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騎士殺し  作者: つきよ
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一章 五話 竜と騎士

~基地内~


野戦服を着た隊員たちが慌ただしく基地内を走っている。倉庫からは次々と気球が運び出されていた。 すると、既に野戦服に着替え、気球に乗り込んでいた軍曹が俺を見て怒鳴った。


「遅いぞ! ミハイル! ……チッ、もう戦闘服に着替える時間はない! そのままで出るぞ!」


「す、すいません! どうしたのですか? 野生の竜が出た感じではなさそうですが…」


「王国軍空挺竜騎士団様が領土侵犯だ!」


「それって…」


「いいから! 早く気球に乗れ! 弾薬は詰め込めるだけ詰め込め!」


やる気満々の軍曹に急かされ、俺はデート用の「第一種軍装(制服)」の上に、ヘルメットとゴーグルをつけただけのちぐはぐな格好で気球に飛び乗った。 すぐさま、配備されている対竜砲の弾倉に弾を込める。


「お前、狙撃優秀者飾緒モールまで付けて……ずいぶんと決めてきたな…」


そう言って小馬鹿にしてきたのは、気球を操縦しているドムだった。 俺の肩には、射撃の名手だけに許された金色の飾り紐が、場違いに輝いている。


「そりゃな…ドム、ありがとう」


やつは前を見たまま、無言で頷く。


「無駄口を叩くなら準備をしろ! 味方の空挺竜騎士団がリシア基地からこちらに到着するまで、敵を足止めするぞ」


「すでに、味方の小隊が騎士と戦闘中です!」


リシア基地からここまで1時間もかかるじゃないか……。 俺たち小隊は、他の小隊とともに敵が現れた方向へ向かう。 そこは「古代の森」と呼ばれる、帝国と王国が先の大戦後に中立地帯として定めた双方不可侵地域だ。 その地域に侵攻したとなれば、王国は帝国に戦争を仕掛けてきたと解釈するべきだろう。 そんな歴史の一ページに居るにもかかわらず、俺はレットちゃんが安全なところに行けたのか心配でたまらなかった。


ビー、ビー、ビー


「キコエルカ? キ… ビービー エルカ?」


最近導入された、魔力を必要としない無線機からノイズ混じりの声が聞こえた。 軍曹がマイクをとる。


「聞こえている、S03小隊だ。どうぞ」


「コチラ、本部。S23小隊ガ騎士ナイトト交戦中。敵5騎、軽装。至急応援サレタシ」


5騎……街を破壊するには十分な数だ。 無線から聞こえる大尉の「無線口調」で伝えられた情報に、俺はすこし緊張と不安を感じた。


「了解。S03、07、06の3つの小隊をあわせた総勢9機で向かう。どうぞ」


「許可スル。それと軍曹、そこに将校はいる?」


「居ません」


「参ったな。指揮系統がバラバラにならないように、軍曹を臨時として少尉に任命する。なお古代の森は無線が届かない為、各小隊はロッジ少尉の指揮下に従ってくれ」


「大尉、この無線はうちの小隊長機にしかついてないので、ほかの隊長には聞こえてないです」


「な! 無駄口せずにさっさと敵を倒して戻ってこい! 以上!」


軍曹は、無線のマイクを乱暴に元の場所に戻した。


「ドム、ミハイル。これより味方の応援へ向かう」


「了解~。全速前進でいきますぜ」


「了解です。引き続き索敵を行います」


いつものやり取りを聞いてすこし安心していたら、


「お前ら、よく聞け」


いつもよりトーンが低い声で、軍曹もとい少尉が言った。


「もし、この機が撃ち落たされ、敵の捕虜になりそうな時は……その腰にある拳銃で自分を撃て。そのために空挺気球隊員は一兵卒から拳銃の装備を許可されている」


俺は、今の置かれている状況を理解した。隣に「死」が待っているのだと。


数十分後。 遠くの緑の地平線から黒い煙が見えた。それが味方だとすぐ分かった。 なぜなら、竜がその上を旋回しているのだから。


「各機、迎撃の準備!」


少尉の合図で、俺たちと他の小隊は迎撃態勢に入った。


「竜騎士5騎、こちらに向かってきます!」


敵の竜騎士はとてつもないスピードでこちらに向ってきた。


その場にいた空挺気球隊9機から対竜砲の弾幕が一斉に発射され、一面は煙に覆われる。


「うぁぁ!」「やめてくれぇぇぇ」


俺たちの前方にいた僚機の位置から、聞いたことのない悲鳴が響く。 視界を遮っていた煙が晴れ、前が見えるようになった。


目に映った光景は……味方の気球に竜が張り付いて、鉄で覆われたはずの操縦室は無残にこじ開けられ、よく見慣れた戦闘服を来た人間を、美味しそうに食べている竜の姿だった。 俺は、ただ仲間が食べられているのを見るだけだった。 騎士たちは笑っている……。


