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05話 カチコミじゃオラァ!


 表向きの設定上、多くの人は超能力の資質を持っているが、普通は一生眠ったままという事になっている。それがなんらかのきっかけで覚醒したり、目覚めかけるとそれを感知した世界の闇に襲われるようになる。が、今は世界の闇と一種の共生関係にある佐護杵光が記憶を失い弱体化しているため、連動して世界の闇も活動を弱めている。月守組と……月夜見と谷岡組の問題にカタがつくまでは世界の闇はきっと大人しくしているに違いない。俺の第六感がそう囁いている。

 ぶっちゃけ、ヤクザの抗争に世界の闇まで絡んでくると話がややこしくなって俺の頭がこんがらがってイベント管理が追い付かなくなる。


 俺は謎の力で人々に眠る超能力を揺り起こす事ができるが、そのためには5~10日の時間を要する。つまりネンリキンを移植してから定着するまでの時間だ。この時間は早めようがない。ゆえにそれまでの時間を使って月夜見という組織を煮詰めていく事にした。


 まず月夜見は秘密結社でなければならない。できれば月守組の仲間達にも秘密にした方がいい。

 なぜか。

 報復合戦を防止するためだ。


 ヤクザは面子を気にする生き物だ。殴られたら、殴り返す。舐められたら、噛みつく。

 月夜見が谷岡組に反撃すれば、谷岡組は必ず反撃に対して反撃してくる。月夜見もやられっぱなしではいられないので、反撃に対する反撃に反撃する。報復合戦は避けられない。

 しかし顔、名前、月守組への所属を隠しておけば、谷岡組の報復の矛先を「正体不明の超能力集団月夜見」に絞り、月夜見メンバーの日常と月守組を報復対象から外す事ができる。月夜見は月守組と無関係の謎の反谷岡組集団でなければならない。


 ……というような事を月夜見を「秘密」結社にしたかった俺が秘密にしなければならない理由を適当に考えて提案したら、仲間思いだなと感心されすんなり受け入れられてしまい罪悪感が凄かった。俺もでっち上げながらそれっぽい理屈だなと自分で思ったし、理に適っているからまあいいんだけども。もっともらしい理屈で言いくるめるのが上手過ぎてすまんな。


 それはさておき、これから始まる月夜見VS谷岡組抗争ロードマップと終着点は俺が考えた。

 簡単に言えば、


 ①谷岡組から金を奪い

 ②ヤバい奴は刑務所に叩き込み

 ③谷岡組を乗っ取る


 この3ステップで月夜見と谷岡組の抗争は決着する。


 谷岡組から金を奪い月守組や味方に成り得る勢力に流す事で、谷岡組を弱体化させると同時に自組織を強化。

 谷岡組をゲス行為に走らせている幹部級の罪の証拠を確保し、警察に逮捕させる。

 弱った谷岡組を乗っ取り、徐々に解体。誘拐や麻薬取引や臓器売買といったゲスなシノギをやめさせゲスヤクザから任侠ヤクザに地道に更生させる。

 そして乗っ取るといっても何も谷岡組の親分の座に収まる必要はない。谷岡組の親分を操り人形にできればいい。力で支配する奴は力で支配されるのだ。当たり前だよなあ?


 そしてロードマップを辿るにあたっての注意点――――闇の秘密結社月夜見四カ条を見山が考案した。


 一つ、笑え!

 何をするとしても笑えない人生に何の価値があろうか。 

 二つ、悪である事を忘れるな!

 ストレンジャーはどこまでいっても不法滞在者・不法就労者であり、悪だ。悪が悪と戦っているだけなのに正義面すると腹立つ。

 三つ、殺すな!

 超能力という強大な力を振るうにはブレーキが必要だ。殺さなければ大体取り返しはつく。

 四つ、光は光に、闇は闇に!

