第6話
キビキビと森へ入るレオンの後を、遅れないように着いて行く。
攻撃手段がないので、とりあえず石を拾う。
レオンがピンチの時に気を反らしたり出来るかもしれないし。
…全然必要なかった。
レオン、見た目を裏切らない働きを見せてくれた。
元奴隷商人さんの持ち物だったショートソード?を素早く動かして、小型のサルみたいな魔物…たぶんゴブリン?の首を飛ばしまくっている。かっこいい。
「魔石はたいてい胸の下あたりに入っているんだが、解体出来るか?あと、肉と皮は捨てていい」
うへぇ、解体か。
冒険者になるならやらなければならないってことか。
「が、頑張ります」
さっきリスカに使った短剣を握り直す。
「魔物の解体したことないのか。治癒師だしな。無理するな、俺がやる。と言っても俺も解体は得意ではないのだ」
「そうなの?」
「俺は騎士だったからな。魔物の解体などは、冒険者の仕事だ」
「へぇー」
「いいから短剣を寄越せ。とりあえず見てろ。コイツからは皮や肉をとらないから難しいことはない」
そう言うとレオンは私の手から短剣を奪い取り、ゴブリンの死体の背中からザクッと突き刺す。
心臓が止まっているので、血が吹き出すようなことはない。魔物に心臓があるのかわからないけれど。
背骨に沿ってザクザクと背中を切り開いて手を突っ込んで直径3センチくらいの石のようなものを取り出す。
30分ほどで、先ほどレオンが倒した10数匹のゴブリンから魔石を取り出すことが出来た。
「倒せそうな魔物だったら倒して町へむかうぞ」
しばらく歩いていると、角の生えた犬みたいな魔物が飛び出してきた。
私は全然気がつかなかったけど、レオンは少し前から気づいていたみたいで、飛びかかってきてもちゃんと対処していた。
「ワイルドファングだ。これくらいなら行ける。お前は動くな」
「はーい」
何も出来ず申し訳ないです。いつのまにかお前呼びになってるけど気にしません。
この魔物は、犬型だけに動きが素早く、さらにたまに連携した動きをしてくる。
それでも圧倒的な力の差は埋めようがなく、一瞬のうちに、6頭の魔物が地面に倒れる。
短剣でザクザクっと魔石だけを取り出すと、私の元へ戻ってくる。
「本当は皮も売れるんだが、あまり時間もないから魔石だけとってきた。町へ急ごう」
この世界に来たのが朝だとすると、レオンの治療をしたのが昼前。そこからレオンが狩りをして今が昼過ぎ。
夕方になる前に町に入らなければならない。夜道は危険だし、夜にはたいてい町の門が閉まるものらしい。
主にレオンの活躍で、何事もなく順調に町の外壁までたどり着くことが出来た。良かった。
町へ入る門には、強面の門番さんが立っていた。
博物館とかでしか見たことのない甲冑のようなものを着ている。重そう。暑そう。
なんか怖いけど、全てを笑ってごまかすしかない。愛想良く行こう。
「こんにちはー!」
甲冑の門番さんに、ニコニコと元気よく挨拶する。
言語については、レオンと会話出来たのだから、異世界転生仕様で大丈夫だろう。
「こんにちは。通行証を確認するよ」
甲冑の門番さんは、わりとフレンドリーな対応だった。甲冑なのに。
「えっと、通行証とかは持ってなくて、冒険者になりたくて、冒険者ギルドに行きたいの」
「お嬢ちゃんが?」
「うん」
奴隷商人という身分で町に入ったら、後々、奴隷商人としての対応を求められるのも面倒くさいので、なんとか冒険者になりたいってことにして町に入れてもらうことにした。
「冒険者じゃなければ、町に入るのに銀貨2枚かかるんだけど持ってるか?」
甲冑の門番さんは、顔は怖いけど、優しい人みたいだった。
私に対する言葉遣いが、小さい子を相手にしてるみたいな感じなのが少し気になったけども。
「途中で魔物に襲われた時、お金を落としてしまったので、この魔石を売って支払いたいの」
死体から剥ぎ取った布のかばん(ピュリファイ済み)から、じゃらりと魔石を取り出して門番さんに見せる。
「それなら金貨数枚くらいにはなりそうだけど、お金を支払わずに町に入れることは出来ないんだよ」
「えー。何日もかけてここまで来たのに…」
やはり無理か。泣こう。
昔飼っていた猫が死んだ時を思い出せば、いつでも泣くことが出来る。
「あ…、それじゃあ、どちらかにここに残ってもらって冒険者ギルドでその魔石を換金してまたここに戻ってきてもらうのはどうかな」
「…ぐす、良いのですが?」
甲冑の門番さんは、慌てて破格の提案をしてくれる。乙女の涙効果凄い。
「お嬢ちゃんに1人で行ってもらうことになるけど大丈夫かい?」
それにしてもお嬢ちゃん呼びは少し辛い。
だがここで余計なことは言うまい。
「ありがとうございます!大丈夫です!」
みるからに非力で何も出来なそうな私なら、こっそり町に入れても何か起こる確率は低いってことなんだろう。
「冒険者ギルドは、この道をまっすぐ行って、街の中心部の少し西側にある5階建の建物だよ。三角屋根で、一番大きな建物だからすぐわかると思う」
「わかった!行ってきます!」
自分のことを良く思われたい対象に、無駄にテンションを上げて、表情筋を大活躍させてしまうのは、条件反射のようなものだ。
これだけで、大抵のことはクリア出来るのだ。