第43話
「この近くにダンジョンあるんだね」
「そのようだな」
「危険かな?」
「同じ魔物でも、ダンジョンに生息しているものの方が強いと言われているな」
「レオンはダンジョン行ったことあるの?」
「アストラル国の騎士団で視察に行った程度だな」
「攻略はしたことないんだ?」
「アストラルでは、ダンジョンは、冒険者が攻略するものとされていたのだ」
「へー」
「未知なものの攻略は危険が伴うが、それゆえに、見返りも大きいので、冒険者が優先的に攻略出来るようにして、冒険者を集めていた」
「わりと政治的だね」
「そうなのか?人が集まらなければ国は衰退していくからだと聞いた」
「そだね」
人が集まらないような所に町なんて出来ない。
まあ、前世の国でも北のとある政令市みたく、人が集まる前に、まず町を作った事例はあるけどね。
この異世界の辺境の町は、その都市にどこか似ている気がする。
適度に離れてる人と人との距離とか、実質的には支配されていても、気にしない不思議な感じの官依存の気質とか。
ものすごいお金持ちがいなさそうなところとか。
なんとなく町の建物が、新しい感じがするところとか。
まあ、類似点があるってだけで、共通点てほど同じ部分がある訳ではないのだけれど。
そもそも異世界だし。
「この依頼を受けるのか」
「んー、正直、ダンジョン見てみたいって気持ちあるんだけど、これだけだと難易度も分からないし、判断しかねるかな。
とりあえずこの町のことに詳しいアビエルに聞いてみようと思うよ」
私の勘は、この依頼を受けてもいいって言ってるけれど、やっぱり調べないと不安だし、何より、冒険者ギルドの依頼を素直に受けてやるのも癪に触るので、少しくらいは勿体ぶりたい。
「依頼の受否の回答は後でも良いのか」
「これ、だいぶ前にあの嫌なお姉さんがヒラヒラさせてたやつでしょ?
今更急いでも、たいして変わらないと思うんだよね」
「そうだな」
「そゆことで、おうちに帰ろ?」
「わかった。…だが、素材は売らずとも良いのか」
「それねー」
どうしようかなほんとに。
ギルド通さないで売りまくっても良いんだけど、手続きとか、価格交渉とかが面倒くさいんだよね。
「リリの気が進まないのであれば、無理する必要もないだろう」
「そかな?」
「食うに困っている訳ではないのだから」
「そか」
「では帰るか」
「うん」
応接室?のドアを開けて、冒険者ギルドの一般フロアに出ると、女性の泣き喚く声が響いていた。騒がしいなあ。
「あ、どこへ行かれるのですか?」
そのまま普通に歩いて出口に向かおうとすると、先ほど対応していた年配の女性から声をかけられた。
「帰るんだけど?」
「え?」
「それでは失礼しまーす」
一応、挨拶をする。
「ちょ、ちょっと待って下さい!先ほどの依頼は受けて下さるということでよろしいですか?」
行く手を塞がれた。
「え?どうして?」
一言も受けるなんて言ってないよ?
「いやあのてっきり…」
年配の女性が焦っている。
「今すぐ回答しなければならないのであれば、お断りします」
「え、そんな!」
「依頼の内容はご存知ですか?」
「いえ、封がしてあったので、依頼内容はこちらでは把握しておりません」
「ダンジョン攻略なんて、即答出来るわけないですよ」
依頼主が秘密にしてるのかもしれないけど、情報共有は大事なのでバラす。
ダンジョンと言った瞬間に、私の声が聞こえる範囲にいた人が、ハッと息を飲んだ。
「その話はここでは…!」
ダンジョン関連は秘密事項とかなのかな。
知ったこっちゃないけど。
「そゆことだから、帰りますねー」
「待ってください!!」
「まだ何か?」
「彼女を、彼女の戒めを解いていただけませんか」
年配の女性の視線を辿ると、あの嫌なお姉さんが、壁に縫い付けられている。
「あれ氷だからそのうち溶けますよ?」
魔物相手の場合と違って、氷の槍の表面を鋭角にしてないし。わざわざ丸くしてあげたから、怪我とかはしてないハズだけど。
ああ、泣き声はあの人だったのか。
「あのままでは、ギルドの営業に差し支えがありますので」
年配の女性が、申し訳なさそうに言う。
ふむ。それもそうだね。
氷の槍の魔法を解除する。
「無詠唱…」
年配の女性が小声でブツブツ言っている。
ドサっと音を立てて、嫌なお姉さんが床に崩れ落ちる。
すぐに、床に手をつき、上半身を起こすと、キッと私を睨みつけて、
「人殺しぃ!!!」
と叫び始めた。こわ。
嫌なお姉さんは、どこまで私の好感度を下げ続けるのか。
「死んでないでしょ」
反射的にツッコミを入れてしまう。
なんかもうこの人凄いよ。
負のエネルギーで出来てる感じだね。
この人が魔王でもいいよね。
伝説の勇者に討伐されるといいよ。
「うるさいいっ!あんたなんか、冒険者登録抹消して犯罪奴隷落ちよ!」
これだけ元気なら、魔法解除する必要なかったんじゃないですかね。
あと、冒険者ギルドって犯罪奴隷認定出来る機関だっけ?
「やめなさい!…申し訳ありません!」
年配の女性が、嫌なお姉さんを叱りつけ、私たちに頭を下げる。
「なんでこんな奴らに頭下げるんですか?!こいつら奴隷ですよ?」
いや、私は一応、奴隷商人です。
「あなたは黙りなさい!」
なんていうか、カオス。
もうどうでもいいかな。
うん。もう飽きた。
意地悪されたり、罵られるのは。
お互いに嫌な気持ちになるのも避けたい。
だから、
「それでは冒険者辞めますね」
冒険者カードを取り出し、コトリとカウンターへ置いた。
最初からこうすれば良かったんだ。
なんかスッキリした。
「あ、あの!」
「さようなら」
冒険者ギルドのざわざわは、扉を閉めたら聞こえなくなった。
外はいつのまにか、夕暮れ時になっていて、辺りは、昼と夜の境目の独特の空気に包まれていた。
「辞めちゃった」
隣を歩くとレオンを見上げる。
「良いのではないか」
「止めないの?」
「あの者の態度に、リリが神経をすり減らしていたのは気づいていた。俺は、あのような時に何を言ったら良いのかわからないので、黙っていたのだが、あの者の言葉に何も感じなかった訳ではない」
「そか」
「ただ、俺が奴隷なのは事実だ。それについて指摘されることで、リリが感情を動かす必要はない」
う…。
ごもっとも。
私が、レオンを奴隷の身分にしているのだから、それに対しての私のいやなお姉さんへの怒りは理不尽なのか。
反省…すべきなのか。
…だが後悔はしていない。