 カタギの皆さんに迷惑をかけてはいけない。表裏の社会の住み分けはしっかりしておかないと、谷岡組の如き外道に堕ちてしまう。


 以上四カ条を守ってさえいれば、闇討ち、詐欺、法律破り、なんでもアリだ。深淵を覗く時、深淵もまた覗き魔になるのだとかなんとかどっかの誰かも言ってた。谷岡組に抵抗するにはお行儀よく法律やマナーを守ってはいられない。守った結果が今の窮状な訳だし。


 俺がロードマップ提案、見山が四カ条提案ときて、親分からは刺青を入れよう、という提案があった。

 ただでさえヤクザじみているのになぜそっち方向に進めようとするかといえば、悪く言えば裏切り防止、良くいえば団結強化のためだという。

 私財を投げうってストレンジャーを助ける聖人親分にしてはなんか暗い提案だ、と思って聞いてみると、どちらかというと自分が裏切らないようにするためのものらしい。


 俺が刺青なんてなくても親分を信じていると本心から言うと、親分は首を横に振って語った。


 親分は昔、本物の聖人だった。新興宗教にハマり、そこで聖人認定されていたのだ。資産家であった親分はより多くの人を助けるため人民救済を謳うその宗教に入り、布教に精を出し神に祈っていたのだが、ある時宗教総本山が大地震に見舞われ倒壊。親分は泡を喰って逃げ出した。瓦礫の下で助けを求める声を振り払って。

 教祖ですら信徒を捨て置き私財を抱え逃げ出したのだし、誰も彼もが自分の身を守るだけで精一杯だった。親分は悪い事などしていないと思うのだが、普段から人助けを謳っていたにも関わらずいざという時に保身に走ってしまったのが心に闇を与えた。

 その後、復興財源と称して信徒から寄付を集めその大半を着服した教祖と幹部達にキレた親分は、信徒達の目の前で教団の御神体をぶっ壊し火をつけて燃やし、嫌がる教祖の尻を剥いてお尻ぺんぺんを喰らわせた。教祖の権威は失墜、教団は崩壊、親分は傷害罪及び器物損壊罪で懲役三年八ヵ月の実刑判決。

 お勤めを終え出所したその日に超水球事件が起きたため、親分は今度こそ神に頼らず、自らの手足を使い、顔も知らない漠然とした「人民」ではなく、目の前の人々を助ける事を決意したのだ。


 だから俺はいざとなったらまた逃げるかも知れん。

 刺青なら消えないから逃げられない。自分から逃げられない。

 俺の覚悟を決めさせてくれ。


 そう言って頭を下げる親分に嫌とは言えず、俺達は三人同じデザインの刺青――――見山が考案した月夜見の代紋である「蓮と月」の刺青を腕に入れる事になった。

 刺青は俺にとっても、たぶん、良い機会だった。俺は今、天照ではなく月夜見のメンバーなのだと、これ以上ないほどまざまざと自覚させてくれたからだ。もう月守組と月夜見を途中で放り出す事は許されない。そんな事をすれば、刺青を見るたび後悔で死にそうになるだろう。


 なお、刺青はDDとかいう人の命を弄ぶのが生きがいの月守組専属クソ闇医者の手によって彫り込まれた。噂に違わぬドグサレっぷりだった。















 さて。

 月夜見結成から一週間後、満月の晩に親分と見山が超能力に目覚めた。

 二人とも分かりやすい超能力で、すぐにどんなものか分かった。


 月守剛は自己強化能力、ムキムキン。発動すると力が滾り、ちょっとだけ強くなる。握力を計ったら91kgが92kgになっていた。どこまで、どれだけの範囲で自己強化をかけられるかは今後のトレーニング次第だろう。


 見山響介は音響発生能力、サウンドーパミン。口を開かなくても蚊の羽音ぐらいの音を出せる。音の大きさはとにかく、口笛と同じようなイメージで感覚的に音色や音調を操れるというから、工夫次第でかなり悪用できそうだ。


 とはいえ目覚めたばかりで成長率も分からない。しばらくは基礎訓練に時間を費やしてもらう事になる。月守組崩壊のタイムリミットまであと二ヵ月と三週間、超能力を実戦レベルまで持っていくのはギリギリ間に合うかどうか、といったところだ。

 既に初戦に相応しい手頃な谷岡組事務所には念力調査で目星をつけてある。その事務所を管理している奴が現ナマを持っていないと安心できない性分らしく、常に金庫に現金二千万円が入れられている。事務所に出入りしているのは十人、いつもいるのは三~四人。ナイフとスタンガンを持っているが、拳銃はもっていない。更に事務所周辺は閑静な住宅街で、夜中は人通りが無い。トドメに事務所の管理者は谷岡組親分にシツレイを働いた事があり、谷岡組の主流派と仲が非常に悪いので、押し入り強盗をしても谷岡組本体が動くかは半々といったところ。

