第4話
「所有者の死を持って、奴隷商人の証も登録奴隷も、所有権がフリーになる。
その証があれば、奴隷を登録したり、譲渡したり出来る。俺を其方の奴隷として登録してくれ」
いやいやいや、異世界に転生してまず最初に奴隷商人になるとか、いくらなんでもファンタジーさに欠けるでしょ。
「登録の仕方は、其方の血をその首飾りに垂らし、くぐらせたものを俺に飲ませてくれ。魔法で登録する手法が一般的だが、奴隷商人ごとにオリジナルな式と呪文で行うから、正直わからん」
「血…」
初対面の人に自分の血を飲ませるとかないわー。もちろん奴隷商人の呪文なんてわかるはずもない。
「その元奴隷商人は、短剣くらい持っているだろう」
飲ませるくらいの血って、ちょっと切るくらいじゃ出ないよね?リスカしろと?
すごくイヤなんですが。
逃げよう。
「ちょっと待て!其方は治癒師なのだから、血を流しても自分で治せるだろう」
そうだけど、それとこれとは違うし。
自傷行為なんて趣味じゃない。
「俺の枷を外すためには必要な登録なんだ。要らないというなら、後で売ってくれ。奴隷商人ならそれも可能だ。だが、町に着くまでは、見ず知らずの男と行動を共にするよりは、絶対服従の奴隷の方が安心出来るだろう」
何が正解なのか全然わからない。
わかんないって凄いストレスだ。
飽和した。
元奴隷商人の腰ベルトらしきものに刺さってた短剣で、ざっくりリスカする。
痛い。
もりもり血が出てくるので、首飾りに垂らしながら、金髪ワイルド系細マッチョさんを見ると、良くやったみたいな顔をしてうなづいていたのでイラっとした。
気持ち悪いけど、口元に血を垂らしてやった。ほら飲め。
ゴクリと私の血を飲む金髪ワイルド系細マッチョさん。
ボタボタと手から血が流れて地面に落ちていく。
このまま楽になりたいと、少しだけ考えてしまう。
「血を流し過ぎだ。早く治療しろ」
金髪ワイルド系細マッチョさんが、焦ったように忠告してくる。
切れって言ったり、治せって言ったりめんどくさいな。
「ヒール」
この程度の傷をなら、回復量(小)で余裕。
足枷と手枷に手を触れると、カチリと音がして、消えた。
「感謝する」
金髪ワイルド系細マッチョさんは、私にお礼を言うと身軽に立ち上がり、転がっていた元奴隷商人の死体から、剣と革の胸当て?とマントをゲットし装備した。
身長がまるで違うので無理やり身体に合わせている。
血で汚れていて、視覚的にも臭覚的にも耐えられないのでピュリファイしたら、ありがとうと言われた。
ふと思いついて、自分にリペアの魔法をかけてみると、少し落ち着いてきた。
ストレスは状態異常扱いのようです。
さらに死体をガサゴソ漁っている金髪マッチョさんをぼんやり眺める。
金髪ワイルド系細マッチョさんは、背が高い。
190㎝くらいある。あと言うだけあって強そう。
この世界の人ってみんなこんな感じなのかな。
「で、どこへ行こうとしていたのだ?」
死体漁りを終えた金髪ワイルド系細マッチョさんが、おもむろに口を開く。
「えーと、あそこの町?」
木の上から発見した壁の方向を指す。
「帝国の辺境の町か」
そんな名前なのか。
うなづいておく。
「では行くか」
奴隷なはずの金髪ワイルド系細マッチョさんが、主導権を握っている気がする。本当にちゃんと奴隷登録されてるんだろうか。
気になったので聞いてみると、自分の腕を指差し、
「其方の魔法紋が刻み込まれているだろう」
と言われた。
金髪ワイルド系細マッチョさんの二の腕には、二枚の翼の刺青が施されていた。結構可愛いデザインだ。
たしかにさっきまでは無かったかも。
「命令に絶対服従ってどれくらい服従するの?」
気になるので聞いてみる。
「どんな命令にも大人しく従う。反抗する気にならないらしい」
よくわからないけど、魔法的な何かの力が働くんだろうな。光ったし。
試してみるか。
「そこの死体食べて…うそうそ!ストップ!今の命令取り消す!食べないで!」
何これ怖い。
「なるほど、理性とかプライドとかが頭の奥底に引っ込んで、そうするのが当たり前な感じになるな。ふむ」
奴隷の魔法怖い。