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12話 合流

 三景ちゃんは既に世界の闇と何度かやり合い、日本人が滅多に経験しない「命懸けの戦い」という状況に慣れている。教室に閉じ込め本性を剥きだしたテロリストくんに素早く反応し対応できたのはそのおかげだろう。完璧に不意を突かれたエビせんとは格が違う。ちょっと疑ってたしね。だから教室の照明スイッチ入れて影能力を使いやすくしてたんだろうし。


 一方ババァを狂信するテロリストくんは三景ちゃんが超能力者だと知らされていない。超能力者が紛れている事は知らされているが、それが誰か、どんな能力なのかは分かっていない。

 だから三景ちゃんの影が立ち上がり殴りかかってきたのを見たテロリストくんは素でガチビビりしたし、悲鳴を上げて発砲した。

 無理も無い。顔色が悪く、チビで、見るからに病弱そうな頼りない少女が突然影の怪物を召喚したらそりゃビビる。ぷるぷる震えるハムスターを捕まえようとしたらいきなりゾンビが現れ襲い掛かってきたようなものだ。ホラー以外の何物でもない。


 もちろんパニック状態で撃つ弾丸が当たる訳が無い。当たってもどうせ空包なのだが、とにかく半狂乱の発砲は外れた。

 大混乱のテロリストを三景ちゃんは影ですっぽり包み込み、500mlペットボトルを持ち上げるのがやっとの貧弱パワーで全身をモニモニし始めた。外から見るとテロリストが蠢く影に包まれ凄まじい悲鳴を上げている酷い絵面だ。

 全身をふんわりマッサージされているだけでダメージはゼロなのだが、テロリストは空包を闇雲に撃ち尽くし喉が枯れるほど叫び失禁していた。


 これは怖い。

 俺は三景ちゃんの影が攻撃力ほぼゼロのクソザコナメクジパワーしかないと知っているから呑気に眺めていられるが、何も知らないテロリストはそりゃもう死ぬほど怖いだろう。人智を超えた影の化け物が襲い掛かってきて食われて目の前が真っ暗になって何も見えなくなり、噛み砕く前に舌で嬲られている、と言った心境だろうか。

 いやこえーよ。俺がコレやられたら発狂して全方位念力ぶっぱする自信あるぞ。


 しかし問題は決定打が無い事だ。

 三景ちゃんは病弱少女である。貧弱で、格闘経験なんて無いし、護身用のスタンガンとかナイフとかそういう物も持っていない。テロリストを影で包んでモニモニするところまでは素晴らしく素早かったが、その後にどうすればいいのか分からないといった様子でまごまごしている。

 しばらく迷っていた三景ちゃんは、教室の椅子をふらつきながら持ち上げ、影に包まれて暴れているテロリストの頭(と思われる位置)にもっさり振り下ろした。


 もちろんこんな貧弱な攻撃で人は倒せない。ヘルメット被ってるし。

 が、それでは話が進まないので、椅子の命中と同時に念力で殴って強制ノックアウトした。イベントチュートリアル戦闘だからね。さっさといこう。


「……倒した?」


 倒れて動かなくなったテロリストから影を戻し、三景ちゃんは疑わしげに呟いた。

 それから距離を取ってじろじろ見た後、椅子でもう一度頭を殴った。容赦ねぇな。

 テロリストが動かない事を確認した三景ちゃんは真っ先にエビせんの安否確認をした。跪いて脈を取り、呼吸を確かめる。

 そうして大事ない事を確認してほっと息を吐いた後、不安そうにテロリストのボディチェックを始めた。


 所持品はコンバットナイフ、空包×20発、実弾(と書かれた弾納に入った空包)×20発、携帯食料、救急品セット、無線機、作戦計画書。

 三景ちゃんは気絶したテロリストを横目で警戒しつつ、それっぽくメモ書きが入った作戦計画書を読み始めた。


 作戦計画書にはテロリスト役の警備員達を制圧し、成り代わって学校に侵入する事。そして葦ノ原学園に通う有力者の子女を人質に取り、身代金を集めて海外に高飛びする事が書かれていた。


 最後まで読んだ三景ちゃんは最初から読み直し、更にもう一度読み直した。

 そして制服のポケットからスマホを取り出し、震える指で110を押す。

 が! ダメ! 電話は繋がらない!