 二千万が入れば息継ぎぐらいはできる。開戦の狼煙としては小規模だが、初の実戦相手としては適切だろう。


 なのに。


「Thank you! Thank you! You are a saviour of us!」


 目の前で金髪のおねーさんが泣きながら親分の手を握って頭を下げている。

 ほんの一分前、彼女は月守邸に駆け込んできて、幼い娘を谷岡組に攫われた、と訴えた。谷岡組の事務所に拘束され、身代金五百万を持って来なければ外国に売り飛ばす、とも。泣きつかれた親分は即座に今すぐ助けてやると断言。親分の目くばせを受けた見山はたぷたぷした二段顎を揺らしてキメ顔で頷いているが、俺は頭を抱えた。彼女が語った事務所はゴリゴリの武闘派幹部が仕切るヤバい所である。


 くそっ、何が「あなたは私達の救世主です」だ! こっちは計画丸潰れだ! いきなり高難度クエスト持ってくるんじゃない! いやあんたは悪くないけどな? 悪いのは全部谷岡組だけど!


 俺は親分に手招きして物陰に呼んだ。


「おいなんで安請け合いした!? 五百万なんて出せないし出しても解放なんてしてくれないぞ! まだ事務所にカチコミかけるには早すぎる! 全く鍛えてない超能力なんてクソの役にも立たん! 無理だ!」

「アイリーンは俺が紹介したメイド喫茶で毎月三十万稼いで、そのうち十万も月守組に入れてくれている。攫われたキャロルちゃんには似顔絵を描いて貰った恩がある。月守組は互助会だ。助けられたからには、助ける。異論あるか?」

「うぐっ……」


 言葉に詰まる俺に、親分は畳みかけてくる。


「俺達はなんだ?」

「対谷岡組秘密結社、月夜見です……」

「ならやるべき事は分かるな」

「谷岡組からキャロルちゃんを助けます」

「それでいい。お前も準備をしろ、夜久。すぐに出るぞ。見山ァ! 車回しとけ!」


 親分は叫びながら慌ただしく屋敷の中に入っていった。完全論破された俺はそれを見送るしかない。

 あああああああああああああああああ!

 クソッ! 育成系マッチポンプのための準備が全部パーだよ、パー! いやそれはこの際いいとしてもあの武闘派事務所への襲撃は無謀過ぎる。

 東京裏社会に入ってからバッドイベントしか起きてないんじゃないか?


 俺が念力で無双すれば全部解決だが、それはやってはいけない。何故そこまでできるのに隠していたんだ、という話になるし、窮地に陥ったから神の手を差し伸べるのは今後を見据えると悪手だ。月守組は、月夜見は、自分の手足で困難を払いのけ前に進めるようにならなければならないのだから。

 しかしこれでは前に進むための力を身に着ける前に死ぬぞ。


 ……いや待てよ? まだ策はある。

 困った時のババァ頼みだ。

 俺は念力で月守邸を走査し、軒下で繕い物をしていたババァを見つけて泣きついた。


「ババァ! 話聞いてただろ、なんとかしてくれ!」

「聞いておったが、どうにもならんの。夜久が力を抑えるつもりならば奪還成功は万に一つじゃろう。失敗してからのフォローを考えておくべきじゃのう。ワシも考えておこう」

「ババァーッ!」


 策なんてなかった。あるのは超能力だけ。

 もういい。なるようになれ、だ。

 親分と見山の超能力がクソ雑魚ナメクジでも、上手く活用できればワンチャン……ないか。

 奪還失敗した後の事を考えておこう。


 急いで準備を終えた俺達三人は、見山が運転する車で現場に急行した。最寄のコインパーキングに駐車し、駆け足一分で事務所前に到着。墓石屋と葬儀屋に挟まれた怪しげな雰囲気の三階建てビルの一階が酒場、二、三階が事務所になっている。

 正体を隠すため、親分は目のところに穴を空けた紙袋を被り、見山は同じく目のところに穴を空けた三角コーンを被っている。めちゃめちゃ怪しいが、そんな二人の背後をハロウィンでも無いのにパンプキンマスクを被った集団が通り過ぎていくのが現在の東京の一般的夜景である。怪しいが不自然ではない。ちなみに俺はバリ島土産の獅子舞っぽい仮面を被っている。


