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世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)  作者: 黒留ハガネ
七章 世界支部編 ニューヨーク/アメイジング
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09話 深淵を覗かなくても深淵はこっちを見てくる

 ポーラの成長を誘導していく中で迷ったのが世界の闇についてだ。即ち、ポーラを世界の闇と接触させるかどうか?


 超能力秘密結社「天照」は表向きは世界の闇と戦う事を任務としている。人類の暴力的衝動の具現である世界の闇は人を喰らって力を増す。特に超能力者は狙われやすい。超能力者は力を持たない一般人から目を逸らす餌であると同時に、世界の闇を狩るハンターでもあるのだ。

 だから超能力に目覚めたポーラが未だに世界の闇と一度も遭遇していないのはおかしい。


 しかし実際には世界の闇との戦いは灰色の青春に彩りを添えるためのデイリーイベントに過ぎない。

 超能力に目覚めても世界は大体平和で、怪物はいないし敵対組織もいないし事件は超能力者が出るまでも無く警察が担当解決する、というのが実情だ。だからこそ超能力を活用して活躍する場を用意するために世界の闇を設置している。


 その視点でポーラを見てみると、既に青春の彩りどころの話ではない。

 学校が怪しげな自称秘密結社に侵食されていて、超能力に目覚めて、イジメられていた同級生の男の子を助け、勉強と超能力訓練の傍ら覆面校内用心棒として働き、叔父の死に打ちひしがれ、そこに追い打ちをかけるようにサンジェルマンが忍び寄ってきて……

 既に十分戦っている。彩りだらけの極彩色だ。


 ここに世界の闇との戦いをねじ込んだら完全にキャパシティオーバー。

 俺が戦うべき相手を設置するまでもなく、ポーラは超能力の使いどころを自分で見つけ戦っている。

 ので、とりあえず間を取って顔合わせだけ軽くサッと済ませてしまう事にした。







 ベンジャミンの死後、ポーラは校内用心棒だけでなく積極的にニューヨーク市内に出て治安維持活動に勤しむようになっていた。

 叔父がそうしたように時間を見つけて市内を警邏し、道に迷っている人を案内したり、車上荒らしを縛り上げて警察に突き出したり、洗車を手伝ったり、万引き犯に商品を返させたり。

 問題解決に力が必要な時はバウンサーを召喚するし、必要なければデブった巨体をせっせと揺らして解決に勤しむ。

 大事件をカッコよく解決する事はなくても確かに小さな問題の解決を積み上げていて、ほんの少しずつ、しかし間違いなく世界を良くしている。

 本人はめちゃくちゃ忙しそうで起きている間中ずっと忙しなく動いているが、超能力に目覚める前より格段に活き活きしていた。ベンジャミンの死の直後は流石に少し暗かったが、叔父の後を継いで市中見回りを始めてからはどんな心境の変化があったのかその暗さも消えた。


 ハンクはそんなポーラを情報面からサポートすべく市内各所の監視カメラや警備システムへのハッキングを試みているが、今のところ尽く失敗している。

 残念だけど当たり前なんだよなあ。ちょっと機械に強い程度の高校生がすぐハッキングできるシステムなんてどんだけ脆弱なんだよっていう。


 さて。そんなポーラ&ハンクに俺と栞は真正面から普通に接触した。下校中に声をかけ、話がある、と近くのオープンカフェテラスに誘ったのだ。

 いつものように世界の闇で襲ってマッチポンプで助けに入り、説明しよう今君達を襲ったのは世界の闇という存在で云々かんぬん、という流れの導入をしてもいいのだが、ただでさえ脳も体も限界スレスレにフル回転中のポーラに負担をかけすぎるという事で取りやめになった。

