第1話
プロローグ
夢を見ていた。
誰かに何かの選択を迫られ、適当に何かを選んだ。
そしてその日の夢の、そのシーンが終了した。
たぶん、目が覚めたら忘れるやつ。
***
起きないと。
外明るい…今何時。
目覚まし…なったっけ?
スマホどこだ?
横になった状態のまま、目も開かずに周辺を探る。
あれ?硬い、布団は?
え、草?
嘘、なにこれ。
恐る恐る起き上がって、周りを見る。
森?
ここどこ?
状況が全くわからない。
まず落ち着こう。
とりあえず立ちあがる。
頭の血が、ぐわんと下がってふらついたが、怪我はないようだ。
周りには木がたくさん。
私が寝ていた場所は、森の中の木漏れ日があたる草の上。
たぶんキツツキっぽい何かがコツコツと木を叩いている音が響いている。
いつのまにこんな所に来たんだろ。
昨日、何してたっけ。
うーん。
ふつうに会社に行ってふつうに少し残業して帰ったような。
うーん。
そういえば、寝てたのに誰かに無理やり起こされて何か聞かれて答えたような。
たしか、名前と生年月日かなんか。
サイレンの音がうるさかった。
あれって、救急車じゃね。
やだ、まさか私、死んだとか?
何が起こったか思い出せないけど、救急車に乗って目覚めた場所が、病院とか家じゃないとかありえないよね。
ここ、三途の川的な場所ってこと?
でもみるからに普通の森だ。川もない。
まさか救急車に乗せられて森に置いてかれたとかはないだろう。誘拐?
うちお金持ちじゃないし、ないな。
これは、夢かな。
夢だといいな。
何も起こらない。
目が覚めてから既に3時間くらいは過ぎたと思う。
知らない森の中だから、動かないでじっとしてた方が良いと思って待ってみたけれど、誰も助けに来てくれそうにもないし、少し歩き回ってみた方がいいのかもしれない。
そもそも、誰も私がこんな場所にいるなんて知らないだろう。
実はさっきから気になっていたものがある。
50mくらい離れた場所にひっそりと存在してる小さな石碑みたいなもの。
たぶんあれ、人工物。
素朴なオブジェだけど、あきらかに人の手が入っているっぽい。
そろそろと石碑へ近づく。
高さ50センチくらいの苔むした祠みたいな?
その石碑?になんとなく触れたら、ふーっと心が落ち着いた。
そしてふと思い出した。
救急車で名前とか聞かれた後に、また無理矢理起こされて、誰かと話したこと。
はっきりと全部は思い出せないけれど、誰かが、
『予定にない死』
『今とは違う世界に生きる』
『何が欲しいか』
みたいなことを言っていた。
別にたいして欲しいものもないから無視していたら、しつこいくらいに何度も聞いてくるので、
みんな元気で笑って長生き、みたいなことを答えたような答えていないような。
今よりももっと夢の世界っぽい感じだったから、現実かどうかわからない。
そもそも昨日、会社出た後からの記憶が曖昧過ぎる。
もちろん今も現実味には欠けてる。
石碑に触れながらそんなことを考えていると、誰かが言った言葉をもっと思い出すことが出来た。
『元気で長生きで幸せにか。
…丈夫な身体と、製薬の力と回復魔法といったところか。魔力多めで、とりあえず光魔法が使えれば、そのうち何でも出来るようになるだろう。後は強運を与えておこう』
『それでは、よき人生を』
…。
ちょっとどういうことこれ。
まさか巷で流行ってる異世界転生?
まじですか。