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黒鷲とお嬢様

前回、絵画を盗もうとして、ロナウ警部補に撃たれた怪盗黒鷲はどうなったのか・・・。

「一発しか当らなかったか……。それにしても反射神経がいいやつだ。だが逃れられると思うなよ」


 ロナウ警部補は獲物を捕らえた時のような笑みを浮かべた。


 その後、ロナウ警部補は直ちに部下を黒鷲が落ちていった場所へ向かわせた。




 そして地上へ落ちた私は美術館からそう離れていない屋敷のベランダで意識を失って倒れていた。


 そこへかん高い悲鳴が聞こえ私は薄目を開いた。


 はじめは何処にいるのかが判らなかったが肩に受けた怪我のせいで正気に戻った。


 首を悲鳴が聞こえた方向へ向けてみるとベランダの扉の前に若い女性が立っていた。


 その女性は気丈にも私を睨み付けてこう言った。


「あなたは誰ですの?何をしているんですの。こんなところで!ここがリッチモンド公爵家の敷地内だと知っての狼藉なのですわね?」


「はっ?私には何のことだか…………」


 私は混乱した。左手で顔に触れると何もつけていなかったからだ。


 今までに素顔で人に見つかったことが無かったからどうしたらいいのか混乱した。


 盗みに入るときは必ず黒のマスクをつけていたからだ。


 撃たれ、地上に落ちた際、マスクをどこかにやってしまったらしい。


 そこで今は警官に追いかけられていることを思い出し、見つかる可能性があるのとこのままでは話もできないと思いとっさに彼女の口を封じ部屋の中に押し込め、近くの壁に彼女の背を押し付けた。


