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騎士殺し  作者: つきよ
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一章 十四話 帝王の決断

帝都、皇宮「紫禁の間」。


普段は重厚な静寂に包まれているこの広間に、今日は張り詰めた緊張が満ちていた。

高い天井から吊るされた紋章旗が、わずかな気流で微かに揺れている。


正面の玉座には、帝国の頂点に立つ皇帝が沈黙したまま座していた。

その御前に並ぶのは、軍服の色を異にする複数の勢力。


濃紺を基調とした陸軍省将校団。

そして、紅の軍服に甲冑を基調とした、近衛省の将官団。


それぞれが微妙な距離を保ち、互いを牽制するように立っている。


「――報告を続けよ」


皇帝の傍らに控える侍従が、低く告げた。


陸軍側の列から、一人の将校が一歩前に進み出る。

作戦統括責任者、ヴォルコフ陸軍大佐である。


「ハッ」


大佐は一礼すると、広間の中央に地図を広げた。


「先の王国空挺騎士団による基地襲撃事件について、回収された敵騎士の遺体および装備の分析結果を報告いたします」


彼は地図上の赤い印を指し示す。


「まず、襲撃騎士団の所属について。回収された遺体と確認された紋章を照合した結果、敵騎士の多くが王国北部・東部の国境警備隊所属であることが判明しました」


ざわめきが走る。


「本来、我が帝国と接していない地域の騎士団です。これらを一斉に動員するには、王国中枢――すなわち、武装貴族層による大規模な指示が不可欠です」


陸軍大臣が小さく頷いた。


「現場判断ではあり得ん、ということだな」


「御意」


ヴォルコフ大佐は続けて、回収された竜装魔導銃の写真を掲げた。


「次に、装備構成です。敵騎士団は全機、対地攻撃用ライフルのみを装備していました。対空用散弾銃の携行は一切確認されておりません」


「……それが何だというのだ」


近衛省長官が、不快そうに口を挟む。


大佐は視線を逸らさず、静かに言った。


「王国騎士団は、他国との空戦を想定する場合、散弾銃を標準装備としています。

にもかかわらず、今回はそれを持ってこなかった」


彼は一拍置いた。


「理由は一つです。

――帝国の空に、敵が存在しないと“確信”していた」


近衛省側の空気が、目に見えて硬直する。


「敵は『襲撃した地域に帝国空挺騎士団の戦力がない』という情報を、事前に把握していた。

これは推測ではありません。確信に基づく行動です」


ヴォルコフ大佐は合図を送り、蓄音機が運び込まれる。


「次に、証言です」


針が落とされ、ノイズ混じりの音声が広間に流れた。


『戦後の王国の新体制下で、私は騎士団幹部のポストを約束された、同じく近衛省に所属する多くの貴族たちにも話が言っている。』


音声が止まる。


「この証言は、近衛省所属のニーマ少佐の証言になります。」


近衛省の列がざわめく。


「なお――」


ヴォルコフ大佐は一瞬言葉を切った。


「この情報提供の経路について、特定の個人名は挙げません。

なぜなら、その人物はすでにこの世にいないからです」


その言葉に、近衛省側の将官が一歩前に出た。


「異議あり!」


近衛省長官が声を張り上げる。


「そのニーマ少佐は、すでに“正体不明の偽憲兵”により殺害されている!

正式な裁判もなく、処刑権限も不明なまま消された存在だ!」


「承知しております」


ヴォルコフ大佐は即座に答えた。


「その件について、陸軍省としては

『極秘部隊による対反逆者措置』と認識しております」


近衛省側の表情が歪む。


「つまり、誰がやったかは“問題ではない”ということです。

問題は――」


大佐は玉座を仰ぎ見た。


「その男が語った“衝撃の事実”です」


広間が静まり返る。


「彼は、王国への情報提供が個人の裏切りではなく、近衛省に属する武装貴族層の広範な関与によって行われていたと供述しました」


どよめきが起こる。


「近衛省は、帝国における貴族武力の中枢。

もしそこが腐敗しているならば――」


ヴォルコフ大佐は深く一礼した。


「陸軍省は、近衛省の再編および徹底調査を提案いたします」


沈黙。


すべての視線が、皇帝に集まる。


やがて、皇帝はゆっくりと口を開いた。


「……その提案は、却下する」


息を呑む音が広間を走る。


「近衛省は、帝国の盾であり、余の守りである。

貴族の統制なくして、帝都の秩序は保てぬ」


皇帝の声は冷静だった。


「調査は許可する。だが、解体も再編も認めぬ。

近衛省は、引き続き余の直轄とする」


陸軍側に、抑えきれぬ動揺が走る。


皇帝は続けた。


「この件は、これ以上拡大させるな。

帝国は一つでなければならぬ」


その言葉が、決定だった。


会議は終わった。

だが、誰も勝者ではなかった。


この日の出来事は、やがて新聞を通じて民衆に知られることになる。

皇帝が貴族を庇い、陸軍省の告発を退けたという事実は、

静かに、しかし確実に帝国の基盤を侵食していく。


そして数年後――

空を巡る力が、国家を二つに引き裂く日が訪れることを、

この時、誰も公には口にしなかった。


だが、確かに始まっていた。


帝国の終焉は、この「審判」の日から。

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