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n番煎じの異世界転生  作者: ココちゃん
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第53話



「おー、なんかちょっと家に帰ってきた感じがするね」


ここはダンジョンの中なのに、なんでかほっとする気がするのだ。


「言われてみればそんな感じするね」


アビエルも首を傾げながら同意する。


「精霊の気配がするな」


聖女様のご子息のレオンが、サクッと指摘する。


「それだー」


しろもふさんの気配と似た感じのやつだ。


「危険な感じしないから、何があるのか確かめてみよー」


疲れたし早く帰りたいからサッサと終わらせたいし。


アビエルが示した場所は、扉とかがあるわけじゃなく、一見するとただのゴツゴツとした鍾乳洞の岩壁なんだけど、よく見るとちょっぴり隙間が開いていたりして、壁の向こう側に空間があることが確認出来る。

なんとなくチープだ。


それならば、


「壁、壊しちゃえばいいんじゃない?」


手っ取り早く。


「「え」」


「え?」


「精霊の気配がするのに?」


なんでかレオンとアビエルが引いている。


「でもそれ以外方法ないよね?」


オープンセサミとか言ったら開くとかないよね?


「う…ん、それはそうなんだけど」


精霊の気配感じてるのに?とか、今までハンマーやツルハシなどで壊そうとしたけど壊すことが出来なかったとか呟いている。




なんで消極的になるんだろ?

よくわかんないけど、ここまで来て何もしないで帰るとかありえないよね。



「まあ、堅そうな岩だし、剣とかだと無理っぽいから、魔法撃つよ」


2人はなぜかもじもじし始めたので、主導権を奪う。



「あ…中に絶対何かあると思うから、あまり強い魔法はダメだよ?」


アビエルがやんわりと牽制してくる。


「んー、でもある程度強くないと岩なんて壊れないよね?」


「それはそうだけど…ほんとに魔法攻撃するの?」


「この岩壊すだけだよー、たぶん」


「多分て何?!」


アビエルが絶妙なタイミングでツッコミを入れてくる。なんか嬉しい。



「この壁の向こう側に聖なる気配がするのだ。乱暴に扱う訳にはいくまい」


「えー?乱暴になんてしないよ?ただ魔法撃つだけだよ?」


「それはそうなのだが、慎重にならねばならん」


レオンにしては歯切れが悪い物言いだ。

ふたりで隠し事?さっき何か芽生えたから?



「レオンもアビエルなんか変だよ?この先にあるものを確かめにここに来たのに、どうして岩を壊すだけなのにそんなに躊躇するの?」



「え…それは、精霊様が…ん?…あれ?」


「むぅ…」


なんだろ、混乱してるみたい。


「大丈夫?岩、壊していいよね?」


「んん…?」


思考操作でも受けてるのかな?

だとしたら怖いなダンジョン。


私が大丈夫なのは、やはり異世界転移チートだからかな。


ま、いいか。壊せば治るよね。


雷の魔法強めに、風の魔法トッピングでいいかな。


「こわしまーす」


岩壁にちょっぴりある隙間らへんに当てればいいか。


ゴゴゴゴゴと岩壁が崩れ、砂埃が舞う。

アビエルが結界を張ってくれたみたいで、こっちには岩とか石とか砂とかは飛んでこない。グッジョブアビエル。



「うまくいった、かな?」


砂埃が落ち着いて見ると、岩壁には、人ひとりなら入れるくらいの穴が開いていた。


「すごいよリリ…今までほんとに誰も穴なんて開けられなかったのに」


アビエルがぼんやりと呟く。


それ、変な催眠術みたいなのにかかっちゃうからじゃないのかな。

ここ、普通の岩壁くらいの強度だもん。異世界力自慢の人なら壊せたと思う。


レオンは、岩壁に出来た穴を覗き込んでいる。


「何かあった?」


レオンに尋ねながら、私も中を覗く。


「卵がある」


「たまご?」


「ああ」


「何の?」


「わからん」


「でもたまごなの?」


「恐らくな。見てみればいい」


「うん」


レオンが私の肩を引き寄せて、壁の穴の前にエスコートしてくれた。

さすが騎士様、親切。


「あ、ほんとだ。たまごだね」


かなり大きいけどね。


「卵?どんな卵?」


自分を取り戻したっぽいアビエルが、いつもの好奇心を全開にして、壁の穴を覗きにくる。


うん。アビエルはこうでないと。元に戻って良かった。


「かなり大きくて、キラキラしてるたまごだよ」


なんていうか、一目で普通じゃないって分かる。

どう見ても凄いのが入ってる。


そうだよね、きっとあのたまごの中の奴が催眠術みたいなのかけたってことだもん。


「わお。何の卵かな?」


「アビエルが知らないなら誰もわからないと思うよ」


「レオンは?」


「わからんな」


「そっかー」


壁の穴は、それほど大きくはなかったけれど、私なら入れそうだったので入ってみた。


「…っ、リリ!」


レオンが慌てて名前を呼んで、引き戻そうとしたけれど、それより速く奥のたまごの方に移動した。


「リリ!戻れ!それは強い力を放っている。安全とは思えない」


レオンは壁の穴から顔を出して、手を伸ばすけれど、身体の大きなレオンはとうてい入れないし、手を長く伸ばしても私には届かなかった。


「んー、大丈夫。ちょっとだけだからー」


そんなに危険な感じしないんだよねー。


「何がちょっとだけだ!リリ!」


レオンがこんなに血相変えてるとこ初めて見る。


ちなみに隣に立っているアビエルは、興味津々で、視線が卵に釘付けだ。

私の行動も応援してくれている。たぶん。


たまごに近づくと、とても温かい感じがする。触ってみると実際温かった。


「リリ!むやみに触るな!」


レオンが怒ってる。お父さんか。

大丈夫だって。しろもふさんと同じ種類の気配だもん。


殻は虹色に輝いていて、きれいだ。


とりあえず、コンコンと軽く叩いてみた。

これがスイカだったら当たりだ。みっちりと実が詰まっている音がする。


「んん?」


たまごが少し動いた気がした。


もう一度コンコンと叩いてみる。


「うわ!」


軽く、ほんとにごく軽く叩いただけなのに、なんとたまごの殻にヒビが入った。ヤバい。


レオンがまたしてもこっちへ戻ってこいとか叫んでいる。


「何か産まれるよー!」


見たいよねこれ絶対。


「リリ!戻れ!」


「ちょっとレオン、見えないよ」


必死に呼びもどそうとしているレオンと、

たまごの変化を見逃したくないアビエルが、仲良く言い争いをしている。


たまごの方は、殻に少しずつ亀裂が増えていき、中から突き破ろうとする力が加えられている。


そして、殻がパリンと砕け散った。









誤字脱字報告ありがとうございます。

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