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世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)  作者: 黒留ハガネ
七章 世界支部編 ニューヨーク/アメイジング
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03話 え? こんな私でも入れる秘密結社があるんですか!?

 ベンジャミン・ポートの姪、ポーラ・ポートはニューヨーククイーンズの高校に通う16歳の女子高生である。

 身長150cm、体重120kgのデブ。しかもチビで度のキツい眼鏡をかけていて、父の影響を受けアメコミを愛好し、内気。皮下脂肪がついてタプタプした顎とニキビの目立つ顔に迫害要素はあってもモテ要素は無い。平均よりちょい上程度の頭脳では個性にもならず、いつも下を向いて廊下の端を目立たないように歩いている。スクールカースト最下層だ。


 アメリカの学校には暗黙の階級制がある。

 女子の場合、女王蜂(クイーンビー)と呼ばれる階級をトップに置く。これはチア部や演劇部主演女優の女子を示す。見た目が良く、明るく、リーダーシップがある女の子だ。

 クイーンビーの下の階級にはクイーンビーの友人、取り巻きなどが続いていく。


 馬鹿、間抜け、マニア、オタク、ガリ勉など、日本では陰キャと呼ばれる者達は全て最下層にまとめられ、蔑視や嘲笑、公然とした差別を受ける。階級制が明確化されている分、人によっては日本より残酷な学生生活を送る事になる。

 ポーラ・ポートがスクールカーストのどの位置にいるかは言うまでもない。


 俺は栞が彼女の高校を札束で殴って手に入れた清掃員の地位を使い、堂々と校内に侵入した。清掃服を着てモップとバケツを積んだ清掃カートを押し、さりげなくポーラの後を尾行する。アメリカの学生は全員私服で見ていて新鮮である。

 始業時間ギリギリにやってきて俯いてトボトボ教室に向かうポーラを見ていると心が痛くなる。


 ああ、俺にも一時期あんな頃があった。

 友達が転校してしまって、怪我して部活から離れ、授業で居眠りして先生に厳しく注意され大恥をかいて。何もかも上手くいかない。周りの全てが自分を嘲笑っているように見え、惨めで悲しくて怒る気力もなくこの世から消え去りたいと思う。そんな頃だ。


 実際にはそんな事はない。皆が嘲笑って馬鹿にしてくるなんてありえない。

 他人が自分にそんなに興味を持っているなんて自意識過剰に過ぎる。陰キャの事なんて誰も気にしていないし見向きもしないから、周りから馬鹿にされているというのは錯覚に過ぎない。たまに罵倒されたりするのは偶然目についた自分より下の奴を気まぐれに痛めつけているだけだ。

 思い出しただけで辛い。


 ポーラはね、もっと堂々としていればいいと思うぞ。命がけで奮起を促してくれる叔父さんがこの世に一体どれぐらいいると思ってんだ? ちょっと歪な形だがものすんごい愛情受けてんだから胸張れよ。そうは言っても俯きたくなる気持ちは分かるけど。


 あと今ポーラの足引っかけて転ばせて笑ったクソガキは転んで顔面強打して泣け。

 …………。

 祈っても転ばないな。そりゃそうか。


 不思議な力で足をすくわれ顔面を廊下に強打して泣いている哀れな学生の横を通り過ぎ、尾行を続行する。教室に入り端の席で授業を受けるポーラを教室前の廊下をモップ清掃しながらさりげなく見守る。

 ポーラのノートを見ている限り授業にはしっかりついていっているし、先生が出す問題にも全て正解できているようだが、挙手ができない。「この問題が分かる人?」と聞かれた時、挙手できない。目を合わせないよう目立たないよう縮こまるだけだ。


 能力はあるのに虐げられ自信を失っていて何もできない――――かわいそうだが、世界中で今も昔もこれからも尽きる事の無いありふれた悲劇だ。

 うーん。

 こういう「こんな僕にも、私にも自信をもって誇れる何かがあれば」と思っていそうな子に超能力(チャンス)をあげるのは俺の性癖に刺さるところではあるが。ポートさんが激押しするほどか?

 ポーラ・ポートとベンジャミン・ポートのどちらを選ぶかと言われたらベンジャミン一択だぞ。


 モニャモニャしながら見守っている内にパッとしない灰色の高校生活は物悲しく過ぎていった。放課後になり、生徒達は嬉々として放課後の予定を談笑しながら廊下に備え付けられたロッカー群に群がる。

 ポーラは朝から今までずっと喋らず、ずっと一人だ。友達いなさそう。友達ゼロでも楽しくやっていける奴はいるが、ポーラの希望を奪われた小豚のような顔を見ていると彼女がそうとは思えない。


 放課後のクラブ活動なのか、なーんか見覚えのある仮面――――天照の初期モデル覆面のチャチなレプリカを被った高校生がぞろぞろと廊下の向こうからやってきた。

 超能力関連の研究、部活動は世界中で盛んに行われている。本格的なものから子供のお遊び程度のものまで様々だ。超能力研究部的な組織はだいたいどこの高校にもある。

 この高校のものは比較的本格派らしく、指導員らしき黒ひげの身なりの良い男が仮面の生徒達に冊子と水晶を配って肩を叩いては何事か囁いていた。怪しげな秘密結社に唆しているようだ。

