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星界の門《ヘブンズゲート》  作者: Nanashi
三百年後に冷凍睡眠から目覚めた少女が体験する電脳社会
7/19

第6話 衝撃の事実

おはようございます(^^)/

今回は宇宙人のお話です。宇宙人は存在するのでしょうか。天の川銀河には二千億もの恒星が存在します。宇宙にも我々と同じように夢を持ち、恋をし、悩みや挫折を味わっている人達が存在するのかもしれません。

ホラー映画に出てくるよな怖い宇宙人は存在しないと思うのですが、どうなんでしょうか?

 ユキコは、ブレインサーキットの取り付け手術を行った翌日から、早速ネットワークと通信を行うための訓練を開始した。訓練はセイト国立医療センターのリハビリテーションルームで行われる。


 今日からはハルの付き添いはなく一人で通うことになる。トランスポーターの設定に戸惑ったが、カスミのサポートで滞りなく到着する。


 訓練は、ネットワークへの送信と受信から成り立っており、送信は大昔のバイオフィードバックとリハビリテーションを応用したプログラムとなっている。


送信の訓練は、接続したブレインサーキットから送信に使う神経組織に電気信号を逆流させ神経細胞を意識させる。

次に刺激を受けた神経細胞からブレインサーキットに向けて信号を送れるよう努力する。

発生した電気信号は目の前のモニターにビジュアル化され、どう念じればどの回路に反応したかが判る仕組みだ。

ブレインサーキットに接続したすべての神経について、思い通りの信号を送れるようになるまで、その訓練を何度も反復練習する。

マウスポインターをイメージ通りに動かす訓練も必要になるが、拡張現実《AR》を利用した場合は視線の焦点位置がポインターの位置になるため優先度は高くない。

アクセス独自領域でマウスポインタを動かす際も文字入力のような訓練はしなくとも使えるようになるらしい。


 受信の訓練も単なる慣れの問題なので、メールやテレビの画像や文字を日常生活で見慣れるに従って、次第にはっきりと認識できるようになるらしい。


「もうそろそろ休んだらどうだね」

 訓練を始めて三時間。理学療法士の佐久間先生はユキコに呼びかけた。


「もう少しだけお願いします。やっと感覚がつかめてきたところなんです」


 ようやくブレインサーキットに信号を送るという感覚が、ユキコにもわかってきた。ここで、完全にものにしておきたい。


「しかし、これ以上の無理は午後の訓練にも響く。顔色も良くないようだし、相当頭痛がひどくなっているんじゃないかね」


 佐久間先生の指摘は、確かにその通りだ。

 ブレインサーキットから送られてくる電気信号は日常で使用されるレベルよりもかなり強めに設定されている。

 ユキコの感覚は、痛いを通り越して意識が朦朧としつつある。


「わかりました。先生どうもありがとうございました」

 そう言ってユキコは席を立とうとしたが、足がもつれ座り込んでしまった。


「ほらほら、言わんこっちゃない」


 佐久間先生はユキコを椅子に座らせ、持っていたジュースを手渡す。


「あんまり無茶はしないほうがいい。ユキコちゃんは良く頑張っていると思うよ。

このペースで進めば、一週間ほどでブレインサーキットの最低限の機能は使いこなせるようになるだろう」


 佐久間の暖かい励ましにもユキコの表情は暗い。


「こっちの世界に来て、私、自分ひとりじゃ何にもできないんです」


 ユキコはこちらに来てから抱いていた密かなコンプレックスを話しだした。

 ハルやレイコは親切にしてくれる。しかし、自分は何ひとつ彼らの役に立っていないという現実。

 これから先、一体何をすれば彼らに対し、世の中に対して自分を役立てることができるのか。今はそれが全くわからなくなっていた。


「確かにそれは難しい問題だ。しかし、君くらいの年齢で、世の中にしっかり貢献している人間は今の社会でもほとんどいない。

 今できることをひとつづつやり遂げていくしか道はないんじゃないかと思う」


 佐久間の答えはユキコ自身もたどり着いた答えだ。理屈ではわかるがあせる気持ちは納得しない。


「ここが東京で両親の元ならばこんな気持ちにはならなかったと思います。ハルには私の面倒を見る義務なんてないんです。

 私は自分の居場所を自分で作らなければいけないんです。今まで両親に甘えていたようには生きられません」


「いずれは君自身の手でその答えを見つけるときが来るだろう。しかし、今はまだその時期じゃない。

 そんなに暗い顔をしていちゃハル君だって心配する。今は今できることをひとつづつ片付けていくしかないんだ――。

 さあ、飯でも食って元気を出せ」

 佐久間はそう言ってユキコを食事に連れて行った。






 ユキコの訓練は順調に進んでいた。

 五日目にはブレインサーキットを使ったアルファベットやかなでのテキストベースの送信やコマンド入力機能を一通りマスターし、ぎこちないながらも基本的なネットワークへの通信技術は身につけた。

