Bランク冒険者・クロード
さて、あれから俺はギルドで冒険者の登録を一からすることになったわけだが。当たり前だが、称号は「見習い冒険者」「Fランク」だ。勇者から見習い冒険者に転落かぁ、当時を思い出すねぇ……短剣一本で強気にあちこち渡り歩いた頃をよぉ。
俺が思い出にふけっていると、声をかけられた。
「あ、こんな所にいたんですか」
「ん、嬢ちゃんか」
「だからそれやめて下さいって言ってるじゃないですか! 何度言えばわかるんですかっ!?」
「わりいわりい、癖になっちまった。何でもいいじゃねえか、別に」
「よくありませんっ!」
この横でピーピー吠えてる金髪の少女──スィーロに色々と世話して貰って生活環境は整いつつあるが……さすがに手に職つけないと、困るしな。いつまでも子供に面倒見て貰ってちゃ、大人として恥ずかしいだろ?
んで、俺にやれることと言ったら、やっぱり冒険者か傭兵ぐらいしかねーんだよなぁ……。
「それで、何の用だ。嬢ちゃ……スィーロ」
「ああ、怒ってて言うの忘れてました。アルドさん、冒険に行きませんか?」
「おう。俺も丁度今、それを考えていた所だ」
「なら、丁度よかったですね。貴方はおかしな人ですけど、人型の凶悪モンスター・ギガトロスを一撃で倒したのは、評価していますし」
「そいつはどーも。行くのは構わねえが、自分の身の丈にあった場所にしろよ? 嬢ちゃんみたいな見習いが行くには、この間の場所は早すぎる」
「貴方だって見習いじゃないですか……」
小声でぶつぶつ言っているのは、助けられた手前、言いにくいからだろう。
「俺は勇者なんでね。こんな肩書きはアテにならねえってことさ」
「私には見習いだから行くなって言ったじゃないですか!」
「あー、はいはい」
あれから、一週間。この流れもお決まりになりつつある。さて、どこへ行くべきか。つっても、俺は何にもわからねえからなぁ。かといって、嬢ちゃんの好きにしたら前回みたいな凶悪モンスターのいる住処に行きかねない。ギルドの受付でおすすめの場所でも聞いてくるか。
「どこへ行こうとしてるんですか」
「ん、ちょっと受付で初心者でも行ける安全なダンジョンでも聞いてこようと思ってな」
「バカにしないで下さいっ! あの時はちょっと油断だけで……」
「嬢ちゃん」
俺の真剣な目に、スィーロは息を飲んだ。
「油断したら、それは死ぬ時だぜ」
「……っ」
「それは……」
「あの時、もし俺がいなかったら。嬢ちゃんは死んでいた可能性も十分あるってことだ。毎回、俺が100%助けられる保証なんてどこにもない。言ったろ、自分の身の丈に合った場所を選べって」
「……それは、そうですけど。でも、今回は他の人とも約束をしているので行き先はすでに決まっているんです」
「ほう?」
どうやら、俺以外にも声をかけていたらしい。すでに決まっている話を断れというのも、納得出来るわけもないか。どんな場所かも聞いてねえしな。取り敢えず、話を聞くか。
するとそこへ、スッとスィーロの肩に手をかけた男が現れた。
「待たせたね、スィーロ」
どうやらこの男がパーティーメンバーの一人らしい。
なんだか少しチャラそうだが、俺も人のことは言えねえか。
男と俺は目が合った。あからさまに表情が変わった。
「この人は?」
「この間、話した私を助けてくれた人。アルドさん」
「あぁ……スィーロを助けてくれたそうですね。僕からもお礼を言わせて下さい」
なんだろう……自分の娘に彼氏が出来た時に味わう気持ちってこんなんなのだろうなぁ、とか思った。いや、俺。結婚してねえけどさ。
「えっと、私と同じ学園に通ってるクラスメイトのクロードよ。こうみえて、Bランクの冒険者なの」
この世界では、冒険者というのはギルドからランク付けされているらしい。F~Aランクが存在し、Aが一番上のランクとなる。さらに、特別な名誉を受けた場合、Sランクの称号を得るとか、そういうのもあるらしい。
まあ、学生の場合。ほとんどが最下層のFランクなんで、Bランクっていうのは、凄いことらしい。よくわからんが。ちなみに俺はFランクだ。学生でもねえけどな。
「よろしくな。Bランクって言うのが、いまいちどれぐらい凄いのが俺にはよくわからんが、今日はどこへ行くんだ?」
俺の発言が気に入らなかったのか、少し表情が曇るクロード。うーん、スィーロといい。ガキに反感買ってしまう体質なのだろうか。
クロードは、地図を取り出して説明を始めた。
「えっと、ここですね。僕らのいる町から南に数キロ行った先にある遺跡です」
遺跡ねぇ……。
「そこは難易度的に、どうなんだ?」
「はい。Cランクぐらいですね」
「スィーロと俺はFランクなわけだが」
「大丈夫ですよ。僕が守りますから」
「……」
あ、こいつ。俺と馬が合わないタイプだわ。一番下の奴に合わせる気がない。なまじ実力がついてくると、こういう思考に陥る奴が多い。自分が強いから大丈夫だと。
今回のケースの場合、Fランクが二人いるにも関わらずCランクの遺跡調査をする。言ってみれば、足手まといが二人もいるわけだ。まあ、俺は違うけど。通常の場合、そうなる。こいつは俺の実力を知っているわけじゃないしな。にも関わらず、そういう発言が出たということだ。
いくらBランクとはいえ、通常よりも遥かに難易度は上がるし、足手まといの保証までは出来ないはずだ。自分が仮に大丈夫だとしても。
まあ、大方……スィーロの前でいい格好したがったんだろう。青春といえば、青春かもしれないが。命の危険がある以上、そんな理由で同行は許されない。ここはビシっと言うべきか……しかし、Bランクのクロード坊主が、Fランクの俺の言うことを聞くとは思えんなぁ。
この世界のランク付けがどれぐらいの強さなのか、俺は知らない。強さを計るには丁度いい機会ではあるが……どうしたものか。
俺はスィーロに目線を向けた。
俺は先程、スィーロに対して自分の身の丈に合った場所に行けと言ったばかりだ。俺の視線で、それを感じ取ってくんね~かなぁ~。
「なんですか、気持ち悪い」
だめだった。ダメダメだ。そもそも、あいつはすでに決まっている話だとバッサリ切り捨てたんだったな。言うだけ無駄か。俺にも話を持ちかけたってことは、前回の一件でスィーロ自身に不安があったからだろう。
あんまり言って、冒険心がなくなるのも問題か。って、親父か俺は。
クソ真面目に子供の相手して……やめだ、やめ。
「行くのは構わねえが、装備が欲しい。が、金はない」
スィーロの表情があからさまに険しくなった。子供にたかるだらしねえ大人ですよ、はい。
「では僕の予備の剣を差し上げましょうか? これで問題ないでしょう」
いや、予備渡したら予備どうするんだよ。とは言えない俺だった。さすがの俺も丸腰は怖い。
クロードから予備の剣を渡される。ふぅん……?
軽く振ってみる。すっと、軽い音がした。いい剣使ってんなぁ、おい。子供の癖に。
その様子を見たクロードは一言。
「貴方……何か訓練を受けたことは?」
「いや?」
「そうですか……」
坊主の目にも今の動きは気になるところがあったってことか。ま、それなりの実力はあるってことかねぇ。
「さ、行こうぜ」
「仕切らないで下さい」
「はいはい」
こうして、俺達はCランク級の遺跡調査へと向かうことになった。




