06話 力が欲しいならおかわりもいいぞ
キャロルちゃんをアイリーンママの元に返した直後は、我が子を抱きしめむせび泣いて喜ぶ母と反比例するように月夜見メンバーはお通夜ムードだった。
事後処理ができなかったからだ。月守組から子供を誘拐し、その直後に子供を奪還されたら、誰だって月守組が反抗して取り返しに来たと分かる。そうなれば谷岡組と敵対確定、月守組は死ぬ。キャロルちゃんを助けた事により、月守組は圧倒的暴力に蹂躙され滅亡するのだ。
死んだ顔に空元気を貼り付けアイリーンからの感謝の言葉を浴びている親分に、クリスがにじり寄って耳元で囁く。
「ごめん親分、親分が大事にしてたカタナ勝手にもってっちゃった」
「……あれは俺の爺さんの形見だったんだが」
「ヴェッ!? お、折ってごめんなさい!」
「俺達を助けるためだったんだろ、立派な散り様だったさ。気にするな。もっと不味い問題が控えてるんだからな……」
「いくらなんでもこれは笑えねぇなあ……」
「そうだよどうするんだこれ」
いや、ホントに。
事態を解決したら事態が悪化したぞ。どうなってるんだ。
もう面倒臭い。何もかも面倒臭い。どうして世の中は悪い奴を倒してハッピーエンドにならないのか。
「お困りのようじゃな?」
葬式の方がまだ明るい死んだ空気の中に、ババァがまとわりつくキッズ達を引きはがして追い払いながらひょっこり顔を出した。
「親分よ、クリスを救援に行かせたのはワシじゃ。ワシは種族柄耳が良くての、お主らの話を盗み聞きしておったのじゃ。すまなんだ」
「あ、ああ。そう……なのか? 助かった」
「うむ。それで事後処理の話じゃがのう、木を隠すなら森の中というじゃろう?」
「は?」
「警察に情報をリークし複数の谷岡組事務所に囚われていた者達を同時多発的に救助させた。親分達の行動はそれに紛れ目立たぬ。月守組と谷岡組の即時開戦は回避した」
さらっと言ったババァに全員耳を疑った。
話を飲み込めない俺達を置いてけぼりにしてババァは続ける。
「谷岡組のヤクザに重度のロリコンがいてのう。誑かして情報を抜いてやったのじゃ。ガサ入れ騒動の混乱が収まれば警察一斉検挙に紛れた覆面集団が浮き彫りになるじゃろうから、一時しのぎに過ぎぬが、ま、一ヵ月程度は猶予が出来たと思って良い」
数秒の沈黙を経て、親分と見山は揃って安堵の息を吐き手近な椅子に腰かけ放心した。
ババァのフォローが迅速的確過ぎる。驚愕の対応力だ。すげえよババァは。伊達に元女王じゃないな!
クリスは微笑んでいるババァに心配そうに言った。
「え、じゃあババァはアタシ達がキャロルちゃん助けてる間にロリコンド変態ヤクザを誘惑してたの? 大丈夫だった? 変な事されてない?」
「まだまだ百にもなっとらん若造にどうこうされるほど耄碌しておらんよ」
「ひゅーっ! かっこいい! よっ、年の功! さっすがロリババァ! ばーちゃんの知恵袋!」
「はっはっは、こそばゆいのう」
クリスはババァの脇の下に手を入れて持ち上げ、くるくる回し喜びの舞を踊り出した。ババァは鷹揚に笑っているが、完全に幼女と遊んであげている金髪少女の図である。
そこに脳を再起動した見山が尋ねた。
「話が本当なら大した行動力だ。見た目通りの年齢じゃないってのは薄々察してたが、本当に九百歳超えてんのか?」
「台帳に書いた通りじゃ」
「ほーん……嘘なのか本当なのか分からんなこりゃ。しっかし急な話だったのにロリコンヤクザなんてよく都合よく見つかったな?」
疑わしげな目を向けられ、ババァはクリスの腕をタップしてくるくるを終えて地面に降りる。
「それはもちろん下積みがあったからのう。ワシと夜久は記憶を失っておるのだが、調べてみればどうもあの晩あのあたりで谷岡組の抗争があったようでの。証拠に付近の住民が二発の銃声を聞いておる。ワシらはその抗争に巻き込まれ記憶を失ったと睨んでここしばらく調べておったのじゃ。件のロリコンとはその流れでツテを作っておった。銃撃に誘拐、ロリコンとは全くとんでもない悪党どもじゃのう」
「そうなのか! 俺達の記憶喪失は谷岡組のせいだったのか!」
おのれ谷岡組め!
