第13話
「ところで、その右目、治してみない?」
最初に傷を治療した時、派手な傷を負っていた腕とか背中とかに意識がいってて、目隠しされてた片目の怪我に気がつかなかったから、そこはヒールもポーションもしていないのだ。
「この目は最近の傷ではないぞ」
「そなの?」
「アストリアに行くことになった時だから、15年前の傷だな」
「レオンはアストリア人じゃないの?」
「アストリアの騎士だったが、産まれたのは別の国だ」
「なんて国?どこにあるの?…あ、地雷だった?無理して答えなくていいよ?」
レオンが困った顔をする。
別にどうしても知りたい訳じゃないし、聞いても絶対知らない国だし。
「いや、大丈夫だ。ソメスという国だ。ここからずっと西にあったのだが、アストリアとの戦争に敗れて消えた国だ」
「えー、てことは、レオンの国なくなるの2回目なの?」
「似たような奴はたくさんいると思うが、そうだな、この国もなくなるかもな」
あ、少しショボーンてなった。
自分の国がなくなるって想像がつかないけれど、突然異世界に転生するのと同じくらいに心細いものかもしれないね。
「なくなりそうになったらどこか別の国に行こ」
心がここになくなってしまったレオンに、ご提案をしてみる。
「冒険者なんだから、どこへでも行けるよ。戦争してない平和な国へ行こう」
「そうだな。お前と共にのんびり旅をするのも楽しいだろうな」
笑った。良かった。
「うん、きっと楽しいよ。で、目はどうする?願掛けたりしてるの?」
「いや、だがこれは剣で目を突き刺されたのだ。中の眼球は既に壊れている」
「うわ、何それ痛そう」
「片目1つで許されて生きながらえたのだから、安いものだ」
「片目は安くないよー。じゃあ治してみるね?…液体で服濡れると思うから脱いで?」
「液体?ポーションか?」
「うん。いくよー!」
パシャん。
「は?どこから取り出した?…昼間の擦り傷が治ったな…」
「やっぱりただのポーションだと全然ダメだね。次ハイポーション行きまーす!」
パシャん。
「お前何やってる…瞼が動く、だと?」
「瞼の表面的な傷は治ったけれど、眼球はダメみたいだね。よし、これ使ったことないやつ、エクスポーション!」
パシャん。
「どおかな?」
レオンは目を押さえて痛そうにしている。
「大丈夫?」
心配になって覗き込むと、
「これは何だ?!」
レオンがすごい怖い顔で、私の肩を掴み前後に揺さぶる。痛い。
「エクスポーションです」
正直に答える。
「こんな効果聞いたことがない。治療というより再生じゃないのか」
「ちゃんと見えるの?よかったー」
「お前は…そんな軽々しく…まあいい。ありがとう、まさかこの目が見えるようになるとは思っていなかった」
レオンは掴んでた私の肩を解放して、ベッドの上の私の隣に座った。
「お前、ポーションも作れたのか…それもこんな奇跡のようなものを」
「作れるんだけど、容器がなくて直接患部にかけるしかないの」
「見たところ、材料も何も使わずに作っていたようだが?」
「うん…たぶん、ヒールの魔法を液体にした感じ?」
すごいてきとう。
「なんだそれ…そんなこともあるのか?」
意外にも納得してくれそう。
「あるんじゃない?」
「はぁ、お前な。…このことは絶対に人には言うな。人前で披露するとかもってのほかだ、いいな?」
「うん」
チート能力なんだねこれ。
「今日の攻撃魔法にもびっくりしたが、再生魔法など、正直、間違いなくお前を巡って戦争になるぞ」
「そんなこと…」
「あるぞ。実際、ソメスとアストリアの戦争が、1人の聖女を巡ってのものだった」
「えー」
「その聖女だって、俺の目は再生出来なかった」
まあ、前世の現代医学でも義眼入れるくらいだよね。たしかにないわー。
「まったりのんびり平和に過ごしたいのでよろしくお願いします」
英雄にも悲劇のヒロインにもなりたくない。
贅沢なんていらない。ずっと安心して幸せに笑って過ごしたい。
「わかった…そうなると、この宿は移動したいところだな」
「どうして?安いしごはん美味しいし、良いと思うけど?」
「夜は離れなければならないからな」
「そうだった。レオン雑魚寝だった」
「雑魚寝って言っても、男は女の連れしか泊まれないから、男の宿泊客は殆どいないがな」
「そーなんだ。じゃあ、晩ごはんの時の男のお客さんて、ごはんだけ食べに来てる人たちなんだね」
「そうだな」
「離れてるって言っても、2階と1階で、距離的には近いから大丈夫じゃない?」
「ふむ」
「装備とかある程度揃えて、生活が安定してからまた考えよ?まだ誰も知らないし、大丈夫だよ」たぶん。
「まあこの宿は薄いが結界も張っているしな。値段の割には安全な宿だとは思う」
「そうなんだ。レオンに雑魚寝させるのは心苦しいけど、もう少し我慢して?」
「それは気にするな」
「話変わるけど、その目、いきなり治ってたらアレ?って思われるよね」
「この町に来てまだ数日しか経っていないが、俺の顔など記憶している者がいるだろうか」
「んー、いるんじゃないかなー。ここの女将さんとか、冒険者ギルドのお姉さんとか」
レオンよく見たら結構イケメンなんだよね。
顔は美形とかではないんだけど、悪くない感じで、動きがイケメンぽい。
シャっとした歩き方とか、ごはんの食べ方が上品だったりとか、無意識に私をエスコートしたりする。レディファースト的なやつ。
「客商売だし見てるかもな…前髪をこう垂らせば良いのではないか?」
「うーん、元々ボサボサの髪だったし、大丈夫かなあ。眼帯してみたりとかは?」
「せっかく見えるようになったのにか」
「街中だけ眼帯して、誰もいなくなったら外すとか」
「ふむ。その方が良いかな」
「女将さんに、あまり布と針と糸借りてくるよ」
「頼む」
頑張ってお裁縫した。中学の家庭科以来だった。




