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11話 行方不明の超能力者を探すため我々は南米へ飛んだ

 天照のボスの念力の射程は、表向きの設定上は日本全域をカバーできる程度という事になっている。世界各地で発生する世界の闇は大抵ボスのスカウトによって現地で目覚めた超能力者達が駆除するが、すぐに殉職するため入れ替わりが激しく安定しない。殉職者を出さず安定して世界の闇を駆除できているのは日本ぐらいなものだ。

 流石はボスのお膝元である。すごいね、天照!


 ボスが時々ふらっと天岩戸を留守にするのは、殉職した超能力者の代わりをスカウトしたり、超能力者が不在の地域で発生した世界の闇を狩るためなのだ。

 決して北海道にばんえい競馬を見に行っていたりはしないし当然馬券も買っていない。新作アメコミ映画の封切り当日にニューヨークの映画館に一番乗りなどもっての外で、嫁同伴で呑気に遊園地ではしゃぐ事ももちろん無い。とんだ邪推だ。


 天照のボスは、自らの傲慢さにより元来無害であった世界の闇を強大化させてしまった悲しき罪を背負い戦い続けるニヒルでハードボイルドなナイスガイなのだ。当然、結婚を機にエロ同人誌をバレないようにこっそり処分したり迷った挙句ちょっとだけ残していたりもしないぞ。天照のボスはそんな事しないから。しないから!!!


 まあとにかくそういう設定なので、日本に居ながらにしてアマゾンでサバイバル中らしい翔太くんを捜索・確保するのは射程不足で不可能。

 そこで問題解決のために俺が直々にアマゾンに飛ぶ事になった。


 シゲじい発見&確保は念力とは無関係なビラ撒きで達成した事になっている。だから俺が日本でのっそり椅子を温めていても問題なかった。が、翔太くんはアマゾンのどこにいるか分からない。流石に超広大なアマゾン全域にビラを撒き散らす訳にはいかない。

 高齢で何もしていなくても寝ている間にウッカリポックリ逝きかねないシゲじいの救助を優先したため、翔太くんは既に四日間のサバイバルを強いられている。

 水の確保に失敗していれば既に死んでいるし(凍結能力の応用で割とどうにでもなりそうなのでまずないだろうが)、毒蛇に噛まれて今正に生死の境を彷徨っているかも知れない(冷気ガードがあればまず噛まれないだろうが)。


 並の高校生より遥かにタフな翔太くんの事だから大丈夫だとは思う。しかしそれは捜索をのんびり進めていいという事ではない。

 遅まきながら事態を察知したボスがアマゾンに飛び、一帯を射程圏に収めた上で念力広域捜索で翔太くんを探して発見した。そういう形に持って行くのが一番いい。そして実際にそうする。


 アマゾンに向かう(ボス)には栞も同行する。現地で捜索隊を結成指揮し、情報収集&処理の陣頭指揮を取るためだ。

 俺が念力千里眼で虱潰しにアマゾンを隅から隅までせこせこ探している間に、栞が人を使い頭を使って探す。二段構えの捜索だ。


 さて、念力式高速移動で何十回目とも知れない無断海外渡航を果たしアマゾンに到着したはいいが、どこから手を付けたものか。

 アマゾンは南アメリカ大陸アマゾン川流域の熱帯雨林を指す。日本が14個丸々収まる550万平方キロメートルの広大な面積を持ち、樹冠が地表を覆い隠し見通しは最悪だ。こんなところから人一人を探し出すのは例え超能力があっても全く現実的ではない。

 だが手がかりも無くはない。アマゾンの熱帯雨林は伐採が死ぬほど活発で、伐採した木を運ぶための道路が切り開かれている。まさか凛が依頼した密輸送業者もアマゾンの道なき道を奥深くまで分け入って翔太くんを置き去りにしたわけではあるまい。高確率で伐採・運搬用道路を使って移送し、その近くで置き去りにしたはずである。

 空港とそこからアマゾン一帯に伸びる道路を地図上に赤いラインを引いて写し、更にそこから密林に不慣れな者が徒歩四日で移動し得る距離を塗りつぶす。こうする事でアマゾンの大部分を捜索範囲から除外し、翔太くんがいる可能性が高い範囲に絞り込む事ができた。

