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08話 衝撃! 南極に隠された真実!

 天照のボス、佐護杵光の闇堕ちを阻止するための精神防護アーティファクトは南極の地下洞窟にある。

 その設定が決まったのは三日前で、南極地下に地下洞窟ができたのも三日前だ。今回の南極探検に月夜見の参加は無いから、クリスの過去視対策に作成後二ヵ月寝かせておく必要はない。月夜見は凛ちゃん帰還前にまた出番がある。それまで一度おやすみだ。


 ここしばらくは偶然にも魔法城が南極上空に雲迷彩を纏って停留しているから、南極地下洞窟への旅は天岩戸地下と魔法城のワープゲートを通れば大幅に時間を短縮できる。まったくシゲじい様様だ。便利過ぎる。


「アーティファクト回収するの早い方がいーんだろ? また月夜見が邪魔しないうちにさっさと行こうぜ。侵掠すること火の如くだ」


 親分のパンチを受けた腹をイグに癒して貰いながら合ってるような間違ってるような事を言う翔太くんだが、君、もうヘトヘトで超能力使えないだろ。凍結能力が使えない翔太くんなんて火の出ないライターみたいなもんだぞ。


「私も手伝いたいけど……ちょっとキツいかな。お母さんに交代したい。時間系能力者は一人いれば十分でしょ?」


 凛ちゃんがだらんと気の抜けた挙手をしてリタイア&交代宣言をする。

 相談の結果、俺が月夜見の再襲撃に備えて東京で待機。翔太くんは帰宅。凛ちゃんは旧鏑木邸で休息。シゲじい、三景ちゃん、燈華ちゃん、栞で南極地下空洞の探索に行く事になった。クマさんは今夜また世界の闇に襲われる可能性があるため、念のためイグをつけた上で俺と同じく東京待機である。


 三景ちゃんと燈華ちゃんについては門限が厳しく夜間外出ができないため、怪しいおじいちゃんがふしぎなチカラで連れ去る事で親の目をすり抜け問題を解決する。

 あの、お宅のお子さんは無事にお返ししますので……ちょっと怪我はするかもしれないですけどすぐに傷跡もなく治すので……秘密結社天照の医療保険は即時発効完全完治なので……明日の学校にあんまり響かないように気を付けるので……ちょっと寝不足になるかも知れないですけど……


 シゲじいは自前の車で夜道を飛ばし、三景ちゃんと燈華ちゃんを誘拐し、その足で旧鏑木邸に寄って凛ちゃんと栞をチェンジした。凛ちゃんは肩を貸そうという燈華ちゃんを断って一人でふらふら屋敷に入っていき、三十分ほど経ってから栞が出てきた。ガッチガチの雪山装備で。


「事情は分かったわ。凛は休ませたから、代わりに私が行く」


 と言う栞に、


「その前に一つ聞きたいんですけど。凛ちゃんさんは鏑木さんと血が繋がった娘なんですよね。整形してる鏑木さんと凛ちゃんさんの顔がそっくりなのおかしくないですか」


 と三景ちゃんが冷静なツッコミを入れる。それな!!!

 漫画だと親子はそっくりで当然みたいな風潮もあるが、現実では親子でもけっこう違うのが普通だし、凛ちゃんと栞ほど似ている事はまず無い。

 三景ちゃんは疑い深くじっとりした目で続ける。


「本当は……凛ちゃんさんって鏑木さんのクローンなんじゃないですか?」


 あ、そっち?