「おい、ミハイル! 撃て! 撃て!!!」


軍曹の怒鳴り声に、自分のやるべき目的を思い出した俺は、すぐさまにトリガーを引いた。 弾は竜には当たらず、竜は気球から離れて距離をとる。


不気味な鳴き声が周辺に鳴り響く。


周辺では次々と、竜が装備している銃器により撃墜される僚機。 また騎士達は楽しそうに竜に仲間を食べさせ、死体を投げ合うなどの行為をしていた。 この光景はまさに戦闘ではなく殺戮だ。 俺達も例外ではなく、先程の1騎が必要以上に攻撃してくる。


俺は、竜に反撃の隙を与えないように、銃撃を続けた。 あの竜が装備しているのは連発式の機関銃だ。その性質上、飛行しながらでは精度が出ないため、一度止まって撃たなければ命中しない。 その止まる瞬間を、俺は狙っていた。


俺の弾幕をかわし続ける竜騎士はしびれを切らして、竜に止まる合図をした。 その一瞬……動きが止まる瞬間に、竜の羽と胴体の付け根の隙間を狙った。 そこは竜の鎧の隙間があるため、弾がダイレクトに体内へ入ってゆく。


「ヴァァァァ」


唸りをあげ、右往左往しバランスを崩した騎士は下に落ちてゆき、竜も力尽き落ちた。


「竜騎士を撃墜! 軍曹次はどうし…」


俺は軍曹に撃墜報告をしようとした瞬間、機体が大きく揺れた。 バランスを崩した機体はぐるぐる回転しながら落下していく。 狙撃手の俺は、あっちこちに体を叩きつけられ、気を失った。


「はぁ…ゴホォ…これは…」


目が覚めると、機体はかろうじて形をとどめているが、もう使い物にはならない状態だった。 俺はなんとか機体から脱出した。足が思うように動かない。 機体を見るに、木々がクッションとなったらしく衝撃が和らいだようだ。その証拠に気球の中に葉っぱや枝が入り込んでいた。


「軍曹……ドム……」


「助けてくれ…」


カラカラな声が聞こえた。その声の方へ向かう。


「ドム! よかっ…!」


顔のあちこちが傷だらけで、口から黒い血が流れ、誰が見ても助からないと分かる。 腹から長い腸が出ており、どす黒い血が地面を侵して、危うく足が滑りそうになる。


「なに言ってやがる…助けてやる! 助けてやる!」


「ゼェゼェ…頼む、苦しいんだ…」


「何を頼むだよ!!」


ドムは震える人差し指で、俺の腰を指した。


「ゼェゼェ、頼む、すごく…痛い、」


「ドム、目を閉じてくれ…今…楽にしてやるから…」


俺はホルスターから拳銃を取り出し、事務的に銃口をドムの頭に向けた。 撃った際に出る血しぶきが目に当たらないように、左手を前に出す。


「死にたくなぃ…痛い…痛いんだ…」


パンッ、パンッ


乾いた銃声が2回鳴った。


俺はその場に大の字で倒れ込んだ。 空には仲間の1機が竜2騎と空中戦をしていたが、それも落とされた。


「くそ! くそ! くそ! お前ら! 調子にのるな! 人を面白そうに殺して楽しいか!!」


「なにが空挺竜騎士だぁ!! 殺戮を楽しんでいるだけだろう!…」


すると、竜が背中の装備袋から「魚を捕る時に使う網」を取り出していた。


「あれは…」


王国の騎士は戦場で手に入れた戦利品として持ち帰ることができる。その戦利品には人も含まれ、大切な奴隷として扱われると聞く。


「やめてくれ…街に行かないでくれ…」


何もできず、奴らに罵声を浴びさせることしかできない無力な自分に嫌気が差す。 手に持っていた拳銃を握り、この惨劇から逃げようとしていた、その時だった。


ヴォォォォォォン!!


空から聞いたことのない“竜の鳴き声”が聞こえた後に、大きな機銃の音が響いた。 空に舞っていた一騎の竜が、ぐるぐると落ちていく。


街の方から”竜もどき“が3体向かってきた。 その3体は、目にも留まらぬスピードで旋回し、敵を次々と撃墜してゆく。


「あれは…気球? 竜? なんだ…」


その見たこともない“竜もどき”は、敵を排除して街へ戻っていく。 その姿を見届けた俺は、そのまま気を失ってしまった。

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