なんて悪い奴らだ!
許せんッ!
これは成敗するしかないな!!
そして、そのためにも。
「えー、話は変わるが、言いたい事がある」
「え、なに? もしかしてアタシの活躍に惚れちゃった? えへへ、照れるぅー!」
「黙れ見習い忍者。お前らな、弱すぎ。もっと超能力鍛えろ。話にならないから。クリスにも素質あるから超能力目覚めさせて修行な。ババァが作った一ヵ月で実戦レベルまで引き上げてやる」
月夜見修行編、はじまります。
超能力の訓練は面倒を避けるために人目につかないように行うのが原則で、俺達はなんちゃら公爵とかいう知らない人が所有する手頃な環境の山に不法侵入して山籠もりを始めた(クリスだけ通い)。食料は軽トラに積んで運び、留守中の月守組の雑事はババァに任せてある。三人の修行は俺が監督して事を進めていく。
親分は基本的に筋トレ三昧だ。
墓石を背負って山道を登り、見山を背負って木を登り、滝に打たれながら正拳突きを繰り返す。
親分のムキムキンは身体強化能力だから、やる事は筋トレで事足りる。身体強化を発動させつつ、修行あるのみ。筋肉が育ちムキムキンも育つ隙の生じぬ二段構えだ。
ムキムキン発動による握力強化は95kg(無強化)→96kg(初期発動)→100kg→104kg→108kgと伸び、成長率は1.04倍と分かった。4kgの固定値で成長しているのかも知れないが、前例からして等比級数成長だろう。めちゃめちゃ低い。過去最低の成長率である。
だがムキムキンにはそれを覆す性能がある。
最初、親分は走り込みトレーニングを後回しにしていたのだが、なぜか足が速くなっていた。
ジャンプの訓練をしていないのに、ジャンプ力も上がっていた。
おかしい。普通、筋肉は鍛えた部位しか成長しない。腕立て伏せをしたら足が速くなるなんてありえない。そのありえない事が親分には起きている。
つまりムキムキンを使った身体強化は全身強化なのだ。ムキムキンを使うと脚力も腕力も全て同時に強化される。腕立て伏せしかしていなくても、ムキムキンさえ成長すればジャンプ力も走力も強化されるようになる。腕力強化訓練をして、脚力強化訓練をして……などと別々に訓練を積む必要がない。
身体強化倍率は初日1.01倍。四日目時点で1.1倍。二日毎に1.04倍ずつ成長し、修行終了予定日の一ヵ月後には1.82倍になる。単純に計算すれば一ヵ月後には、
握力95kg→173kg(世界記録192kg)
垂直跳び80cm→146cm(世界記録129cm)
ベンチプレス140kg→255kg(世界記録335kg)
瞬間最大速度38km/h→69km/h(世界記録45km/h)
となる。常識的に考えてそんなに単純に成長する訳がないのだが、常識を破って成長するのが超能力の超能力たる理由だ。
オランウータン並の握力、人類の限界を超えたジャンプ力、自動車と並走できる速力。超人だ。これなら焦って応用訓練をするより基礎訓練に集中した方が断然いい。
成長限界さえこなければ計算上一年後には強化率1271倍。マッハ39で走り、地球の重力を振り切って生身で宇宙までぶっ跳んでいけるようになるのだから。
そして素の身体能力が高いほど超能力を使った状態での力も上がるから、筋トレも重要だ。握力95kgを二倍強化するより、握力150kgを二倍強化した方が強い。当然の話だ。
