03話 佐護様が無敵じゃないのは解釈不一致です!
メドゥちゃんの誤解を解くために丸々一時間かかり、喋っただけなのに疲労困憊だった。
お互い母語でない英語で話していたのも誤解の原因だが、メドゥちゃんが ち ょ っ と だけ陶酔状態になっていて話が通じなかったのが一番の理由だ。
誤解が解けるとメドゥちゃんは物凄く悲しそうにしていたが、俺がアジトに泊まり込むつもりだと言うと奇声を上げて走り出し壁にぶつかってまた気絶した。
この女の子怖い。控え目に言って発狂していらっしゃる?
元々アリナータヤ解放戦線にテコ入れしていく予定だったので泊まり込みは規定路線なのだが早まった気がしなくもない。
誤解を解く時も怖すぎて嫁がいると言えなかった。口に出せばどうなってしまうのか分からない。
ただ、栞が選んだ支部長候補なだけあって美少女で努力家で熱意があるという条件はよく満たしていた。超能力訓練に乗り気でなんでもやりますと豪語したし、俺をアジトに迎え入れるにあたってボスの痴態に引き気味の部下達に熱弁を振るい説得してのけていた。
実績あるしやる気もある。
しかし拭いきれないこの不安。
暗雲が立ち込めてるどころか既に土砂降りのような気がする。
露骨に彼女面のメドゥちゃんが俺の好みを聞いて鼻歌を歌いながらキッチンに立ち手料理を作っている間、俺はアジトの端っこで栞に電話をかけた。たすけて!
一通り話を聞いた栞は考え込んだようだった。
「悪いな、栞の方も大変だろ。今更だけど時間は大丈夫なのか? 何してた?」
「パントマイム原理主義組織がケルン文化芸術センターを襲撃してゲリラ劇をしているのを舞台裏からアーデルハイトちゃん、ドイツの支部長候補と一緒に見ているところよ」
「うん……?」
ちょっと何言ってるのか分かんないですね。
中東マールスタン支部が特別厄介なのだと思っていたが、ドイツ支部も相当こんがらがった事態になっている臭いがする。
これ俺がドイツに行っていても頭抱えてたヤツだ。どっちもどっちだな。
「ヘルプ出しといてアレだがそっちは大丈夫なのか? 助けが必要なら言ってくれよ」
「問題ないわ。超能力原基はもう移植してくれたでしょう? 十分よ。それでメドゥちゃんの事なのだけれど」
栞はメドゥちゃんは更生できるはずだ、と言った。
以前未来からやってきた俺達の娘の凛の話によれば、メドゥ・サグロゴは佐護杵光によって改心してマールスタン支部長になるという。秘密結社崩壊の危機を何度も救った最も忠実で品行方正な最高の部下なのだとか。
忠実要素はまあ分かるが品行方正どこ?
「未来は分岐するし変わるから絶対ではないけれど、改心の可能性は十分高いはずよ。本人も十分報われて良いだけの試練に耐えて努力をしてきたと思うし……でも杵光さんが嫌なら別の候補に変えても問題無いわ」
「あー」
性格に難アリとは言え、メドゥちゃんは確かに十分苦労してきた。
艱難辛苦の道を歩んできた子供にここで大人が夢を見せてあげなくてどうする?
