですか!」
「質問攻めはやめてくれ……」
「あ、すみませんっ! 熱くなってしまって……」
「先ほども言ったが、ここに長居は出来ない。話があるなら、歩きながらにしろ。ただし、あまり大きな声を出すな。敵の足音を聞き逃す可能性がある」
「はいっ! 師匠!」
誰も許可してねえんだけど。
「おえっ……」
いつまで吐いてるんだ、あいつはっ!
俺達は足早に下の階層へと降りていった。ここにいるモンスター達は予想以上に賢いのかもしれない。死体に群がって来るかと思っていたが、思った以上に静かだ。
恐らく、リザードマンを倒した未知の存在に対する警戒があるってこと。ようするに俺達のことだが。この状況からして、この遺跡を管理しているボスがいる。
どうしたものか。クロードはともかく、スィーロは完全に足手まといそのものだ。吐いてるだけだしな。
「うぷっ……」
今なら、こいつらも帰れと言えば帰るかもしれない。しかし、俺は俺でやることが出来た。この服は俺が帰ろうとすると輝きを増すようになった。帰るなってことだ。
服に取って急を要する出来事、ね。相棒でもいるのか?
「お前ら、帰る気はないか?」
「えっ」
「単位なら、このリザードマンの鱗で十分だろ。俺はちょっと野暮用が出来てな。ここから先は俺一人で行く」
「……わかりました、師匠」
「わ、私は……うぷっ」
「お前は帰れ。絶対、帰れ」
「ふぁい……」
クロードが納得してくれたようで、スィーロも諦めたようだ。師匠とか呼ばれるのは、めんどくさくて嫌なんだが、今回はそのおかげで助かったな。クロードの実力はよくわかった。帰りは二人でも問題ないだろう。
さて、本気でいくか。
二人の姿が消えた後、俺は歩き出した。びっくりするほど静かだ。
生物の気配がまるでしない。ここのボスがそう指示したのだろう。
結局、誰とも合わずに最下層まで来てしまった。何故、最下層とわかるのか? 感じるからだ。大物の気配を。敵もこちらに気づいているだろう。
偵察用のデビルアイの姿がわずかだが、見えた。俺はそういう所は見逃さない。
そもそもこれだけ殺気をむき出しにしているんだ。関係ないな。
服を見る。無反応だ。変だな。ここまで来て反応なしとは。ま、余計なことを考えている場合じゃねえか。
このヒリつく感じ。体が覚えてるぜ。
「ふ~」
大きく息を吐く。さーて、ご対面だ。
「ここに人間が来るのは、実に十年ぶりだ」
Cランクとはいえ、最下層まで来る奴は珍しいようだな。もしくは、ランクに見合わない主がいるってことだが。
「ほう。そいつはラッキーだな。十年ぶりの人間にあった感想はどうだ?」
「異質な感じがする。いや、異物というべきか」
「……」
やはり、ランクにそぐわない大物みたいだな。俺が異世界人だって感づいてやがる。
人型のモンスター……いや、魔の者。魔人か。人の言葉を理解しているということは、高度な知恵があるということだ。そういった奴は実力もある。百年単位で生きてるようなモンスターは次第に神格化してくる。そういった存在を「魔神」と呼ぶ。世界によって認められた存在は、世界のエネルギーそのものを利用出来るようになる。俺の勇者もそうだ。そういった同士の戦いは、人智を超えたものになる。この世界がどうかはわからないが、俺の力が衰えていない以上、構造は同じなのだろう。
想定していた中で、中の下ってところか。最悪の一歩手前だな。この装備で勝てるか?
「私は貴様と戦う意思がない」
「殺気むき出しでよく言うよ」
「私にも危機感というものがあるのでな」
「そうかい」
「貴様の服と同じ波動をした物を知っている」
「……」
「先程、それを回収しに来たものがいる」
「何故、俺にそれを話す?」
「貴様との戦いを無効にしたいからだ」
「……」
「……」
何秒だったかはわからない。感じる圧力、圧迫感。それを感じ取りながら、俺は考えた。
「回収したのは誰だ?」
「それはわからない。恐らくは、神に近しいモノだ」
「魔神か。……わかった。お前とは戦わない。帰らせて貰う」
「感謝する」
俺は振り返って、帰ろうとした。
その時だった。後ろから、膨大な魔力を感じたのは。
「!」
俺は咄嗟に、服の力を使って後方へ障壁を全力で発動した。
さらに、回避行動を取る。回避行動は完全には間に合わず、障壁にかすって俺は勢いよく吹き飛んだ。
ったく、これだから……魔人ってやつは。この大嘘つき野郎が。
俺はすぐさま、飛んだ。相手の魔法が飛んで来るのが見えたからだ。かなり高速の魔法弾が、無詠唱でポンポン飛んでくる。
「閃光なるは、闇よりも尚、眩きモノ──セイント・トラバーサルッ!」
閃光の一撃で、それらを吹き飛ばすっ!
俺は走りながら、奴の姿を見つける。
「ガッ……ぐ、アァァアッ!」
なんだ……? 様子がおかしい。苦しんでいるようにも、見えるが。
「侵食される……我がっ!」
侵食? あいつの意思じゃないってことか、さっきの攻撃はっ!
