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n番煎じの異世界転生  作者: ココちゃん
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第8話

「まずお願いがあります」


「なんだ」


「さっきは、奴隷なんて要らないと言いましたが、しばらくの間、このまま奴隷契約を続けていたいです」


親戚も知り合いも全く存在しないだろうこの世界で、私にとって唯一の味方がレオンなんだってことに気がついた。


セイフティーネットのレベルも不明で、そもそも善悪の判断基準もわからない世界で、奴隷契約という縛りでもなければ、誰も信用することなんて出来ない。


レオンは、たぶん悪い人ではないと思う。


私の勘がそう言ってる。昔から私の勘は当たる。

それでも、怖い。世界で一人だけな気分になる。


だから、レオンを利用させてもらう。


「ああ、構わない」


レオンはほんの少しの躊躇もなく了承する。

私はそのことに、心の底からほっとする。


「ありがと」


良さそうな町にも入れたし、頼れる奴隷も出来たし、なんとか生きていけるかもしれない。




「あといくら残っているんだ?」


「金貨3枚と銀貨9枚」


「思ったより魔石が高値で売れたのだな。宿に行くぞ」


「えっと、『森のこりす亭』?」


「そうだ。門番がおすすめするのなら良い宿なのだろう」


「レオンにはあまり快適じゃないらしいよ?」


「俺はかまわん。どこでも寝られる」


死体からはぎとったマントを颯爽となびかせて、通りを歩くレオンは、堂々としてて迷いがない。

隻眼で無精ひげで、髪もぼさぼさしているけれども、ピュリファイしたから清潔だ。


改めてレオンを見ると、ぼろぼろの、服とも言えないような、穴をあけて袋に顔と手を通しているだけの布の上着と、短いズボンに死体からあさった革の胸当てとマント。

靴も履いてなくて、あきらかに貧乏人ぽい。


ちなみに私は、この世界に来たときに着ていた、生成りのごわごわした長袖のチュニックみたいな上着に、同じ生地のシンプルなズボンに編み上げサンダルのようなものを履いていて、布の肩掛けカバンを持っている。

たぶんレオンよりも普通の格好してると思う。


出来ればレオンの装備、整えてあげたい。





「ここか」


門から歩いて30分ほどの場所に、女子おすすめの宿『森のこりす亭』があった。

看板に文字と、リスぽい小動物のイラストが描かれている。


建物に入ると、すぐに広めの食堂があってカウンターにいる大柄の女性が「いらっしゃい」と声をかけてくれた。


「宿泊を頼めるか」


「兄さんとお嬢ちゃんの2人でいいのかい?」


「ああ」


町の人との交渉ごとは、色々ボロが出ると困るので、レオンに頼むことにした。


「ウチは女性宿だから個室は女限定で、ツレの男は大部屋に雑魚寝になるけどいいかい?」


「かまわない。寝る前までツレの部屋に行くのはいいのか」


「うるさくしないならいいよ。ただし、食堂の営業が終了した時点で引き上げてもらう」


「わかった」


「2人で夕食と朝食付きで一晩銀貨8枚前払いだよ。食事をしなくてもお金は返せないからね」


「とりあえず一晩だ。リリ」


「はーい」


じゃらじゃらと銀貨を取り出してカウンターに置く。コインて結構かさばるし地味に重い。紙幣はないのかな。


「部屋は2階の一番奥の部屋だ。鍵はこれね。すぐ夕食にするかい?」


ちらりと、レオンが私を見るので、うなずく。考えてみたら、この世界に来てまだ何も食べてない。


レオンもいつから食べてないのかわからないし、早めに食べた方がいいよね。


「頼む」


「あいよ」


カウンターの前を通り、奥の階段へと向かう。


宿代が安いのか高いのかわからないけれど、ゴブリンの魔石4つで2人が2食付きで泊まれるなら安いのかな。


それよりも、このお金ってレオンが稼いだのに、レオンが雑魚寝で私が個室とかいいのかな。


んー、本人が良いって言ってるんだからいいか。



「思ってたより快適そう」


奥の部屋は南向きに窓があって、夕日がほんのり入っている。

シングルサイズのベッドがひとつに、小さなテーブルと椅子がひとつずつおいてあり、テーブルの上には水差しとコップがひとつ備え付けてあった。


掃除も行き届いているように見えたけれど、一応ピュリファイしておく。



「浄化の魔法が使えるのは教会のごく一部の人間だけと聞いていたのだが」


雑魚寝会場に行かず、私に着いてきたレオンが、私の魔法を見て呟く。


「そうなの?」


「知らないのか?