ここでやっぱやーめた! と別の候補に切り替えたらメドゥちゃんとアリナータヤ解放戦線は生きるためだけに必死にあがく孤児集団としてほの暗い灰色の青春を過ごす事になる。
それで大人になった時楽しく子供時代を思い出せるか? 無理だろう。もしあの頃に何かが違っていれば、誰かが手を差し伸べてくれていたら、助けてくれていたら。そんな事ばかり考える大人になってしまう。それは悲しい。
実際のところ、大人になったら子供時代を振り返って後悔する事ばかりだ。
もっと勉強していたら、とか。
あの時親の言う事を聞いていたら、とか。
逆に勉強ばかりしないで趣味を作っていたら、親の言う事を無視していたら、なんて後悔もあるだろう。
俺ももっと早く学生時代に秘密結社を立ち上げていたらと思う時がある。今も十分楽しいが、そのもしもが叶っていたら十二分に楽しかったに違いない。
俺はメドゥちゃんから将来の後悔を取り除く事ができる。
メドゥちゃんの嗜好は……ちょっと……かなり……すごく気がかりだが、改心の見込みがあるなら少しはモチベーションも上がる。
「どう? 頑張れそうかしら?」
「がんばる」
「偉いわ。ああ、浮気はダメよ?」
「分かった。浮気したくなったら栞に浮気する」
栞はちょっと笑ってくれた。恥ずかしくて素直に愛してると言えない不甲斐ない俺を許してくれ。いや今の台詞も人前では言えないぐらいには恥ずかしかったが。
電話を切るとモジモジと栗色の髪の指先で弄って待っていたメドゥちゃんが食卓に案内してくれた。解放戦線のメンバーが食卓として使っているらしい長い作業机とは別に白いシーツがテーブルクロス代わりに敷かれた丸テーブルがあり、肉メインの洒落た料理にワインボトルまでついている。
匂いを嗅いでみたらワインボトルの中身はどうやらトマトジュースらしかった。そんな無理して体裁取り繕わなくていいんだぞ。
取り繕って客をもてなす余裕があるなら仲間の食卓にもっと盛ってやれよ。
俺のテーブルの力の入り具合と皿に乗ったパンと野菜スープしかない解放戦線の食卓の差がエグいぞ。仲間に無理させてまで客をもてなすな!
ほらキッズがめっちゃ恨みがましい目で見て来てるだろうが。食い物の恨みの恐ろしさを知らんのか?
ぴったり俺の横に寄り添って給仕係を気取っているらしいメドゥちゃんに言う。
『俺はいらん、一口でいい。あとはあの子達に分けてやれ』
『流石インビジブル・タイタン様、お優しい! でも私、インビジブル・タイタン様に全部食べて欲しいです。インビジブル・タイタン様に美味しいって言って欲しくて頑張ったんですよ?』
ああまあ……好意を無下にする事もない、か?
キッズには後で何か差し入れよう。
『その手はどうした』
『えっ!? 手ですか? えっと、ちょっと切っちゃいました。えへ、えへへ』
傷だらけの手にイグの血液燃料をチャージしたPSIドライブを当てて治してやると、メドゥちゃんは女の子がしてはいけない顔をして無言で悶えはじめた。人間って嬉しさが限界突破するとこんな顔になるんだな。知りたくなかった。
奇行を心配していると無限に時間が過ぎていく事はもう学習しているので、料理に手をつける。事前に俺の好みを細かく聞いて調理に取り掛かっただけあり、食材も調理法も現地のものだがどこか食べた事があるような和風テイストに仕上がっていた。
そして全ての料理から僅かに血の味がした。
…………。
明日からは自分で料理を用意しよう。
やっと分かった。
これは俺の心が折れるのが早いか、メドゥちゃんが改心するのが早いかの勝負だ。
覚悟はいいか? 降参の準備は万全だぞォーッ!
既に超能力原基の移植は済ませていたから、超能力訓練はすぐに開始できた。
解放戦線アジトに一泊し次の日になるとちょうどメドゥちゃんの身体に原基が変異定着していた。
触った感触からして恐らく魔眼系能力だ。
魔眼系能力は割とポピュラーで、能力を使うと瞳の色が変わるので非常に分かりやすい。
俺はアジトの地下室にメドゥちゃんを誘い、秘密訓練を開始した。
『ふ、ふふふふ二人きりで一体何を? いえ! 大丈夫です。覚悟はできています……!』
『超能力訓練をする』
『アッ訓練ですか……』
メドゥちゃんはしゅんとして一張羅の軍服のボタンを留め直した。
訓練以外にやる事なんてないだろいい加減にしろ!
『もしかしてインビジブル・タイタン様が直接訓練して下さるんですか?』
『不満か』
『いいえ!!!』
地下室ぶっ壊すぐらいの大声で否定するじゃん。
でしょうね。
『でもー、差し支えなければですが、そのー、目標? 訓練後の御褒美? みたいなものがあるとやる気が違うかなと。いえもちろん一言やれと言って下さればなんでもします! しますが……! 本当にちょっとしたモノでいいんです! ちょっとだけ! お願いします!』
『ふむ。まあいいだろう。何が欲しい? 言ってみろ』
『本当ですか!? じゃあ私とセッ』
『分かった訓練を頑張ったら頭を撫でてやろう』
『頑張ります!!!』
訓練! 開始!
