第25話
「みんなの希望が叶えられそうな家、見つかったよ」
『森のこりす亭』の男部屋での雑魚寝が耐えられなかったらしいアビエルは、次の日、私とレオンが狩に出かけている間に、迅速に不動産探しをしていたようだ。
「早いね?」
「そう?それでね、リリ、ここに名前書いて?」
「ん?ここ?」
最近、自分の名前だけは完璧に書けるようになった。ふふん。
「じゃあ商業ギルドに行ってくるから待ってて」
「はーい」
アビエルを待つ間に、レオンが武装を解いていたので、ピュリファイする。
最初は、貴重な魔法を普段使いにとか、ブツブツ言っていたけれど、最近ではピュリファイによる清潔な状態に慣れてしまったのか、忘れているとお願いされたりするようになった。
おねだりに応えるのも主人の務めだよね。
役に立てて嬉しい。
今日の狩りに、魔法のかばんを持っていったら、戦利品の持ち運びが劇的に改善されて、テンション上がりまくった。もうこれだけでも充分恩に報いてるよアビエルって何回も思った。
冒険者ギルドでは、ふわっとさせた大袋からいかにも取り出しましたという演出をしながら、換金したりした。たぶんバレてないと思う。
私はベッドのうえでゴロゴロしながら。
レオンは武器の手入れをしながら、アビエルを待つ。
ギシギシと階段を上がる音が聴こえてきて、それがアビエルだと、私もレオンも気づく。
奴隷契約のせいなのか、魔法的な力のせいなのか、レオンが感じていることは、なんとなく伝わってくるのだ。以心伝心だね。
「おまたせしました。行くよー」
アビエルが書類をヒラヒラさせながら戻ってきて、私の腕をとって起こしてくれる。
レオンは既に立ち上がっていそいそとマントを付けている。
レオンは家をとても楽しみにしているのが丸わかりだ。見えないシッポがワサワサしている。かわいい。
「ここからだと少し遠いけど、正門からだと徒歩で20分くらいだから許容範囲だよね?」
アビエルが、現地を案内してくれるらしい。
いい家が見つかるといいな。
3人で町の繁華街を横切りながら歩く。
『森のこりす亭』は、商業ギルドのすぐ裏手にあって、付近には生活に必要な品々が販売されている商店が多く、この町の住民が、のんびりと買物をしながら井戸端会議をしている。
ちなみに冒険者ギルド付近は、狩りに必要な品々、武器防具や薬類などを扱った店が多く、客層は冒険者が中心だ。飲食店が多いのも特徴だ。
この町は、良い町だ。
まだ少しの期間しか滞在していないけれど、居心地が良いと感じる。
商店街で働いている人も、町を歩く人々も、みんな笑顔で、清潔で、膨よかな人が多い。
生活水準が一定以上あり、食べ物も充分に行き渡っているんだろう。
見た感じ、あからさまに虐げられてる人もいないし、スラムっぽい区画もない。
町全体をぐるっと囲む城壁は、10mほどの高さがあり、さらに、魔法による結界が張られていて、魔物の侵入を許さない仕組みになっている。
一般人の町への出入りは、南側にある正門の一箇所だけで、そこを騎士団の正門支部が一日中守りを固めている。
門番さんは、強面の人が多いけど、みんな親切で優しい。
ちょっと町を出れば、すぐに魔物とエンカウント出来て、素材が売れるとなれば、冒険者にとっては食いっぱぐれがないので、冒険者の定住率が高く、人口は増加傾向にあるとのこと。
今は他所の国の戦争に一稼ぎしに行ってて少ないけれど、そろそろ戻ってくるんじゃないかって町の人が言ってた。
「ここだよー」
そんな辺境の町の中心から北西の町外れ、正門からだとまっすぐ北の壁寄りの、木々が鬱蒼と茂っている一画を、アビエルが指差して示している。
ここって?
家なんて見えないけど?