「ちっ……わりいな。お前の意思じゃないとして、もうお前を残せる状態じゃなくなっちまった。誰かに操られるのも、癪だろ。せめて俺が終わらせてやるよ」
「アァアアアアアッ!」
赤い光が天を貫いた。完全に乗っ取られたようだな。
ま、わかんねーけど。そんな感じがしただけだ。
「ぺっ!」
「引導、渡してやるよ!」
ホーリーブレードは使えねえ。あの剣がねえからな。この剣じゃ、発動中に剣が崩壊しちまう。先程のセイント・トラバーサルでもかなりヤバい。少し亀裂が入ってやがる。俺の能力に剣がついてこれていねえ。
せいぜい、撃てて後、三発か。大したハンデだぜ。まあ、服が伝説の装備のままで助かったけどな。障壁頼りで相手に急接近するしかねえ。
「エレメンタル・プロテクション全開ッ!」
小細工なんてしてられるかよっ! 真正面だっ!
魔人の目から赤いレーザーが飛んでくる。避けたが、それをそのまま横に動かして来やがった。当然、当たるわな。
どこまで障壁が持ってくれるか。障壁が切れたら俺の体は真っ二つだ。加速してる分、障壁のダメージもさらに上がる。
「うおおおおおおおっ!」
俺は剣と魔法の複合技と得意とする。勿論、剣なしで魔法を使うことも可能だが、相手が魔の者である以上、賢者クラスの禁術でもない限り、通用しない。
俺は勇者特性が存在し、剣の加護がある。剣を使った攻撃なら確実に通る。
が、この剣じゃ三発しか持ちこたえられねえ。ポンポン撃てねえんだよ。
確実に決まる場所まで接近して、撃つっ!
相手もそれを察したのか、距離を取ろうとする。まずいな。障壁もそう長くは持たねえ。
くそっ……遠いっ!
これ以上、レーザーも受けられねえ。牽制で撃つしかねえ!
「閃光なるは、闇よりも尚、眩きモノ──セイント・トラバーサルッ!」
閃光の一撃が、相手に襲いかかる。敵は回避行動を取る為、レーザーの発動が消えた。
「今だッ!」
俺はその隙きに相手に急接近する。
「貰った! 閃光なるは、闇よりも尚、眩きモノ──セイント──」
が、俺が技を撃ち終わる前に、剣は粉々に砕け散った。
「うそ、だろ……っ!」
「グガァっ!」
敵のレーザーが飛んでくる。俺は回避したが脇腹をかすめ取られる。
「ぐっ!」
障壁が割れて俺の脇腹から大量の血が吹き出した。
「やべえ……な」
魔法ですぐさま止血。クソみてえな魔力で焼き切られて回復はすぐには受付けねえ。伝説の服じゃなかったら、体ごと吹き飛んでたな、こりゃ。
さあて、どうするか……満身創痍もいいとこだな。剣は粉々。障壁は展開出来ない。大量出血と。ハハ、死んだな。こりゃ。
まさか、剣があそこまで持たないとは。完全に誤算だった。
俺の能力がここに来て上がってたのか? 魔王戦でより強くなってたのか。
その割には大苦戦だけどな……。
攻撃手段のハンデがあまりにもでかすぎた。これでは勝つに勝てない。
「剣さえあれば……」
「グオオオオオオッ!」
相手の魔法弾が飛んでくる。レーザーを使ってこなくなったな……相手も魔力消費に苦しんでいるのか?
どっちにしろ、こっちは攻撃手段がもうない。逃げるしかないわけだが、逃してくれるような相手ではないだろう。
詰んだな。詰んだ。せいぜいやれることと言えば、相手に飛びついて自爆することぐらいか。どうせ死ぬなら、それぐらいやってやってもいいが。
「くそっ、こんな奴と心中かよ!」
俺は飛んだ。自爆する為に。こいつが遺跡の外に出たら大惨事になるのは避けられない。この世界の勇者じゃねえけど、勇者として見逃せないだろ、そんなことは。
短い間だったが、楽しかったぜ。あばよ。
俺が敵の懐に入り込んだその時だった。
「師匠ッ!」
クロードが現れたのは。
「これをっ!」
「剣っ!」
クロードが剣をこちらに向けて投げつけた。しかし、剣が俺の手元に来るまで時間がある。一発……一発だけ耐えてくれ。俺の体ァ!
狙いすましたかのように、魔人のレーザーが俺の体を貫いた。
「ぐほっ!」
吐血しながら、俺は剣を手に取った。
「閃、光……なるは、闇より……も尚、眩きモノ──セイント・トラバーサルゥウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
「グオォオオオオオオオオッ!」
俺の放った一撃で、魔人は消滅した。
「──」
俺の意識は瞬間、飛んでいった。
◆ ◇ ◆
「起きて……起きて下さい、アルドさん!」
誰かの声が聞こえて来た。まばゆい光を感じた俺は……ゆっくりと目を開けた。
「ぐっ……」
「あっ、動いたら駄目ですよ! まだ、傷口は塞がってませんから!」
「師匠! 大丈夫ですかっ!」
「俺は……そうか。ここにいるってことは、魔人は倒せたってことか」
「はい、師匠。あのバケモノは完全に消滅しました。僕がその後、師匠を背負って病院まで運んだんです」
「あぁ……てか、クロード。お前、どうして来たんだ?」
「……わかりません。予感、でしょうか。帰る途中でそんなビジョンが見えたというか」
予感、ビジョン。達人になれば、なるほど、そういった感覚というものは優れて来る。中には天性の才能でそういった予言などが出来るようになる者もいる。クロードには、そういう才能があったというべきか。それとも……。
ま、生きてたんだからよしとするか。
「一人で行くからこういうことになるんですよ」
「ゲロ吐いてたやつに言われたくない」
「なっ……!」
「はははっ!」
俺達は笑いあった。笑うと傷口に響くんだが。それでも、笑った。
あー、生きてるって最高に幸せだなっ!




