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10話 光と闇が合わさり最強に見える

「鏑木さん、一時停止」

「何かしら」


 鏑木さんに一度時間を止めてもらい、相談タイムに入る。争奪戦イベントなのに共闘はやめて欲しい。阻止しなければ。


「共闘は妨害したい。どうすればいい?」

「……理由は?」

「協力されたら簡単に最深部まで行っちゃうだろ。それじゃつまらん。俺も、たぶん現地組も」


 罠や謎解き、亜種闇くんなど、設置したギミックは全て二人一組で進む事を前提にした難易度だ。四人が力を合わせたら一気に難易度が下がる。

 鏑木さんは不思議そうに首を傾げた。


「もしかして共闘パターンは予想していなかったの?」

「え、鏑木さんはしてた?」

「もちろんよ。半年準備期間があったのよ? イベント管理は心配しなくても大丈夫、何が起きても私がリカバリーするわ」

「おお……!」


 あっさり言ってのけた鏑木さんが猛烈に頼もしい。絶大な安心感だ。めちゃめちゃ頼りになる。

 月夜見結成騒動の時に鏑木さんがサポートしてくれたら何倍も楽だったんだろうな。そういう訳にもいかなかったのは分かっていても想像してしまう。


「アーティファクトは一つなのだから、どの道最後は争奪戦になるわ」

「それはまあ。でも罠は簡単に突破されるんだろ?」

「そうね」

「頑張って作ったんだけどなぁ……」


 悲しい。


「罠は残念だけど、代わりに会話が面白くなるわ。私はこのルート好きよ」

「会話?」

「解説するより実際に見た方がいいわね。時間戻すわ」


 時間の流れが元に戻り、天照と月夜見の交渉が始まる。よく分からんが、鏑木さんが共闘ルートでも面白くなると言うなら面白くなるのだろう。正直対立ルートに行って欲しいが、共闘ルートを見守る事にする。


「未来予知ぃ? 本当かよ。じゃ、俺が次何言うか当ててみろよ」

「あ、今は無理。そのー、疲れてるから」

「ハッ! 嘘くせっ!」


 翔太くんは鼻で笑い、冷気を伸ばしクリスの忍者装束の端を凍らせはじめる。追い詰められた忍者は洞窟の壁まで下がれるだけ下がって白状しはじめた。


「ウソウソウソごめん嘘ついたごめん本当はみやっ、デブと合体技だから今はダメなんだ、未来読むのはすっごい消耗激しいからデブの音楽無いと使えなくて、デブの音楽聞いてると超能力使ってても疲れないから、そういう訳だから、デブの音楽聞いてないと未来読めなくて、だから今は未来読めない……です、はい」


 しどろもどろに全部ゲロったクリスの眼前に翔太くんが詰め寄る。覆面越しに目を覗き込み、冷たい手を首に当てた。


「本当だな? 嘘ついても目を見ればわかるんだぜ?」

「うっ……」


 クリスが息を飲んだ。騙されてる騙されてる。

 クマさんから学んだカマかけテクニックがクリスを追い詰めるッ!


「本当本当嘘ついてない今度は本当に本当だから! 嘘じゃない! もう嘘なんてつかない! 誓う!」

「って言っといて信じた三秒後に奇襲かけてくるんだろ? やっぱ氷像にしといた方がいいか」

「待って」


 圧をかける翔太くんを、見山の背中をさすって水を飲ませていた燈華ちゃんが制止した。

 クリスをまっすぐ見て言う。


「未来予知ができるなら協力した方が良いと思う。通信も止まったままだし、情報で有利が取れるのは大きいんじゃないかな。この遺跡は何があるか分からないよ」

「協力しても絶対途中で裏切るだろ。目玉焼きにソースかける奴は殺すしかない! とか言って」

「言わない言わない! 僕ソース派だから」

「は? 異端かよ。殺すしかねぇな」


 翔太くんの低い声に少しビクッとしてしまった。翔太くんの前でソースはかけないようにしよう。いやたぶん冗談だとは思うが。

 燈華ちゃんは呆れた様子で疑惑全開の翔太くんのスーツを引っ張って下がらせ、リュックから仏像を出した。


「どうしてそんなにイジメるの? 簡単な話でしょ? 仏前で誓って貰えばいいだけなんだから。忍者さんとデブさん。私達と本当に協力するつもりがあるなら、もう二度と嘘はつかない、遺跡を出るまで誠実に協力するって御仏に誓って」


