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がんばれ! 魔女っ娘キャロルちゃん

 つまり、未来人イベントの流れはこうだ。

 まず俺と栞が結婚する。この時間軸Aではやがて凛(赤丸)が生まれ、成長し、百合に目覚める。

 高校生になった凛は過去に戻り、未来人イベントを隠れ蓑に燈華×三景を成立させようと計画する。

挿絵(By みてみん)

 この計画により時間改変が起き、凛が最悪の黒歴史(X)をやらかす時間軸Bが発生する。時間軸Aは消える(時間能力者は消えた時間軸の記憶を保持できる)。

挿絵(By みてみん)

 時間軸Bの未来では、大人になり結婚して子供を産んだ凛が黒歴史に悶え苦しんでいる。しかし既に一度過去に跳んでいるので、自ら再び過去に跳んで自分の黒歴史を止める事はできない。そこで自分の娘(凛の子供で栞の孫)のカヤ(緑丸)に手紙を持たせ過去にお使いに行かせる。

 翔太くんがアマゾンに追放されホポ族の村に流れ着く事によって凛とホポ族の男の間にフラグが立ち、カヤが生まれるため、翔太くんのアマゾン追放までは止めずに見逃す。

 カヤにとってホポ族の村は時代が違うとはいえ慣れ親しんだ父の故郷。ホポ族の言葉をネイティブに話せるし、知っている人も多いし、未来から来たのだからホポ族の未来も予言できる。これらを駆使すれば村に受け入れられるのは簡単だった。

 カヤは本来下痢で数日苦しみ半死半生でホポ族の村に辿り着く事になる翔太くんをササッと回収。看病して早期に回復させる。ホポ族の村を襲っていたジャガーは放置すると数年に渡り村を苦しめ続けるため、退治しておく。

 そして翔太の救出に便乗して日本へ移動。俺におかーさん(未来の人妻凛)からの手紙を渡し、俺、栞、カヤの三人で凛がこれからやらかす事について、カヤの正体について認識を共有する。

挿絵(By みてみん)

 そして凛を後々まで苦しめる事になる黒歴史が始まる。

 黒歴史が始まる前に凛を止めても意味がない。やってもいない事を責められてもムカつくだけだ。一度は怒られるのが嫌で渋々計画を撤回するとしても、反省していなければまた同じ事をする。だから黒歴史が始まった後で巻き戻す必要があるのだ。

挿絵(By みてみん)

 黒歴史が始まってから、カヤの能力で時間を巻き戻す。これにより黒歴史(X)は無かった事になり、時間軸Bが消え、黒歴史が起きなかった時間軸Cが発生する。

 時間系能力者である栞、凛、カヤはしっかりと黒歴史(X)を覚えているが、それ以外の面々の記憶からは抹消され、黙っていれば分からない。本来、黒歴史(X)はどんどんエスカレートして最終的に数百人を巻き込んで酷い有様になっていたらしい。数百人にとっての大惨事を三人だけの秘密の記憶に変えられるなら確かに時間改変の価値はある。

 なお、カヤの能力で巻き戻せるのは最大40分弱で、これはタイムトラベルにはカウントされない。タイムトラベルが過去への瞬間移動だとすれば、カヤの巻き戻しは逆走猛ダッシュで必死に走って過去に駆け戻っている感じらしい。タイムトラベルのように何十年もの昔には戻れないとしても、40分巻き戻せれば十分過ぎる。

挿絵(By みてみん)

 後はカヤが若い凛を若い凛の時代に戻し、待ち構えていた未来の栞がキビしいお仕置きと教育をするのに任せ、

挿絵(By みてみん)

 カヤ本人はお母さん凛の時代に戻る。これで全て収まるところに収まったわけだ。

挿絵(By みてみん)


 黒歴史とは一体なんだったのか。

 凛が何をやらかしたのか。

 俺には分からない。

 そこは手紙に書かれていなかった。


 ただ、過去に行って過去を引っ掻き回さない事を佐護家の家訓とする、とは書かれていた。

 超能力者の子供は生まれつき親の系統の超能力者になるため、未来の佐護家は時間能力の家系になっているらしい。念力が遺伝しないのは全ての始まりの能力であるという特異性ゆえなのだろうか。