 まずは話だけで世界の闇の存在、それに対抗する秘密結社天照について知っておいてもらえればいい。


「――――だから貴女は今後世界の闇に襲われる危険性が高まるわ。できれば私達と共に世界の闇と戦って欲しいと思うのだけど、どうかしら」

「……その話が本当だという証拠は?」

「無いわ」


 栞は用心深く確認するポーラが手に持っていた砂糖山盛り紅茶カップを時間停止してスリ取り、微笑みながら返した。

 ポーラは沈黙する。まあね。今のは時間停止能力の証明にはなるけど世界の闇存在の証明にはならないからね。栞の話をどう捉えるかはポーラ次第だ。

 少し考え、ポーラは言った。


「たぶん、あなた達は本物のインビジブル・タイタンとタイム・レディなんだと思う。でも失礼だけど本当にその世界の闇の脅威に立ち向かう正義の組織なのかは分からない。私を騙す嘘かも知れない。私は何が正義で何が悪なのか、何と戦うのか、私の目と耳と頭で判断する」

「ええ、賢明ね」


 高校生とは思えない思慮深さを見せるポーラに栞は心からの微笑みを見せた。

 仏頂面で強そうな雰囲気を出しつつ黙って相槌打つマンになっていた俺も心の中で称賛した。

 学業の成績が特別優れているわけではないが、この異様な事態の中でこれほどしっかりした考え方が持てるなら将来安泰だろう。知識には欠けるが知恵がある。


「極論、世界の闇なんて全部ただの作り話で本当はそんなものいないのかも知れないし――――」


 さらりと言ったポーラに思わずビクッとしてしまい栞に足を踏まれた。

 仮定の話とはいえそこに気付かれたのは初めてだ。やりおるわ。


「――――悪だと思っていた存在が実は善の存在だった、味方だと思ったけど敵だった、なんてよくある話でしょ。コミックだと。だからあなた達の話は覚えておく。でもどうするかは私が決める。それでいい?」

「……ああ」


 栞に目配せで最終判断を委ねられ、俺は頷いた。

 現実と漫画を混同している気がしなくもないが、漫画から学べる事だってある。ポーラはたぶんコミックから多くの事を学び、血肉としてきたのだろう。決して馬鹿にできる事ではない。


 話は終わった。連絡先を交換し、栞が店員を呼んで会計する。

 その間に若干蚊帳の外でそわそわしながら聞き役に回っていたハンクが俺に小声で話しかけてきた。


「質問しても?」

「ああ」

「俺に超能力の素質は?」

「ない」

「…………」


 ハンクはあからさまに落ち込んだ。ごめんな。

 でも君、持ってるコミックとかネット閲覧履歴とかがグロ・リョナ・スプラッタに偏ってるじゃん。全部悪人にスーパーパワーで苛烈な制裁を加える系だし、ポーラを手助けしてるぐらいだからまあ善人なんだろうけど、超能力を与えると暴走しそうでちょっと怖い。イジメられ続けて鬱憤溜まってるんだな……


 会計を済ませた栞は去り際にポーラに言った。


「ポーラ・ポート。気を付けて、本当に恐ろしい邪悪はいつの間にか忍び寄っているのよ」

「それはどういう……?」


 ポーラに謎めいた微笑みを投げかけ、栞は俺の腕をとって立ち去った。

 ポーラが叔父の後を継ぎニューヨークを守るために動いていくというのなら、必ずサンジェルマンと衝突する。二人の対決は必然なのだが、サンジェルマンが本気過ぎてポーラが気付かない内に敗北しかねない。ある程度のテコ入れ、ヒントが無いと勝負にならない恐れがある。

 栞の言葉を聞いて何を考えどう行動するかは本人の言う通りポーラ自身が決める事だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前回読んだ時から時間が空いたけど、展開も進んでて面白かった [一言] 現段階だとまだ完全にサンジェルマンの掌の上、どう対抗していくのか、続き期待してます。
[一言] く〜二人ともヨーダポジションを楽しんでますねぇ!  やっぱり超然としたお助けキャラも英雄譚では大切ですからねぇ でも一人はいつまで経っても嘘が苦手そうで安心するなぁ、
[一言] 超能力を与えられただけでイベント盛りだくさんのポーラ、 超能力を得たのに自分からイベントを作らないと発生しない佐護、 この差よ
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