 しかし、コマンドの暗記は必要最低レベルで、ネットワークやブレインサーキットの基礎知識を持たないユキコにはそれすらも使いこなせない。

 またその通信速度はハルやレイコに比べ亀のごとく遅い。

 この時代、普通の人はイメージ送信機能で漢字や図形を直接やり取りしているが、ユキコには習得は困難と見られている。


 今後はネットワークやブレインサーキットの基礎知識習得の授業と受信の訓練に入る。

 午前中は仮想空間サイバースペースの授業に参加し、午後はアクセスを使い映画やドラマを鑑賞後、感想文を書き込む訓練に移る。

 自宅でもできる訓練になるので、リハビリセンターでの訓練は今日で最後だ。

 佐久間に別れの挨拶を済ませたユキコは、病院のロビーで待つハルを見つける。そして、彼の隣に立つ女性を見つけ絶句した。

 

「お久しぶりね、ユキコ」


 つややかな銀髪に紫の瞳をもつ比類なき美貌。そして圧倒的な存在感。


「うそ……ティーシスさん、ティーシスさん! ど、どうしてここに……」


 ユキコは呆然としながらもそれだけを言葉にした。


「本当はあなたが目覚めた日、最初に会いたかったのだけれど……

 混乱させてもいけないし、あなたがこちらの社会に慣れるのを待っていたの――」


 ティーシスの言葉は、三百年前のユキコが知る彼女であることを肯定している。


「彼女は星人イスフィーン。異星人なんだ」

 ハルは衝撃の事実をさらりと告げた。






 その後三人はハルの自宅へと移動し、夕食をとることにした。

 アカネは外出中らしい。

 夕食は寿司にした。未成年のユキコを除くハルとティーシスは日本酒も注文していた。


「だけど驚いた! 異星人っていってもティーシスさんは容姿も食事も地球人と全く変わらないんですね」


 ユキコの素朴な疑問にティーシスが応える。


「この体は地球人の遺伝子を解析して作ったバイオロイドよ。

 この肉体を介する事で地球人の五感から生まれる感性を理解し、この肉体を通し地球人の社会で生活することにより、感情や価値観、道徳観といった地球人の感性や社会観を学んできたの。

 私が地球にやってきたのはおよそ五千年前、私自身の肉体は冷凍冬眠で今も眠っているわ」


 ティーシスの話では、彼女自身の肉体で地球での生活を送ることは極めて不都合だという話だ。

 地球とティシレイウスでは大気の成分や気圧・重力も異なる。

 さらに彼女たちには有害なウイルス等が地球には数多く存在するらしい。


 そして、星人イスフィーンが他の種族と直接会うことは、ほとんど無いということだ。

髪の毛一本からDNAを読み解くだけで、その種族がどのような生物的進化の歴史を辿ったのか一目瞭然である。

惑星の環境や生態系もかなりのレベルで推測できる。


 星人イスフィーンの世界にも戦争はある。地球に多くの異星人が来ている状況で、彼らの種族や主星の情報を公開する事は決して出来ないことだと教えられた。

 星人イスフィーンがお互いの情報を教えあう行為は、特別な信頼と好意を得ることができた星人イスフィーン同士が行う神聖な儀式だと教えられた。


「ひょっとして、ティーシスさんは五千年もの間、地球で暮らしてきたんですか?」


「ティシレイウス人として暮らしてきた期間より遥かに永い歳月を、地球人として過ごしたことになるようね」


 五千年もの歳月は、人類文明の発生から現在に至るすべてを見て来たといって過言でない。


「ティーシスさんは何のためにそれほど長い間、地球にいるんですか?」


「私の仕事は、地球で生活する生物の生態と進化の研究。とりわけ地球人の文化、社会構造等を研究すること――。

 その他に、銀河連邦の惑星監察官インスペクターとして、連邦憲章に違反する異星人から地球を保護することも私の役割ね。

 ――どうして地球に来たかって言う理由については、好奇心かしら?」


「好奇心?」


「私たちの種族は誕生してから二億年の歴史を誇るの。科学文明はとっくの昔に停滞期を迎え、社会構造も安定し硬直化している。

 生活は便利で快適だけど――、私にはとても退屈だったの。

 未開の惑星に住む人達が、独自に文明を築き、やがて宇宙に進出する。

 そして、銀河の星々を渡り歩く星人イスフィーンになるまでの歴史を見守り続ける――。

 そんな生き方がとっても魅力的に思えたの」


 銀河連邦憲章では、発展途上にある知的種族が営む社会に干渉する事は厳しく制限されている。

 武力制圧や住民への殺傷だけではなく、技術や工業製品、文化等を住民に供与することすらも禁止されている。

 その種族が本来歩むはずだった文明や可能性を著しく歪めてしまうからだ。

 