 カヤが凛を縛り上げて一緒に消えていった理由について、栞は黒歴史の内容とマッチポンプ関連を伏せた上でほぼ真相通りに上手く説明した。

 その説明で全員納得して、解散。

 その後、俺と栞は月夜見関連の仕込みと調整を一手に担ってくれたババァをこっそり呼び出し、久しぶりに集まった三人でのイベント成功打ち上げパーティーを明け方まで楽しんだ。














 キャロル・モラレス(10歳)は月守邸に住んでいる小学四年生の金髪碧眼少女だ。

 月守邸には少し前まで多くの不法滞在外国人(ストレンジャー)が詰め込まれるように暮らしていたが、少しずつ自分の住む場所を見つけて去っていった。今では月守剛、見山響介、クリスティーナ・ナジーン、ロナリア・リナリア・ババァニャン、アイリーン・モラレス、そしてキャロル・モラレスの六人だけが暮らしている。

 キャロルの母のアイリーンはよくおめかしして月守親分と一緒に出かけていて、キャロルも一緒に出掛ける事がある。親分は優しくて大きくてまるでお父さんみたいで、本当のお父さんになればいいのに、といつもこっそり思っている。


 キャロルは小学四年生だが、声優をやっている。スタジオに行って声をとるお仕事だ。

 母にやってみる? と言われて、別に嫌でも無かったのでやってみたらすごく褒められ、楽しくなってきたので続けている。

 キャロルが声を当てているアニメ「魔女っ娘♡キャロルちゃん」はクラスでも何人か知っている子がいて、アニメのキャロルちゃんとキャロルの顔がそっくりで声も同じなので、キャロルがキャロルちゃんである事は公然の秘密になっている。

 授業を休んでお仕事に行く時は特別扱いをしてもらっているようで最高にワクワクするが、その分宿題が増えるのが悩みの種である。お仕事には色々あるのだ。


 キャロルのように声優をやっているのはキャロルだけではない。キャロルが知っている限り、他に二人いる。


 一人は「舎弟少女リリィちゃん」に声を当てているリリィ。栗色の髪の背の低い可愛い女の子で、二年前にデパートの屋上のショーで初めて共演してから親友になった。よくお揃いの服でお出かけしたり、夜にボイスチャットを使って一緒にゲームをしたりする。

 リリィは気が小さいけれど、お仕事ではびっくりするほど大きく凛々しい声を出せるのですごい。

 不法滞在外国人(ストレンジャー)のキャロルと違い、リリィは正式な手順を踏んで国際結婚をした夫婦の間に生まれた子で、ちゃんとした日本国籍を持っている。キャロルも親分がゴニョゴニョしてくれたため一応日本国籍を持っているが、出所はかなり怪しい。


 もう一人は「三下少女アビゲイルちゃん」に声を当てている香織。黒髪で背の高いスラリとした女の子で、校則で禁止されているのにいつも香水をつけている。香織とはアニメ二期のお仕事が始まってから知り合ったため付き合いが浅く、まだあまり仲が良くない。仲良くなろうと頑張っているのにイジワルばかりしてくるので、キャロルはちょっと気が挫けそうになっている。

 香織は滑舌がとても良く、オトナっぽい声を出せるのですごい。


 さて、その日もキャロルは香織と仲良くなるために遊びに誘っていた。珍しくOKを貰えたので、仕事終わりに会社の自動ドアの外で待つ。リリィも一緒だ。

 今回の収録は三下少女アビゲイルちゃんのメイン回だったため出番の少ない二人の収録はすぐに終わり、香織の仕事が終わるのを待っているのだ。寒い外ではなく社内で待てば良いのだが、折り合い悪く玄関ホールは壁紙を張り替えたばかりで、新品特有の独特の匂いを嫌って外に出ていた。


 一つの大きなマフラーを二人で一緒に首に巻いて使い、くっつきあって香織を待っていると、セーラー服のおねえさんがやってきた。二人の前で立ち止まり、朗らかに挨拶してくる。


「こんにちは!」

「こんにちは」

「……こんにちは」

「うんうん、ちゃんと挨拶できて偉いね。キャロルちゃんとリリィちゃんだよね?」


 二人は頷いた。急に話しかけてきた謎のおねえさんだったが、知らない仲でもない。以前は屋上ショーの最前列で、最近はアニメ試写会の最前列で会う熱烈なファンのおねえさんだ。

