一章 二話 ようこそ、我が空挺気球中隊へ
~空挺部隊専用倉庫~
大尉と共に基地の大きな倉庫に入った。 倉庫の中に入るなり、ツンとする機械油の匂いが鼻をつく。 そこには、気球の部品を整備する兵士たちが各々の仕事を黙々と行っていたが、その中の一人が大尉に気づいて大きな声を上げた。
「全員、大尉に敬礼!」
その場に居た兵士全員が直立不動で敬礼し、大尉もゆっくりと左右見渡すように敬礼を返した。
「休め。すまない、作業を止めてしまって」
「いやいや、大尉殿は我らのアイドルですから」
その場に居た兵士たちが一斉に笑い、俺の緊張もほぐれた。
「ハハッ、ここが海なら軍曹を魚のエサにできたのに」
「いやはや、海軍省ジョークは笑えませんな。ところでそこの小僧は?」
「ああ、彼は本日着任したローシ=ミハイル二等陸兵だ」
「ローシ=ミハイル二等陸兵です!」
「よろしく、ルーキー《新兵》。俺はロッジ軍曹だ」
そう自己紹介してくれたのは、先程から大尉と話していたスキンヘッドのいかつい男だった。
「軍曹、彼は射撃の腕がいい。対竜砲を担当させて欲しいのだが」
「なるほど。それならちょうど模擬実弾訓練の準備をしていたので、射撃の腕を見て判断したいのですが」
「良かろう」
俺達は早速、倉庫の外に出て、軍曹と大尉と共に気球に乗り込んだ。 気球はバーナーの音と共に上昇を始める。 ある程度上昇し、対竜用阻塞気球がある位置まで到着したところで、軍曹が大声で叫んだ。
「ルーキー《新兵》! あそこにあるお古の阻塞気球を撃墜しろ!」
俺は対竜砲のトリガーに指を添え、一呼吸してから的を狙った。
ズガガガガッ!
俺は一心不乱で、ジグザクに連なっている的を弾がなくなるまで撃ち続けた。 薬莢の落ちる音と火薬の匂いが風に流れていく。
「ふむ……無駄弾が多いが、筋はいいな。よし、地上に降りるか」
「彼は、元々空挺竜騎士団希望だったからな」
「なるほど、さすが大尉殿ですな」
何がさすがなのだろう。完全に空挺竜騎士の素質がないからここに配属されたのだが……。
その後、初日ということもあり、軍曹に自分の生活する基地の施設の説明などを受け、今日の任務は終了した。 そして今は、就寝時間までの自由時間だ。 他の先輩たちと同じ大部屋だと思っていたのだが、あてがわれたのがまさかの個室だったのは驚きだ。
独身軍人にとって寮の部屋が大部屋でなく個室なのは珍しいことで、基本的に下士官からでないと個室にならないのが通常の仕様なのだが、ここは少し違うらしい。素直に嬉しい。 だが、就寝時間までやることがない……。訓練学校ではこの時間は勉強をしていた時間だが、それがなくなって、今後の自分の人生についていろいろと考えてしまう。
騎士になれば、貴族階級の騎士の地位を与えられ、戦場では常に花形として敵陣に突撃し、敵を完膚なきまでに破滅へと追い込む。 常に戦場の戦況を変えるのは騎士であり、他の兵士たちは脇役と言っても過言ではない。
俺は、騎士にやられるだけの「的」のような気球兵なのか。 気球隊も国と民を守る重要な仕事だと頭では理解しているが、自分の中でどうしても騎士とそれ以外を差別してしまう。 そう思っている自分に嫌悪を覚えて、一人虚しくなってしまう。
「騎士になって名誉あることを成し遂げたいな……」




