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05話 運命再編

 熊野左京(53歳独身)は秘密結社『天照』の協力者である。白髪交じりの髪を後ろになでつけ、彫りが深く厳つい顔をしている。その筋骨隆々の巨体を見た者は名前通りクマを連想するだろう。いつもは古馴染みの格闘道場の指導官をしている。

 彼は元警察官のコネを活かした捜査協力や秘密結社構成員の格闘指導を行う他、俺が地下酒場『天岩戸』を留守にする時はマスター業を代行してくれる。最近では翔太くん達の進路相談もしているらしい。


 地味に秘密結社を支えてくれている人ではあるが、毎度の秘密結社イベントで目立つ人では無い。前職の経験からマッチポンプの真実を見破る可能性が高いのである程度意図的に遠ざけてもいる。

 クマさんはあくまでも天照の協力者であり、構成員ではないのだ。超能力持ってないし。


 天照の未来人イベント導入はそんなクマさんから始まる。

 その夜、クマさんは格闘道場の施錠をして家路についていた。着古した灰色のロングコートの襟を立て寒風を防ぎ、巨体を猫背気味に丸め前かがみになってのっそり小道を歩く。山から下りてきて街中に迷い込んだクマのようだ。


 そのクマさんの前方数メートルのドブ板が突然吹っ飛ぶ。排水溝から現れたのは黒い不定形の怪物、世界の闇だ! 世界の闇は不気味に蠢き膨らみ、クマさんを上から押し潰すように――――


「シッ!」


 ――――襲い掛かった瞬間、クマさんの正拳突き一発で吹き飛んで霞になった。

 音の壁を突き破ったソニックブームが銃声のようにビルに挟まれた小道に反響して、突風が吹き荒れ窓ガラスをガタガタ揺らし土埃を舞い上げる。全盛期の親分のパンチみたいだ。

 もちろん異常な威力にはカラクリがある。クマさんは希釈念力燃料がセットされた手甲型PSIドライブを常に持ち歩いているのだ。

 世界の闇を目にしたクマさんは即座にコートの下に手を突っ込み、手甲を右手に装着。構えて、突いて、倒した。会敵して三秒の早業である。


 絶対に着装訓練しまくってこういうシチュエーションのイメトレしてただろ!

 そうでもなければいくら常在戦場の心構えがあるといってもここまで素早く倒せる訳がない。

 やっぱりクマさんもこういう『日常に突如として現れた異常事態に華麗に対処する』シチュエーション好きなんすねぇ! 瞬殺だよ瞬殺!


 まあ先陣が瞬殺されてもおかわりあるからいいんだけど。


 植え込みから滲みだす世界の闇。

 看板の陰からひょっこり世界の闇。

 雨樋から絞り出されるように世界の闇。

 屋根からもったりこぼれ落ちる世界の闇。


「ぬぅあああッ!!!」


 クマさんは鋭い突きの連打で三体を吹き飛ばしたがそこで四発分の燃料を使い切る。

 残る一体は貫手で表皮を突き破り石の核を抉り出し、最後の抵抗に水の触手で締め上げられる中、壁に叩きつけて破壊した。


 無能力者とは思えない無双乱舞をしてるとこ本当に申し訳ないが、物量に負けてピンチになるまで無限に湧いて出るぞ。ピンチになってもらうための演出ですまんね。

 咳き込みながらよろめくクマさんに更におかわり。前から横から後ろからうぞうぞと追加の闇が現れる。


 最近ババァが俺の骨を使った全自動世界の闇を開発しているらしいが、まだ全て手動で操作している。百体ぐらいで一気に襲い掛かる絶望的シチュエーションをやりたいところだが俺の脳みそスペックが足りずにそこまで同時操作はできない。3~4体で波状攻撃が一番無理がない。


「馬鹿な……! 何体いやがる!」


 それでも十分に絶望感は演出できたようだ。

 完全包囲されたクマさんは構えを取りつつ冷や汗を流している。

 シゲじいあたりに救難要請を出せば空間転移で間に合わない事も無いかもしれないが、クマさんを締めあげた時にスマホはスリ取って植え込みの陰に転がしてある。拾い上げる隙は流石に無い。

 叫び声を上げ一般人に助けを求めるのも悪手だ。世界の闇は恐怖を喰らって狂暴化する、という設定がある。人を襲う黒い不定形の怪物を目にして恐怖を感じない奴は早々いないだろう。下手に助けを呼べば狂暴化を招き、派手に暴れ出す。あとそもそも一般人が助けに来たところで足手まといにしかならない。


 要するに絶体絶命の大ピンチだ。


「お困りのようですね!」


 そこに颯爽と現れる未来人!

 そのセーラー服の美人さんは街明かりを背に屋根の上に仁王立ちして、黒髪とスカートを夜風にはためかせていた。逆光で顔はよく分からない。


「くっ、いかん! 逃げろ!」


 一般人の乱入だと思ったらしいクマさんが焦って叫ぶが、謎のセーラー服の乙女は時間を早送りしたような不自然な素早さで壁を駆け下り、銀色の短剣で世界の闇を全て切り払った。一人だけ時間の流れが違う。


 なんやその新技ァ! いつのまに時間加速なんてできるようになったんだ?

 ……いや、俺だって訓練を続けて空間攻撃耐性つけたし、翔太くんや燈華ちゃんだってますます能力に磨きをかけている。栞が成長していないと思う方がおかしいのか。

 久しぶりのイベントメインキャスト抜擢に合わせて新技披露する栞はとてもかわいいと思います。


「お怪我は?」


 世界の闇を一掃した栞に尋ねられ、初めてクマさんはその顔に気付いたらしい。

 感謝の言葉を述べつつ渋面を作る。


「妙にタイミングが良いじゃないか。俺が追い詰められるまで待ってたのか?」


 そうだよなクマさんならそこ疑うよな。

 その通りなんだけど違います。

 栞はナイフを手でくるくる回して弄びながら謎めいた微笑みを浮かべた。


「待ってたというか知ってたんですよ。本来の時間軸で、今夜クマさんは暴走しつつある世界の闇の最初の犠牲者になる。お父さんが闇に呑まれる最後の一押しにもなる……助けられて良かった」

「何を言って……?」


 クマさんが改めて頭二つぶんも自分より小さな栞を見下ろし、じろじろ眺める。

 セーラー服を着ているのに栞だと勘違いしているのは普段の服装が服装だからだろう。

 しかし口調が違う声音が違う。髪の長さが違う。顔立ちもとてもよく似ているが違う。

 全体の雰囲気が栞よりも若く見えるのだ。


「……君は、誰だ?」


 クマさんは慎重に尋ねた。

 栞はスカートの端をつまんで優雅に一礼し、衝撃の事実を告白した。


佐護(さご)(りん)。佐護杵光と佐護栞の娘です。未来から世界の終末を阻止するために来ました」

本章のメインキャラ紹介!


・佐護 凛 (??歳)

 かわいい。


以上ッッッ!


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― 新着の感想 ―
クマさんめっちゃ優秀な描写なのに、それに違和感なく違和感を感じさせる鏑木さんマジパナイっす。
[一言] もう子供の名前決まったね❤️
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