 いつもと少し顔が違う気もしたが、謎のおねえさんは会うたびに服や化粧がコロコロ変わるのでそのせいだろう。

 謎のおねえさんは膝を曲げて二人に目線を合わせ、聞いてきた。


「キャロルちゃんはリリィちゃんの事好きかな?」

「え? うん、好き」

「リリィちゃんはキャロルちゃんの事好きかな?」

「……好き」

「ウッッッ!」


 二人が答えると、おねえさんは顔を押さえ天を仰いで震えはじめた。なんだか今にも昇天しそうである。

 いつものおねえさんとは少し雰囲気が違う気がするが、よくわからない。

 おねえさんはひとしきり震えて悶えた後サインをねだってきて、サインをすると二人に丁寧に拝んでから立ち去った。


「ちょっと変だったね?」

「……うん、いつもよりもっと」


 二人は首を傾げたが、謎のおねえさんの謎は深まるばかりだった。


「はいどーん! 行くよ!」


 背中を強く押されて振り返ると、オシャレで温かそうな白コート姿の香織だった。仕事が終わったらしい。


「香織ちゃん、マフラーしてないね。端っこ使う?」

「や」


 キャロルの提案はリリィに蹴られた。キャロルは困ってしまう。どうやらリリィは香織が嫌いらしいのだ。皆仲良くやっていきたいのに。

 三人は近くの文房具屋に向かって歩き出した。


 過去にヤクザに誘拐された経験があり、月守組大親分とも近しいキャロルには出かける時に必ず護衛がつくのだが、この日は護衛役のクリスが敵対組織との抗争が発生してドタキャンしたため久しぶりに護衛なしでのお出かけとなっていた。

 とはいってもすぐに代役が派遣されてくるため束の間の事だろうが。


 文房具屋に入って最近女子の間で流行のブランド文房具を手に取ってキャッキャウフフしていると、急に三人の頭上に影が差した。見上げるとクマのような巨漢が三人を不気味に見下ろしている。丸太のような太い腕は子供を三人いっぺんに絞め殺せそうで、リリィと香織は突然の恐怖で立ちすくんだ。


 こういう時、いつも活躍するのはキャロルだった。

 キャロルは肝の据わった女の子で、特にヤクザ関係には強い。ヤクザと生活しているようなものだからだ。月守邸に住んでいるため、物騒な稼業をしている人とも頻繁に交流がある。