 それは違いますね。陰謀論大好き三景ちゃんらしい勘違いだ。

あとクローンは遺伝子参照コピーなんだからどちらにせよ整形した顔は似ないだろ。高校生になったら生物の授業で遺伝子の勉強しようね。


「本当の顔を知られたくないから未来の天照のメンバーに顔を変えて貰ってる、と言っていたわ。本当かどうか知らないけれど。私が子供にしか話さないと決めている事を知っていたから、凛は私の娘で間違いないわ」

「ふーん……?」


 三景ちゃんは気に入らなさそうだ。シゲじいに誘拐されてから旧鏑木邸まで、車内で三景ちゃんはしつこく「凛ちゃんって呼んで!」とせがまれて徹底拒否していた。栞演じる凛ちゃんのテンション高めの性格は馬が合わなかったようだ。


 それからすぐに、シゲじいの送迎で女子が天岩戸に到着。こんな事もあろうかと天岩戸地下備品室に用意されていた雪山装備に全員着替えた。

 新型戦闘スーツにもある程度の耐寒性は備わっているのだが、南極の気候は「ある程度」では済まない。この時期だと-30℃に達する日もあるぐらいだ。自分で暖を取れる燈華ちゃん以外は専用の服を着ていかないと死ぬ。特にジジイと病弱少女は吹雪を喰らえば一発だ。二人とも雪中行軍だけで体力が尽きるんじゃないだろうか。


 東京の気温では暖かすぎる雪山装備の四人が黒いモヤを展開したワープゲートを潜っていくのを見送り、いつものように発泡酒とおつまみを出して鑑賞モードに……入ろうとして、今日はクマさんがいる事を思い出してやめた。表情筋を総動員して仏頂面に心配さを滲ませようとしてみるが、そんな複雑な表情が俺に作れるはずもなく。


「どうした、腹でも痛いのか」

「チチチチチッ!」


 変顔をクマさんとイグに心配されてしまったのでやめた。何年経っても演技は苦手だ。練習すればいけるんだが、今回のイベントはあんまり練習の時間も取らなかったから。


 さて、俺の変顔事情はどうでもいい。本題は南極探検だ。今日の夜から明日の明け方にかけて南極からアーティファクトを回収し東京に戻り、明日の夜にタイムマシンを巡ってまた月夜見と一戦を交えてから、凛ちゃんが未来に帰って未来人イベント終了、という流れを予定している。南極到着からイベント中盤といったところだろうか。


 四人は南極上空の魔法城から、三景ちゃんが影で作ったパラシュートで雪上に降下した。本物のパラシュートと違い、使い終わったら消せば良いのでお手軽だ。なおパラシュートの造形と簡単な使い方は栞がレクチャーした。拙い部分があっても時間停止やシゲじいの亜空間格納緊急避難で対処できるため、パラシュート降下に失敗しても安心だ。


 唯一心配なのは南極基地の自動観測システムまたは駐在員に降下中の姿を目撃される事だが、四人の姿を観測可能な圏内の南極基地は不自然ではない程度の超自然的吹雪(手動)に見舞われ視界が遮られている。夜間降下でそもそも見られにくいし、問題はない。


 事故もなく無事雪上に着地した四人は、GPSを頼りに歩き出す。三景ちゃんは最初の三十歩でふらつきはじめたので、シゲじいが自信満々におんぶしてふらついている。ちびっことはいえ、老体が人一人を背負って歩くのは辛かろう。そんなに長い距離は歩かないが無理はするなよ。


 一人だけ比較的軽装な燈華ちゃんが、GPSを見ながら歩く栞の隣で人間トーチになって灯りを確保しつつ不思議そうに言う。


「どうして南極にアーティファクトがあるんでしょう? 人類の南極大陸発見は19世紀ですよね。南極探検隊が隠したんでしょうか? それとも人類史に記録されていないだけで、19世紀以前に超能力者が南極に到達していたとか?」

「あっ、私知ってる!」


 口を開いた栞の代わりに、シゲじいに背負われた三景ちゃんが元気よく挙手する。その勢いでシゲじいはまた大きくフラついて転びかけたが、足元の雪を手ですくうフリをして誤魔化した。