 仮面とフードに隠されて燈華ちゃんの表情は分からないが、聖職者じみた静謐な雰囲気だった。

 そう来たか。ヤベーぞ月夜見、これ迂闊に誓って破ると燈華ちゃんがブチ切れ


「はい誓います。もう嘘はつきません。誠実に協力します。宣誓! 僕達は!」

「日頃の訓練の成果を十二分に発揮し!」


 手を上げ宣誓のポーズを取ったクリスに続け、息を整えた見山もノリよく迂闊に唱和し始めた。

 そうだよな。そういう奴らだよお前らは。知ってた。もう裏切られた燈華ちゃんが般若になるところまで見える。未来予知がなくても分かる。


「超能力者精神に則り!」

「嘘をつかず!」

「誠実に!」

「遺跡を脱出するまでの間、正々堂々と天照と協力する事を誓います!」


 宣誓を聞いて満足げに仏像をしまい、クリス&見山と握手を交わす燈華ちゃん。翔太くんは頭を抱えた。


「宣誓も嘘だったらどうすんだよ」

「それも簡単。地獄の果てまで追いかけて仏の前に引きずり出して懺悔させる」


 ひえっ……こわい……


 流石に仏前の誓いは絶対に破られない、みたいな妄信はしてないか。ここで手放しに月夜見を信じるようだったらババァの裏切りイベントをやった意味が無かった。


「ん? 待てよ、さっき天照って言ったか? 俺達天照なんて名乗ったか?」

「言ってた言ってた。言ってなきゃ分かんないって」


 訝しむ翔太くんにクリスは冷えた体を燈華ちゃんの炎で温めてもらいながら気楽に答えた。

 言ってないんだよなぁ。いきなり嘘つくんじゃないよ。

 不安の塊のような協力体制だったが、とりあえず光と闇の秘密結社が共同戦線を張る事が決まった。








 案の定、仕掛けた罠やギミックの数々は四人の協力体制の下で無いも同然に突破されていった。

 骸骨は九秒前に襲撃を察知され、登場と同時に燈華ちゃんに焼き払われ退場。

 月夜見が落とした橋は燈華ちゃんが一人ずつ抱えて炎噴射で空を飛び難なく通過。

 一行を押し潰そうと転がってくる大岩は翔太くんが絶対凍壁エターナルガードブリザードで止め、燈華ちゃんが溶断して処理。

 見山は後ろでひたすらギターをかき鳴らしているだけだが、もしかしたら一番貢献しているかも知れない。何しろ見山が音楽を奏でる限り消耗を考えず必殺技を連発できるのだ。超能力者にとってこれほど有り難いサポートは無い。

 なお、イグは順調過ぎて誰も負傷しないので出番がなく、リュックの中でリンゴを齧ったり眠ったりしている。完全にもしもの時の回復薬だ。まあそういう役割を期待しているからそれでいいんだが。イグの出番は当分ない。


 天照の地図とクリスの未来予知であまりにスムーズに探索が進むため、割と真面目に働く月夜見に天照も過剰な警戒をやめ雑談交じりの情報交換をしていた。もうお互いの組織名と、アーティファクト回収が最終目標である、という共通認識は得ている。

 遺跡を脱出してから改めて正々堂々と決闘する、という取り決めをしていたが絶対嘘だぞ。俺が月夜見が途中で裏切る方に千円って言ったら鏑木さんが賭けにならないって笑ってたし。


「え、待って? お兄さんの名前もう一度言って?」

夜久(やく)夜久(よるひさ)。偽名だけど最近はそれで通してた」


 苦労して作ったギミックの数々が心が涙を通り越し虚無と化すほど短時間の内に突破されていき、あれよあれよという間に洞窟エリアも終盤になった。一行は最後の難所、納骨堂エリアの手前まで来ていた。

 本来は扉を開いた瞬間突風で吸い込まれ中に閉じ込められ納骨されていた骸骨の群れとの乱戦を強いられる仕様だったのだが、クリスがそれを読み、翔太くんが扉に手を当て中に冷気をせっせと送り込んでいる。燈華ちゃんとクリスは手持無沙汰に雑談だ。