 もちろん彼女は抵抗した。


「ちょ、ちょっと何をするつもりですの!私にこんなことをして許されると思っているのですの!このリッチモンド家の令嬢に対して。警察を呼びますわ!」


 リッチモンド嬢は私の腕の中で暴れた。


「いや、まあ部屋にいきなり入ってきたのは悪いとは思っている。仕方が無いだろう」


「何が仕方無いんですの!」


「それは…………」


 私は言葉に詰まった。


 ここで私が黒鷲だとバレる訳にはいかなかった。まあ、全身黒ずくめの服装でバレるなにも怪しい奴でしかないが…………。


 どうしようか思案したが、突然に銃で撃たれた傷がまた痛み出してきて私は彼女を腕の中から解放した。


 数歩後ろに下がり、左腕で右肩を押さえたが、あまりの痛さに、その場にしゃがみ込んでしまった。


 傷口からかなりの出血をしていたらしく立っていられなかった。


「ちょっと…………あなた肩に怪我をしているんですの?」


 彼女は狼狽した顔で言った。


「ああ…………頼む警察だけは呼ばないでくれ。頼む…………」


 私は彼女に懇願した。


 彼女は何を思ったのかこう言った。


「わかったわ。でもそのままじゃここから出て行けそうにないから医者を呼びますわよ。いいですわね」


「ああ、ありがたい……」


 私はホッとして気が抜けたのと同時にあまりの出血量でその場に倒れてしまった。


 そこへ突然ベランダの扉とは反対の扉が勢いよく開いた。


 開いた扉からいかにも好々爺な執事らしき男が入って来て言った。


「クリスティーヌお嬢様!大丈夫ですか?先ほどの悲鳴は…………」


「ハリソン何でもないのですわ。ごめんなさいね脅かせてしまいましたわ」


「いえ、それはいいのですが…………お嬢様の近くに倒れている男は誰なのですか?まさかそこのベランダから進入してきたのですか?」


 ベランダの扉が開かれたままなのでそうハリソンは言った。


「ええ…………。」


「だったら警察に通報しなくては!」


「いえ、それはダメですわ!警察にはまだ通報してはいけませんわ」


「ですが…………」


 クリスティーヌ嬢は困り顔で言った。


「ハリソン、至急ハン医師のところへ行って呼んでくるのですわ。この人……肩に傷を負ったらしいですの」


「何故ですか?その者はリッチモンド家に押し入った者でしょうに……そんな身分もわからないような者とお嬢様を一人にするようなことはできません!」


「いいからハン先生を呼んでくるのですわ!それともこの私の言うことが聞けないというの?」


 威圧的なクリスティーヌ嬢の態度にハリソンはたじろぎ、仕方なしに言った。


「わかりました。では呼んできます」


「ええ、お願いですわ」


 ハリソンは一度言ったらテコでも考えや言動を改めないお嬢様に何か言うのを諦め、すぐに部屋を出てハン医師のところへ人を呼びに行かせた。


 私が覚えているのはそのくらいでまた暗闇が訪れた。






 それから数十分後ハリソンはハン医師を連れて戻ってきた。


 その頃には私は別室のベットの上に寝かされていた。


 気づいた時には他の部屋に閉じ込められていると思って慌てたが傷も手当されていたし扉に近づくと鍵もかかっていなかった。


 すると扉の向こう側からクリスティーヌ嬢とハリソンという執事らしき男の話し声が微かながら聞こえてきた。


 まあ普通の者には聞こえないが、私はこの仕事柄、何に対しても敏感にならざるおえなかったので聞こえたのだ。


「それであの者の傷を医師はどうだっておしゃっていたんですの?」


「はあ…………傷のほうは幸いにも大した事ではなかったようです。ですがあの者の素性が少し問題でして…………」


「どういうことですの?」


「それが…………」


 ハリソンはクリスティーヌ嬢に近づきそっと耳打ちした。


 さすがの私もこの会話は聞き取れなかったが、だいたいの察しはついた。


「な、なんですって!まさかあの者が最近この街を騒がしている怪盗だったなんて…………。ただのこそ泥何かだと思っていましたのに……」


「お嬢様どうしましょう?警察にお話したほうがいいのでは?なんでも先ほどこの近くでひと騒動起こして、警察に追われているらしく先ほど警察が来て、ただいま別のお部屋に通しております。」


「そう、もちろんこの男のことは言ってはいないですわね」


「ええ、お嬢様の言いつけですので。ですがこんなことが海外にいる旦那様へ知られては…………」


「それはハリソン、お前が言わなければ大丈夫ですわ」


「ですが…………」


「気に揉むことはないですわ。もしお父様に知られたら責任は全て私が負いますから。警察には後ほどお話に伺うと言って時間を稼いでおくのですわ」


 そこで彼らの話は途切れた。


 そして彼らの足音がこちらに向かってくるのを見計らってベットの上に戻った。


 扉が開きクリスティーヌ嬢とハリソンが入ってきた。


 クリスティーヌ嬢はよく見ると綺麗な女性だった。


 ブロンドの長い髪を巻き、唇には淡い色のピンクのルージュを瞳はマリンブリーでまるで常夏に咲くハイビスカスのような艶やかさがあり、儚さがあるが服装は紺色のドレスで意外と地味だった。


 彼女はニコリと微笑むと私の側まで進んで来た。


「お加減はどうですの?」


「もう大丈夫ですよ。お礼を言わないといけませんね」


「そんな気遣いは無用ですわ。当然の事をしたまでですから」


「で……私に何か言いたいことがあるのでは?」


「ええ……黒鷲さん。聞きたいことは山ほどあるけどその前に頼みたいことがあるのですわ」


 私はやはりそう来たかと思った。


 何故なら彼女は私が黒鷲だと知りながらも警察には渡さなかったどころか傷の手当までさせた。


 その意味することは自ずと見えてくる。


 だがここで「はい、そうです」なんて認める馬鹿な台詞がでるのは怪盗と名乗るものとしてプライドが許さない。


「何のことかな?私が黒鷲などと言うのは…………」


「見苦しい言い訳はよした方がよくてよ。これは何の絵だがわかるかしら?」


 クリスティーヌ嬢はハリソンからその絵を受け取り私に見せた。


 私は片方の眉を寄せた。


 彼女が持っていた絵画は先ほど私が盗んできたものだった。


 心の中で舌打ちをしが、私は悪あがきをし続けた。


「さあて。その絵は見たことも無いが美しい絵だね」


 クリスティーヌ嬢はため息を付いた。


「あなたも強情ですわね。黒鷲さん、これはあなたがうちのベランダに倒れていたときにあなたの側に落ちていた物なのにあなたが分からないはずないですわ。」


 よく頭のまわる女だと思って舌を巻いた。


 これ以上張り合っても私には勝ち目はない。


 証拠が彼女の手の中にある限り…………。


 私もここまでされては手のほどこしようがない。


「それで私に頼みたいこととは?」


「その気になってくれて話しが早いですわ。ハリソンちょっとの間、部屋の外に出てくれるかしら」


「ですがお嬢様お一人にさせるのは……」


「下がりなさいと言ったら下がるのですわ。私は大丈夫ですわ。どうせ……まだ、このあたりに警察がいるでしょう。その中でまた騒ぎを起こすことはこの男にはどういうことか分かっているでしょうから」


