お嬢様とお父様
お嬢様に身に何が起こったのか・・・。
私のお父様はラフランス国の貴族でラフランス国王から公爵の位を叙位され、首都パリスから南にある広大な領地のリッチモンド領の領主なんですの。
いつもはリッチモンド領にあるご自分のお屋敷にいるのですわ。
別宅として首都パリスにもお屋敷を思っておりますの。
商談等があるときはよくパリスのお屋敷をお使いになっていますわ。
私はまだ学生の身なので首都パリスにある学園へ席を置いている関係上、いつもこちらのお屋敷におりますのよ。
お父様のお姿は全体的にまるっとしてお髭を生やしている40代のおじ様で皆には影で狸みたいだと言われておりますけれども、性格は温厚で自分の父親ですけれども優しいどこにでもいる方だと思いますわ。
お母様は私が物心をつく前に病気で亡くなってしまいましたの。だからあまり記憶がないんですのよ。
でも全然寂しくはないんですわ。その分、お父様には多くの愛情を頂きましたから。
まあそのおかげで、自分でも分かってはいるのですけれど……かなりわがままに育ったと思いますわ。
もちろん私もお父様は大好きですわ。なのにあのようなお話を持ってくるなんて…………本当に信じられませんわ。
事の起こりは半年前に遡りますわ。
お父様が首都パリスにあるお屋敷のご自分の書斎で突然にお話になりましたの。
「クリスティーヌに話がある。そこのソファーに腰掛けて、話を聞きなさい」
もちろん私は素直にソファーに座りましたわ。
「なんですのお父様。突然にお話だなんて。楽しいお話かしら?」
お父様は難しい顔をして話し始めたのですわ。
「実はな。おまえに良い縁談が持ち上がったんだ。相手の家柄も大公家だぞ。大公家の嫡男で申し分ない。なのでお前の嫁ぎ先を決めた。婚姻は1年後だ。今度、クリスティーヌにも相手の青年を紹介する」
「えっ!どういうことですの!私はまだ17になったばかりですわよ。縁談なんてまだ早いわ!」
「そ、そんなことは無いぞ。縁談に早い遅いもないからな。こんな良い縁談はそうないからな。もう決めた事だ。この1年は婚姻の準備をしなさい。話は以上だ。もう下がってもいいぞ」
「そんな…………勝手に決めないで下さいまし。どんな方かも私は知らないんですのよ。会ったこともない方と結婚だなんて……」
「だから、今度会うことになっている。失礼の無いようにな。私は忙しいのだ。分かっておくれ。ハリソン、後は頼む」
「はい、旦那様。クリスティーヌお嬢様、さあ、こちらへおいで下さい。旦那様のお仕事の邪魔になりますので」
「そんな…………話はまだ終わっていないですわ。お父様!私は嫌ですわ。何とか考え直して下さいまし」
「さあ、もう行きなさい。私は仕事をしなくては…………」
お父様は少し困ったような顔で言ったのですわ。
私はハリソンにお父様の書斎から追い出されましたの。
(貴族だから好きな相手と結婚ができないことは分かっていましたわ。諦めていましたけれど……まさか顔もしらないお相手となんて!)
