第12話
文字を覚えるのは、一筋縄ではいかないことが判明した。
そもそも、会話が通じているのに文字が読めないという矛盾の原因は、会話が出来ることに何らかのチート的な作用が働いているということなのだ。
どうせなら文字も読めるようにして欲しかった。
冒険者ギルドのお姉さんに、文字の勉強のためのテキスト(有料)を分けてもらったんだけど、この世界の言葉は英語のように、基本のアルファベットみたいなものがあって、その組み合わせで単語が出来たり、動詞が出来たりしてるんだけど、脳内会話が日本語なので単純に単語変換出来ないのだ。
一度英語に置き換えればシステムはわかるんだけど、煩雑過ぎる。ってことで、会話から覚えようと思ったんだけど、そもそも同時通訳みたいに変換されて聴こえてくるからこれもまた厳しい。
でもなぜか、文字を見ながら発音してもらうと、そのとおりに聞こえるから、レオンにたくさん文字を読んで貰おうと思っている。
とりあえず子供向けの読み書き絵本みたいなものを買って勉強してみることにした。
先は長そう。
「今日も南の草原でゴブリン狩り?」
「ああ。お前の魔法攻撃の安定化と俺との連携の強化だ」
「あそこなら沸きもいいし、魔石だけ取ればいいし、視界も開けてるし、いいね」
昨日、ワイルドファングの皮を剥ぎ取ってみたんだけど、皮剥ぐなら、いつもみたいに背中から切込み入れたらダメだった。
考えてみたら、一番面積取れる部位だよね、背中。
そうなるとお腹から剥ぐことになって、時間がかかるようになった。
解体してるときに限って、獲物が襲ってくるので、二人パーティでは、魔石だけでいいよねってことになった。
この町、 魔法が使える人が少ないのに、案外便利道具が流通してる。
それほど不自由な生活をしないでいられるのは、この魔物から採れる魔石のおかげらしい。
『森のこりす亭』でも、各部屋に、ビジネスホテル並みの電灯が備え付けてあるし、寒い時は暖房的なものも導入されるそうだ。
ギルドの受付のお姉さんの話では、普段はこの町には、もっと冒険者がいるんだけど、アストリア戦争で一旗上げにいったきり、帰ってこない冒険者が多いとか。なんでも凄い報酬だったらしい。
地元に根付く冒険者も結構いるんだけど、その人たちは、食べれる魔物とか、割りの良い狩りをメインにするから、生息場所が離れているゴブリン魔石を集める冒険者がいなくなってしまったのだそうだ。
此度の戦地と、この町は、とても離れた場所にあるので、戻ってくるにしてもまだまだ時間がかかると推測されている。
でも戦犯のレオンが奴隷になってこの町に辿りつこうとしていたのだから、そろそろだよねきっと。
日用品的な魔道具は、安価で手に入れやすいゴブリン魔石を使う前提で作られているものが多くて、町の人は困ってたらしく、私たちがゴブリン魔石を集めるのは大変喜ばれて、買取価格にも色を付けてくれた。
いくら弱い魔物とはいえ、町の人よりは強いし、一体ならともかく、集団で攻撃してくるので油断出来ない。
肉や皮も取れないので、割りに合わない魔物なんだそうだ。
そんなゴブリンを淡々と狩り続けているレオンと私。
大剣を欲しがってたレオンだけど、ゴブリンのような小物であれば、大剣を振り回すより、ショートソードの方が向いている。
私は、どれだけ短い間隔で魔法が撃てるかの実験をしている。3連発なら、コントロールの乱れを最小限に出来るようになったので、先制攻撃の許可が降りた。頑張った。
ここの平均的なゴブリン集団の数は、およそ6体。今のところ最高で11体だ。
魔法の射程距離は、100mくらいなんだけど、狙いを正確にというと60mくらい。
先制で、私が3体仕留めると同時に、レオンがヘイト集めを兼ねて突撃。
私を狙ってくる奴がいたら、また魔法で一発。
レオンがゴブリンの群れの中に入ると、魔法攻撃しずらいので、出来るだけ先制攻撃で数を減らす練習をしている。
レオン的には、先制攻撃による私へのヘイトが課題らしい。木に登って魔法撃てとか言われたけど、それだとレオンがピンチの時にすぐに動けないからイヤって言ったら、そういう時は頼むから逃げてくれと言われた。もっと練習してレオンに心配されないようにならないとね。
射程距離伸ばすとか、マシンガン並みに連発出来るとか。
あと、雷の魔法も研究している。
魔物の上空から発生させれば、私が攻撃したってバレないんじゃないかと思って。
遠いと精度が難しいから、範囲魔法的な感じで。そろそろ実戦でも使ってみたいな。
「雷魔法使ってみてもいいかな?」
「いいが、5体以下の集団の時にしろ」
「わかった」
私が、失敗してもレオン1人で安全に対処出来る数字だ。
「氷の魔法の2倍の距離で撃つから、精度はないんだけど、範囲攻撃になると思う。私にヘイトが来なければ成功ってことで」
「あっちの少し小高い斜面に6体のゴブリンがいるが届くか」
100mくらいかー。
「ギリギリいけるかも」
「失敗してもあの距離なら、通常の連携でいける。やっていいぞ」
「うん!」
6体いるけど、いいんだね。
斜面をのんびり歩いているゴブリンの上空で、静電気、マイナスはプラスに、そしてプラズマ。
バキバキバキバキ。
「あ、…成功?」
「すごい威力だが、お前の魔力とゴブリンの魔石が心配だな」
「魔力は大丈夫」
案外、氷の魔法よりも楽?
「そうか」
遠くで倒すと、獲物まで回収しにいくのが面倒だ。
途中、背の高い草があって、たどり着くまで時間がかかった。
ゴブリンの死体は黒コゲだったけど、魔石は無事でした。一応、黒コゲの左耳も取っておいた。セーフだといいな。
「今日はこれくらいにしておこう。戻るのにも時間がかかりそうだ」
「はーい」
今日も働いた!