筋トレと並行して戦闘訓練も行った。
本当なら格闘技を習った方がいいのだが、一ヵ月で付け焼刃の格闘技を身に着けても生兵法で怪我をするだけだろう。半端に身に着けた超能力で弱体化したように、半端に身に着けた格闘技も弱体化を招く。ゆえに、行うのは格闘訓練ではなく戦闘訓練。
念力で疑似身体強化した俺と殴り合ったり。
刃を潰したナイフで襲い掛かる俺に対処したり。
念力で飛んでくる石コロを回避防御迎撃をしたり。
食事中に唐突にモデルガンを向ける俺を取り押さえたり。
モデルガンの銃口を見て、念力で疑似発射した石弾丸を避ける練習をしたり。
他にも投網、組み付きへの対処を身をもって学んでもらい、逆に不意打ちの訓練もした。
結果身につけたのは俗に言う「喧嘩慣れ」である。
殴る事、殴られる事に慣れ、素早く判断し素早く行動できるのは大きな強みだ。
一ヵ月後、親分はなんとか谷岡組と戦う最低ラインに仕上がった。
身体強化倍率は予定通り1.82倍で依然成長中。
強化持続時間は8秒で初期値のまま。
武器も新調し喧嘩殺法を身に着けた新生親分の活躍が期待される。
基礎訓練一辺倒だった親分と違い、見山は最初は基礎訓練を、途中からは応用訓練した。
見山のサウンドーパミンは音響発生能力。基礎訓練により持続時間が延びる。最初は6秒間しか音を出せなかったが、6→9→13→20→30→45→68→102→154秒と成長。成長率は1.5倍だ。
囁き声より小さな音しか出せないクソ雑魚性能なのだが、基礎訓練の途中で想定外の副次効果が判明した事で急遽音を大きくする応用訓練に舵を切った。
なんと、見山の音を聞いていると、超能力を使っても疲れない。
きっかけは見山を背負って山登り訓練をしていた親分の身体強化持続時間が一時的に伸びた事だ。その時、見山は背負われながら音を出していた。そこから見山の音を聞いている限り、あらゆる超能力原基は――――ムキムキンもネンリキンも疲弊しない事が判明した。一度疲れてしまった超能力疲労の回復はできないが、疲労予防はできる。
親分が8秒間しか身体強化できないのに戦える理由がここにある。見山は154秒=2分34秒間音を出せる。2分34秒間は疲労を気にせず超能力を使い放題だから、親分が身体強化して戦える時間は実質154秒+8秒=162秒=2分42秒である。
ただ問題もあって、音が聞き取れなければ疲労予防効果はない。近くで音楽を流したり叫んだり暴れたりしていると見山の音はかき消され、疲労予防効果を得られない。
実戦で使うには足音にすらかき消される微音を早急に大きくする必要があった。
音を大きくする応用訓練には共振を利用した。
共振とは「振動する物体が、外部の振動と同期して更に大きく振動すること」だ。カラオケで音を合わせてデュエットするとデカい声に聞こえるのも共振である。雑に言えば、同じ音を出すと音は合体して大きくなる。
見山が出す音と同じ音をパソコンのフリーソフトで出し、共振させる。見山は共振で大きくなった自分の音を体感し、その大きくなった音をサウンドーパミンを振り絞って再現する。この方法で音を大きくする事に成功した。
