第9話
「ゴブリン討伐は、今は常時募集のようだな。特に依頼を受けなくても、討伐部位を持ってくれば良いらしい」
宿で朝ごはんを食べてから、冒険者ギルドに来て壁に貼り出された依頼を眺める。
先着順らしく、昨日よりもたくさんの冒険者が集まっている。
流れとしては、壁の依頼票からやりたい依頼を選び、カウンターで登録してスタートって感じなんだけど、文字が読めない人は直接カウンターで相談するようだ。
私は文字が読めないけど、レオンが選んでくれるので手続きがスムーズに出来る。
「薬草の見分けはつくか?」
「たぶん無理」
昔、山に山菜採りに付き合って、『これと同じ山菜探して』と言われて、トリカブト採ってきた経験あるし。(実話)
あれ?戦闘も出来ない、採集も出来ないって、ひょっとして私、役立たず?
「今日はこの町周辺の様子を下見しつつ、ゴブリンなどの小型の魔物がいたら狩ることにしよう。武器屋で何か買えるものがあったら買って外に出ることにする」
「うん。ごめんね」
「なぜ謝る」
「何も出来ないから」
「意味のない自己卑下はやめてくれ」
う、厳しいな。
でもたしかに自己憐憫は気持ち悪いね。
そんなことないよとか言って欲しかったとか?うひゃー恥ずかしい。
出来ないことが申し訳ないと思うなら、出来ることやれよっていうね。
穴があったら入りたいわ。
うーうーうー。
恥ずかしくて情けなくて自分に甘い私も私だ。
自分が思ってるほど他人は私には興味がないから、変に取り繕う必要は、ない。
言い聞かせて、乗り越える。
よし、大丈夫。
とりあえず防具は後回しにして、靴だけ買った。安めの革の靴。
武器屋は、冒険者ギルドの近くに数件あった。
品物は、鍛冶屋さんが作った新品のものだけでなく、中古品やダンジョン産のものも置いてある。
新品の武器防具は、ものによるけど、金貨100枚前後はするので、中古品の掘出し物を探してみることにした。
レオンの得意な武器は、両手剣らしい。両方に刃が付いている大きくて重い剣。
大きいので当然高いかと思ったら、新品は高いけど、中古品だと普通の剣より安めだった。重いからよほど鍛えていないと使いこなせないからあまり売れないらしい。
2件目のお店で、そこそこの掘出し物の大剣を見つけて、今値引き交渉中です。
「金貨1枚ならなんとか出せるんだが」
「これは中々の鋳物なんだ。金貨2枚でも破格なんだよ」
お店の人は強面で、さらに不機嫌そうに話すものだから、なんていうか普通に怖い。
でも値引き交渉頑張って欲しい。
関係ありませんよという感じで、店内を眺めていると、ゴミ一歩手前のような色んな種類の武器が樽の中に無造作に入っていて、その中に案外しっかりした短めの剣が混ざっていた。
「すみませーん!この中のものっていくらなんですかー?」
レオンの粘り強い値引き交渉に辟易していたらしい店の主人は、すぐに寄ってきて私の手元を見る。
「この中のものは売れないから溶かす予定のものなんだが、目についたものがあったのかい?」
「その青っぽい鞘に入ってる短めの剣」
「ああ、これか…。これはモノは良いんだが呪われているようでね。鞘から取り出せないんだよ。まあ、嬢ちゃんが飾りで持つくらいなら良いかもしれんがね。銀貨2枚でいいよ」
それって安いの?高いの?
抜けなかったら使えないよね?
「わかった。今日はそれだけ買ってまた出直そう」
大剣の交渉は決裂したみたいだった。
銀貨2枚を支払って店を出て、そのまま門を出る手続きをして町を出る。
昨日の場所よりも、少し南側に進路をとる。
「あの大剣、買わなくて良かったの?」
「ああ、とりあえず保留だ。それより、この剣に、浄化の魔法をかけてみてくれ。お前の魔力量ならこの剣の呪いも解けるはずだ」
街道沿いをしばらく歩いて、見晴らしの良い草原でレオンが振り返って言った。
「なるほどー!ピュリファイ!」
力づくでも全く鞘から抜けなかった剣が、さっくりと抜けた。
呪いも解除出来るなんてすごい魔法。ますます便利。
「なかなかの業物だ」
レオンはご機嫌さんだ。
「お買い得だったね」
「ああ。浄化の魔法は、大きな教会の司祭クラスじゃないと使えないのだが、その際多額のお布施が必要となるのが殆どだからな。
この程度の武器が呪われたくらいなら割に合わないだろう。
お前は武器の見立ても出来るのか?」
「出来ないよー。割ときれいだったから気になっただけ」
教会セコいな。
でも教会的には、私で一儲け出来るってことか。なるほど気をつけよう。
「そうか。これならゴブリンより上位の魔物でもいけそうだ」
「うん。頑張って」
怪我したら治すからね。