第39話
「凄いな。力の強い精霊獣だ」
精霊樹の木の下で遭遇した精霊獣のしろもふさんが、『場所を移動するならついて行くのは当然』的なことを主張したので、好きにさせることにした。
敷地内なら問題ないしね。
「レオンは、精霊獣のこと知ってるんだ?」
レオンが驚いたのは、しろもふさんの秘めたる強さに対してで、存在そのものには驚いていない。
「母が精霊獣と契約していた。これよりは、ずっと小型の、イタチのような外見の精霊獣だった」
「へぇー。だからしろもふさんも警戒しないのかな?アビエルの時、警戒してたのに」
「どうして?僕の方が無害じゃない?」
「どうしてだろうね?…精霊獣持ちさんが、結構いるなら、外に連れて行っても平気かな?この子たぶん、私が外に出たら付いて来ると思う」
しろもふさんから肯定の意思が伝わってくる。
「いや、僕は初めて見たよ。たぶんこの国にはいないと思う。レオンのお母さんは、帝国人じゃないよね」
「ああ。だが母親は、既に故人だ」
「そうなんだ。精霊獣持ちなんて、高位の魔法使いだったんだね」
「そうだな」
「だから、レオンは戦士ぽいのに魔法がつかえるのかー」
アビエルの目が、レオンを研究対象として見ている。優しく、熱のこもった目だ。
ロックオンされたね。
「期待されたほどの魔力は授からなかったがな」
「んー、引き出せるかもしれないよ?やってみる?」
アビエルの瞳はキラキラと輝いている。
「いや、いい」
「えー、秘められた魔力があるかもしれないのにー!たぶん回路的な何かの障害って可能性があるよ?」
「恐らくそれはないと思う」
「どうしてわかるの?」
「リリと共にいると、時々、魔力の交換めいた状態になる時がある」
え?
「なるほどー!それだと、何かの障害があったら修正されるよね」
「そう思う」
「それより、レオン、リリと魔力の交換したの?どうやって?」
そんなことしてたの?
いつ?どうやって?
「ああ、手を繋いだ時にな」
え、手なんか繋いだっけ?
「手を繋いだだけで、魔力交換出来るの?どんだけ相性いいんだよー」
ん?
「あ、しろもふさんは、私がもたれかかってダラダラしている時に、魔力交換してるって言ってる」
いつのまに!しろもふさんまで!
しろもふさんの言いたいこと、さっきより細かなニュアンスまで分かるようになってきた。
「精霊獣まで、リリと魔力交換してるの?どうして僕だけ除け者に?」
アビエルさん暴走気味です。
「アビエル、落ち着け」
「私その魔力交換?ての、やり方わからないし、やった自覚もないよ?」
「違和感ないってことは、質的に同じになったってことで、奇跡みたいなものなのにー」
「契約してるからじゃない?」
しろもふさんは精霊契約、レオンは、奴隷契約だけど。
「なるほど!一理あるかも。それなら僕も出来るよね?やってみたい」
「さっきも言ったけど、私はやり方を知らないよ?とりあえず、手、繋ぐ?」
「それよりも、粘膜接触の方が手っ取り早いんだけど…ダメかな?」
「ダメだよ」
粘膜接触って…キスとかアレのことですよね。無理です。
無言で手を差し出すと、アビエルがそーっと握る。
レオンとしろもふさんとは、無意識のうちに交換してたらしいので、特に何も意識しないで待つ。
すると、アビエルから、微かに熱のようなものが流れてくるのが感じられる。
「あ、わかるかも」
「ん、これでも奇跡みたいに相性が良いんだけど、レオンとは、わからないくらい自然だったってこと?」
アビエルは、少しむくれたような顔をして呟く。
お、嫉妬か?可愛いな!
「どうだろ。今は意識してたから気づいたのかも?」
「そうかもしれないね。…リリの魔力凄いよ」
アビエルは、何やら恍惚とした顔になってきている。
え、何?危険?
「アビエル大丈夫?」
目が、逝っちゃってる気がするんだけど。
「リリの魔力、凄い気持ちいい」
繋いだ手を、急いで放した。
ヤバい。書きだめがついに尽きた。頑張らねば!