「南極にはね、ニンゲンがいるの。人間じゃないよ、カタカナでニンゲン。ニンゲンは体長数メートルから数十メートルのとても優れた知能を持つ先史時代の生き物で、個体数は50から60。アメリカの調査隊が1500万年前、つまり南極が氷に閉ざされた頃の地層からニンゲンの化石を見つけてる。まあ極秘扱いで一般には公開されてないんだけど。自分達こそが地球最初の知的生命体だと信じたい人類の愚かさだよね。それでそのニンゲンなんだけど、大体普通の人間と同じ姿をしているんだけど、全身真っ白な強靭な皮膚で覆われてるの。皮膚なのか皮膚に見える服なのかは議論が分かれてる。ニンゲンはいつも地球の岩盤の下にある大空洞で暮らしてて、時々地上とか海中に出て人類を滅ぼすための偵察をしているところを目撃されるのね。だから南極の大空洞にアーティファクトがあるなら、ニンゲンが作ったアーティファクトで間違いない。ニンゲンは精神感応(テレパシー)で会話するから、精神防御アーティファクトを作ったのもたぶんそれに関係した理由」


「……三景ちゃんは物知りだね」

「勉強してるから。これぐらいはね?」


 目を輝かせて早口にまくしたてる三景ちゃんを、燈華ちゃんは優しく褒めた。

 三景ちゃんは鼻をすすりながらドヤ顔を披露してくれる。

 シゲじいがやれやれ、と首を振り、栞は無言で微笑む。


 コレにこちらで用意していたカバーストーリーを被せるのも無粋か。三景ちゃん説もロマンがあっていいと思います。ひとまずそういう事にしておこう。


 GPSを頼りに目的の地点に到着したら、全員戦闘スーツに瞬間換装する(三景ちゃんはシゲじいの背中から下りた)。そして燈華ちゃんが他三人に耐熱付与をした上で炎を吹き上げ、分厚く積もった氷床を溶かして地下へ直下掘りしていった。

 南極大陸には数千万年に渡って降り積もった雪が1000~2000mもの氷の層を形成している。南極の「雪」を踏むのは簡単だが、「土」を踏むためには最短でも1000mは掘らなければならない。

 スカイツリーが634mと考えるとどれだけ深くまで掘らなければならないのかよく分かる。いくら熱掘削機と化した燈華ちゃんでも1000mを溶かして掘り抜くのは大変だ。

 という訳で、地下空洞といいつつその実態は地面の下ではなく地面と氷床表面の中間地点、深さ400mほどの位置にできた氷の大空洞だ。急ピッチの念力掘削で作ったのでディティールに凝る暇がなく、不自然なまでにつるりとした楕円形の空洞になっている。これはこれで神秘的だから良し。三景ちゃんの言った通り、人類を凌ぐ英知を持つニンゲンの卓越した掘削技術による空間なのかも知れない。


 天井の一角をぶち抜いて落下した四人は、三景ちゃんの多重展開影板クッションでダメージなく着地し、物珍しそうに周囲を見回す。燈華ちゃんの赤い炎の光を長い年月をかけ固まった透き通った氷の壁が吸い込み、幻想的な宝石のようにゆらめく。


「綺麗ね……これが自然にできたものではないとしたら、建造者とは気が合いそうだわ」

「ニンゲンと!?」

「人間と」


 三景ちゃんと栞の会話が噛み合っているようで噛み合っていない。

 燈華ちゃんは前回のアーティファクト捜索、つまり遺跡イベントで月夜見と世界の闇亜種に散々苦渋を飲まされているため、落ち着きなく周囲を歩き回り、見回して、足元を蹴ってみたりして安全確認をしている。不安そうだ。


「狭間さん、私がここで戦ったら熱で天井が崩落する危険性があると思うんです。もしもの時は私も動きますが、基本的な危機対応は任せていいですか?」

「もちろん、任せたまえ」


 シゲじいは力強く頷いた。でもシゲじいは任せちゃダメな時でも力強く頷くからな。いまいち信用できない。

 燈華ちゃんも俺と同意見のようであーだのうーだの何か言いたげに言葉を漏らしていたが、結局信じる事にしたらしく周囲の本格的な探索を開始した。


 とはいえ繰り返すが超手抜き工事の空洞なので、特に迷路は無いし隠し通路や部屋分けもない。本当に単純に楕円形の空洞があるだけだ。そしてその中心部の氷の棺に見慣れない不思議なデザインの銀製のネックレスが収められている。一昨日インドの宝飾店で買った。