メドゥちゃんの能力は想定通り魔眼能力で、力を使うと黒い瞳が金色に変わった。
初日は能力を使った途端に力を使い切り、それでも無理やり使おうとして目から血を流していた。
血の涙を流しながら元気に「頑張りました!」って言うのは本当にやめて欲しい。体に悪いし完全にホラーだし心配になる。
約束だから頭は撫でたが頑張るっていうのは自分の身体をぶっ壊すほど苛め抜くって意味じゃねーぞ。
親御さんはメドゥちゃんに一体どういう教育を……
……親いなかったな。
基礎能力伸ばしに小細工は要らない。単純に能力を限界まで使えば成長していく。
初日の訓練は一瞬で終わり、翌日は成長痛のために休止。俺がアジトにいるとメドゥちゃんは俺にべったりくっついて甲斐甲斐しく世話を焼いたり構ってアピールをする事に夢中になって他の事を全くしなくなるため、成長痛の日は外に出て裏工作と仕込みの時間に充てた。
二日目、四日目、六日目の訓練では高感度カメラ撮影で魔眼能力の発動維持時間を計測してみた。結果は0.43秒→0.54秒→0.67秒。
成長率1.25倍、二日に一度成長、基礎訓練で発動時間が伸びるタイプの能力だというところまでは割り出せた。何人も超能力者を育ててきたからこのあたりの基本情報割り出しはもうスムーズにできる。
成長の実感が得られない事に不安を抱いたらしいメドゥちゃんは『頑張るので見捨てないで下さい!』と縋りついてきたが流石に気が早過ぎる。みんなそんなものだから気にするなと言い聞かせると安心していた。
事実メドゥちゃんの成長率は普通ぐらいだ。自分の能力が何なのか分からないのも気に病まなくていい。
栞なんて自分の能力が時間停止だと気付くまで一ヵ月近くかかったんだぞ。訓練開始六日目でまだ能力が分からないぐらい誤差だ。
魔眼の効果が不明なのでとりあえず水(温度変化観測)、釘(無生物・金属変化観測)、綿毛(浮遊・念動・発火観測)、ネズミ(生物干渉観測)を用意して一日一秒足らずの「睨みつける」をする訓練未満の訓練を続ける。
訓練の成果は十日目に兆候を見せた。ケージの中で元気にちょろちょと動き回っていたネズミが睨まれて停止したのだ。
観察してみると動かなくなってはいるが体温はあり、呼吸していて心臓も動いている。瞬きは無し。ヒゲを引っ張ったり尻尾を摘まんでぶら下げたりしても反応なし。同時に睨んだ水、釘、綿毛は変化なし。
どうやら生物を麻痺状態にしたらしい。メドゥが視線を切って一度地下室を出ても麻痺は継続し、半日ほどで勝手に解けてまた動き出した。一度麻痺すると睨み続けなくても一定時間が経過するまでは麻痺しっぱなしのようだ。
対生物限定パラライズ魔眼かあ。
強い、か?