さっきも言ったが、光魔法の使い手は貴重で、過去には使い手の奪い合いで戦争になったこともある。

あまり人前で使わない方がいい。保護されたいなら別だが」


「気をつけます」


怖すぎる。


「ああ。その魔法、俺にも使ったのだろう」


「うん。治療の時についでにね。汚れていたから、浄化したらきれいになるかと思って」


「たしかにありがたいが、呪いを受けた王族が、その魔法を受けるために教会に頭を下げるくらいの魔法だからな?」


ふむ。


「あ、ゴブリンと戦った返り血とかついてるね、ピュリファイ」


「おい・・」


「大丈夫。人前では使わないよ」


魔法の名前、声に出さなくても使えるし。


でもこの魔法すごく便利。お部屋のお掃除から、洗濯、動物まできれいになる。すごい。前の人生でも欲しかった。


レオンが椅子に座ったので、私はベッドに腰掛ける。


「それで、これから何をするんだ?」


「ごはん食べる」


「それはそうだが、何か目的があってこの町に来たのだろう?」


「社会勉強?」


「説明してくれ」


レオンは眉間に少しだけ皺をよせて私を見る。


んー、何て説明しようかな。異世界転移したんですーって言っても気が狂ったと思われるよね。


それっぽい設定作るしかないか。

ついた嘘忘れちゃうから、あまり嘘は盛りたくない。


「ここからどこにあるのかもわからない場所に住んでいたのだけれど、父親が致死の病気に感染してしまって、うつると困るから移転の魔法でさっきの森に飛ばされたの。

あ、私は感染してないから安心して?」


レオンは難しい顔をしながら黙って聞いている。


「物心ついてから、ずっと2人だけの世界で暮らしていたので、社会の情勢とか常識とかがわからないけれど、とりあえず人が住んでいるところに行きたかった」ってことにしておいて欲しい。


「ふむ。俺にとっておまえは命の恩人だ。

力になりたいと思っている。お前に保護者がいないのなら、俺がその役目を担おう。

本来、回復魔法や強力な復元性の薬は貴重なもので、奴隷に使用するものではないのだからな。だが、お前があの時あの場所に現れなければ、俺は確実に死んでいた」


「回復の魔法なんていくらでも使えるし、そんなに気にしなくていいよ?」


どれくらいの効果があるのか検証出来たし。


「…お前の価値について、もっと説明する必要性があるが、そろそろ食事に行かないか?」


「あ、そういえばおばちゃんにすぐ行くって言ってたね。急がないと」


あと出来れば私の価値よりも、この世界のことを説明してもらいたい。




夜ごはんは割と美味しかった。


宿泊についてる食事は、おまかせメニューのようで、今日はビーフっぽい肉のデミグラスソースっぽいシチューとパン。あとチーズとワイン1杯がセットだった。

チーズはヤギのブルーチーズっぽい味で、日本人には難しい感じ。

ワインはすごく若くて、ヴォジョレーって言うよりも、山ぶどうを甲種の焼酎で漬け込んだものを樽で保存したような味だった。

ちょっと残念だったけど、レオンは嬉しそうに飲んでいたので、半分あげたら喜んでくれた。


30席くらいある食堂は満席で、お客さんは女性と男性が半々くらい。殆どの人がお酒を飲んでいるようだった。

たぶん、飲食店として利用してる人もいるんじゃないかな。


食堂では込み入った話はせず、食べ物とかお酒の話をした。あと明日何しようか、とか。



「レオンの装備を揃えたい」


何がしたいのか聞かれたから、正直に答える。俺のことじゃなくてとかボソボソ言ってるけど、ボロ服ボロ装備がすごく気になるんだもん。ボロ過ぎて目立つし。


「ふむ。まあ、たしかにお前を守るにしてもある程度の装備は必要だな」


一瞬、難しい顔をしてたけど、納得してくれそうで良かった。


「でしょ?お金足りるかな?」


「全然足りんな」


「…やっぱりそうか」


「俺が少し前まで装備していたものは、ダンジョン産のマジック武器や、銘入り武器だったのだが、あれらは皆没収されたしな」


「それっていくらくらいするの?」


出来るだけ慣れた武器、装備させてあげたい。


「最低でも白金貨10枚はするだろう」


「白金貨ってどういう単位?」


「金貨100枚だ」


「うん。とりあえずそういうのは諦めて?」


「ああ」


お酒が少し入ったレオンは、昼間よりもユルい感じで、時々笑ったりして楽しそうで私も嬉しかった。


「この宿は悪くないので、1日延長かけるとして、出来れば剣を手に入れたい」


「うん。武器屋に行こ」


「ああ。その前に、冒険者ギルドで適当な依頼を受けておきたい」


「うん。冒険者のランクも上げたい」


「うむ。お前に雷魔法も教えたい」


「あと文字の読み書きも教えて」


「出来ないのか」


「うんさっぱり」


「わかった。教えよう」


「よろしくお願いします」


「ああ」


ポンポンと進む会話が心地良い。

私の質問の意図を的確に拾って答えてくれるのも良い。


「そろそろ寝よう」


「まだ色々お話したい」


「明日また話せばいい。部屋まで送る」


「うん」


こうして怒涛の1日が終了した。

とても色んなことがあった1日だった。


悪くない1日の終わりだったけれど、やっぱり明日目が覚めたら、今日のことが全部夢だったら良いのにと思いながら眠りについた。


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