「で、このタイミングでこの事務所にカチコミかけてキャロルちゃん奪還すると顔隠してようが月守組が動いたってバレると思うんだが」


 何しろ月守組以外奪還に動く動機がない。俺の疑問に、たった一分の駆け足で荒い息を吐きふらふらしている見山が深呼吸して呼吸を整えてから答えた。


「バレても言えないようにすりゃあいいんだよ」

「つまり?」


 思わせぶりな言い方に、親分が紙袋の位置を直しながら促す。


「社会的にぶっ殺す。例えばな、ボコした上で女装させて亀甲縛りにして目立つところに転がしてやる。横に酒瓶転がしときゃ完璧だ。面子に拘るヤクザがそんなド変態のレッテル貼られた奴のために報復するか? する訳ねえ。無関係を装うさ。本人も誰にやられたかなんざ恥ずかしくて言えねぇ」


 親分は絶句し、俺は爆笑した。

 体面に拘るヤクザの習性を利用した上手い手だ。もしも谷岡組が報復に出たら、それはド変態幹部を擁する谷岡組という噂を生むだけだ。それはそれで谷岡組の威信を失墜させ弱体化させる事に繋がる。

 完璧な作戦だ。

 これから高確率で負けるという事を除けば。

 俺は一応忠告した。



「最後に確認する。無理だと思うが、やるんだな?」

「んなもん分かってるっつーの。やるしかねぇんだよ」

「ここまで来てやっぱり帰りますなんて言えんだろうが?」

「OK、もう止めない。ここからはアドバイスだ。二人はさっき超能力を使って、ムキムキンとサウンドーパミンが疲れている。超能力は使えてもあと一回か二回だと思った方がいい。上手く使ってくれ」

「分かった。でも夜久は疲れてねーんだろ?」

「それは……まあ」

「夜久には見張りと逃走補助を頼む。恐らく事務所の組員を倒すのは無理だ。隙を突いてキャロルちゃんを奪い返して逃げる事になる可能性が高い。夜久は増援の警戒と追い打ち防御だ。いけるか?」

「了解親分」


 俺の念力出力は人一人持ち上げる程度。射程はだいたい見える範囲(遠いほど弱くなる)。そういう事になっている。でもまあ親分は人を三人持ち上げて運べるし、物を投げれば五十メートルは飛ぶ。俺をバックアップに回すのが戦略的に正解かどうかは判断が難しいところだ。


 二人は静かに事務所に入っていった。俺はそれを念力で監視追跡する。

 一階の酒場を素通りした二人は二階へ続く階段へ向かおうとする。髪を茶髪に染めたチャラい男が遮ろうとするが、親分がそいつを突き飛ばし、二階へ。

 二階には三つの部屋があり、見山が一番ドアがゴツい部屋を指で示した。

 ふむ。


 そのドアを開けようとする親分に先んじて室内を偵察すると、中には金髪幼女が縛られて転がされていた。顔に泣きはらした跡がある。見山の推測は正しかった。

 直後、親分がドアノブを回して開けようとしたが、鍵がかかっていたので念力で遠隔内部破壊のサポートを入れる。親分は急にスルっと動いたドアノブに不審そうに止まるも、思い切ってドアを開いた。


 颯爽と現れる紙袋と三角コーン仮面のヒーロー達。

 目を見開き恐怖に怯え、縛られたままもがいて逃げようとするキャロルちゃん。

 一階からの警告の叫び声で事務所からドヤドヤ出てくるコワモテの武闘派ヤクザ達。

 振り返る二人、対峙する谷岡組と月夜見。


 戦闘、突入! 


 武闘派というだけあり、ヤクザの動きは素早かった。


「ッダォラー!」


 舌の回っていないよく分からない罵倒を叫びながら即座に親分を敵と見なし殴りかかってくる。親分はそれを真正面から迎え撃ち、クロスカウンター気味で殴った。ヤクザはよろめいたが、親分も足をフラつかせる。動きを見るに、ヤクザは何か格闘をやっているらしい。マッスル度は親分が断然上だが、技術がカバーしているようだ。

 親分はポケットから煙幕玉を出そうとするが、鋭いジャブを貰って取り落とし、転がっていった煙幕玉は一階へ繋がる階段の途中で炸裂した。階下から混乱の声が上がる。図らずも背後からの攻撃を妨害した形になったが、状況は改善していない。


 親分の動きと筋肉を見てヤクザ達はナイフを取り出した。

 親分はそれに応じて切り札を切る事にしたらしい。

 集中し、ムキムキンを隆起させ身体強化能力を発動させる!