 小一時間かけてじっくり大空洞を見て回った四人は、中心の棺の周りに集まった。

 疑心暗鬼に染まった燈華ちゃんはすっかり罠だと思い込んでいる。


「こんなに簡単に手に入るとは思えません。ネックレスを持ち出した途端に敵が出るか、空洞が崩壊するか」

「あ、それ映画で見た事ある」

「私は体験した事もあるから」


 遺跡崩壊からの大脱出は大変でしたね。

 女子三人が慎重論を出す中で、やはり棺からネックレスを取り出す危険な役目を名乗り出たのはシゲじいだった。


「足震えてるよ、怖いんでしょ。私が取ろうか?」

「いや。老骨に寒さは堪える、手早く済ますとしよう」


 三景ちゃんの気遣いが逆にシゲじいを煽った。黒いモヤを氷を透かして棺の中に送り込み、手元にネックレスを空間転移させる。


「…………」


 全員、緊張して身を固める。

 しかし何も起きなかった。

 うむ。準備時間も無かったし、崩壊大脱出も二番煎じだしね。特に罠とか敵とかそういうのは用意してないです。ちょっと物足りないかも知れないけど、本日はお手軽南極ツアーを楽しんでお帰り下さい。特に燈華ちゃんと三景ちゃんは明日学校あるしね。早めに帰ろうか。


 四人は警戒しながら縦穴の真下まで行き、三景ちゃんの影で作った気球に燈華ちゃんが炎を送る熱気球で上にのぼっていった。なんかムダにデカい穴開けて降りてくなー、と思っていたら、帰り道に気球を使える直径を確保していたらしい。かしこい。

 気球は地上に出て、美しいオーロラを一望しながら空中に停留する魔法城まで登っていく。


 ふとオーロラから視線を下げた三景ちゃんは目を丸くして固まった。地吹雪の合間に一瞬、複数の巨大な白い人影が気球を見上げているのが見えたのだ。しかし人影はすぐに吹雪に隠れて見えなくなり、風が鎮まった時には見えなくなっていた。


 あれは極地の地形が見せた目の錯覚か?

 それともまさか本当に……


 謎を孕みつつ、一行のインスタント南極探検は終わり、俺は念力製急造人体模型を解体して雪に戻した。

 さあ、熱いココアを用意して四人を迎えよう。


 魔法城のワープゲートを使い、四人は天岩戸に戻ってきた。地下階段を上がり酒場フロアに戻ってきた四人を俺とクマさんで出迎える。


「おかえり」

「お帰り」

「お帰り、お母さん!」


 出迎えの声が、一つ多かった。

 振り返ると、セーラー服姿の凛ちゃんがいた。


「……?」


 視線を戻すと、雪山装備の栞がいた。


「……!?」


 二度見する。

 え……!? 凛ちゃんと栞が同時に居るぞ!?


「凛、どうしてここに? 屋敷で寝ていなさいと言ったでしょう」

「ごめんなさい、お母さんが心配で来ちゃった」

「あらあら、しょうがない子ね」


 しょぼんとする凛ちゃんの頭を栞が優しく撫でている。

 有り得ない光景を俺以外の誰も気にしていない。

 なんだこれは? おかしいぞ! じ、次元の歪み? 分身?


 念力で二人の超能力原基を触ってみる。

 栞の超能力原基(ストップロテイン)は時計のようにカチコチと機械的に脈動していて、凛ちゃんの超能力原基は振り子のようなゆっくりとしたリズムで精密に拍動している。

 別……人……?


「凛、お前、俺の娘なのか……?」

「え? そうだけど?」


 全員が不審そうに――――凛と栞は心無しか悪戯っぽく――――俺を見てくる。

 言ってたけど。

 確かに最初から言ってたけど!

 道理で凛ちゃんが可愛いと思った! そりゃ自分の娘なんだから可愛いに決まってる!


「栞、ちょっと」

「はいはい」


 手招きしてカウンター裏に呼ぶと、栞は素直に来た。

 事情を説明してもらおうか!!!

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