 しかしそのキャロルも今回ばかりは竦み上がった。

 巨漢の体に染みついた制汗剤の臭いが、以前誘拐された時の誘拐犯の臭いと同じだったからだ。

 リリィが背中に隠れて震えている。自分が頑張らないと、と思っても、トラウマが甦り頭が真っ白になる。涙が出てきた。

 そこでサッとリリィとキャロルの前に出て、声を張り上げた者がいた。

 香織だった。


「あ、あ、あ、あああああアンタどきなさいよっ! なんなのアンタ! 邪魔! きもい! あっち行って!」


 香織の震える声は店内に大きく響き、他の客と店員の目が大男に集中する。

 大男は一瞬動きを止めたが、三人が占領していた棚に手を伸ばし、ピンク色のキャラものの筆箱をさっと取って申し訳なさそうに言った。


「……あー、すまなかったな、お嬢ちゃん達」


 大男はのっそりと会計カウンターに向かい、筆箱を出して言う。


「すみません、プレゼント包装できますか」

「できますよ。お子さん宛ですか?」

「姪です」


 怖いおじさんかと思ったが全く気のせいだったらしい。

 キャロルはホッとすると同時に恥ずかしくなった。


「あ、あの」


 会計を終えたクマおじさんに恐る恐る声をかける。クマおじさんは振り返り、目線を下げてキャロルを見た。


「さっきはごめんなさい」


 頭を下げると、クマおじさんは厳つい顔をしわくちゃにして微笑んだ。


「ああ、おじさんも驚かせてすまなかった」


 クマおじさんは優しく言い、手を振って去っていった。

 クマおじさんの姿が見えなくなってから、香織が胸を張って二人にドヤ顔で言った。


「ほら見なさい! こんなもんよ!」

「え、何が?」

「私が追っ払ったのよ、聞いてたでしょ?」

「……あのおじさん、怖い人だけど、悪い人じゃない、と、思う」

「はー? 何言ってんの? リリィは何見てたの?」

「……香織、性格悪い」

「あっ、そういう事言う? せっかく助けてあげたのに? へー。へーっ!」


 香織とリリィが言い争いをはじめ、キャロルは困ってしまった。

 三人が仲良くなれる日は遠そうだ。

 でも、そのうち必ず仲良くなれる。

 だって三人とも魔法少女なのだから。


解説:


【魔女っ娘♡キャロルちゃんシリーズ】

 女児向け屋上ショーとして始まった魔法少女シリーズ。日本に留学してきた女の子が魔法少女となりヤクザ怪人を相手取るという世相を反映した独特の設定が特徴。漫画化、ドラマCD化と駒を進め、アニメ化した。アニメは作中キャラ年齢と声優年齢が一致している事で注目を集め、またクオリティも高かったためコアなファンがついている。本物のヤクザがバックついているという黒い噂も。


【魔女っ娘キャロルちゃん】

 CV:Carol Morales

 日本に留学してきた八歳の女の子(シリーズ開始当初)。アニメ二期開始時点では十歳になっている。日本をヤクザ怪人の魔手から守るために日々頑張っている。タフな女の子で、ヤクザ怪人が放った弾丸が頬を掠めても動じずそのままマジカルステッキで殴り倒す。

 必殺技の「マジカル任侠正拳」はとってもつよいが、無実の者を殴ると自分の体が爆発四散する諸刃の剣。

 中の人は過去にモノホンヤクザに誘拐された経験があり、それが強さと弱さの秘密なんだとか。

 なお「魔女っ娘♡キャロルちゃん」は番組及びシリーズ名であり、主人公の名前は「魔女っ娘キャロルちゃん」である。めんどくさいファンの前で使い分けを間違えると怒られる。


【舎弟少女リリィちゃん】

 CV:Liliane Williams

 屋上ショー及びアニメ一期でのキャロルちゃんのライバル。ゲス野郎だが命の恩人であるヤクザドブネズミ兄貴に最後まで忠義を尽くし、一期のラストで燃え盛る高層ビルの中に消えていった。しかし二期冒頭で奇跡の生還を果たし、(兄貴分が死亡しているため)ヤクザの鎖から解放された。同時にヤクザパワーも失ったため最早舎弟少女ではないが、キャロルちゃんの良き友人としてたびたび登場する。

 中の人はキャロルと仲が良く、お揃いの服で手を繋いでお出かけしている姿がたびたび目撃されている。最近SNSの呟きにより、どうやら香織にキャロルが取られると思って嫉妬しているらしい事が発覚して軽く炎上した。


【三下少女アビゲイルちゃん】

 CV:相田(あいだ)香織(かおり)

 アニメ二期でのキャロルちゃんのライバル。平安時代に存在したという伝説的ヤクザの魂が憑依している。それを隠し、ひ弱な三下を装い裏で糸を引いてキャロルちゃんを苦しめる。

 シリーズ初のメインキャスト声優日本人起用がファンの間で物議を醸している。

 中の人の母親は有名女優。チヤホヤされて育っており、声の演技力は本物だが高飛車。


【謎のおねえさん】

 本名不詳。屋上ショー時代から必ず最前列でコスプレして応援してくれる魔女っ子大好きおねえさん。アニメ二期試写会まで公式イベントは皆勤賞。

 魔法少女アニメにのみ莫大な出資を行いかつ金の用途に注文を付けない「金は出すが口は出さない」大天使として業界では有名。なおどれだけ頼み込んでも魔法少女以外のアニメには出資してくれない。





次章【世界支部編(仮)】に続きます。8月中に開始します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回も面白かった [気になる点] キャロルちゃん達の活躍は??(完結後も何も無し) [一言] でも終わったんだよな……この物語(ストーリー)はよ……
[良い点] 栞さんのプライベートを知れてうれしい
[一言] 最後の魔法少女vsヤクザ怪人に笑ってしまった❗
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