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2話 望月くん学校へ


「マジでこええ……」


今、俺は校門前で一歩たりとも動けなくなっていた。

人生で初めてだ。こんなにも学校が怖くなるなんて。

中学の頃もなかなか怖かったが、あの時とはわけが違う。

何せ今回バレているのは俺自身についての方。

ちなみに言うと俺が今ちょうど連載している作品の作品名は「妹旋律」。

出だしは「俺は妹が好きすぎる。あの可愛い唇を奪いたくてしょうがない」これから始まる。

こんなの並みのオタクでもちょっと引く出だしだぜ?

そんな作品を書いているのが俺だと周りの奴らは知っている。

俺はおそらく人生を詰んだ。

もう本当に、誰とも話さないからな!

バカにするなら好きにしろ!!


ガラララララ。

俺が教室の扉を開けた途端。

その場にいる生徒全員が一斉に俺を向いてきた。

少なからず今俺のことを凝視している23人(男子10人、女子13人)は俺の正体を知っていることだろう。

けど!俺はもうそんなオタに対する偏見に屈したりはしない。

俺は中学の頃、掃除の時間は毎回自分の机は自分で運んで、椅子は自分でおろし続けた男だ。

今更その程度の嘲笑で心が折れるほどヤワじゃない。

俺は周りの奴らの眼差しを完全に無視して、いつも通りの朝の準備をした。

いつも通り教科書と文庫本を出して、それを引き出しにしまった。

リュックを後ろのロッカーに入れて、再び自分の席に座る。

自分の席に座ったら、無言で文庫本(ラノベ)を開いて読書を始める。

読書を始めてから10分が経った時。俺は異変に気がついた。

10分も経ったのに、誰一人笑い声を上げないのだ。

もし、もしだ。あいつらに本当に俺をからかう気があるのなら、何ひとつリアクションを示さない今の俺の態度をつまらないと捉えて、少しでも俺を刺激すためにわざとらしく笑い声を上げ出してもいい時間帯だ。

が、笑い声は一向に上がらない。

むしろしんと静み帰っている。

もしや、もう俺なんか気にかけないで、各々自分の世界に入っているのでは?

そう思ってみたがそれもまた違う。

なにせ、今教室にいる27人(後々来たやつも含む)全員が穴が開くほど俺を凝視している。

さすがに、嘲笑キャラ日本代表の俺ですら、もうわけがわからなくなってきた。

いったい今はなんなんだ。

そう思い始めてきた時。いよいよ俺に声をかけてくる奴が現れた。

俺が挙動不審になりながら、読書をしていると少し前あたりから足音がし始める。

教師のものではないと断定できる。まだ奴が来るには10分も早い。

そんなことを思っていると、その足音が俺の席の目と鼻の先で止まった。

そして


「ねえ!望月くん!いや先生!!君の作品読みました!」


ようやくきたか。俺をバカにするつもりだろうが、あいにく俺のガードクソ硬い。どっからでもこい!!!

俺は覚悟を決めて声の持ち主の方を向く。

爽やかな印象を受ける青年だった。茶色い髪の毛を中わけにして、口元はシュッとしている。

表情のせいなのか、どうにも真面目な印象を受ける。


「作品て、あれのこと?」

「そうです!」


なぜか敬語を使ってくる彼。

多分フリーザみたいな感じで、わざと自分の地位を下げることで、こちらをおちょくってきているのだろう。


「感想なんて別に聞く気はない。バカにするぐらいならわざわざ来るなよ」


そいつを睨みながら言ってやった。どうだ。威嚇程度にはなっただろう。


「……」


あれ?あまり効果がないみたいだ。そいつは涼しい顔で、ぽかんとしている。


「何言ってるんですか!バカにするなんてとんでもない!僕、文庫本で始めてあんな感動しました!」


彼は目を子供みたいにキラキラ輝かせながらそう言ってきた。

こいつ今、俺の作品で感動したと言ったか?

あの作品一巻のどこに感動する要素があるんだよ!

一巻は妹との現状や、お互いの思い。細かい設定などを割と慎重に説明していただけのはずだ。

感動とは一体どういうことだ?

まさか、唯一のエロシーン。妹との入浴シーンに感動したのか?

いやいやいやいやいやいや。ありえない!こんな真面目そうな顔の子が、そんなものにときめくはずもない。


「感動って、いったいどこにだ?」

「いやー、ストリートが最高でした。特にあげるとしたらラストシーンが」


マジで楽しそうに語ってくる彼。


「まて、まずお前は誰なんだよ」

「え?まだ僕自己紹介してませんでしたっけ?」

「うん。あと、敬語うざいからやめて」

「いや、そんな。敬語なしだなんて恐れ多い」

「ほんとやめて。会話すんの止めるよ」


真顔で言ってやった。俺の真顔、すなわち極道メンチは俺が中学時代に極めた数少ない顔芸の一つだ。

マジで真顔と冷たい目を加えるだけなんだけど、これがまたすごい効果を発揮する。


「わかりまっ……。わかった。敬語はやめよう」


な?もう止めたろ?効果絶大だ。

そんなことより!こいつは今ラストシーンに感動したと言ったな。

あの作品のラストシーンといえば、妹が風呂に入りながら、実は自分が義理の妹だと言うことを初めて明かすシーンである。

そんなエロスティック満載のシーンに感動するということは、答えはただ一つ。


「そ、そうなの……か」

「そうなんだ!!」


何なんだこいつは。自殺したいのか?あんなシーンが好きと公言するという事は、周りの奴らに自分はお風呂に入る女性が好きだ。と言い回るようなもんだぞ。


「お前、変わったやつなんだな」


それとも、あえて俺を褒めることで、それに喜ぶ俺をみんなで笑い者にするってことなのか?

いい加減わからなくなってきたぞ。


「じゃあ、神嶋(かみしま)先生!ありがとうございました!」

「おう。じゃあな」


そう最後にバリバリペンネームで俺のことを呼ぶと、よくわからない真面目くんは帰ってしまった。

ふぅ……。

取り敢えず敵が退散したことに安堵の息を吐く。

何も起きなかったことはまだ幸運なのだろうか。

が、今の俺には違和感のようなものが残っている。

何というか、あいつは俺バカにしに来たはずなのに、周りの奴らがそれを囃し立てる様子が一切ないのだ。

クスクスと笑い声もしないし、ヒソヒソと話し声も聞こえてこない。いったいなにがあったんだ。

それに……。

さっきのあいつ、俺のペンネームを間違っていやがった。

俺は神崎なつきだ、神嶋ではない。確かに字は似てるけども。



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