応用訓練をする見山は、曰く「中二的に表現すれば荒ぶる魂が殻を貫通し渾沌を撒き散らす」ような辛く苦しい痛みがあるようだが、魂が混沌するのは超能力者共通の成長痛症状だ。我慢してもらう他ない。
一ヵ月後、見山もギリギリ谷岡組と戦う最低ラインに仕上がった。防弾チョッキと防弾ヘルメットを装備して後方で普通に喋るぐらいの大きさの音を出し続けるのが見山の仕事だ。不自然に音が出る事へのカモフラージュとしてギターも装備しておく。
爆音が出せれば攻撃もできるのだが、一ヵ月ではそこまで届かなかった。しばらくは後方支援に専念してもらう。
お前はずっと後ろでギターかき鳴らしてろデブ! この一ヵ月でダイエットもしろっつってたのに、運動した分バクバク旨そうに食うから体重変わらなかった。
一方、実戦レベルに到達した二人よりクリスは出遅れている。
高校に通い始めた事、一週間の超能力覚醒出遅れ、戦闘に使いにくい超能力に目覚めてしまった事などにより、クリスの超能力は一ヵ月で実戦レベルに到達できなかった。
フリーダム・シティ・ニンジャ・クリスが急に高校に通い始めたのは、親分が出した月夜見加入の条件だ。
曰く、クリスは六歳の時に両親に連れられ東京に来たらしい。七歳の時に両親が多額の借金が原因で蒸発。九歳まで警察から逃げ隠れしつつ窃盗やゴミ箱漁りをしてホームレスコミュニティの中で育つ。九歳の時に両親がIT事業で一山当て借金を完済しひょっこり戻ってくる。十三歳まで豪邸に住み叔父である家庭教師の教育を受ける(不登校)。十三歳の時に両親がマヤの古代遺跡を発掘してくると言い残し消える。直後、叔父がナジーン家の財産を根こそぎかすめ取り豪邸も勝手に売り払い失踪。十四歳まで年齢を誤魔化しアルバイトで生計を立てる。十四歳の誕生日、両親が顔をボコボコに腫れあがらせ酷く怯えた叔父を引きずって戻ってくる。十四歳から十五歳まで滋賀県甲賀市にある忍者の里で忍術を学ぶ。十五歳の時、忍者の里では忍者マスターですら分身の術を使えない事を知り失望、東京に戻る。ちょうどその頃超水球事件が起き、乱高下する日本の株に両親が迂闊に手を出し爆死、外国へ高飛びする。残されたクリスは混沌都市と化した東京で忍者的シティサバイバルを満喫。しかし金も悪運も尽き、あわやというところで俺に会った。
随分エキセントリックな御両親をお持ちのようで大変興味深いのだが、経歴を聞いた親分が気にしたのは、クリスが今まで一度もまともに学校に通っていない事だった。
月夜見に加入するのはいい。危険ではあるが、クリスがそうしたいと言うのなら、親分も見山も俺も選択を尊重する。
だが人生の中で一度ぐらいは学校にちゃんと通った方が良い、というのもまたオッサン組の意見が一致するところだ。
高校に通い、勉強をして、同年代の友達を作って。普通の暮らしを知り、普通の表社会に戻るチャンスがクリスには必要だ。結局裏社会に生きるとしても学歴を身に着けておくのは悪くない。しばらく高校に通ってみて、どうしても肌に合わないのなら中退してもいい。
高校はいいぞ。
俺の高校生活は灰色だったが、クリスの高校生活は間違いなく楽しいものになる。
なんてったって鏑木さんにこっそり裏から手を回して貰って、翔太くんと燈華ちゃんがいる高校に裏口編入入学したんだからな!