 なんと、日本14個分から2個分にまで捜索範囲は縮小したのだ(白目)。


 日本2個分の範囲を虱潰しはキツいっす。

 キツいがこれが俺が今できる最善手である。栞がもっと良い手を考え手配を進めている間に、俺は念力式千里眼でジャングルを探し回った。


 それは絶望的な捜索だった。

 翔太くんが倒木の下に寝転んで寝ていたり、木の上で丸くなってじっとしていたりしたら見逃してしまう可能性もある。見逃しが無いように丁寧に探す必要があり、そうすると捜索スピードは落ちるしガリガリ神経が削れていく。ひたすら似たような密林が続きランドマークなど無く、同じ場所を二度探してしまう事もしばしば。

 見つかるのは虫、魚、カエル、鳥やら猿やらばかり。少し道から逸れて密林に入るだけで伐採業者達の姿は消え失せ、誰も見つからない。数時間でやっと人影を見つけたと思ったら日本人とは程遠い褐色の肌の先住民の方々というオチ。凄まじい徒労感である。


 24時間ぶっ通しで捜索して。

 残り捜索範囲は約日本1.996個分。

 心が……折れそうだ……

 もっと捜索範囲を狭めないとどうにもならない。


 しかしこれはマッチポンプに連なる俺の監督責任。精神障害や死亡はなんとしても避けたい。本人に顔向けできないし親御さんにも申し訳が立たない。心折れている場合ではない。徒労にしか思えなくても見つかる可能性があればやるのだ。


 24時間経過した時点で栞が合計300人から成る捜索隊を結成。同時に日本人の目撃情報を集め、ジャングルに詳しい先住民の方々に協力を要請。三分の二には協力を断られたが、三分の一には協力の取り付けに成功した。

 意外な事だが、先住民でも若い者達は外との交流に前向きで、そのためにポルトガル語(アマゾンの大半を占めるブラジルの公用語)や英語を修得している者もいた。ジャングルでは最も頼れる存在である先住民との意思疎通は簡単ではないが、不可能でもない。先住民といっても靴履いてるし中国やアメリカ製の古着らしいロゴ入りのポロシャツ着てたりするしね。ジャングルに住んでいても決して未開ではない。

 協力体制の確立により捜索効率は爆発的に上がり、行方不明から六日目、翔太くんの母が捜索願を出した翌日になりようやく発見された。

 先住民ネットワークにより、ジャングルの中のホポ族の村に居る事が発覚し、無事を確認できたのだ。


 ホポ族の村は枯草を葺いた屋根と剥き出しの木の板の壁で作られた簡素な高床式家屋がアマゾン川の支流に四十軒ほど集まってできている小村で、交通アクセスは主にカヌーで行われている。最寄のバス停から片道一日というごく近い距離にあるという。

 片道一日は近くないだろ。時間感覚が違い過ぎる。


 俺と栞が時間停止&念力式高速移動の最速便で村に急行すると、ボロボロの学生服を肩にひっかけ日焼けした翔太くんはケロっとしていて元気そうだった。何やら横に可愛らしい褐色美少女を侍らせてすらいる。ちょっと誰なのよその女! ……いや、そんな事は後回しでいいか。無事で良かった。本当に良かった。

 爆風と共に木々の枝葉を巻き上げ村の外れに到着した俺達に、翔太くんは氷の槍を振って合図した。


「マスター! マスター、こっちだ! 迎えに来てくれるって信じてたぜ!」

「無事か? ……無事だな」


 俺が駆け寄って怪我が無いか確かめ、軽く抱きしめ頭を撫でると、翔太くんは嫌そうに俺を押して離れた。お、照れか?


「大丈夫に決まってんだろ子供じゃねーんだから」


 大人でもないだろ。あと寝て起きたらジャングルだった、なんていう意味不明な状況になったらサバイバル経験豊富な大人でも死にかねないと思います。


「この人誰?」


 俺達の再会を興味津々で見ていた褐色美少女が翔太くんの袖を引っ張って俺を指さした。

 耳を疑う。何だ? 今この娘日本語喋ったような気がするぞ。


「話してた俺のボスだ。んー、まあ、マスターって呼べばいいんじゃね」

「分かった。マスター、私カヤ」

「お、おお」


 親しげに差し出してきた手を取ると、カヤちゃんは嬉しそうにぶんぶん振ってきた。気のせいではなかった。ジャングルのど真ん中なのに遠い異国の言語をがっつり喋っとるやんけ。なんでや。

 カヤちゃんは十二、三歳に見える。健康的な褐色の肌は日本のサッカーチームのロゴがデカデカと入ったぶかぶかの青Tシャツがワンピースのように隠している。両耳には銀色の輪っかのイヤリングを通していて、背中まで伸びた風になびく黒髪の間で揺れている。

 挨拶を終えたカヤちゃんは一歩下がり、俺をじろじろ眺めながら手に持っているミニサイズの氷の槍をぺろぺろ舐めはじめた。なんかこの子餌付けされてない?