強いっちゃ強いけど対人戦特化だ。無生物である世界の闇には効かない。世界の闇と戦うにはかなりの工夫が必要になりそうだ。訓練計画もよく考えなければならない。
PSIドライブで増幅すれば無生物も麻痺したり(?)しないだろうか。
マールスタン支部設立の目安は二ヵ月≒60日間で、単純に二日に一度成長すると考えれば30回。成長限界が来ない、基礎成長に専念、成長率1.25倍で計算すると、マールスタン支部設立イベントの締めくくりの日にメドゥちゃんは一日合計274秒麻痺魔眼を使えるようになる。
栞が44秒の時間停止で十分戦えている事を考えると274秒になるまで基礎を伸ばす必要はない。30秒(基礎訓練20回で到達の見込み)あればひとまず困らないだろう。
基礎成長20回分、つまり5週間を基礎訓練に充て、後は応用訓練。
メドゥちゃん用のPSIドライブを今のうちに鐘山テックに発注しておいて、届いたPSIドライブを装備する事で訓練不足を補いイベントの締めくくりを飾る。
ロードマップはそんなところか。メドゥちゃんの成長に合わせて用意するイベントは変えていこう。
魔眼系能力という事で、応用訓練にはそっち系の小道具が必要になる。
俺は空き時間で3D絵本や目薬、色付き眼鏡、3D眼鏡、コンタクトレンズ、視力検査キットなどを準備しておいた。マールスタンは日本やアメリカより流通が弱い。急に何かが欲しくなっても電話一本ですぐお届けという訳にはいかないのだ。
加えてマールスタンに到着したババァ配下の元純日本製テロリスト部隊にも接触し、紛争を終わらせるべく指示を与えておく。
短いマールスタン滞在の中でも紛争が続く限りわくわく超能力青春物語は無理だという事がよく分かった。強盗強姦殺人発砲がぽんぽこ起き、街中を走っているだけで食パンを咥えたおじさんと衝突するような治安最悪の都市でわくわくなんてできる訳がない。
紛争は終わらせる。これは決定事項だ。
もっとも終わらせようと思っても終わらせられないからこそマールスタンでは五年も紛争が続いている。一個人が、子供達の集団が、たった数人のグループが止められるものではない。
超能力に目覚めたメドゥちゃんの手で紛争が終結したらものすごく劇的でカッコイイのだが、そういうのはニューヨークで懲りた。
大企業と宗教を味方につけた悪質有能おじさんに立ち向かったポーラはボロボロになり、死にかけた。紛争問題を年端もいかない少女が解決しようとしたら死んでしまう。
そこで必要になるのが俺という国家の枠組みどころか地球すら飛び越した宇宙規模の超過剰暴力装置だ。
紛争。
つまり暴力。
俺の得意分野だ。
サンジェルマンのような知略で仕掛けてくる難題より遥かに対処しやすい。
紛争中の勢力の中で一番マシな思想を持っている集団に国産テロリストを送り込み、協力させ、技術指導を行わせ、物資供給や財政支援の窓口にする。資金源はルー殿下が担ってくれるし、レインコート社にも担わせる。国と大企業がバックについているこの安心感よ。
そして武力衝突は俺が念力でサポートに入る。
念力のサポート。
つまり絶対に勝つ。
紛争地帯に謎の資金源を持つ常勝無敗の無敵勢力が出来上がる訳だ。
政治的イデオロギーだの経済バランスがなんちゃらだの貧困だの、紛争の裏には一筋縄でいかない色々な要素が絡んでいる。
それでも圧倒的暴力をもって全ての暴力をねじ伏せれば紛争そのものは強制終了する。
後は脳筋パワーで睨みを利かせながら紛争が再発しないよう現地民の手でゆっくりと諸々の問題を解決していけばいい。
こういった血なまぐさい社会の闇との戦いは全て大人である俺と国産テロリストが担う。
思春期の少年少女は思春期らしい華やかな青春を送ってくれ。おじさんはそういうのが見たくて秘密結社をやってるんだぜ。
裏で暗躍する俺の策動に気付いた様子もなく、メドゥちゃんは順調に訓練を進める。
二度目の転機は訓練開始から20日目にやってきた。
麻痺したネズミが石化したのだ。
検証したところ、どうやら1秒睨めば麻痺して、3秒睨めば石になるようだった。
しかも麻痺とは違い一度石になると自然には戻らない。体の芯まで完全に石化するためどんな薬も手術も無駄だ。
イグの血を装填したPSIドライブを使ったら治ったので全く治療法が無いわけではないが、逆に言えば超能力を使わないと治らない必殺攻撃である。
メドゥちゃんの「にらみつける」は対象と目を合わせなくても発動する。
ネズミの身体のほとんどが何かに隠れて見えなくても、尻尾の先っぽを3秒睨めば体全体が石になる。
射程ははっきり焦点を合わせて見えさえすればどこまででも。
映像越し、鏡越し、双眼鏡越しの麻痺石化は不可能。
例によって能力者本人は自分の能力に対する耐性を持つので鏡を使って自分を睨んでも石化はしない。
本当に対生物特化能力だ。
距離をとって隠れながら睨めば誰にでも勝てるだろう。俺のバリアでも防げるか怪しい。一応俺のバリアには電磁波・放射能・過剰に強い光はシャットアウトする性能があるが、魔眼の凝視をカットする自信はない。試すのも躊躇う。怪我や苦痛ぐらいなら今更怖くも無いが全身が石になるのは流石に怖い。
石化の魔眼はシンプルに強い。1秒睨むだけで麻痺が入ってそこから石化に繋がるからほとんど文字通りの来た見た勝った能力と言える。
麻痺してから石化まで2秒の猶予があり、全身が足元から頭へと石化していくというホラーじみた症状進行を伴うため威圧性能もバッチリだ。
しかし世界の闇との戦闘には向いていない。どうすっかなこれ。
雑草にも石化は通ったから、動物でなくとも生き物なら石になる。いっそ雑草を固めて作ったマリモみたいな世界の闇亜種を生やすか……?
