第40話
「僕、リリと奴隷契約してほんと良かった」
私と魔力交換したアビエルは、さっきからハイテンションな酔っ払いみたいな言動をし続けている。
お酒の酔いと同じなら、放っておけば、寝るか賢者タイムを迎えると思うので放置だ。
さて、精霊獣について、である。
しろもふさん曰く、しろもふさんは精霊樹と同義であり、また否である、らしい。
禅問答?
つまり、精霊樹から分裂した的なやつかな。
産まれたっていうのとも少しニュアンスが違うのだろう。
しろもふさんから肯定の意が伝わってくる。
頭で考えたことが筒抜けかぁ。
まあ猫的な動物ぽい見た目だしいいか。
「しろもふさんは、私のペットってことでいいのかな?」
好きな時に好きなだけモフモフさせてくれる愛しいやつ。
しろもふさんからは、微妙なニュアンスが伝わってきた。
どうやらペットではないらしい。
『護る』という意思が伝わってきたので、
「守り神的な?」と聞いてみたら、『そんな感じ』と返ってきたので、ボディーガードのペットみたいなところだろう。
「強いの?」
『肯定』
「魔物狩りとか出来るの?』
『画蛇添足』
え、なにそれ。
四文字熟語?
「無駄?」
『肯定』
「いや、そういうの聞いてない」
無反応か。
「えとね、私たちは生きていくために、自分以外の生命を食べなければならないの。
魔物を殺して食べるの」
『承知』
「一緒に殺しにいく?」
『否』
「わかった。しろもふさんはお留守番だね」
『肯定』
精霊獣は、無駄な殺生はしないってことね。
「リリは、精霊獣と会話が出来るのか」
穏やかにテーブルについていたレオンが、声を出す。
「んー、かろうじて意思の疎通が出来る程度かな」
「そうか」
「うん」
「小さい時、母がそんな風に、精霊獣と話をしてきたのを思い出した」
「そか」
「母の精霊獣は、母と母が使う光魔法が好きで、母の良きパートナーだった」
「うん」
「常に母とともにある精霊獣が羨ましくて、尻尾を引っ張ったりしたこともあったが、全くダメージは与えられず、ただ母に怒られただけだった」
「ぶふっ!」
なになにそれ、嫉妬ですね?
小レオンくんてば、イタチに嫉妬しちゃったんですね。
「…」
「えっと、そのイタチくんは、レオンのお母さんのお仕事をサポートしたりしてたの?」
「ああ。精霊獣が共にあると、魔力が増幅し、さらに効率が良くなると言っていた」
「へぇ。じゃあ、私もそうなるのかな?」
「可能性はあるだろうな」
「魔力の量とか、よくわからないんだよな。そもそも魔力を感じるとか、ないし」
「母は、俺の魔力が少ないのを喜んでいたから、魔力量を見ることが出来たように思う」
「少ないのを喜んだの?」
普通、多い方が嬉しくない?
「将来、自分のやりたいことをやれる人生を送って欲しいと言われた」
レオンのお母さんは、聡明で素敵な人だったんだな。
魔力が高いのが王様とかにバレると、兵器として取り込まれて、国の為に強制労働させられる道しかないんだもんね。
「そか」
「母とともに囚われ、母が死んでからは、国のために戦い続けた。
母のこの言葉を、今まで忘れていた」
「うん」
「今ここに、母がいれば、喜んだだろう」
「良かったね」
「ああ」
レオンが肩の力を抜いて、楽に息をしているのが分かる。
出会った時は、悲壮感漂うシュッとしたイケメンだったけど、今は、笑顔が似合う穏やかなイケメンだ。
たぶん、前のレオンの方がモテたかもしれないけど、私は今のレオンの方が良いと思う。
「レオンがやりたいことって何?」
何でもやりたいことやらせてあげたい。
「農業だ」
「そか」
既に始めてたのか。さすがだ。
「母が、庭に薬草などを植えていて、その手伝いをするのが好きだった。
高齢の庭師を雇っていたのだが、その後継になろうと思っていた」
「完璧な将来設計だね」
「食べ物さえあれば、生きていけると思ってな」
「そうだね。自給自足いいよね」
食べ物の心配をしなくていいってのは、ありがたいし、心の拠り所になる。
子どもレオン凄いな。
産まれはお坊っちゃまぽいのに堅実だよ。
レオンのこと、昔のことももっと知りたいけど、奴隷契約のせいで、話したくないこととか無理強いするの嫌だから、私からは聞かない。
でも、こんな風にレオンから自然に話してくれることは、とてもとても嬉しいことだ。