 俺が作りたかった秘密結社はこういうヤツじゃあないんだよな。これ、どっちかってーとKKKとかそっち系に見える。


 仮面の学生達はぞろぞろと列を成し、廊下の中央をゆっくり練り歩いた。聞き取りづらい詠唱付きだ。他の生徒達は半笑いあるいは羨望や僅かな怯えの表情を浮かべ道を譲っていく。

 先生は皆見て見ぬフリだ。許可を取った上での活動なのだろう。校内掲示板を見た限りではどうやら二年前には既に活動しているクラブらしい。


 正直ポーラよりアマチュア秘密結社クラブの方に興味をそそられ眺めていると、廊下の向こうから一人の生徒が無理やり引っ立てられ、仮面の生徒達によって空き教室に連れ込まれていった。一般生徒達も後に続き、楽しげに談笑しながらそれに続く。のたのた歩いていたポーラも人込みに押し流されて教室に押し込まれてしまった。

 電気工事に来ていた業者のおにーさん達も物珍しそうに入っていき、特に追い出される様子もなかったので、俺も教室の隅に潜り込んだ。


『では、校内討論会を行う』


 教室が埋まり、ドアが締め切られ静かになると、檀上の仮面の生徒が厳かに告げた。背後に十数人の生徒が不動の姿勢で立っていて、彼らの前にはいかにもスクールカーストの最下層にいそうな、ヒョロっとして小柄でヒビの入った黒縁眼鏡をかけた一人の生徒がぽつんと立たされている。見るからに怯え切っていた。


『本日の議題は、本校の一年生ハンク・スナートが超能力者であるか否か? これについて本人を招き話し合っていく』

『僕は超能力者じゃない! 帰らせてくれ! こんなの公開処刑だ!』


 ハンク君は半泣きで訴えたが、仮面の生徒達は取り合わず、教室の後ろで傍聴している生徒達は面白い見世物であるかのように笑っている。業者のおにーさん達も演劇を見るような他人事感しかない。

 え、何これ地獄? ヤバ過ぎでは? こんな物がこの高校では日常になってんの? 討論会とか言ってるけどどう見てもただの建前だ。


『ハンク・スナートは今月二日午前、数学クラスで手品という名目で超能力を使ったという匿名の証言がある。我々ダーレス校超能力探求会では全会一致でこの疑惑について検証を行う意向を固めた』

『僕、僕は同意していない。嫌だ、お願いだ、帰らせてくれ。新聞配達のバイトがあるんだ。頼むよ』

『途中退席は疑惑を深める事になる』


 仮面の生徒はもったいつけて言った。仰々しい言葉使いに生徒達から笑いが漏れる。

 ただ一人、ポーラだけが笑っていなかった。

 顔面蒼白でむっちりした手を握りしめ、歯を食いしばってぶるぶる震えている。口を何度も開け閉めして何かを言いかけているが、言葉が出てきていない。


 討論会の名を借りたいたぶりは続く。ハンク君の学校での恥ずかしい失敗や学外での様子が面白おかしく暴露され、ハンク君がやめてくれと懇願するたびに盛り上がる。吐き気がするようなおぞましい光景だ。

 それでもポーラは動かない。


 ポーラを責めまい。

 イジメを止める、というのはとても大変だ。

 イジメはいけないと言うだけで止まる事もあるが、「からかってただけ」「空気壊すなよ」などと取り合われない事もある。止めた側までイジメの標的になり、被害者が増えるだけに終わる事もある。特にスクールカースト最下層の生徒を同じく最下層の生徒が庇えばそうなりやすい。


 我が身を投げうって人助けをできる人がどれだけいる?

 助けようと思えても行動できなければ意味がなく、そして世の中行動できない人の方が圧倒的多数だ。基本的に身を削る人助けはデメリットの方が大きい。人助けをして恩返しがあるのは稀な例だ。

 まず自分で自分を守り、自分を幸せにする事だ。その上で余裕があれば誰かを助ければいい。


 ポーラは最後まで討論会を傍聴し、討論会が終わり解散した後、教室の真ん中に一人残され泣いているハンク君におずおずと手を伸ばした。


『あー、ハンク?』

『ほっといてくれ!』

『わた、私は、そんな、その、』

『うるさい! 失せろ!』


 しかし邪険に振り払われ、強引に手を貸す事もできず、すごすごと肩を落として退散してしまう。


 それに合わせ、俺も退散した。

 いやつれーわ。

 同じような事が今も世界中の学校で起きてるんだろうな。そしてこれからも起き続ける。

 数年かけて超能力を広め、世界は昔より面白く楽しくなったと思っていたが、悪い意味で変わらないものはいくらでもあるのだと思い知らされた。


 ポーラには特別な特技など何もない。ありふれた、冴えない女子高校生だ。

 人並み以上の正義感はあるが、何も為せない。

 こうして一日見ていただけでポートさんの言葉がなんとなく分かった気がする。キッカケがあれば確かに変わるかも知れない。

 超能力という力を手に入れた時、果たしてポーラは変われるのか?


 ポートさんの推薦理由に納得した俺は、独りぼっちで校門を出ていくポーラに超能力原基を移植した。


 平凡な高校生だった翔太くんは超能力をキッカケに思いもよらない素質を花開かせ見せつけてくれた。

 ポーラもそうなれるのか見物だ。

 ホテルに戻ったら別働で動いている栞と情報をすり合わせ、ポーラの超能力の目覚めと勧誘のイベントを組まなければ。

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