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1話 高校生活終了



「ねえ?望月くん。君、小説家やってる?」


俺の隣の席を座る女子生徒にそんな事を言われたのは、今日の分の全授業が終わり、今すぐ教室を去ろうとしていた時だった。


「え?何言ってんの?」


果たして女子と話すのは何年ぶりだろうか。目を合わせずにそいつに問いた。

というか、なぜこの女は唐突にこんな事を?

俺の問いかけのアンサーなのか、その女子生徒は机から一冊の雑誌を取り出して、俺に見せてきた。


「それがさー、これ」


言いながら文庫?か何かのページの記事を指差す。

とりあえず俺は凝視した。

と、同時。呼吸を忘れた。

[今を生きる若き新星作家!神崎なつき]

そう書いてあった。

ちなみに言うと、俺のペンネームは神崎なつきだ。由来は確かにあるが、痛すぎるのでここでは言いたくない。

って!そんな事よりだ!


「えっとととととととと、これはいったいたいたい?」


ただでさえ女子との会話は苦手なのに、こんな謎の脅迫的なのを食らってるんだ。

呂律が呂律とは呼べないレベルに回らない。


「ここに写ってる写真。これ、望月くんじゃない?似てるよね」


そう言って彼女が指した先にいたのは紛れもなく俺だった。

これは確か優秀賞授賞式の時のまだ人とまともな交流ができていた頃の俺だった。

確かに中一の頃とはいえ、紛れもなく俺だ。

今と同じようにジトッとした黒髪。覇気がない性格のせいか目は常に半開きの締まりのない表情をしている。

が、この締まりのない表情は俺の癖みたいなもので数年経った今でもちょくちょくやっている。

どうやらそのせいでバレてしまったようだな。くそー。いい加減この性格正さねえとな。

って!そんな事言ってる暇じゃねえ!!

今はおそらく俺の人生を左右する重大な状況に思えるぞ!


「すっ、すげー。確かに超似てる。で、でもこれは俺じゃないよ?」


目を合わせないで言った。

大丈夫だろうか。虚取り方きもいとか思われていないだろうか。


「うそー。めっちゃ似てると思ったのになー」


彼女は残念そうに口を尖らせると、「ごめんねー」そう言って会話を終わらせた。

と思っていると、彼女の後ろあたりからもう一人の鬼(女子)がひょっこり出てきた。


「ひかりー、それ何?」

「ん?ああーこれ?少し前の雑誌の文庫記事」

「へぇー、でこれがどうかしたの?」


急遽現れた女は興味なさそうに相槌をする。

まあ、そうだろうな。今時の女子が読んでる雑誌に文庫記事とか出てこねえもんな。

このひかりって女はどんな文学少女だよ。


「でさー、ここにいるこの人![神崎なつき]っていう作家さんなんだけどね、この人がすごい望月くんに似てるんだけどー」

「へぇー、って!本当だ!めっちゃ似てるじゃん!」


当たり前だろ。本人なんだから。

つーか、やべえ!マジでバレそうで心臓のばくばくが治んねえ。


「でしょでしょー。でもさっき本人に聞いたら違うって言われちゃってー」

「へぇー、本当に似てるのにねぇー」


と言いながら見知らぬ女Bは俺の方をチラッと一瞥してきた。

突然の出来事すぎて、鉄壁と呼ばれるガードの持ち主の俺が少し油断していた。

おかげで、一瞬だけだが目が合ってしまった。

俺はすぐに目をそらした。

当たり前だ。

「何見てんの?キモ」っとか言われたら俺泣いちゃうもん。

と、そんな事を思っていると、気づかぬ間に見知らぬ女Bは俺の間合いまで回り込んできていた。


「ねぇー、君が望月くんだよね?」

「そうですけど」

「私は飯島咲良。よろしくねー」


笑顔でそう言った。

なんなんだこの女!俺に笑顔を向けてきたぞ!

これは……、脈アリか?


「よろしくね」


っと、俺が必死に選んだ言葉を発した頃には、その女は自分のスマホを見ていた。

あっ、脈ナシか。


「ねぇ、ひかりー。今さ神崎なつきってグーグルでググってみたんだけどねー」

「おおー、どうだったー?」


と、次は勝手に人のペンネームをググり出し始めた。

グーグルで神崎なつきの正体を掴んでやろうってか?笑わせてくれる。

グーグルごときがこの秘密主義である俺様の正体を探れるものか!

残念だったな貴様ら!貴様らごときが神崎なつきの正体を探れるものか。フハハハハ。


「見てみてー。今ウィキペディア開いたんだけどねー」

「うんうん」

「これ、ここの項目に本名って書いてあってー。[望月 春馬]って書いてあるんだけどー」


うわぁー。

ウィキペディアの情報収集能力ぱねえ。

じゃねえ!!!!!!!!

ちょちょちょちょ、ちょっと待てえええええええええええええ!!!!!


「ええ!何それ!何それ!」


とっさに見知らぬ女Aは彼女のスマホを食い入るように覗き込む。


「ほらー、ここ」

「本当だ!!!!」


どうやら本当らしい。確かに事実だものね。

とか、のんびりしてる場合じゃねえだろ!


「ねぇ?望月くん。これ、どういうこと……って、あれ?」


俺に何かを言おうとしたのだがもう遅い!!

俺はすぐさま、教室を抜け出してその日はダッシュで家に帰った。

そして泣きながら毛布にくるまった。


次の日の朝。

俺は絶望を目の当たりにした。

世の高校生の武器と言ったらなんだろうか。

答えはひとつ。ツイッターだ。

俺はこの自己満足の塊に、自分の行動を一つ一つ挙げる気はない。

ここで変に悪目立ちしたり、オタアカとか作ってクラスメートに知られたらなおさらだ。

だからこそ、俺はツイッターは観賞用にしか使っていない。

自分の作品の評価だとか、クラスメートからの評価だとか。

そんなものを見るためだけに使っていた。

のだが……。

[2年の望月くん。実は神崎なつきというペンネームで小説家をやっていた]

という話題で、我がクラスメートのツイッターは盛り上がっていた。

この時は正直登校拒否すら考えた。

そして、理解した。

俺の青春。再び終わった……。


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