「本当によくまわる頭ですね……」


 私は皮肉を言ったつもりだったが彼女は無視した。


 ハリソンは仕方なく扉の向こうへ下がった。


「私と話をするために下の者を下がらせるということは密談なのでしょうね?」


「そうですわ。この話はここだけのものですわ。それをまず約束してもらわないといけませんわね」


「いいでしょう。一度約束したことは守る主義ですから。続きを……」


「あなたに頼みたいのはリッチモンド家に代々伝わる秘宝「月の雫」を盗んでほしいのですわ。簡単なことでしょう?」


 クリスティーヌ嬢は微笑みながら私を挑発してきた。私も負けじと微笑み返して言った。


「ああ、盗むのは簡単なことだが何故だ?そのぐらいはこっちにも聞く権利があると思う?」


「あなたには関わりの無いことですわ。あなたはただ、我が家の秘宝を盗み出せばいいんですのよ」


「それでは取引にならない。この話は無かったものにしてもらう。理由も聞かずに盗むのはルールに反するのでね」


「怪盗にもルールなんてものあるのかしら?」


 クリスティーヌ嬢は先ほどの皮肉をこんな形で返した。


 私の中で何かが切れて、気づいた時には彼女の体を壁に押し付け両腕を上へ肩に傷を受けていない方の片手で捩じ上げていた。


「あまり調子に乗らないほうがいい。私を甘く見るな!じゃないと痛い目をみることになる」


 彼女はあきらかに狼狽した顔をしたが気丈にも言い返してきた。


「あなたにはできないですわ。それに月の雫は何十カラットもする最高級のダイヤが付いているのよ。これを売ればかなりの高値になり、あなたへは大金が転がり込んでくるはずですわ。悪い話ではないはずですわ。そこへあなたがお話にのらないはずありませんわ」


「確かに大金だな…………。だが私はそこらの怪盗とは違う。私は綺麗なものがとてもすきでね。私はお金よりもこちらの方がいい…………」


 私はクリスティーヌ嬢の顎をもう片方の怪我した肩の手でつかみ、顔を近づけ口付けをした。


 彼女は最初何をされたのかわからず呆然としていた。


 私は抵抗しない彼女に気をよくし調子に乗って舌をいれた。


 彼女はハッと気づき抵抗しだした。


「い、いや……あ……」


 私は夢中だった。


 もっと彼女の声を聞きたくて……だが流石に彼女に舌を噛まれそうになって途中で止めてしまった。


 彼女は息を荒げながら騒ぎ出した。


「な、なんて破廉恥なことをいたしますの!私にこんなことして……許さないですわ…………さっきの話はこっちから願い下げですわ!警察に突き出してさしあげますわ!」


 私は彼女を解放し、後ろに下がった。


「それは困る。今、警察を呼ばれてはこの怪我だ……すぐ追いつかれてしまうではないか」


 私は床に落ちていた絵画を取り戻し、ここから出る打算を考えた。


「いいえ、私が間違っていましたわ。こんな者を部屋の中に入れるなんて……ハリソン急いで来るのですわ!」


 ハリソンはすぐに部屋の中に入ってきた。


 最初は事情がつかめなかったがクリスティーヌ嬢が壁側に黒鷲が窓側に立って対峙しているのを見てこれはと思い彼女に急いで近づいた。


「お嬢様ど、どうしたのですか?」


 ハリソンは少し慌てていた。


「この者を警察へ突き出す事にしましたわ。だから今すぐあの者を捕まえて警察に突き出してやるのですわ!」


「はっ!わかりました。若い衆を呼びつけましょう」


 ハリソンは背広のポッケから呼び鈴を取り出し鳴らした。


 そうするとすぐに、屈強な若い男たちが数人部屋へ駆け込んできた。


「なにごとですか!ハリソン様!」


「あの者がお嬢様のお部屋に忍び込んできたのだ。あの者を捕らえろ。そして警察に突き出すんだ」


 男たちは私をベランダの窓側へと追い込んだ。


 だが私は窓を開け、捨て台詞を残した。


「クリスティーヌ嬢、今宵はこれにて失礼いたします。次……会うときまで今宵のことは忘れずに…………では」


「次なんてないですわ。あなたは捕まって警察に引き渡すのですから。観念するのですわ!」


「それは怖いですね~。ではここから早く逃げないと……」


 私はベランダの柵を飛び越えた。


 もちろん柵の外側は何も無い。


 ようするに空中だ。


 ここは二階ほどしか高さが無いので楽に飛び降りられる。


 男たちはベランダに駆け寄って後を追おうとして下を見たが人っ子一人いなかった。


「あいつは何処にいったんだ?」


 口々に誰かが言った。


 その中の一人があっと騒ぎ出した。


「上だ!屋根の上にいるぞー!」


「何――――――っ!」


 何故、下に降りていったはずの奴が屋根の上にいるんだ?


「おい!なにをしている?黒鷲を逃すな!追いかけろー!」


誰もが頭を傾げたが、ハリソンの怒鳴り声でみんな一斉に黒鷲を追っていった。


だがすでに時遅そしだ。


私は屋根伝いに逃げ去った後だった。


「くっそー!」


追いかけてきた男たちは悔しがりながら、ハリソンに報告をして引き下がった。


クリスティーヌ嬢はそれを聞くと何処かホッとした様でもあるし悔しそうな顔もしていた。

黒鷲とお嬢様のファーストコンタクトですねw

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