第46話
「辺境の森ダンジョンて知ってる?」
冒険者ギルドは敵だけど、ダンジョンは気になるので、物知りのアビエルに聞いてみることにした。
「ん、行くの?」
「え、知ってるの?」
アビエルが何でもない風に受け答えたので、びっくりした。
「知ってるって言っても、低階層だけしか行ったことないけどね」
「行ったことあるの?!」
「あると言えばあるけど、ほんと低階層だけだよ」
「アビエル凄い」
「えー、凄くないよー。欲しい素材があったから入ったんだけど、たどり着く前に挫折して、結局、姉上に取ってきてもらったんだ」
「あ、冒険者のお姉さんだね」
「そうそう。ダンジョンには、この辺りにいない魔物がたくさんいて、素材の宝庫なんだよ」
「どこにあるの?私、見たことないんだけど」
「あー、一般の人が勝手に入れる場所にはないんだ」
「ふぅん?」
「ここから北に、領主の家があるんだけど」
ああ、あのお城ね。
「そこの庭の四阿に、入口があるんだよ」
「えー、そんなとこにあるのー」
それは勝手に入れないわー。
「ダンジョンから魔物が溢れ出てきたら困るでしょ?そこに結界張って、領主が管理してるんだよ」
「そうなんだー」
身体を張って領民を守ってるのか。偉いな。
でも、行けないと思うとなんでかとても残念な感じがする。
てか、あの依頼、領主さん絡みだったのかな。
「行きたいの?」
「んー、危険なことはイヤなんだけど、見たことないから見てみたいなーって思って」
単なる野次馬根性ともいう。
「低階層なら、弱い魔物ばかりで数も少なめだから見学しても大丈夫だと思うよ? 」
「そうなの?」
「僕が行けるくらいだよ?」
「なるほど」
少なくともオーガレベル以下ってことか。
「行くなら頼みたいものもあるんだけど」
「あはは…」
アビエルはブレないな。
「8階層にトカゲっぽい魔物がいるから、それを獲ってきて欲しいんだ」
もう行く前提かい。
「いきなり8階とか無理だよ」
「リリ達なら余裕だよ」
「そなの?」
「たぶんリリだけでもいけるよ。低階層は、魔法攻撃が出来れば余裕なんだ」
「殴ったり切ったりは効かないの?」
「スライムって言って、ゼリー状で定形を持たない魔物がたくさんいてね、切れはするんだけど、武器が錆びついて来るんだ」
スライムきたー!
「スライムは極力切りたくはないな」
レオンもスライムは苦手のようだ。
「攻撃力は弱いんだけど、曲がり角とかに溜まるから、どうしても倒さないと奥に進めないんだよね」
「そなんだー」
「10階層くらいまでは、スライムの他には、普通にゴブリンとか、トロルとか、その辺でよく見る魔物くらいしか出てこないんだよ」
「弱くても、狭い場所で数が多いと強敵になるよ?」
「僕が入った時は、そんなに数は多くなかったよ」
「いつもそうとは限らないんじゃない?」
「まあ、毎日同じ数ではないかもしれないけど、他の人の話を聞いてもそんな感じだったよ」
「そかー」
アビエルは、私のウザいくらいの慎重さにも嫌な顔をしないで答えてくれる。
これゲームなら、ボタン連打で読み飛ばされるところだよね。
いいから早く出発しろよ的な。
でもやっぱり、失敗して死んだら終わりだし、私は私が納得が出来るまで思考を止めたくない。
「10階層の小部屋って開けるのが難しいの?」
「10階層の小部屋?誰に聞いたの?」
「冒険者ギルドの依頼で」
「部屋っていうか、結界が張られてる場所があってね、その先に明らかに何かある気配がするんだけど、未だに解除出来ないんだ。
そこのことかな?」
「かな?」
「あと、10階層で部屋っぽい場所は知らないなあ」
「たぶんそこだと思う。それにしてもアビエルは物知りだね」
「そう?」
「うん。私の大事な情報源だよ」
「リリに頼りにされると嬉しいよ」
「すごく頼ってる」
ふふふととても嬉しそうに笑いながら、アビエルは私の頭を撫でた。
触れ合うのは好きだ。
自分以外の体温が心地よく感じるのは、ヒトという動物は、群れで生活する種族ってことなんだろうな。
「今どこまで攻略が進んでいるのかわからないけど、僕の知っている限りでは40階層くらい行ってるはず」
「40!?大きいダンジョンなんだね?」
レオンも隣でびっくり顔をしているので、40階層というのはとても大きい数字なんだろうと予想出来る。
「まだまだ奥があると思うよ」
「40階層なのに?」
「階層って言ってるのも便宜的にそう呼んでるだけでね…上手く言葉で説明する気がしないから、とりあえず行ってみるといいよ?」
「そだねー。そんなに危険じゃないなら行ってみようかなあ」
「今から行く?」
「え、そんなに気軽に行けるの?」
「すぐちかくにあるし?」
たしかに、領主さんの庭に入口があるなら、街中を歩いて行けばいいってことだよね。
うーん、でも
「突然行って入れるものなの?」
たしかに、冒険者ギルドから依頼はされたけど、もう冒険者じゃないし。
「ガチで攻略する訳でもないし、ちょっと8階層のトカゲ採りにいくくらいなら大丈夫じゃない?」
「てゆか、そもそも領主さんちの庭って誰でも入れるものなの?」
「どうなんだろ?」
わからないんかい!
アビエルの天然さんめ。
「いちお女帝さんから『辺境の森ダンジョンの10階の小部屋を開けろ』って指名依頼されてるんだけど、それで入れたりするかな?…冒険者辞めちゃったから有効な依頼なのかわかんないけど」
「女帝?」
「なんて名前か覚えてないんだけど、迫力のある美人」
「へぇ、そんな依頼あったんだ」
「正式には受けてないんだけどね」
「なんで急にリリに頼んだんだろうね」
「さあ?力試し的な?」
レオンがそんな感じのこと言ってた。
「んー、Aランク冒険者のパーティでも解除出来なかった結界を、新人冒険者に頼むかなあ」
「たしかに、それって嫌がらせだよね」
死んだらどうするんだ。
「よくわからないけど、別に依頼されなくてもダンジョンには入れるよ?」
「そうなの?」
結構オープンな感じなのかな。
この町、結構治安良さげだし、そういうことなのかな。
「とりあえず行ってみよ?入るか入らないか、その時に決めたらいいよ」
「そだね。行ってみる」
視界に入っていたレオンの顔が、ほんの少しだけ苦笑いしているように見えた。
レオンも一緒に行くんだよ?
やっと少しやる気が出てきたようです。良かった。




