表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士殺し  作者: つきよ
9/13

一章 九話 極秘任務

王国軍の襲撃から1ヶ月後 ナチャーロ陸軍病院 視点:ローシ=ミハイル


「ミハイルさん、今日で退院ですね」


そう言って微笑みかけてくる看護師に、俺はコクリと頷いた。 あれからもう一ヶ月が経つ。体の怪我もだいぶ癒え、本日より軍務に復帰することができる。


あの襲撃により、俺の所属していた陸軍省東方軍第3連隊気球中隊は、戦力の半数以上を損失し、解散となった。 それにより、俺もどこかへ再配属されることになる。それがどこだか薄々は勘づいているが……俺は今、一刻も早く軍務に就き、王国軍と戦いたくてたまらなかった。


大切な情報源である新聞は、今回の襲撃後、両軍の小さな小競り合いの戦果を連日のように報じている。 その記事を見るたびに、自分の中にどうにもできない劣等感と怒りが込み上げてくるのだ。俺も早く、この戦果に名を連ねるようになりたい。そう歯噛みする日々が、今日で終わる。


退院の準備をしていると、コツコツと聞き慣れた軍靴の足音が廊下から響き、私の部屋の前で止まった。


「入るぞ、ミハイル」


聞き慣れた女性の声とともに、ドアが開く。


「はっ!」


私は、とっさに直立し敬礼をした。ニシミヤ大尉だ。


「もう準備をしていたのか、早いな」


「はっ! 早く軍務に就きたいと思いましたので……」


私の返答に、大尉はフフと笑みをこぼす。


「では、簡潔で悪いが、ここで異動辞令を行う。本来であれば、近衛省陸軍省監査科のニーマ近衛少佐が授与を行うが、私が代理として行う」


大尉の表情が引き締まる。


「辞令。ローシ=ミハイル一等陸兵を、陸軍省共同戦略科へ『伍長』として異動を命ずる」


「伍長、ですか?」


「先の戦闘にて、敵空挺竜騎士を殲滅した功績による名誉進級だ。おめでとう」


俺も新聞を見て驚いていた。俺がたった一人で、敵の空挺竜騎士団を全滅させたことになっていたからだ。 確かに何騎かは撃墜したが、全部ではない……情報操作というのは恐ろしいものだ。


私は辞令書を受け取り、大尉から渡された新しい軍服に着替えた。 病院の玄関を出ると、将校用の黒塗りの水蒸車が、蒸気をくゆらせて出迎えてくれた。 私は陸軍省の軍服を着た運転士に軽く敬礼をし、大尉に先を譲ってから自分も乗り込む。


大尉の合図で、運転士はハンドルを握り、水蒸車を走らせ始めた。 動き出したと同時に、大尉が口を開く。


「早速だが、今日からある任務に参加してほしい」


「どのような任務でしょうか?」


「これだ」


そう言って渡された用紙には、『近衛省陸軍省監査科 ニーマ近衛少佐を拘束せよ』との命令が記されていた。


「これは……一体?」


「ニーマ近衛少佐は、王国のスパイということが発覚した。先の戦闘も、近衛少佐から敵にこちらの状況が筒抜けだったようだ。その結果、あのような被害を被った……」


「スパイ……なぜ、ニーマ近衛少佐が……」


「その理由を聞くために、これから逮捕し拘束するのだ」


「私もですか?!」


「もちろん」


忘れていたが、この人は笑顔で人を殺すタイプの人間だ。


「しかし、軍人の拘束であれば海軍省犯罪調査局か、陸軍省犯罪調査局しか逮捕権はないはず……。相手が近衛省の軍人であれば、近衛省憲兵隊でないとなおさら……」


「よく知ってるね~。ミランダ、私が言った通り彼は優秀だろう?」


大尉はそう言って、運転席に顔を向ける。


「ええ、兵卒の割にはよく勉強していますね。しかし、佐官以上の逮捕は中央憲兵隊にしか権限がありません」


そう言って、嫌味な口調で返してきたのは運転士だった。 陸軍省の軍服を着ているが、その物言いや雰囲気は海軍のそれだ。


「相変わらず言い方がキツいな。紹介するよ、彼はミランダ海兵長だ」


「よろしくです、ミハイル伍長」


「あぁ、よろしくお願いします」


気まずい空気が流れる中、大尉は話を続ける。 要約するとこうだ。今回の襲撃を受けた基地はどこも空挺竜騎士団がいない手薄な場所ばかりで、情報が敵に筒抜けである可能性が高かった。 そこで陸海軍省の共同戦略科と犯罪調査局が秘密裏に調査を行い、帝国に在住するスパイを炙り出すことに成功した。そのスパイ達を尋問し、情報を手に入れるのが今回の極秘任務らしい。


説明が終わる頃、水蒸車は複数の軍用トラックが停車している道端に止まった。


「我々の仕事は、このような極秘任務が多い。君の初陣にはピッタリだ」


「はぁ……」


前方の軍用トラックから、赤い軍服を着た軍人がこちらに向かってきた。 その男は大尉の座る窓ガラスを、指でコンコンと叩く。


「ニシミヤ大尉、いつでも大丈夫です」


それだけ言い残し、男はスタスタとトラックに戻っていった。 大尉から大きなカバンを渡され、トラックの荷台で着替えるように言われる。


数分後。 私は慣れない軍服に身を包み、ぎこちない歩き方で大尉の元へ戻った。


俺の姿を見た大尉は、ニヤリと笑って一言。


「なかなか様になってるな、『近衛中佐』殿?」


まさか、近衛省の軍服を着ることになるとは……しかも階級は中佐だ。


「では、私も着替えるから少し待ってくれ。覗いてもいいぞ?」


大尉は俺をからかいながら、トラックの荷台に消えていった。


車の中で待っていると、ミランダ海兵長が話しかけてきた。


「伍長、今回の任務にあたり、共同戦略科から装備を預かっています」


そう言って渡された小さなケースを開けると、拳銃と手帳が入っていた。


「そちらの拳銃は新型の自動式拳銃、ルガーP08です」


限られた部隊にしか配給されない自動式拳銃……回転式リボルバーと違い装弾数が多く、独特な形状をした銃だ。


「そしてそちらは、中央憲兵隊の軍手帳です」


「ありがとうございます」


「伍長。今回のターゲットであるニーマ近衛少佐は、ドレイク系の魔術を使えます」


「魔術?」


「知らないのですか?」


魔術なんて、入営した時に話を聞いた程度だ。知るはずも無ければ、興味もなかった。


「近衛少佐はドレイク系の家系ですので、彼が魔術を使いそうな時はこの拳銃で撃ってください」


「撃ってしまっていいのですか……」


スパイとはいえ、近衛省の軍人を撃つのは抵抗がある。


「ええ。この弾には魔力無効化の効果がありますので、急所を外しても効果は抜群です」


俺は頷き、銃を腰の後ろに隠した。 すると、赤い軍服に着替えた大尉がこちらに戻ってくる。


「待たせたな。では行くぞ、あとこの仮面をつけなさい」


そう言って大尉は、不気味な仮面を渡してきた。


「それは中央憲兵隊がつける仮面だ。奴らの貴族趣味は相変わらずだな」


よくわからない仮面をつけ、俺たちはターゲットのいる基地へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