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n番煎じの異世界転生  作者: ココちゃん
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第54話



パリーンと、透明な音が響きわたる。


何かが、たまごの殻を破ってる。


『それ』は、人型をしているみたいだ。

大きさは、人間の子どもくらいかな。


ん?…まさか、この世界の人は、こうやって産まれるのが一般的とか言わないよね?

いやまさかね、この大きさだと乳児期過ぎてるし。

たまごから産まれたら哺乳類じゃないってことだし。なんか怖い。異世界っつてもさすがにそれはないよね、うん。


色々妄想しながら眺めていると、『それ』は、殻を適度に破り終え、辺りを見回し始めた。


一瞬『それ』と視線が合う。


女の子?


前世地球でいうところのヨーロッパ人の赤ちゃんみたいな白い肌に、キラキラした金色の長い髪。そして、作り物めいた整い過ぎた顔の造作。

まるでビスクドールに命が吹き込まれたような、この世の理から外れたような美少女が、産まれたての子鹿のように、足をプルプルさせながら立ち上がろうとしている。


プルプル可愛い。頑張れ!



心の中で応援しながら、生命の神秘の瞬間を眺めていると、


「リリ!そいつから離れろ!」


レオンがまた叫び始めた。

これ帰ったら絶対説教コースだな。

でもね、なんとなくこうしたほうが良いって無性に思うのですよ。

こういう時は、感じたまま行動するのが正解。


元々そうやって楽に生きてきたはずなのに、うっかりブラック企業に就職して社畜生活してたら、そんな勘的な何かを感じることが出来なくなって死んだんだよねたぶん。


無理してまで、卒業してすぐ就職コースにこだわる必要ないって勘が言ってたのに、親や友人、大学の人からのプレッシャーに負けて、ブラック企業に就職しちゃったのだ。


ほんと死ぬくらいなら就職浪人の方がいいに決まってるよね。生きててナンボって奴だよ。ニート万歳。


まあ異世界転移して新たな人生始めることが出来たのだから、まだマシなのかも。

これからは、前世の教訓を活かして、やりたいことしかやらない。

今のところかなり成功してると思うんだよね。

それほど苦労しなくても生活出来てるし。

レオンもアビエルも大好きだし、しろもふさんはもふもふだし、家の庭には精霊樹のパワースポットがあって、癒されまくりだし。


だから今も自分の直感を信じる。


なので、いつのまにか音もなく隣に移動してきたビスクドールちゃんが、私の上着の裾を掴んで、


「あるじさま…」


と、呟いても普通に受け入れる。



「リリ!いい加減にしろ!未知のものに対しての危機感がなさすぎる」


でも、常識的なレオンは本気で怒る。

私のことを心配してくれてるんだろうけど。


「レオン?たぶん大丈夫だよ?精霊の気配がするから」


「精霊には、人間の善悪は通用しない」


たしかにそうかもしれないけど。

人間じゃないし?たまごから産まれたし?


「でもしろもふさんは温厚だよ?」


「あれは知性が高い存在だ。誰が主人なのかよく理解している」


「この子も凄く力が強い感じだよ?」


さっき、レオンとアビエルの思考を混乱させたのってこの子ってことだよね。


「力が強いからといって、知性が高いとは限らない」


そうかもしれないけど、でも、


「この子もたぶん理解してるみたいだよ?」


ビスクドールちゃんが、私の上着の袖をさらに強く握りこんでつぶらな瞳で見上げてくる。


うわ、可愛い。


魔性と言われると、たしかにそのとおりかもしれない。


インプリンティングのせいなのか、私を主人呼びして慕ってくれてる。嬉しい。ママって呼んでくれてもいいんだよ?


