第5話
「ところで、あの町の住民なのか」
町に向かって歩き始めると、唐突に金髪ワイルド系細マッチョさんからの身辺調査がはじまった。
「違うと思う」
「思う?…見たところ、荷物を持っていないようだが、どこから来たんだ?」
この世界ではない場所って言っても伝わらないだろうから、適当にごまかすしかない。
「わからないです」
「わからないとは、道に迷ったのか」
「そんなところです」
「…主人のことはなるべく知っておきたいのだが」
呆れたように、ため息を吐く金髪ワイルド系細マッチョさん。
なんかマウント取られてる気がする。
この世界の奴隷とはいったい。
「覚えていないの」
説明するのも面倒くさい。
道端で記憶喪失が日常な異世界だと良いんだけども。
「自分の家をか。大丈夫なのか」
少し気の毒そうな目をしてこっちを見てくる。
突っ込まれなかった良かった。でも、いたたまれない。嘘つくのは得意じゃないけどここはしょうがない。
「あまり大丈夫ではないので、フォローお願いします」
「ああ」
金髪ワイルド系細マッチョさんは、少しだけ思わせぶりに私を眺めてうなづく。
騙されてくれたのか、信用されているのか、奴隷効果なのかわからないけれど、とりあえず納得してくれた。
けれど、次から次へと疑問点が浮かぶらしい。
嘘ついた部分の設定、メモりたい。
「ひょっとして帝国民ではないのか」
「わかんない」
「登録カードもないのか」
「ないですね」
「どうやって町に入ろうと思っていたんだ」
「え」
町に入るだけなのに手続きが必要なの?
身分証明書とかもいる?
「えっと、歩いて?」
うん、そういう意味じゃなかったの分かってる。
そして、私が色々ごまかそうとしていることも読んでくれてる気がする。
少し考えるように視線を巡らし、
「奴隷商人の証があるから、大丈夫だろう」
と、ため息と一緒に、私の町への入り方を提案してくれた。
「それは、私が奴隷商人として通してもらうということですかね」
「そういうことだ」
なんか微妙。
「まあ、あのように高位の治癒魔法が使えるのであれば、どこの国でも重宝がられると思うがな」
そんなに貴重なら、あまり簡単に使わない方が良いよね。
心優しい回復魔法使いが、病気や怪我をしてる人に同情して、回復しまくったキャラのエピソードには不幸な顛末しかないからね。
気をつけよう。
「何処かに士官するのも、奴隷商人も嫌なら、冒険者登録するくらいしかないだろうな」
金髪ワイルド系細マッチョさんは、私の反応を見ながら、色々と提案してくれる。
ワイルドな見た目に反して、わりと細やかな対応も出来るらしい。
それにしても冒険者かあ。異世界転生の定番だな。ランクとか上げたりしてみたいかも。
「冒険者登録は誰でも出来るの?」
「ああ。簡単な試験はあるが、誰でも登録出来る。主人は、治癒の魔法が使えるから、問題ないだろう」
「奴隷の人も登録出来るの?」
「出来ない。奴隷はマスターの付属品だからな」
奴隷には人権がないってことなのかな。金髪ワイルド系細マッチョさんは、いいのかな、奴隷の身分で。
たとえ嫌たったとしても今どうこうする気はないけれども。
「私と一緒じゃないと町に入れないってこと?」
「恐らくな。その町によって、違いはあるがな」
「町に入る時、敗戦国の戦犯だとバレたとしたら、まずくない?」
「いや、アストレアや、王国の者ならともかく、この国と直接戦った訳でもないのだから、俺の姿形など誰も知らないだろう。そもそも既に奴隷だしな」
割と適当なのか。まあ、道路に死体が積み重なってる世界だしね。ほんとこの人よく生きてたよね。
「冒険者って、どこの国出身でも登録出来るんだよね?」
「出来る。冒険者は国を自由に行き来出来るからな。ところで、金はあるのか」
「…ないですね」
お財布もスマホも何も持ってなかった。
そもそもお財布持っていたとしても、諭吉さんじゃダメだろう。
「それでどうやって町に入るつもりだったのだ?」
「まさかお金ないと町に入れないとか?」
たしかに、他の国に入国する時に、税関とかでお金払うかも。
「国によるが、冒険者なら国の出入りが自由だが、冒険者登録のない者は入町税がかかるのが普通だな」
「冒険者お得ですね」
「冒険者になるのも登録料が必要なはずだがな。
このへんの魔物でも狩って換金すれば良いだろう。主人は、攻撃魔法は使えるのか?」
「たぶん無理?」
さっき石碑に触った時に思いついた魔法、4種類だけだし。
「たぶんとは?」
「使ったことがないので」
「ふむ。あれだけの回復魔法を使っても魔力欠乏をおこしていないのだから、魔力量は問題なさそうだがな。
俺も魔法は少ししか使えないので何とも言えんが」
夢で何が欲しいかとか聞かれたような気がするけど、とにかく眠くて、ものすごく適当に答えたんだよね。
こんなことならチートっぽいやつ頼んでおけば良かった。
攻撃魔法とか。時空カバンとかの異世界定番チートアイテムも。
ちなみにアイテムボックスって言ってみても何も起こりませんでした。
「攻撃魔法って、どうやって覚えるの?
私、残念ながら回復魔法しか使えない」
「残念ながらではないぞ。治癒などの光属性魔法を使える者は希少だ。光属性魔法の使い手は、国によっては、保護される。
俺は雷魔法が少しだけ使える。主に武器に通して魔法剣にしている。あと火とか水の生活魔法も使えるから、遠征では重宝された。
そもそも魔法が使える者は少ない」
実験動物的な未来が頭をよぎったよ。
これはマジで気をつけないと。
「ああ、覚え方だったな。帝国ではわからないが、アストリアは魔力のある者は魔法学校に通って魔法教師から教わっていたな。魔法の系統ごとにコツが違うそうだ。人によっても違うがな」
「じゃあ雷の魔法の使い方教えて下さい」
「いいが、今は俺が攻撃しよう。
日が暮れる前には町に入りたいからな」
「うん、わかった」
「では、森に入ろう。森には必ず魔物がいる」
「了解。あ、待って。貴方の名前を教えて」
自己紹介まだだった。
「私はリリ。主人って呼ばれるのイヤだから、リリって呼んで」
本名を少しだけもじったゲームでいつも使う名前。聞かれたら本名よりもすぐ出てくる名前。
「レオンハルト・ウィンチェスター。レオンと呼べばいい」
「わかった、これからよろしくレオン」
「よろしく」