私は自分の耳を疑いましたわ。
「ハリソン……。私の結婚のお相手はどんな方なの。それくらいはもちろん教えて頂けるんですのよね」
「もちろんでございます。後ほど、お嬢様のお部屋へ資料をお届けいたします」
「わかりましたわ。とりあえずそれを読んでみますわ」
私はそう言って自分の部屋に戻りましたわ。
その後、私の部屋へ資料が運ばれてきましたわ。
その資料を読んで見たけれども、特に何も書かれておりませんでしたわ。
公爵家の嫡男で歳は25と記載してあり、首都パリスから程近い北に領地があるブルボン家ということくらい。その方がどういう性格なのかとかはまったくもって書かれていませんでしたわ。
私は昨年に国王へやっと謁見が許されて、社交界デビューをしたばかり、多くの殿方とお会い致しましたけれど名前と顔を一致させるのはまだ難しいですの。
私は仕方なしに不貞寝を決め込みましたわ。
ですがお父様は全く何も反応せずに、とうとうお相手との顔合わせの日を向かえてしまいましたの。
お父様に婚約のお話をされて2ヵ月後のことですわ。
お父様と私はブルボン領のブルボン家のお屋敷に招かれましたの。
そこで初めて婚約相手のフィリップ=フォン=ブルボンにお会いしたのですわ。
「はじめまして。フィリップ=フォン=ブルボンです。以後、お見知りおきを……」
彼は右手を胸にあて、軽くお辞儀をしましたわ。
「クリスティーヌ=リッチモンドでございます。お初にお目にかかります。今後とも宜しくお願いいたしますわ」
私もピンク色の胸元にお花がついているドレスの裾を両手で少し挙げて、軽くお辞儀を致しましたわ。
フィリップ様は思っていたよりもはるかに美男子だったのですわ。
薄茶色の髪色で少し長い髪を後ろにひとつ紐で束ねていて、体も引き締まり、肌も白く背は私より少し高いくらいで……いかにもお嬢様がたの噂話にでてくるような方でしたわ。
私はこの縁談も悪くは無いかも知れないと思い始めていましたわ。
あの現場を見るまでは…………。
それから両家の行き来が始まり、社交界でも私たち二人の婚約のお話でもちきりになりましたの。
もちろん国王様にも許可はとってありますのよ。無ければおいそれと公家と公爵家で結婚はできませんわ。
王国のパワーバランスが崩れてしまいますもの。
それが先月の社交界のことでしたの。わたくしとフィリップ様は二人で出席して、沢山の方にご挨拶をしておりましたのよ。
私が化粧直しに少しフィリップ様の傍から離れましたの。そして場に戻って見たらフィリップ様が見つかりませんでしたの。
もちろん私は探しましたわ。会場には居なかったので外にある庭園へ探しに行った時でしたわ。
茂みの影から女性の声が聞こえてまいりましたの。
「ねえ、フィリップ様。あのリッチモンド家の令嬢とご婚約される話は本当ですの」
「ああ……もちろん本当だよ。家のために仕方なしにね」
「じゃ……私とはもう会えませんの」
「ふふふ、そんなはずないじゃないか。もちろん会いに行くよ。あなたみたいに美しい人の誘いを断れるはずなどないじゃないか。これからもぜひお会いして愛を囁かせてほしい」
「まあ、これから結婚する方がよろしいんですの。私は夫が居ますけれどフィリップ様の方を愛しておりますわ」
「もりろんだよ。私の愛しい人……私もあなたを愛している」
私は自分の耳を疑いましたわ。まさかと思い茂みの影からお二人を見て見ましたの。
そしたら間違いなくフィリップ様と妙齢のご婦人が戯れておいででしたわ。
私は絶望いたしましたわ。フィリップ様がこのような方とは…………。
確かに今の貴族は何人か妻を娶る方が多くいますけれども、私の家はお母様一人だった事もあり他の女性がいることに驚きを隠せませんでしたわ。それも人妻と浮気をしているなんて。
私はフラフラと中庭を出て玄関に向かいましたわ。
そこからどう家に帰宅したかはまったく覚えておりませんでしたわ。
フィリップ様には具合が急に悪くなったので先に帰ると伝言を残してその場から離れましたの。
それからフィリップ様との関係がギクシャクしだしましたわ。
私はなんとかこの縁談を破談にできないか思案しだしましたの。
そこへあの黒鷲が私の屋敷に押し入ったのですわ。
名案だと思ったのですわ。
私の家には代々伝わる家宝がございますの。
月の雫と言って何十カラットもあるダイヤモンドですのよ。
これは花嫁が代々結婚式の時のみ着ける事が許されたものなんですわ。
小さい時から愛する人を見つけて、この家宝をつけて嫁ぐことが夢でしたわ。
この月の雫さえ無ければ…………結婚が破談にできるかもしれないと思ったのですわ。
(だからあのこそ泥に頼んだのに…………あんな風に断られるなんて……そのうえあんな事まで!)
(でも・・・・あの方の顔はそんなに悪くはありませんでしたわ。まあ、平凡な顔ではありましたけれども。だけど性格は論外でしたわ)
でもどうしたらいいのかしら・・・。他に破談にできるような名案はあるのかしら。
私は思案に明け暮れましたわ。
やっとお嬢様の内情を描けました。