「…承知した」


やっと渋々レオンも納得してくれた。良かった。



「その子、家に連れて帰るよね?とりあえず服着せよう。お腹もすいてるよね?」


アビエルは、最初から目をキラッキラに輝かせながら、ビスクドールちゃんをガン見していた。きっと瞬きしてない。


「そだね」


ビスクドールちゃんは、産まれたままの姿だ。…ついてないから女の子だね。


とりあえず、私のマントで巻いておこう。


前にアビエルから貢いでもらったドラゴンの皮に、凄い魔法をいくつも重ねがけした凄いやつ。白地に赤い宝石?魔石?が縫い付けてあって、金色の糸で魔法陣が刺繍してある職人技が光る一品だ。


ビスクドールちゃんは、キョトンとした顔で私を見上げて、なすがままになってる。可愛い。そして金色の髪と、金糸の刺繍が合う。




「それじゃ、帰ろっか」




ビスクドールちゃんの手を取り、そのまま手を繋いで壁の穴をくぐる。

レオンとアビエルに合流して、縄ばしごゾーンまで歩き、さくっとよじ登ってダンジョンの出口まで歩いた。


幸運にも魔物に出会うことなく出口にたどり着くことが出来た。



入る時には無人だったダンジョン入口の四阿には、冒険者っぽい人が二人待機していた。うん、なんか見たことある人いるね。



「おかえり、アビー。10階層の部屋にはソレが居たのかい?」


四阿の、1人がけの立派なソファーにゴージャスに座っていたのはあの冒険者ギルドにいた女帝様だった。女帝の後ろには、あの時も一緒にいたイケおじが立っている。


女帝は女帝らしく、レオンと私のことはガン無視して、アビエルに話しかけている。

なんの前置きもなく、駆け引きもないド直球な会話だ。


「そうだよ。でも姉上にはあげないよ。コレはリリーを選んだからね」


姉ちゃんなのかい!

アビエルは女帝の弟なの?びっくりだわー。似てないよね?よく見たら似てるの?

あ、でも自分のやりたいことを普通に貫き通すところは似てるかも。


女帝は、アビエルに向けていた視線を私とビスクドールちゃんに向けてくる。うわ、こっち見ないで。怖い。


数秒眺めてから、面白くなさそうにフンと鼻をならして、


「そのようだねぇ」


とおっしゃいました。

女帝、超美人なのに、言動と所作が荒々しいので残念美人になってる。それと怖い。


「まあ、『依頼は10階層の小部屋の解放』って条件だから、達成だね。冒険者ギルドで褒賞を貰うといい」


あ…そういえばそんな依頼あったね。

アレって私、依頼受けたっけ?

受けるとか受けないとかの前に、冒険者辞めたような気がする。


「冒険者は辞めました。なので依頼は受理されてないと思います」


一応お伝えしておく。


「そうか。では直接渡そう」


女帝が背後に控えていたイケおじに視線を流すと、イケおじが私の前に進み出て、ずっしりと重い布袋をくれた。

袋の中身を確認すると、金貨が数十枚入っていた。おー!女帝いい人!


「ありがとうございます」


素直にお礼を言っとく。

冒険者ギルド通さなくてもいいのかなと思ったけれど、とりあえず貰えるものは素直に貰う。

遠慮したって良いことないからね。


「ソレを置いていくなら、この10倍は出すけどどうだい?」


女帝は、ソファーの肘掛で頬杖をつきながらニヤリと笑って交渉をけしかけてくる。


ソレってビスクドールちゃんのこと?

ビスクドールちゃんは、ビクっとして私の手をギュッと握りしめる。何これ可愛い。


「無理です」


別にお金に困ってないし。

1人くらい増えても余裕で養えるし。


「そうかい?残念だねぇ」


特にゴネられることもなく引いてくれるようだ。

案外いい人?お金もくれたし。

アビエルのお姉さんだし。


「それでは失礼します」


軽く一礼してその場を立ち去ることにする。

礼儀は大事だよね。


「リリとやら、好きな時にここのダンジョンの攻略をするとよい。詳しくはアビーに聞け」


「え?」


やっぱり無断で入ったらダメなやつだったってこと?

あびえるぅぅ。


「10階層の小部屋を難なく解放したのだからな。その資格はあるだろう。ではまたいずれ」


女帝は、一方的に話すと魔法陣でダンジョンに消えていった。


もちろんイケおじも一緒に。



「さて、おうちに帰ろか」







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