訓練終わりの地下室でメモ帳にアイデアを書き留めつつ悩んでいると、軍服メドゥちゃんが畏まって聞いてきた。
『インビジブル・タイタン様は――――』
『佐護でいい。いい加減呼びにくいだろう』
『…………』
急に黙ったと思ったらまた失神していた。
そろそろ慣れてくれ。反応がオーバー過ぎる。
『起きろ。何度目だお前』
『!? あ、ありがとうございます!』
頬を叩くと覚醒してうっとりする。こわい。
いや本当そろそろ心折れるぞ。
根が良い子なら欠点があっても許せるが、メドゥちゃんはそのあたりが怪しい。
胡散臭い日本人が居座っている事に不満を漏らしたアリナータヤ解放戦線の仲間を片っ端から睨んで麻痺させているし、一度は石にしてしまい俺がPSIドライブで治す事になった。窘めるとその場ではしおらしく反省したフリをするのだが行動は全く改めようとしない。
とにかくインビジブル・タイタンの否定や悪口はどんなに些細な物でも許せないらしい。
果たしてメドゥちゃんは本当に改心するのだろうか。未来では俺が改心させたというから何か方法があるのは間違いないが、その方法がいくら考えても分からない。
翔太くんは負けイベントで改心したがメドゥちゃんは負けイベントで変わりそうにないんだよなあ。一応やってみるか? それで何も変わらないようなら超能力剥奪も視野に入れよう。いくら俺のファンとはいえこのままでは危険だ。
『あの、佐護様?』
『ん? ああ、何か話があるのか』
改めてメドゥちゃんに向き直る。俺はそこではじめて数日前とメドゥちゃんの様子が少し違う事に気付いた。
様子が違う、というかこれ化粧してるな。色気づきやがって小娘がよお……もう嫁がいるから無駄だと言ってやりたい。しかし言ったら発狂しそうで言えない。なんなんだこの状況。
『佐護様は私の能力を無効化するのですか? 反射するのですか? これからの訓練の参考に聞かせて頂ければ』
『いや、分からん。まだ試していないからな。無効化も反射もできない可能性は高い』
『? 佐護様に私ごときの能力が効くはずありません』
『いや超能力には相性も例外もあってだな』
『いいえ効きません。佐護様は絶対無敵の超能力者なんです』
メドゥちゃんは凛とした声で神託を告げるように断言した。
俺より俺に詳しそうだな。
『あー、最強能力者は否定しない。しかし俺にも弱点はあってだな、無敵というわけでは』
『佐護様はそんな弱音を言いません。佐護様は誰よりも強くて凄くて格好良くて永遠なんです』
会話してるのに話が通じてない。怖い!
この厄介ファンの勧誘を諦めるかどうか際どい天秤を心の中で揺らしていると、メドゥちゃんは瞳を金色に変えニッコリ笑いかけてきた。
『私、佐護様が強いところ見たいです!』
『は? …………!?』
おい。
おい!
やめろやめろ!
何やってんだ体動かなくなったぞ!
馬鹿お前ふざけんな馬鹿お前やっていい事と悪い事があるだろうがお前馬鹿いやでもPSIドライブで治るからいやダメだまだPSIドライブの起動方法教えてないロックパスワードもかけっぱなしだ嘘だろおいいっそ念力でぶっとばして強制的に中断させ――――
麻痺から石化まで二秒しか猶予が無いのは短すぎた。
狂信的奇襲に混乱して躊躇している間に体は全く動かなくなり、俺の視界は完全な暗闇に閉ざされた。