一章 八話 異世界騎士と第二王子
王都 王国城
「スズキ様、ここはイスダム様の……!」
私は、ドアの前に立っている番兵の制止を無視して、強引にドアを開ける。 部屋の中央にある大きなソファでは、美女たちと仲良くイチャついている若者がいた。
「おじさん! 久しぶりだね」
「イスダム、ずいぶんと成長したな」
「おじさんも王の間で見てびっくりしたよ。老けたねえ」
「……」
「で、おじさん。僕になんの用だい?」
「ああ、政治的な話がしたくてね。できれば、こちらの美女たちは他の部屋に……」
「うん、わかった。君たち、少し外してくれ」
イスダムが言うと、薄着の彼女たちは部屋を出ていった。 部屋に静寂が戻る。私は無駄話はせず、単刀直入に本題へ入った。
「イスダム。わかっていると思うが、この戦争の事についてだ」
「……」
「武装貴族にどう言われたか知らないが、この戦争は今すぐに終わらせなければならないぞ」
イスダムは私の話を、ワインを飲みながら黙って聞いている。 やがて私の話が終わると、グラスをことりと机に置き、低いトーンで告げた。
「おじさん、それはできない」
この返事は想定内だ。だが、それでもこの戦争を行うのは非常にまずいのだ。
「父上や兄上は忘れているが、王国が大国から分裂した際に命を懸けて王国を守ったのは、他ならぬ武装貴族達だ。そんな彼らへの恩を忘れ、蔑ろにしたツケを今返すときだと私は思う」
「王やアルバートは、貧困にあえぐ民のための政策を優先しただけで、武装貴族達を蔑ろにしたわけでは……」
先の大戦はこちらに優位で終わった。だが、それは勝利ではなく「休戦」であり、勝利による報酬はほぼ無いに等しかった。 その結果、実費で私兵を雇い戦争をした武装貴族は、完全に持ち出しになってしまったのだ。 もちろん王国も様々な保護策を講じたが、生活レベルを下げることができなかった武装貴族たちは、次々と自己破産する結果となった。
「私は、父上や兄上が犯した罪を、代わりに償っているだけだよ」
いつも笑顔で女を追っかけている彼の目とは違っていた。 私は単に、彼が武装貴族に良いように使われているだけだと思っていたが……それは認識が甘かったようだ。
「しかし、今の王国には戦争をするような力は……それに、我が騎士団が出した資料の事だが」
「ああ、おじさんのところの騎士団の情報、使わせてもらったよ」
「それについてだが、帝国は今の王国よりも強い軍を完成させている」
私の言葉に、イスダムは「何を言っているのか、こいつは」という目を向けてくる。
「おじさん冗談はやめてくれよ……帝国は権威も下がって、武装貴族の人数も少ない」
「……」
「竜騎士の数も王国の方が上だ。王国が負ける要素がないよ」
確かに竜騎士の数に関しては、こちらが上回っている。しかし……。
「帝国に宣戦布告もせず攻め込んだらしいな」
「うん、僕のアイデアだ。武装貴族には不評だけど、奇襲なら確実に勝利できると思ってね」
初戦で勝利すれば、兵士の士気につながる。しかも奇襲した基地は、どこも帝国の竜騎士が配備されていないところばかりを狙うほどの徹底ぶりだ。
「戦闘結果を確認したが、ナチャーロ基地を襲撃した騎士団が『全滅』となっていたのだが?」
「相変わらず、情報が早いね。そうなんだ、敵の竜騎士団の魔力は観測されていないのにね」
「他の基地を攻撃した騎士団は少ない損傷で済んでいるのに、その基地だけ全滅したのは確かにおかしい。それを、ちょうど調べてほしいと思っていたんだ」
「調べるとは?」
「おじさんの部下に、手に触れた者が見てきた情景を見ることができる亜人がいただろう?」
「ああ、居るが……その“者”はいるのか?」
「いるよ。全滅した部隊とは違う部隊が、一人の騎士の死体を回収できたんだ。王都の中央教会に安置されているから、調べてほしいんだ」
「その件はわかった……だが休戦の話が」
「おじさん、戦争はもう始まっている。簡単に止めることはできないんだ」
「……」
「そろそろ、侵攻作戦の会議の時間だから失礼するね。調査の結果は文書で秘書官に渡して」
そう言ってイスダムは椅子から立ち上がり、青いマントを翻してドアに向かう。
「おい! 待て!」
「番兵、スズキ将軍がお帰りになる」
その声で番兵たちが私を取り囲む。 私だけの力では、戦争を止めさせる事などできない……。 わかってはいたが、現実を突きつけられると心に来るものがある。
私は仕方なくその場から立ち去ることにした。 その時、一羽の鷹が私の肩に止まった。
「ん? 副団長の使い魔か」
私は鷹がくわえていた手紙を開き、中身に目を通す。 内容は、帝国の各地に散らばる密偵に連絡がつかないとの、騎士団からの緊急連絡だった。