 しかし、研究者や惑星監察官インスペクターとして赴いた者が、一人の住人として交流することは認められている。

 ティーシスはバイオロイドの肉体を通し、いろいろな地球人と交流の輪を広げていた。

 それはティシレイウス社会の中では決して味わうことのできない刺激的な毎日だった。

 もっとも五千年もの歳月は人間――知的生命体が精神的な老化を避けることは不可能だ。

 主星との交流すら困難な遠く離れた星系で五千年にも及ぶ歳月は、孤独や困難と言う言葉で言い表せるような生易しいものではなかったが……。


「ユキコ、冷凍冬眠処置を行ったことを後悔していない?」


「正直なところ、不安はあります。けれど健康な体で生活することができる。

 そして思いもかけなかった未来社会をこの目で見、その中で生活できるなんて――。

 今はティーシスさんに心から感謝しています」


「私は大した事はしていないわ。あなたとあなたのお父様に、T大学での研究内容を教えただけ――。

 あの時、あなたを助けるだけの力が私にはあった。

 けれど、この星に無い技術を使ってあなたを救うことは連邦憲章で禁止されているの……」


「それは仕方の無いことだと思います。

 今も昔も何億という人間が死んでいるんです。すべての人を救うことはできないし、いえ、きっと助けてはいけないんですね」


 目先の情のみに捉われてその社会に存在しないはずの技術を使って人を助ければ、結果的にはその社会を大きく歪めてしまう事になる。

 奇跡の一言で目の前の事象を片付け、自分たちの努力や研究で困難を克服することなく、すがたてまつるる事で奇跡の恩恵を得ようとする。

 ティーシスたちはそのような現象を文明社会の正しい在り様とは考えていないのだろう。


「だけど、どうして私を助けてくれたんですか?」


 ティーシスにとってユキコは見ず知らずの他人である。

 わざわざあのような進言をしなくとも、見知らぬ振りをして問題は無かったはずだ。


「私はあなたやあなたの家族のことを結構詳しく知っていたつもりよ。

 そして、あなたは、あのまま死なせるには惜しい魅力的な女の子だと思ったからよ」


「――――!」


 ティーシスのような絶世の美女に魅力的といわれ、思わずユキコは赤面した。






 異星人の存在などユキコは今まで考えたことがなかった。常識的な日本人として、そのような事を考える人達に奇異の目を投げかけていたと言って良い。


(まさか自分の知人に宇宙人がいたなんてね)


 しかし、冷静に考えてみれば当たり前の話かもしれない。銀河系には二千億もの恒星があり、その十倍に及ぶ惑星がある。

 その内、億に一つの恒星系に知的生命体が誕生したとして、その数は数千に及ぶ。

 そして宇宙の誕生から現在まで百三十八億年もの歳月が流れている。

 銀河系の直径はおよそ十万光年なので、地球程度の文明水準でも百万年もあれば全銀河系を探査することは可能だ。

 地球より文明が数億年程度進んでいる星など数百もあり、地球にも多くの異星人が来ていたという話も確率的に考えれば当然の話かもしれない。

 一億年程度昔までは、星人イスフィーンが発展途上の惑星と交流を持ち、技術や文化等の支援を行うことは当たり前に行われていたらしい。

 しかし、そのような支援や干渉はその惑星独自の文明を歪めてしまうことに他ならず、支援を受けた文明の発展は支援をした文明の劣化コピーにしかなりえなかった。

 そのため、銀河連邦が設立され、発展途上の惑星に対する干渉や支援を一切禁止することになったそうだ。


 人類は誕生以前から銀河連邦によって保護されてきた。

 高度な知性を持つ生命体が、これから未来を掴み取ろうとする生命に侵略や虐殺などしないであろう。

 地球人が逆の立場に立ったときも当然そのような蛮行には手を染めない。

 例え侵略したとしても、大気の成分や気圧、重力さえも異なる惑星で快適な生活など出来るわけがなく、他の星系まで進出して侵略を行うよりスペースコロニーを建設したほうが遥かに安全で快適だ。


