第21話
「この前よりも全然ひっかからない。もっと奥に行ってみる?」
数日前に、トロルを4体討伐した場所へ来たけれど、期間が短かったせいか、魔物が出現しない。ゴブリンはちょぼちょぼ出てくるけど。
「そうだな。だが、あまり奥へ行くと見通しが悪くなる上に、強い個体が出現するかもしれないから注意してくれ」
「了解。しっかり索敵するよ」
索敵も、慣れてくると結構広範囲まで分かるようになるし、種類も識別出来るようになる。
たしかこの奥は、トロルやオーガの上位種がいるかもしれないと冒険者ギルドの資料室の本に書いてあった。
上位種は、普通のよりかなり強いらしい。
普通のトロルですら、風向きによっては300m離れていても気づかれるので、特に風下側には注意しておく。
せめて魔法の射程距離内だと、先制攻撃が出来るので有利に戦闘出来る。
「お」
さらに30分ほど奥に入ったところで、ソナーに生体反応。
「この先1kmくらいの所に、トロルっぽい個体が2対と、何か別の個体がいると思う」
「別の個体って何だ」
「わからない。けど、トロルと似たような強さの個体が、一緒の場所いる」
「いけそうか?」
「もう少し近づいて視界に入ればカミナリ魔法でいけると思うけど、相手がどんな個体かわからないのに3体は安全に倒せるとは言えない」
「ふむ。ではどうする?」
「あ、ちょっと待って。トロルっぽい1体の反応が消えた」
「逃げたのか?」
「その場で消えたから、死んだんじゃないかな?」
「モンスター同士戦っているということか」
「その可能性は高いと思う。残りの2体が戦ってたら、弱った頃に参戦するのが良いかも」
「戦っていたのであれば、倒れた方が2対1の1の方の可能性が高いだろうがな」
「それでも3体から2体に減ったなら危険度は少し減ったんじゃない?」
「そうだな。ではもう少し近づいてみよう」
「了解」
なるべく音を立てずに気配を消して慎重に歩く。それでも乾いた落ち葉を踏めばカサカサ音が出てしまう。難しい。
ふたつの個体は同じ場所から動かない。倒した1体を食べているのかもしれない。
お食事の時って油断しそうだから、チャンスかも。
なだらかな傾斜のある丘の、手前には広葉樹の木が所々に生えていて、奥へ行くと針葉樹が固まって生えている。
広葉樹は葉っぱがモサモサしてて、視界が塞がれるけれど、針葉樹は、下の方には枝や葉が申し訳程度にしか生えていないので、木々の隙間からある程度遠くまで見ることが出来る。
ちなみに、葉っぱも落ちないので、針葉樹の下は歩きやすいんだよね。
異世界の植生が、前の世界と同じかどうかわからないけど。
「戦ってるみたいだね」
100mくらいまで近づいたときに、2体の様子を確認することが出来た。
1体は、身長が2m以上ありそうな巨大で、もう1体は、
「あれ、人間じゃないのか」
「そうみたいだね」
「死にそうじゃないか?人間の方」
「弱ってきてるね」
とりあえずダッシュした。
大きな魔物は、たぶんオーガだ。
本のイラストと似てる。
トロルよりも強くて、魔法を使う個体もいるので注意と書いてあった。
「助けは必要か!」
ダッシュすると、レオンの方が断然足が速い。
「助けて…くれ」
瀕死の人の救助の意思を確認してから、オーガに向かう。
面倒なことは避けたいと思ってるんだけど、目の前で魔物に殺されそうになってる人がいて、助けられそうなら助けるよね。
見殺しにした時の後味の悪さと、敵の強さを比較して、後味の方が大きいと判断した時に限るけど。
助けた人が襲ってくるなら、返り討ちにするよ。躊躇なく。