「はぁあああああッ!」

「なぁにがハーだ死ねカス!」

「ごあ!?」


 集中して力を高める隙だらけの親分は、ヤクザキックをモロに腹に貰って崩れおちた。

 ああ……慣れない超能力を使うから。全然上手く使えていない。


 親分がやられ、動きの無い見山は何をしているんだと思って見てみれば、三角コーンの穴からカッと目を見開いて意識を集中しているらしい。

 音響能力で何かしている……のだろうか。念力聴覚を研ぎ澄ませば、足音にかき消されるほど小さな黒板を爪でひっかく音が聞こえてきた。

 しかし音が小さすぎてヤクザ達にはまるで聞こえてない。超能力使って音出すより叫んだ方が早いと思います。


「死ねデブ!」

「ぼえっ!?」


 棒立ちに等しい見山は、ヤクザに簡単に腹を刺され悲鳴を上げた。


「さっ、刺されたァアアアアアア!」

「るせー! 黙れ豚!」


 絶叫する見山は追撃のヤクザキックを喰らって壁に叩きつけられる。

 刺されはしたが、腹に仕込んだ雑誌と脂肪の鎧のおかげで軽い傷で済んでいるようだ。

 刺されたショックで泣き喚きながらも巨体を生かしたボディプレスで一人を下敷きにするも、残りのヤクザによってたかって蹴り転がされそのまま身動きできなくなる。

 親分も格闘ヤクザに腕の関節をキメられ行動不能だ。


 はい全滅!


 ほら見ろ!

 だから言ったじゃん!

 だから言ったじゃん!

 超能力身に着けても急に強くなったりしないんだって!

 訓練しないとダメなんだって!

 「くっ、力が強すぎて制御できない!」とかねーから!

 弱いんだよ、超能力は!

 目覚めたばかりの力でお手軽に超人になれるほどこの世界は甘くない!


 下手に超能力を使おうとしたばっかりに、超能力を習得していない時よりも弱くなってしまっている。


 もうダメだ。ここから二人だけで逆転は難しい。弱体化中の俺が突入して援護に入っても武闘派ヤクザ達相手に一人は辛い。

 これはもう念力によるさりげない介入の時間だろう。

 さてさりげなく震度6局地地震でも起こして場を混乱させるか、と考えたところで、黒い覆面を被った華奢な人影がビルを見張る俺の横を走り抜けていった。

 その人物は郵便ポストを踏み台にして跳び、壁を蹴り、雨樋を伝って瞬く間に二階の窓からビルに飛び込んだ。

 一瞬の出来事に呆気に取られて見送るしかできなかった。


 な、なんだ今の!?

 ニンジャか!? 妖怪か!? ……いや、クリスだッ!


 窓から乱入したクリスは小太刀を抜いてヤクザに切りかかる。完璧な奇襲だったが、勢い余って狙いが逸れ、半開きだったドアのフレームに変な角度で命中。小太刀は半ばからポッキリ折れてしまった。


「……Ah,た、助けに来たぜ! フハハハハ! はいドロン!」


 全員の目線を集め一瞬固まったクリスだったが、折れた小太刀を納刀し、喉を押さえ男の声を作って宣言。そしてすばやく煙玉を地面に叩きつけた。

 なるほど、これがババァが言っていた「失敗してからのフォロー」か。ナイス増援だババァ! フォローする奴もちょっと失敗してるけど!


 流石の機転を見せた親分は気が逸れ力を弱めた格闘ヤクザを振りほどき、部屋の中にダッシュしてキャロルちゃんを抱え上げ、そのまま窓を乗り越え落ちてきた。

 俺はそれを念力で落下速度を緩め軟着陸させ、続いて落ちてきたクリスと見山も優しく下ろす。一階からドヤドヤと出てきた追手に親分が隣の墓石店に並んでいた墓石を投げつけ妨害。

 流石に好奇の目で見てくる衆人環視の中を全員で走って逃げながら、クリスは怒った声で俺達に言った。


「こんな楽しそうな事やってるのにアタシを仲間外れにしないでよね! 忍者のいないパーティに未来はないって知ってるでしょ!?」

「いや知らな」

「知ってるでしょ!? 今もそうだったでしょ!?」

「お、おう」

「じゃ、アタシも今から仲間ね! はいけってー!」


 勢いに押された俺達は頷いてしまった。

 秘密結社月夜見に仲間が増えました。

 頼もしいなあ、と思いました。

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