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黒鷲と月の雫

クリスティーヌ嬢のお屋敷から逃げた黒鷲はどうしたのでしょうか。

リッチモンド家からまんまと逃げ果せた黒鷲(イーグル・ノア)は街の郊外にある自分の屋敷へと戻った。


 屋敷は3階建ての洋館だった。


 黒鷲がコンコンと中に帰ってきたことを知らせると、直ぐに背筋がキリッとして、黒の燕尾服がとても似合うロマンスグレーの髪の男が屋敷の玄関から出てきた。


 男は直ぐに慌てた顔をして黒鷲に近づいて来た。


「アラン坊ちゃま!?お帰りが遅いから心配致しましたぞ。どうなされたのですか!その肩の血は…………」


「レイモンド…………もう坊ちゃまは止めてくれとあれほど言っただろう!とっくに成人している22の男に対しての言葉じゃないぞ。」


「いいえ、長年マンチェスター家に仕えてきたこのレイモンドはいくつになってもアラン坊ちゃまは坊ちゃまです。まあ、坊ちゃまが旦那様に代わり、ご当主になられれば、自ずと呼び方も変わるかもしれませんがw」


「レイモンドには敵わないな…………」


 私は苦笑いした。


 レイモンドはマンチェスター家に長年仕えている筆頭執事だ。


 父さんの優秀な右腕の秘書でもあるレイモンドには幼いときから頭が上がらない。


「それよりもその肩の傷はどうされたのですか?」


 レイモンドが心配そうに尋ねた。


「ああ…………ちょっと銃弾を一発、避け損ねてね。怪我の方は大した事無い」


「ですが念の為に医者を…………」


「心配するな。もう見てもらったよ」


「左様でございますか。では絵画のほうはどうなりましたか?」


「そっちはもちろん頂いてきたさ。ほら」


 私はにんまりとしながら懐に忍ばせていた絵画を見せた。


 執事のレイモンドは私の裏の家業のことを知る数少ない人物の一人だ。


「ではそのお肩の怪我は……」


「ああ……逃げるときに腕のいい警官がいたらしくて一発だけ当たってしまった。貫通したので弾は残っていない」


「それは良ろしゅうございました。早く中へお入りになってお休みくださいませ」


「ああ……そうさせてもらおう」


 私は屋敷の中に入るとホッとした。


 ずっと緊張の連続だったし、今日は初めてドジを踏んでしまったからね。


 だがその代わりに良いものを見つけた。


 私は玄関の中央にある階段を上る途中でレーモンドに言った。


「ああ、そうだレイモンド。リッチモンド家について少し調べておいてくれないか?」


「はい。次のお仕事の下調べでございますか」


「まあ……そんなところだ。できたならば報告は私の書斎のほうへ」


「畏まりました。旦那様へのご報告は明日になさいますか?」


「いや……報告をしてから休むよ。父さんは書斎かな?」


「ええ……奥様も一緒に書斎へおります」


「そうか。わかった」


 私は2階にある父さんの書斎へ向かった。


 私の1日はまだ終わりそうに無い……。




 コンコンと私は父さんの書斎の扉を叩いた。


「父さん、アランです。今日の報告に参りました」


「ああ……アランか。入れ。遅いから待ちわびたぞ」


 扉の奥から私よりも少し低い声の男の声がした。


 私は扉を開け、部屋に入った。


「お待たせ致しました。お待ちかねの絵画ですよ。まったく苦労しました。」


「フン、このくらいで苦労してたら先が思いやられるぞ。早く絵を見せろ!」


 部屋の奥にある立派な書斎机の後ろに踏ん反り返っている男がマンチェスター家の当主のアランドロ=マンチェスターだ。私と同じ黒髪、黒い瞳と平凡などこにでもいる顔だが、背が高く、齢50になるのに体格もガッチリしている。