 見山のせいで惜しみなく最大出力で冷却できているため、扉越しでもガンガン納骨堂内部が冷えている。骸骨の群れを全て凍結封印してから踏み込む鬼畜の所業である。

 ああ、遺跡攻略前半最大の山場が何の山場も無くクリアされてしまう。酷い。


「そっか。月夜見にいたんだ」

「何? 兄貴と知り合い?」

「うん。でも弟がいるなんて聞いた事無い」

「弟ぉ? 嘘つけさっき見た時お前の目青かったぞ。日本人じゃねーだろ」

「兄貴とはお母さんが違うから」

「あ……すまん」


 翔太くんが複雑な家庭だと想像したらしく気まずそうに謝った。母親どころか父親も違うんだよなぁ。クリスと俺は赤の他人だ。クリスの事は妹のように思っているが。

 燈華ちゃんは俺の家庭事情に興味津々らしく、凍結を終わらせた翔太くんと交代で扉の前に立ち、凍り付いた扉を炎剣で溶断しながら更に突っ込んで聞いた。


「ねえ、忍者さんから見てどういうお兄さんなの?」

「優しい兄貴かな。僕が困ってたら助けてくれるし、お菓子盗っても怒らないし、あとは、あー、なんか『てんいわと』っていうドスケベなお店に通ってた」


 おっと鏑木さんの視線が痛いぞ。違います誤解です。


「ええ……知りたくなかったそんな……

 …………。

 『てんいわと』ってどういう字?」

「天国の天に、石の岩、扉の戸。十一歳の女の子が全裸で抱きついて来るお店なんだってさ」


 翔太くんと燈華ちゃんの目線がイグが眠るリュックのポケットに集中する。

 はいそういう事ですね。誤解が解けて何より。危うく秘密結社のボスの威厳が消し飛ぶところだった。


「開いた。忍者さん」

「はいはい一番槍ね分かってますよー」


 扉を円形に溶断して通り道を作った燈華ちゃんがクリスに先を譲った。燈華ちゃんと手を繋ぎ42℃の炎を纏わせてもらい、極寒の空気から保護されたクリスが納骨堂に慎重に足を踏み入れる。

 壁一面に朽ちかけた木製の棺が納められた納骨堂は一面真っ白な霜で覆われ、動く物は何もなかった。というか動かせる物が何もない。もちろん念力の出力を上げれば凍結封印を強引に破って骸骨乱舞ができるが、納骨堂の骸骨のカタログスペック上では動けない計算になっているのでやめておく。数で押す雑魚が必殺技を破ったらバランス壊れる。


 クリス、燈華ちゃん、翔太くんの順番で静謐冷厳な納骨堂を進んでいくのだが、一人見山が遅れている。見山は運動不足の豚がピザを食べながらデブの上を歩いているような荒い呼吸をしていた。

 翔太くんが振り返って見山を急かす。


「おせーぞデブ」

「うるせぇ何時間歩いてると思ってんだ。こちとらもう若くねんだぞ」


 それな。見山の言葉がちょっと他人事じゃない。なんで昔はあんなに無尽蔵に動けたんだろうな。おじさん正直ビーチバレーの疲れがまだ抜けきっていないぞ。最近念力補助に頼って運動をサボリ過ぎてたかも知れない。

 鏑木さんを見習ってジョギングの習慣をつけるべきかと思いつつめんどくさくて後回しにしている内に結局やらずに終わる俺の意志薄弱さよ。念力訓練ならいくらでも頑張れるんだが、念力のネの字も無い運動はモチベが上がらん。


「つかえねー。月夜見の程度が知れるな」

「あ? 舐めんなあのお方が本気出せば天照なんぞ小指で吹き飛ぶぞ」


 おっと!?

 聞き捨てならない言葉が飛び出し、俺は思わず身を乗り出してしまった。

 出たよ! 出ましたよ『あのお方』!

 一生に一度は生で聞きたい思わせぶりな代名詞No1(佐護調べ)!

 ははぁん! 「月守」とか「親分」とか、どう呼んでも天照に情報を与えてしまう! 情報流出を防ぐためにボカしまくった結果「あのお方」呼びになった訳だ! 

 なるほど、これは確かに天照&月夜見の共闘ルートに入らないと聞けない激レアボイスだ。興奮してきた。


「誰だよあのお方。忍者の兄貴か」

「あのお方はあのお方だ。お前如きがあのお方の御尊名を知ろうなんざ恐れ多い」

「はー? デブがもったいぶりやがって。焼き豚にすんぞ」

「うるせぇなテメーもボスとかマスターとかふにゃふにゃ誤魔化してんだろが。誰だよボス。缶コーヒーかよ」

「教えてやんねー」

「クソガキ」

「デブ」

「溶けちまえ人間製氷機」

「そういう事は火の真理に到達してから言え」

「……なんて?」


 一行は賑やかに罵り合いながら納骨堂を抜けて行った。

 さあ、ここから後半戦。海賊洞窟区画を抜け、アーティファクトが隠された古代文明区画へ突入だ。

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[気になる点] 月夜見が落とした橋は燈華ちゃんが一人ずつ抱えて炎噴射で空を飛び難なく通過。 これ氷の橋とかにしないと裏切っても逃げきれないような
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