第7話
どれくらいの距離をまっすぐなのか確認してこなかったけれど、とりあえず西側の大きな三角屋根を目指して走る。
だいたい2㎞くらい走ったところにそれらしい建物があった。思ってたより遠かった。
高層ビルはないけれど、3階建てくらいのファンタジーぽい建物は沢山あって、冒険者ギルド周辺の商業地区ぽい所は、建物がひしめき合っており、町の人が往き来していた。
北の方には、お城みたいな大型の建物も見える。
まるで中世をイメージしたテーマパークのようだ。
息を整えて冒険者ギルドらしき建物のドアを開く。てか、かなり走れたのに驚く。
木登りの時といい、確実に運動能力は上がっている。
中に入ると、正面に受付カウンターがあり、キレイ目なお姉さん達が座っていて、その前に冒険者らしき人たちが並んで順番待ちをしていた。
比較的行列が少ない人の列に並ぶ。
カウンターには看板があるんだけど、残念なことに記号にしか見えない。
コトバは通じても、字は読めないのか。
直ぐに順番が回ってきた。よし!
「こんにちは!」
ここもニコニコ作戦一択。
「こんにちは。初めてお会いしますね?本日は当冒険者ギルドにどのようなご用件でしょうか?」
完璧な営業スマイルと丁寧な受け答えだ。しゅごい。
「冒険者登録をして、魔石の買取りをお願いします!」
「かしこまりました。それではこちらにお名前をご記入下さい。あと、特技と。…代筆しましょうか?」
紙を前にして固まっていると、親切なご提案をしてくれたのでありがたくお受けする。
「お願いします。名前はリリ。特技は…魔法使いとかで良いのですか?」
「結構です。魔法使いのリリさんですね。登録料として銀貨5枚かかりますが大丈夫ですか?」
「代金はこの魔石を売ってお支払いしても良いですか?」
「はい、かまいません。ですが、登録前の売却ということになりますので、買取価格に冒険者加算されませんがよろしいですか?」
「はい!お願いします!ちなみに、冒険者加算とはどれくらいの加算なのですか?」
「通常買取価格に1割加算されます。買取りは銀貨5枚分にしておきますか?」
クールだけど親切なお姉さんのようだ。
「いえ、全部買取りお願いします」
「それでは魔石をお預かりしますね」
お姉さんは、魔石を持って奥の方へ行き、10分後くらいに戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが冒険者ギルドカードになります。紛失すると再発行料として銀貨5枚かかりますので、気をつけて下さい。こちらが魔石を換金したものです。ゴブリンの魔石が14個と、ワイルドファングの魔石が6個。特に傷などありませんでしたので、ゴブリン魔石1つにつき銀貨2枚、ワイルドファングが銀貨3枚で買い取らせていただきました。登録料を引いていますので、差し引き金貨3枚と銀貨11枚入っています。あとワイルドファングの皮も買い取れますので、余裕があったら持ってきて下さいね」
銀貨10枚で金貨1枚なんだ。両替してくれてる。親切。小さい巾着みたいなものに入れてくれてる。
カードには、私の名前っぽい象形文字的な何かが書かれており、裏面には大きく一文字記入されていた。これは早急に文字をマスターせねば。
「リリさんは初心者冒険者になりますので、最低ランクからのスタートとなります」
「ありがとうございます!あと、文字も覚えたいので、テキストとかありますか?」
「とても良いことです。資料の閲覧室に学ぶためのものを置いてありますので、ご利用ください。閲覧室の使用料は冒険者だと1回につき銀貨1枚です」
有料かよ。
そして文字が読めないことはそんなに珍しいことでもないようだ。
国民の教育に公費をつぎ込めるのは社会制度がある程度整っていないと出来ないってことか。
「そのうち利用させてもらいますね!」
さて、門に戻るか。
小走り程度の速さで、来た道を戻る。
「門番さん!お金、持ってきました!」
小走りの勢いのまま、門番さんに話しかける。
さっきと同じ、ちょっと怖い顔の甲冑さんだ。
「早かったね」
「急いで走ってきました!」
一生懸命さをアピールする。無意識に相手に良い印象を与えようとするあたり、私もあざとい。だがそれが処世術というものだ。
門には、ちらほらと町の中に入ってくる冒険者ぽい人がいるくらいで、混雑はしていない。
夕方のこの時間から出て行く人はいないんだろう。夜道は色々危ない。精神的にも怖い。
ここから隣の町までどれくらいの距離があるかわからないけれど、少なくても、木登りしても見えなかったから、気軽に行ける距離でもないんだと思う。
「戻ったか」
どこからともなくレオンが現れた。きっと門の外で待ってたんだね。ごめんね。
「レオン!ごめん、待たせたね」
「いや、そうでもない」
「門番さん、これ2人分の通行料ね」
銀貨4枚を渡す。
「冒険者登録してきたんだろう?冒険者カードを見せてくれ」
作ってもらったばかりの冒険者カードを渡す。
甲冑の門番さんは、裏面と表面を確認し、詰め所の中の人に声をかけて登録っぽい作業をしている。
「町に入る手続きは終了だ。リリ、これは返しておく」
冒険者カードと、銀貨2枚。
そして冒険者カードには、金属の鎖がついている。
「え?」
おつり?
「冒険者の出入りには金はかからないからな」
といって、バチンとウィンクする門番さん。
優しい!イケメンだ。甲冑だし、わら顔、怖いけど。
「いいんですか?ありがとうございます!鎖もありがとうございます!」
貧乏なのでサービスは遠慮なく受けておく。何気に鎖が嬉しい。失くしそうで怖かったんだ。
「あと、安めでおすすめの宿があったら教えてください」
門番さんなら色々と知っているはず。
「女性なら『森のこりす亭』が良いだろうな。
冒険者ギルドからは遠いが、ここから北へまっすぐ行って、商業ギルド、緑の大きな建物の近くだ。
少し裏路地に入ってわかりにくいが、食事もうまいいい宿だと思う…男はあまり快適とは言えないが」
ファンシーな感じなんだろうか。名前的に。
「森のこりす亭ね!ありがとう!」
甲冑の門番さんにたくさんお礼を言って、町に入る。