エピローグ
「うふふ――。えへ!」
演技を終えホテルの自室に戻る途中、ユキコはどうしても込み上げる笑みを押し留める事ができなかった。
頬の筋肉も先ほどから緩みっぱなしだ。
「楢崎ユキコ完全復活! あー気持ちよかった――」
アイス・ワールドでの優勝にユキコは感嘆の呟きを洩らす。
「あんまり、にやけっ放しだと頭の弱い女の子と勘違いされるよ……」
ユキコの浮かれっぷりにハルが水をさす。
「今日くらいはしゃいだっていいじゃない。――本当に大変だったんだから……」
ティーシスの鬼コーチ振りを骨身に叩き込まれたユキコだ。
もう一度あの特訓をやると言われれば、スケートをやめる事も本気で考えるだろう。
「だけど、本当に凄かったよ。
ユキコが目覚めたとき、こんな事が起きるなんて想像すらしなかったから。
――ティーシスの言った通りだったね。ユキコは強い魂を持った魅力的な女の子だって」
ハルは恥ずかしい台詞を真顔で言う。
「こんな事が出来たのも、ハルとティーシスのお蔭よね。
本当にありがとう」
ユキコは心を込めてハルに礼を言う。彼女自身、この世界での現実に打ちのめされ、このような事ができるなど考えた事すらなかったのだ。
「僕は大した事はしちゃいないさ。
――すべてはティーシスの思惑通りってところかな」
確かにバイオフィードバックによる訓練をティーシスに教わらなければ、決してこのような結果を残す事は出来なかっただろう。
「ティーシスって言えば、冷凍冬眠の手術は片がついたの?」
「おかげさまでね。例の大富豪が十億円気前良く払ってくれたよ!
なんでも僕に借りは作りたくないんだって――。
他の冷凍冬眠患者の蘇生手術も全員無事終了させたよ。
ユキコの臨床データのお蔭でナノマシンを改良できたから、大きな問題もなく全員元気に退院したよ」
(後は私の借金か――)
アイス・ワールドの優勝賞金が三億円。ホームサイトの広告収入が三十五億円。
――利息が三十二億円に上る為、たったの六億円しか返済した事にならない。
アイス・ワールドの優勝者という事は女子シングルスでは世界で一番の人気選手と言う事になる。
CMのイメージガール等の仕事を受けていけばこの位の金額なら返済は不可能ではない。
借金完済まで―残り五百三十六億円。
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