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お嬢様と婚約者

黒鷲はどのように下調べに行くのでしょうか。そしてお嬢様と婚約者の関係は・・・。

それから三日後に私はリッチモンド公爵家の舞踏会に呼ばれて行った。


 もちろん、レイモンドに舞踏会の招待状を手配させた。


 但し、本名ではなくアンドリユー侯爵の子息でアレンと偽の名を名乗らせてもらった。


 東にある片田舎の領地なのとあまり社交界に出てこないので名前を使わせて貰うには都合が良かった。


 その場、限りの付き合いだから本名で行くのは馬鹿げてるので、いつも偽名にしている。


 リッチモンド家の屋敷は王城よりは少し小さいがかなり広く、立派なものだ。


 マンチェスター家は伯爵家なので、リッチモンド公爵家より身分も領地はかなり見劣りする。




 私は黒のタキシードにハット、マント、白い手袋といういでたちでリッチモンド家の玄関ホールに着いた。


 レイモンドにマントとハットを渡し、その奥の舞踏会の会場へと足を進める。


 会場へ一歩足を踏み入れるとそこは賑やかで華やかな舞踏会であることがわかる。


 さらに人の多さに一番、目を奪われるだろう。


 そして招待客の服装の豪華さにも圧倒される。


 さすが、公爵家だ。会場の中央にはやはり広い階段がしつらえており、上を見れば大きなシャンデリアがぶら下がっている。


 まったく、この頃の貴族と言ったら贅沢をすることこそが権力の象徴みたいな意識があるようで節約という言葉とは無縁に近い。


 私はため息をつくと中央のほうへ足を進め、途中でワインを手に入れ、それを片手に中央へ目を向けた。


 会場の中央ではすでにこの舞踏会を主催したリッチモンド家の当主並びに娘のクリスティーヌ嬢が会場のみんなの注目を浴びていた。


 クリスティーヌ嬢はこの前と打って変わり…………すごく綺麗だった。


 服装が豪華なのはもちろん水色を基本色としたフォーマルドレスでまさに凛とした女性に相応しい服装だった。


 私も一瞬にして目を奪われたが本来の目的を思い出しクリスティーヌ嬢に近づいて行った。


 ちょうどクリスティーヌ嬢は若い青年と談笑していた。


 私は微笑みながら近づくとクリスティーヌ嬢に声を掛けた。


「失礼……私も話のお仲間に入れてもらえないかな?」


 クリスティーヌ嬢と話をしていた青年はこちらに視線を向けた。


「あら……あまり見ない顔ですわね。どちら様かしら?」


「私はアンドリュー侯爵の子息のアレンと申します。以後お見知りおきを……」


「そうアレンと仰るんですの。でもアンドリューってこの辺じゃあまり聞かない名ですわね」


「それは仕方ありませんよ。私の父はかなり偏屈で都会に住むのを嫌がり田舎の奥でひっそりと暮らしていたものですから」


「あらそうなんですの。私はこの舞踏会の主催者の娘のクリスティーヌですわ」


 クリスティーヌ嬢は微笑むと右手を差し出した。


 私はその手をとり軽く彼女の手の甲に口付けを落した。


「今は何を話しておられたのですか?」


 クリスティーヌ嬢は私が昨晩に対面した泥棒だとは全く気づかない様子で答えた。


「ええ……ちょうど先日に私の屋敷の近くで起こった事件について話していたのですわ」


「ほう!事件ですか」


 するとクリスティーヌ嬢の側にいた青年が話しに加わってきた。


「そうなんですよ。今この街を騒がさせている怪盗黒鷲(イーグル・ノア)のことですよ」


「今、巷を騒がせているあの怪盗が出たのですか?」


「ええ、今度は絵画が盗まれたらしいですよ。申し遅れました私はクリスティーヌ嬢の友人のアンドレーと申します。お見知りおきを…………」


「こちらこそ。それで黒鷲(イーグル・ノア)はどうしたんです?捕まりましたか?」


「いいや。捕まるどころか幾度も逃げ果せいていいるようで。まったく大した奴ですよ」


 私は心なしか顔がにやけていた。


 だがクリスティーヌ嬢はすごい剣幕で反発してきた。


「なにが大した奴なのですの!アンドレー……いい黒鷲(イーグル・ノア)は泥棒なんですの!悪い人なのですわ。何故、アンドレーは褒めるの?」


「僕は別に褒めてはいないよ。だたそう思ったから言っただけで……」


 アンドレーは若干、クリスティーヌ嬢の剣幕に対してタジタジになった。


 そこへ突然に私の背後から男の声がした。


「何を褒めていたのかな?私も話しに混ぜてくれないかな?クリスティーヌ嬢……いや未来の花嫁と言ったほうがいいかな」


「フィリップ様……何故ここにいるのかしら?私は呼んだ覚えがないのですわ」


 クリスティーヌ嬢は誰もが凍りつきそうな声音で言った。


「別に僕は君ではなくてリッチモンド公爵に呼ばれてね。それと僕の花嫁に悪い虫がつくのを阻止しようと思ってきたまでだよ」


「まだ結婚もしていないのに私をあなたのモノ呼ばわりするのは止めていただけるかしら」


「まだ結婚はしていないが一応、婚約者にはなったからね。それぐらいの権利はあってもいいはずだけれど」その場はいっきに剣呑な空気になった。


 私は事情が掴めなかった。


 フィリップ公に対しクリスティーヌ嬢が嫌がる理由はよく分からなかった。


 何故か?