「いやー、もう大変だったぜ。聞いてくれよ」


 翔太くんの話によると、カヤちゃんはこのホポ族の男と日本人の女のハーフらしい。だから日本語が分かるし、ホポ族の言葉もわかる。ポルトガル語と英語もちょっとできるそうだ。

 遭難初日「寝て起きたらジャングルだった」という意味不明な状況に陥った翔太くんはすぐに川を見つけサバイバルに必須な水を確保。しかし喉が渇いていたため何の対策もなく生水のままガブ飲みし、順当に腹を壊した。せめて超低温殺菌をしていればよかったのに思いつかなかったようだ。

 そこに通りかかったのがカヤちゃんである。色々な穴から色々な物を垂れ流して悶え苦しんでいる翔太くんを見つけたカヤちゃんは、ホポ族の大人を呼んで村まで運搬。その後カヤちゃんの献身的な看病により翔太くんは二日で快復した。


 翔太くんは日本にすぐにでも帰りたかったが、無償で助けてくれた村の人々に何もせず帰ったら地獄の業火に生きながらにして焼き尽くされるだろうと確信。なんとか恩返しができないかと考えた。

 カヤちゃんを通訳として何か困っている事が無いか村人に尋ねたところ、ここしばらく狂暴で巨大なネコ科猛獣ジャガーが夜な夜な家畜を食い荒らし困っているという。このままでは食糧難は避けられない。

そこで翔太くんは夜番の任を申し出て、見張りを開始し二日目の夜に凍結能力を遺憾なく発揮。ジャガーは氷漬けになり、村の危機は救われた。

 村人の大部分は翔太くんの凍結能力を魔術だと思ったようだが、スマホやドローンにも魔術判定を下す人達だから村人が翔太くんの能力について触れて回っても誰も真に受けはしないだろう。


 しかしなんだな。ジャングルに放り出されて七日の間に日本語の分かる褐色美少女に助けられ村を襲う狂暴なジャガーを退治し英雄になり部族の一員として認められる……

 そんな事ある???


 翔太くんは確かに天照で一番主人公補正の香りを漂わせている奴だが、まさかここまで面白いイベントを自力で起こせるとは思いもしなかった。発端は凛ちゃんだし、極低確率でこういう事も起こり得るという見方もできなくはないが。

 翔太くんの補正力、侮り難し。なぜ全人類にその補正力が備わっていないのか。


 親御さんから捜索願も出ている事だし、翔太くんは早速強制帰国の運びとなった。俺が翔太くんから事情を聞いている間に栞が村長を探し出し話をつけ終わっている段取りの良さ。流石だ。


 村人達が笑顔で、しかし少し名残惜し気に手を振って別れを告げる中、カヤちゃんはちゃっかり翔太の隣に立って村人たちに手を振っていた。手には小さな鞄を持っている。

 翔太くんがお前はあっちだろ、と背中を押すが動かない。


「私ついてく」

「は? ダメだろ。カヤは良い子で村で待ってろ」

「私いなかったら翔太のオムツ換える人いない」

「おい馬鹿黙れ! いやマスターこれは違うんだよ、違うからな? 看病! 看病されてた時の話だから!」

「恥ずかしがらなくていい。ちんちん見たんだからオムツぐらい誤差」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! もう、もういっそ殺してくれぇ……」


 翔太くんは涙声になり、顔を覆って蹲ってしまった。

 つっら……

 相手が美少女でも、いや美少女だからこそ、シモの介護をされるのはそういう性癖がない限りふつーに拷問である。翔太くんが一体何をしたっていうんだ。美少女と仲良くなる代償重すぎない?


 栞と相談したが、翔太くんを助けてくれた恩がある事だし、カヤも日本に連れて行く事にした。一度母の祖国に行ってみたかったそうだ。パスポート・ビザ取得は省略。念力特急便でいつもの如く税関をスルーして日本へ飛ぶ。

 あとはサハラ砂漠で謹慎中の凛ちゃんを回収して被害者の会としっかり話させ、未来への帰還イベントをやれば一件落着だ。

 長く苦しい戦いだった。

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