同じ高一でも二人は特進科だから、普通科編入のクリスとクラスは別になるが、必ず出会いはある。
というか出合わせる。
現実野郎に任せておくと多分ことごとくすれ違うだろうから、強制的に出合わせる。
そのあたりの邂逅イベントは谷岡組の問題を片づけてからになるだろうが、今から楽しみだ。
さて。
クリスが目覚めた超能力は残留思念読取。名付けてリーディングルコサミンである。物体に触れる事で、その物体の記憶を読み取る事ができる。
クリスに変異定着した超能力原基を念力で触った感触は鏑木さんのストップロテインに近かったので、特殊系能力に目覚めた事はすぐ分かったのだが、どんな能力なのか分かるまで時間がかかってしまった。しばらくの間読み取っていたのは手の周りの空気の記憶で、それが何を意味しているのか分かるまで一週間必要だったのだ。まさか「空気を読んで」いたとは。
クリスが記憶を読み取れるのは手で触れた物体のみ。物体に乗り移り目や耳や鼻などを生やして見聞きしたかのようなイメージで記憶を読み取れる。
生物の読み取りもできるが雑然としていて物体ほどはっきりとは読めない。動物実験対象としてカタツムリ、カマキリ、カエルを選んだからかも知れないが。人に読み取り実験するのは怖かったのでしていない。
読み取れる記憶は現在から過去に遡る記憶で、読み取りそのものは一瞬で終わる。
最初は何が起きているのか分からなかったので記録を取れなかったのだが、途中からストップウォッチの記憶を読む事で正確に成長記録を取る事ができた。
現在から3.45秒前までの記憶読み取り→4.84秒→6.77秒→9.48秒→13.28秒→18.59秒→26.03秒、と成長したから、成長率は1.4倍だ。
過去26秒分の記憶を一気に取得するという脳が負担で爆発しそうな事になっているのだが、そこは「超」能力。脳の限界なんのその、クリスは特に負担を感じていないらしい。
クリスのサイコメトリーは戦闘に直結しない超能力だ。むしろ後方支援、諜報で真価を発揮する。道路の記憶を読んで過去に通った人を調べたり、部屋の記憶を読んで誰かが先に来て隠れていないか調べたり。パソコンに触って過去に表示されていた画面を盗み見たりもできる。
瞬間移動や分身能力でない事にクリスはガッカリしていたが、フィクション的「NINJA」というよりも史実的「忍者」な能力と言えるだろう。
羨ましい。なんなら俺が欲しい能力だ。成長限界によっては数千年前に栄えた古代文明の遺跡の記憶を読み、歴史の真実を「目の当たりにする」事すら可能になる。溢れだすロマンで体が爆発四散しそう。いらないならくれよクリスさんよぉ!
とはいえ26秒前までの記憶を読めたところで有効活用は難しい。諜報活動に使うとしても、せめて二、三分前の記憶を読み取れるようになりたいところだ。見山のサポートがあっても、一回で疲弊する読み取りを複数回使えるようになるだけで、遡れる秒数が増えるわけではない。
クリスは学歴こそないが頭はそれなりによく、俺達を助けに突っ込んで来た時もちゃんと考えていた。顔を隠してきたし、男声を作って喋る事で現場のヤクザ達に「男である」と誤認させている。これが鏑木さんや燈華ちゃんだったら同じ事をしても胸部の膨らみでバレるが、クリスは全くその心配がないから安心だ。細身の優男に見えた事だろう。
そんなクリスと俺がしばらく一緒に頭を捻っても26秒での実戦的有効活用法を思いつかなかったため、クリスの修行は専ら超能力よりも忍者技能の研鑽に費やされた。
クリスは忍者好きだが、忍者ではない。火遁を使えばむせ、屋根に登れば物を落としかけ、奇襲をかければカタナを折る。どうにもツメが甘い。「忍者見習い」という自称は正しい。
そんなクリスを俺は一ヵ月の念力式修行で下忍レベルにまで押し上げた。
ランクアップのコツはとにかく数をこなし、様々な状況を経験し、たくさん失敗して、そこから学ぶ事だ。
山の渓流に透明の小さな念力板を複数枚浮かべ、念力板についた水滴を頼りにそれを見つけ跳んで走り抜けたり。
四方八方から念力に操られ曲芸飛行で近づく紙飛行機を火吹きで迎撃したり。
俺の念力投石を回避しつつ、樹上だけを伝って山の麓から山頂まで移動したり。
走りながら的に棒手裏剣を当てたり。
無音歩行は最初から習得していたから省略して、ビルの壁面に見立てた滑らかな崖に張り付いて登る訓練もした。
高校帰りに平日毎日三時間。休日は一日中。短いながらも多くの失敗とそれ以上の成功を経て、クリスは超能力こそ実戦レベルにできなかったが、忍者としては及第点にまで成長した。
谷岡組よ。
修行終えた俺達は一味違うぞ。
古き山の大自然から吸収した神秘の力(気のせい)と、鍛えた超能力を引っさげて。
いざ、いざ。
暴力団谷岡組 対 秘密結社月夜見。
東京裏社会の覇権を巡る抗争の始まりだ。