 私は今しがた盗んできた絵画を父さんに渡した。


 父さんは目をキラキラさせながら言った。


「よくやったぞアラン!さすが鷲の息子だなw」


「お褒めにあずかり光栄ですw」


 そこへ女性の声が心配そうに声をかけて来た。


「まあ!アラン……その肩の傷はどうしたの!」


 この女性こそがこの家の女主人で私の母さんだ。髪は茶色で瞳はグレーがかっている。


 私とは少し顔の輪郭が似ていて、昔は女優をしていたらしく体型は線が細く綺麗だ。


「ああ……ちょっとドジを踏んでしまいまして。心配には及びませんよ。すでに医者にも見せましたし」


「おい!どういう事だアラン!万事うまくいったんじゃないのか?」


「それが……ですね……」


 私は事の顛末を両親に話した。


「やはり……先ほど褒めたのは駄目だったな……。まだまだ修行が足りないぞ。アラン。まあ、お前は変装が得意だから今後の仕事には問題は無いだろう。顔も我々は平凡だからそんなに目立ちはしないしな。心配することはないが……リッチモンド家には何かしら手を打っておいた方がいいだろう」


「そう言うと思って、すでにレイモンドに調べさせています。今日はもう疲れたので失礼します」


「そうね。早くお休みなさい。まったく、アランは20を超えてもそそっかしいんだから。気をつけなさい」


「はい、母さん。もう寝ます。では先に失礼します」


「ああゆっくり休め。当分は夜の仕事のほうは休んでもかまわん」


「ありがとうございます。では…………」


 私は父の書斎を後にした。


 そして私は自室へ戻り、床につき今日一日の疲れを癒した。


 その後の二週間は何事も無く過ぎていった。


 私の肩の怪我も少しは癒えたが包帯はまだ取れない。


 普通の仕事をするには支障はないが夜の家業のほうはまだ無理そうだった。


 いつもどおり書斎で昼間の仕事をこなしながらレイモンドの報告を待っていた。


 するとレイモンドが扉を開けて入ってきた。


 一礼すると私の書斎机に近づいてきた。


「坊ちゃま、リッチモンド家の件でご報告したい事が……」


 私はいったん手を止めるとそのまま片手にもっていた書類を机の上に置いた。


「何が分った?」


「ええ……面白いことがいろいろと……」


「ほう、いろいろ出てきたか……」


「はい、リッチモンド家はリッチモンド公爵と娘のクリスティーヌの二人だけでクリスティーヌの母親は幼いときに死別しております」


「家族は二人だけというわけか」


「それで元々リッチモンド公爵は宝石を扱っていた商家の出で、クリスティーヌの母に婿養子で入ってから公爵家になったようで……」


「よくあることだな。成金上がりの男が考えそうなことだ。金で爵位を買うことは……でおまえが言った面白いこととはなんだ?」


 レイモンドは唇の端を少しあげ、その続きを話した。


「それはリッチモンド家の家宝として代々受け継がれてきた珍しい宝石です。その宝石は代々の持ち主に幸運を運ぶという曰くつきのモノだそうです。姿かたちはまるで何百年もの歳月をかけ、月に照らされた雫が固まってできたモノのようだと。人はその宝石を「月の雫」と名づけたそうです。そしてこれを管理していたのは女主人である、クリスティーヌ嬢の母親でしたが、今は亡くなられたので現在はクリスティーヌ嬢が管理しているはずです」


「月の雫か…………私も見てみたいものだな~その宝石を……」


「その宝石ともう1つここ最近ですがリッチモンド公爵は様々な分野に手を出してるようで先日事業で大きな失敗をし多額の負債を抱えたようでして」


「ほう負債をね…………ではリッチモンド家は今、火の車というわけか」


「その通りでございます。その為に公爵は今海外で後始末に多忙を極めているようです」


「他にも最近ですが、リッチモンド家のクリスティーヌ嬢とブルボン家の嫡男フィリップ様がご婚約されたと社交界の噂になっております」


「そうか、ご苦労だった。下がって良いぞ」


 レイモンドはまた一礼すると書斎を出て行った。


「はてさてどうしたものかな…………月の雫を盗んでくれか……」


(何故、彼女は大事な家宝を初めて会った私に盗めと言ったのだろか?)


(誰が考えてもおかしいと思うだろう。)


(この一件には何かありそうだな・・・・その何かを突き止めるには直接下調べに出るしかないか。顔も見られてしまったしな・・・。クリスティーヌ嬢には口止めをしないといけないな。そうすると面倒な事になりそうだ)


まあ、盗む盗まないはその後に決めてもいいだろうと私は楽観的に考えていた。

やっと主人公の本名を出せました。アラン君です。宜しくお願いしますw

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