 電波妨害機(一機あたり¥4980)を校内全域に仕掛けてあるからな。鏑木さん主導で各教室に設置されたエアコンの中に仕込まれているとは想像できまい。校庭にはスプリンクラー埋設のついでに埋めたし、その他耐震工事や電気工事にかこつけて設置してある。なおもったいないからイベント終了後に回収予定。


 三景ちゃんはおろおろと教室を歩き回り、教卓に入っていた使いかけのガムテープを見つけてテロリストを縛り上げた。それから教室のドアをそーっと開けて外の様子を伺い、足音を忍ばせて廊下に出る。

 シゲじいに救援を求めに行くのかと思いきや、向かったのは職員室だった。

 対応が常識的だ。縛り上げてあるとはいえテロリストの横にエビせんを転がしたままにしておくのはちょっとどうかと思うが。


 立ち止まっては耳を澄まし、時折遠く聞こえる銃声に怯え、曲がり角ではたっぷり時間をかけ、二分で行ける道のりを十分かけた三景ちゃんは無事テロリストに見つからずに到着した。

 職員室に集まっていた先生方は、入ってきた三景ちゃんに顔を見合わせた。若い先生の何人かは「めんどくせー奴来ちゃった」という表情を隠しきれていない。鏑木さん肝いりで入学してきた日之影三景は先生の間で有名なのだ。良くも悪くも。職員会議でも時々話題にのぼる。

 目で牽制し合い、負けた一年一組の若い担任教師が三景ちゃんに声をかけた。


「何か用事かな?」

「この学校の防犯どうなってんの?」


 職員室に入って威勢を取り戻した三景ちゃんがテロリストの計画書を押し付ける。

 ざっと読んだ教師はちょっと面白そうに笑った。


「こう来たかー」

「どうしたんです」

「テロ役の人もけっこう凝ってますね」

「どれどれ」

「ふむふむ……うーん、つまり本物だと思えって事でしょうか」


 教師達が計画書を囲んでわいわい意見交換を始める。誰も本気にしていない。

 緊張感の無いお気楽な空気にイライラし始めた三景ちゃんに、一組の担任が尋ねる。


「テロ役の人はなんて言ってたのかな?」

「いやだから本物なんだってば。わかんないの? それテロリスト倒して奪ったやつだから! 実弾も持ってた! 学校が本当に危ないの! 真面目にやって!」

テロリストを倒した(、、、、、、、、、)? 倒しちゃった? 海老名先生が?」

「いや私がやったけど、そうじゃなくて、」

「あのね、これはテロリストを倒す訓練じゃないんだよ。逃げて通報する訓練なんだから。ダメでしょそんな事したら。海老名先生はどうしたの? 海老名先生にこの紙を職員室に持って行けって言われた?」

「エビせんは襲われて倒れてる。だから、」

「あー、赤旗貰っちゃったかぁ」

「ちっがぁう! だから! 本物なの!!!」

「あー、そうだね。本物だから危ないね。日之影さんは、そうだな、ここより校長室に隠れた方がいいかな。教頭先生、校長室が一番安全な設定でしたよね?」

「話を! 聞け!」

「こら、先生にそんな口きいちゃいけません」


 エキサイトする三景ちゃんに反比例するように教師達は冷めていく。訓練を本気にして引っ掻き回す痛い奴扱いだ。


「んにぃぃぃい! もういいっ!」


 怒った三景ちゃんは職員室を飛び出して行った。

 一組の先生が追いかけようとしたが、不思議な事に職員室のドアが開かず、追跡に失敗する。

 不思議だな! 三景ちゃんは普通に開けて出てったのにな! 三景ちゃんが乱暴に閉めたからドアが歪んだんじゃないですかね!!!


 さて、少し回り道をしたが三景ちゃんはコソコソとシゲじいのいる用務員室に向かった。なんだかんだ事件発生から一時間が経過している。


 用務員室にぬるりと入った三景ちゃんを、シゲじいは椅子に腰かけお茶と煎餅でまったりしながらにこやかに迎えた。


「サボタージュ、というやつかな? うむ、うむ。どーれ、ケーキを出してやろう」

「待って今それどころじゃない」


 冷蔵庫を開けて三景ちゃん用に買い置きしていたチーズケーキを出そうとしたシゲじいが訝し気に振り返る。


「テロリスト本物だった。学校が危ない。嘘じゃない本当に、」

「詳しい話を」


 不安を滲ませた三景ちゃんの言葉を、シゲじいはすぐに信じてこたえた。

 ここからが対テロリスト戦の本番だ。

誰がのびちゃんの言うことを疑うもんですか

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