 地球は現在、自然環境保護と防衛的見地から、原則立入禁止になっている。

 一部根強い抵抗を示した人達が生活をしているものの、既に地球の人口は百万人をきっている。

 地球には一切の工業製品持込が禁止されているため、彼らは中世期の頃にまで後退したような生活を送っているらしい。


 惑星上で生活を送るということは、星人イスフィーンの間では裸で社会生活に等しい行為だと言う。

 地球上での生活は冥王星軌道からでも詳細に観察することができるし、月軌道近辺まで来れば地球上を飛び交っている電波を解析することにより、地球文化の概要は手に取るように分析できる。

 そして、その情報は何かの紛争が起こった際、決定的な弱点になりえる。

 星間戦争が起こることは銀河宇宙の歴史でも決して珍しいことではなく、現在、地球もセレンティアという異星人と戦争状態にあるという。


 他星系まで進出する技術力を持った異星人同士が行う戦争は、地球上での戦争とは次元が異なる熾烈なものとなる。

 反物質爆弾一発で地球は核の冬に覆われ生命の存在が許されない氷の惑星となる。

 すなわち、秒速二十万キロを超える亜高速で飛来する直径数メートル程度の隕石ひとつ、一億キロ離れた場所から発射される反物質粒子砲ネガ・スマッシャー一発で地球上の生物は全滅する。


 おまけに周囲が暗黒の宇宙空間ではステルス技術が極めて高い効果を発揮するため、亜光速で接近する宇宙船を発見することは現在の地球の技術では不可能である。

 恒星間を航行する技術を持った異星人が破壊する気になれば、一つの惑星を防衛することなど不可能と言ってよい。

 スペースコロニーであれば、ステルス技術を用いながら慣性で移動し続けることで攻撃の標的となる可能性を最小限に抑えられる上、何万ものスペースコロニーを太陽系内に分散させれば、すべて破壊することは極めて困難となる。


 そして今、地球はセレンティアと戦争状態にある。

 セレンティアは地球より数千年程度進んだ文明を持つ種族である。

 道徳や文化面での成熟レベルが不充分なため、地球人同様に星人イスフィーンとは認められていない。

 最初に地球との外交を申し入れてきた種族であったが、条約そのものが極めて地球に不利な内容であったことから、地球統合政府は外交を拒絶した。

 その後地球近傍星系の利権問題が原因で、百年前から戦争状態となっている。

 現在の地球の技術レベルではセレンティアからの攻撃を防ぐ術はなく、ティーシスたち銀河連邦の惑星監察官インスペクター達により太陽系内の地球人は守られているらしい。

 そのため地球統合政府では、一刻も早くすべての人々を地球から退去させたいらしい。


現在の地球では食物網等の生態系を回復させるという名目で、かつて人類が絶滅させた日本オオカミ等の危険な肉食獣も遺伝子操作技術を用い復活させている。

 病気にかかった際の薬品等も手近に取れる薬草位しかない。

 政府が地球退去者に援助を図っていることもあり、地球の人口は減少の一途を辿っている。


(地球……)


 ユキコはティーシスを見つめ、東京の病院と家族を思い出していた。

 彼女の時間感覚ではたった数日前の出来事なのに、彼女を取り巻く環境はあまりにも大きく変わっていた。

 ティーシスを見つめていると自分が三百年も眠り続けていたという話がまるで夢のように思えてくる。


「地球は、日本は、東京は、今、一体どうなっているんですか?」


 二十世紀の日本に生まれ生活を送っていたユキコにとって、地球への思い入れはひとしおだ。

 スペースコロニーでの生活には拭いきれぬ不安がある。


「一度地球に戻ってみることはできないの?」


「僕には難しいがユキコなら可能だと思う。ユキコはまだ日本国籍だから――。

 でもさっきも話したろ。今の東京には熊や狼がたくさんいる。そして君は銃すら持込む事は許されないんだ。

 弓や棍棒で野生動物と格闘して勝てると思うかい?」


「…………」


仮想空間サイバースペースでなら地球旅行も問題ない。

 僕もグランドキャニオンやエアーズロック、地球の名所は何百と旅した。

 月に一度はダイビングにも出かけている」


 ハルは何とかユキコを思いとどまらせようと熱弁をふるう。

 ユキコが地球に帰りたがるであろう事は彼女を目覚めさせる前から予想していたことだ。


「今ネットで一番人気があるのはゲームでもニュースでもなく地球旅行よ。

 私もハルや学校の友達と何度かダイビングに行った事があるの。綺麗かったわよ! グアムの海は――」


「地球は離れてしまっても……離れてしまったからこそ僕たちにとって魂の故郷――聖地なんだ」


 ユキコはハル達の言葉に曖昧に頷いた。どこか遠い目に哀しげな色を浮かべて……。


(帰りたい……)


これからはもう少しコミュニケーションを取りやすいサイトにしていきたいと思います。

はじめてのコメントが入りました。

嬉しかったです(^^♪

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