 他人から見れば、これほど良い縁談が無いというくらいに良い話だったからだ。


 クリスティーヌ嬢とフィリップ公の婚約の話はレイモンドから聞いていたが仲の良さには問題が有るとは言っていなかった。


 レイモンドの報告には無かったことだ。


 クリスティーヌ嬢とフィリップ公の仲が思ってた以上に悪かったことが私には予想外だった。


「私はまだ、あなたの妻ではありませんわ!」


「ふ……照れてるのかね?皆の前で私の妻になることへ?」


「まさかそんなわけがないのですわ!」


「勇ましいね……だがすでに国王様の許可がある。クリスティーヌよく考えてみて。クリスティーヌに相応しいのはやはり、私だということにね」


 フィリップ公は不適な笑みを浮かべた。


「よくまわる舌だこと!私は急に気分が優れなくなったのでこれにて失礼させてもらいますわ」


 クリスティーヌ嬢は私たちに会釈するとその場から急いで離れた。


 まるでフィリップ公を早く自分の視界から消すかのように…………。


 だがフィリップ公はクリスティーヌ嬢の後を追いかけ、外のテラスのほうへ歩いて行った。


 私も会場を周るフリをして、その後を追いかけた。


 外のテラスではすでにクリスティーヌ嬢とフィリップ公が言い争いをしていた。


「何故人前であんなことを言ったの!私はあなたと結婚する気はないのですわ」


「君には選択権はないよ。だって僕のところから援助が無くなったらリッチモンド家は潰れるんだからね」


「そうやってお父様も脅したのですわね。汚い人ですわ」


「なんとでも言いたまえ。私はお前を愛している。だから手に入れるためなら手段を選ばないんだよ」


 クリスティーヌ嬢は怒りのためか、勢い余ってフィリップ公を叩こうと手を上げたが逆にフィリップ公へ腕を掴まれ身を引き寄せられた。


「放すのですわ!いくら婚約者だからと言ってこんな屈辱は許されないのですわ。放さないと人を呼びますわ」


「では呼べないようにしなくてはね……」


 フィリップ公は微笑むとクリスティーヌ嬢に顔を近づけキスをしようとしたところで私は彼らの前に現れ咳をした。


「いくら婚約者だからと言って紳士が女性へ無理に迫るのはいかがなものかと思うがね?放してあげたらどうだ」


 私はつい口調が強くなった。


 自分でも不思議だった。


 私はあまり感情を表に出すことは無いからだ。


 クリスティーヌ嬢はそのすきにフィリップ公の腕の中から抜け出し私の後ろへ回った。


「まったくとんだ邪魔が入ったものだ。誰だか知らないがあまりなめた口をきくなよ。誰だかわかって言っているのか?」


「ああ、もちろん。紳士ではなく野蛮人に言ってやってるんだ。早く消えないと痛い目を見るぞ」


「くそっ……覚えていろ。必ず報復してやるから。」


 そう捨て台詞を吐くとィリップ公は私の迫力に圧倒されたのか悔しそうにその場から離れた。


 私は振り返ってクリスティーヌ嬢の顔に手をかけた。


「クリスティーヌ嬢、大丈夫でしたか?」


 彼女は一筋の涙を流した。


 驚いた私はどこか彼女が身体を痛めたのかと慌てたが、どうやらそうではないらしい。


 手袋を片方はずして彼女の涙を拭いてあげてから彼女に尋ねた。


「初対面で言うのもなんですが私に少し話してみません?もしかしたら何かお助けできるかもしれない」


「ありがとうございます。アレン殿。でもこれはリッチモンド家の問題なのです。なのであなたにはお話はできないのです。いきなり泣いてしまって申し訳ありません。もう大丈夫です。どうぞ気を悪くなさらないで、パーティーを楽しんで行って下さいませ」


クリスティーヌ嬢は気丈にもそういうと会場へ戻っていった。


「あなたがそう望むのなら・・・」


私はその時どうしてなのか胸が焼けるように痛かった。


その後、テラスづたいに私はアル部屋に入った。

アラン君のクリスティーヌ嬢に対する心の変化を少し描いてみました。

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